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2016年9月 1日 (木)

北朝鮮の潜水艦発射弾頭ミサイルに対する備えはできているか?

北朝鮮のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)は、あとわずか1~3年の間に戦力化されるという分析があります。

北SLBM「1~3年で戦力化」…韓国国防省」(読売160829)

韓国国防省の柳済昇国防政策室長は29日、国会国防委員会で、北朝鮮が24日に発射した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)について、「飛行試験は成功した」と評価し、1~3年程度で戦力化できるとの分析を明らかにした。

 分析によると、今回のSLBMの最高高度は500キロ・メートル以上に達した。通常高度の300~400キロ・メートルで発射すれば、今回約500キロ・メートルだった飛行距離は更に伸びたとみられ、「技術面で相当な進展があった」と評価した。

 同省は、北朝鮮が信頼度を検証するため追加発射を行い、潜水艦の能力向上も加速させるとみている。また、実戦配備されれば韓国のミサイル防衛能力では「不十分」だとし、「韓国だけでなく、米本土まで脅威にさらされる可能性がある」と指摘。


北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に関しては、1年半ほど前にも、これが脅威か否かを記事にしています。
北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦は、日本の脅威となるか?

この記事を書いた当時は、北朝鮮にはSLBM運用することはできても、浮上しての発射に留め、水中発射は無理ではないかと思っていました。
ですが、北朝鮮は水中発射の技術も獲得しつつあるようです。

では、北朝鮮のSLBM脅威が増したことに関して、何が起き、日本が何をしなければならないのかを考えてみます。

北朝鮮が、SLBMを運用し始めた場合、目標は、アメリカもしくは日本となる可能性が高いと考えられます。
弾頭は、核や化学である可能性が高く、日米は、この攻撃を絶対に阻止しなければなりません。

しかし、前掲過去記事で書いたとおり、SLBMの発射点が分かっていない場合は、弾道ミサイル防衛が有効に機能しない可能性があります。
つまり、弾道ミサイル防衛だけで、SLBM対処を行うことは、極めて危険であり、別の方法を講じる事が必須となります。

それはは、冷戦期において、アメリカの攻撃型原潜が、ソ連の戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)に対して行っていた活動と同じ活動です。
具体的には、戦時、平時を問わず、北朝鮮の弾道ミサイル搭載潜水艦が出航したら、港の外に身を潜めている潜水艦で、これを追尾し続けるのです。
そして、戦時において、もしSLBMを発射しようとする場合には、発射前に撃沈することになります。

では、急激にSLBM開発を進める北朝鮮に対して、日米、特に海上自衛隊が対処できるのか?
これが問題です。

幸いな事に、北朝鮮はSLBMは開発していても、潜水艦を開発・運用する能力に関しては、非常に遅れています。
つまり、潜水艦の質に関しては、海自は十分なアドバンテージを持っています。海自の潜水艦が世界で高い評価を受けていることは、オーストラリアが潜水艦導入で日本製を検討したことからも、軍事に詳しくない人でも知ることになったとおりです。
ですが、常続的な監視を行うためには、相応の量も必要です。

あと、数年で運用が開始されるであろう北朝鮮のSLBMに対して、防衛省は、手を打っています。
先日、発表されたばかりの29年度の防衛省概算要求では、この北朝鮮のSLBM対処に必要な施策が、集中的に盛り込まれています。
特に、冒頭の2ページは、そのための装備が集中しています。

○固定翼哨戒機(P-3C)の能力向上(5億円)
固定翼哨戒機(P-3C)の探知識別能力を向上させるため、レーダーの性能向上に必要な改修を実施
活動中の潜水艦を追尾

○固定翼哨戒機(P-3C)の機齢延伸(3機:18億円)
固定翼哨戒機の体制を維持するため、P-3Cに機齢延伸措置を実施
活動中の潜水艦を追尾

○哨戒ヘリコプターの機齢延伸(4機:47億円)
哨戒ヘリコプターの体制を維持するため、SH-60K(2機)及びSH-60J(2機)に機齢延伸措置を実施
活動中の潜水艦を追尾

○画像情報収集機(OP-3C)の機齢延伸(1機:7億円)
画像情報収集機の体制を維持するため、OP-3Cに機齢延伸
措置を実施
入港中、あるいは事故で浮上した潜水艦の情報収集

○滞空型無人機(グローバルホーク)の取得(173億円)
・広域における常続監視能力の強化のため、滞空型無人機(グローバルホーク)1機分の機体組立て経費等を計上
・導入に向けた準備態勢の強化
※その他関連経費(整備用器材等)として、別途22億円を計上
平成27、28年度予算において、機体構成品(3機分)及び遠隔操作のための地上装置等を取得
入港中の潜水艦の情報収集

○潜水艦の建造(1隻:760億円)
潜水艦を16隻体制から22隻体制へ増勢し、我が国周辺の海域における情報収集・警戒監視を有効に実施するため、探知能力等が向上した新型潜水艦(3,000トン)を建造
活動中の潜水艦を追尾

○潜水艦の艦齢延伸(艦齢延伸工事3隻及び部品調達6隻分:38億円)
潜水艦を16隻体制から22隻体制へ増勢するため、「おやしお」型潜水艦に艦齢延伸措置を実施
活動中の潜水艦を追尾

○音響測定艦の建造(1隻:234億円)
海洋における音響情報の収集能力を向上させるため、音響測定艦(「ひびき」型3番艦(2,900トン))を建造
活動中の潜水艦の音響情報を収集し、潜水艦や哨戒機等での追尾に役立てる他、追尾を行う事も可能

太字は、筆者が追記した説明

資料の冒頭は、防衛省として重視していることが書かれています。
その冒頭2ページに記載されている12件中、8件が潜水艦関連です。
しかも、グローバルホークとOP-3C以外6件は、対潜水艦専用とも言えるものです。

もちろん、これらは中国の潜水艦に対処するためでもあります。
ですが、北朝鮮のSLBM対処を強く意識していることは間違いないでしょう。

2016年6月23日 (木)

成功した?_ムスダンの飛翔をシミュレーションしてみた

22日に発射された北朝鮮の中距離弾道ミサイルムスダン、2発の内1発は成功したとの見方が報道されています。

焦点:高度1000キロ超えた北朝鮮ミサイル、「発射成功」の見方強まる」(ロイター20160622)

中谷元防衛相は同日午後の会見で「中距離弾道ミサイルとしての一定の機能が示された」とだけ述べ、発射の成否については明言を避けた。

しかし、防衛省関係者は「あれほど角度をつけずに打ち上げず、普通に発射していれば、われわれが見積もっている距離を飛んだ可能性がある」と話す。


2発目に発射されたムスダンは、約400キロを飛んで日本海に落下し、最大射高は、1000キロを超える高度に達していたとのことです。

しかし、こんな数字だけ報道されても、良く分からないでしょう。
そのため、ムスダンの飛翔をシミュレーションしてみました。

防衛省はムスダンの射距離を2500キロ─4000キロと推定し、主目標をグアムだと推定していると報じられています。

つまり、今回発射されたムスダンが、もし仮に、適正な角度で発射されたとした場合、射距離が2500キロを超えていれば、一応成功、グアムまで飛翔可能だったなら、大成功と言えるはずです。

報じられているデータは、飛距離と射高だけなので、他は適当なパラメーターを入れて計算します。
ただし、飛距離は約400キロとされており、ほぼ分かっていますが、射高は1000キロ以上とされているため、1000キロなのか1999キロなのか分かりません。

そのため、射高も1000キロを辛うじて超えた程度だったと仮定します。
その際の飛翔経路は、こんな感じでした。
4001000

すごい角度ですね。
発射角は、83.5°というシミュレーション結果です。

このミサイルを、概ね最大飛距離になる発射角45°で発射すると、こうなります。
400100045

この時、飛距離は2040キロとなりました。
つまり、射高が辛うじて1000キロを超える高さだったとすれば、一応の成功にもう一歩だったということになります。逆に、報じられているとおりに、防衛省関係者が発言したのであれば、今回、1000キロを十分に超える高度まで飛翔していたと思われます。

では、大成功ラインのグアム到達ができる性能だったのか、検討してみます。
ウォンサン-グアム間の距離は約3350キロです。
最大射程で、この距離を飛翔するミサイルは、次のような飛翔経路となります。
335045

ちなみに、この時の最大射高は約970キロです。

このミサイルを、距離400キロしか飛ばないところまで発射角度を上げます。
3350857

発射角度は85.7°となり、最大射高は、約1700キロとなりました。

恐らく、これ以上の詳しいデータは公開されないと思いますが、1000キロ以上と報じられた射高が、1700キロ程度であったならば、ムスダンは既にグアムに到達する性能を持っていることになります。

……ですが、ミサイルが本当に脅威かどうかは、目標の距離に到達できるかどうかだけではありません。
十分なペイロードがあり、威力のある弾頭を投射できなければ、高架上からトラックが落ちてきたのと大差ないのです。

実は、このシミュレーションも、手抜きなので、実はペイロードをいじっただけなのです。つまり、積み荷を軽くしたら、射高1000キロだったミサイルが、1700キロまで上がり、グアムまで飛べる性能が出たというシミュレーションなのです。

なので、実は今回の発射が、空荷、つまり弾頭なしでの飛翔だったのであれば、まだ脅威ではないことになります。
ですが、これを判断することは非常に困難です。

自衛隊や米軍は、今回の発射と落下の際の詳細なレーダーデータを、これから解析するでしょう。
そして、特に落下時の大気圏内突入後の減速状況とミサイルの外形からシミュレーションされる空気抵抗で、落下時のミサイルの総重量をシミュレーションします。
そして、北朝鮮の技術レベルで、ミサイル本体の重量を推定することで、ペイロードがどの程度だったのか分析するでしょう。

そのデータ。
興味は尽きませんが、もちろん、公開されることはないでしょう。

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2016年3月15日 (火)

韓国イージスは、欠陥艦か?!

先日の北朝鮮による弾道ミサイル発射を監視していた日米韓のイージス艦の内、韓国のイージス艦だけが、目標である弾道ミサイルを見失っていたようです。
北の弾道ミサイル「見失った…」韓国軍の“手抜き防衛”に国民激怒 信じられない軍事力」(産経160314)

 北朝鮮が事実上の弾道ミサイルを発射した2月7日、韓国海軍は最新鋭イージス艦2隻を派遣していた。韓国紙の中央日報(電子版)によると、午前9時半に発射された北朝鮮のミサイルは、発射6分後に韓国海軍イージス艦のレーダー画面から消えた。

 突然の目標ロスト(消失)に、海軍では「弾道ミサイルが空中で爆発し粉々になったのでは」などといった声が飛び交い混乱。急いで米国と日本に情報提供を求めたという。


報道が事実であれば(多分事実なのでしょう)、韓国が展開させていた2隻のイージス艦が、共にターゲットロストしたということになります。

バージョンが多少異なるとは言え、日米韓のイージス艦は、全てSPY-1レーダーを装備しており、目標の捜索追尾能力に著しい違いがあるわけではありません。
レーダーが模造品ということもなく、アメリカからの輸入です。

そのため、産経新聞は、韓国のイージス艦のみが追尾に失敗した理由を、軍人の能力不足と断じています。

 韓国の国防部では「推進部分が切り離され、弾頭だけになったためレーダー反射面積が小さく、今回は正確に追跡できなかった」などと説明したが、同じ機材(レーダー)を使う日米の艦船は問題なく追跡できていたのだから、言い訳にならない。原因はレーダー操作員をはじめとした軍人の能力不足にあるのだが、その根底には「そもそも高価なイージス艦は韓国軍に必要だったのか」という重要な問題がある。

中略

 海上自衛隊ではイージス艦4隻が、米国が40回に渡って実施したSM-3発射実験に参加し、実際に模擬弾道弾を迎撃している。それなりの経費を費やし、厳しい訓練を重ねているのだ。

 一方の韓国海軍は発射実験どころか、SM-3を持ってもいない。さしたる必要性もなく、見栄で仕入れたイージス艦では、手に余すのも当然なのだ。

中略

 韓国イージス艦は、SPY-1システムこそ米国謹製だが、船体は韓国製だ。さらに乗組員も日米並の弾道ミサイル対処訓練など体験したことがない。艦の能力とは、人の能力を抜きにしては語れないのだ。


韓国を貶め、自衛隊を賞賛する記事は、受けがいいのでしょう。

確かに、韓国軍人の能力不足だった可能性は否定できません。
ですが、2隻ともロストしたことを考えると、単純な軍人・隊員の練度と考えるのは危険です。

と言う訳で、韓国艦だけが追尾に失敗した理由を推察してみましょう。

レーダー、特に、フェイズドアレイ方式のレーダーが目標をロストする理由は2つあります。
一つは、記事中で、韓国国防部も言い訳に使っていた、目標のRCSが小さいことなどによる、SN比の低下で、目標がノイズに埋没してロストに至るケース。
もう一つは、何らかの理由(多くは目標の高機動)により、目標に向けたハズのレーダーのビームが、目標から外れてしまうことで、ロストに至るケースだ。

今回の場合、日米は追尾継続できているため、RCSの問題であるとは考え難い。
可能性が高いのは、ビームが外れてしまった可能性です。

では、韓国艦だけが、ビームをハズしてしまう可能性があり得るのか?
結論から言えば、あり得ます。

艦載レーダーが、地上配備レーダーと最も異なる点は、艦の揺動により、レーダー自体が動いてしまうことです。
昔の、レーダーを機械的に回転させながら、ファンビームと呼ばれる扇状のレーダービームを放射していた時は、それほど大きな影響はありませんでした。(もちろん影響はありますが)

しかし、フェイズドアレイレーダーが、高出力でビーム幅を絞ったペンシルビームと呼ばれる細いレーダービームを放射するようになると、艦の揺動を補正してやらないと、レーダービームが狙った場所に照射できず、レーダーが機能しない結果となります。

「電磁波は、光速で進むのだから関係無いだろ」と思う方もいるかもしれませんが、弾道ミサイルの追尾迎撃を行うような長距離・高速度では、光速は、補正が必要な程度の遅さなのです。
参考過去記事:対艦弾道ミサイルの可能性について補足

なぜ、この事を書いたのかと言えば、韓国のイージス艦は、この点で欠陥を抱えている可能性があるからです。

艦の揺動を補正する方法は、フィードバックを行うか、フィードフォワードを行うかという技術的選択があるにせよ、最も大切なのは、揺動を正確に検知する方法です。

韓国艦は、この部分において、経費削減のため、米国システムを採用せず、自国の装置を組み込みました。
アメリカのイージス艦は、慣性航法装置として、レーザーリングジャイロを備え、デジタル、アナログ技術を駆使したAN/WSN-7を装備しています。
一方で、韓国艦は、素性の不明な代替システムを装備しています。

可能性の一つではありますが、AN/WSN-7の角度分解能などの精度がどの程度だという情報に基づき、韓国は、自国システムを採用した可能性が考えられます。

その際、分解能が同程度だったとしても、例えば応答性が劣っていたような場合では、今回の弾道ミサイルの追跡では、艦の揺動データが、SPY-1に入ってくる事が遅れたため、(高速、大加速度、長距離であるが故)不適切な場所にレーダービームを打っていた可能性が考えられるのです。

上記の推測は、あくまで推測です。
ですが、今回の韓国艦だけがターゲットロストをしたという結果を鑑みれば、韓国のイージス艦は、欠陥を抱えている可能性があります。

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2015年2月21日 (土)

北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦は、日本の脅威となるか?

日本国内では、ほとんど話題になっていませんが、昨年の夏から北朝鮮が弾道ミサイルを発射できる潜水艦を開発しているという情報が出ています。

これに対して、ミリタリー系ブロガーのdragoner氏も言及しています。
北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦開発。日本への影響は?
ですが、基本的に日本には大した脅威は無く、この潜水艦は対アメリカ用だとしています。

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発を進めていたとして、それが日本への新たな脅威となるのでしょうか? 現実的には、日本にとって差し迫った脅威ではないと考えられます。

まず、弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発には高い技術力が必要で、そのいずれも実用域に入るには、まだ長い時間が必要と考えられます。

そして、既に日本全土が北朝鮮の陸上発射型中距離弾道ミサイルの射程圏内にある為、北朝鮮が新たに日本へ向けた新型ミサイルを開発する理由が薄いという点です。

弾道ミサイル潜水艦とSLBMとは、敵による核の第一撃を生き延びて、確実に核による報復を行うための高い生存性を備えた兵器システムです。日本が核武装していない以上、日本を相手に北朝鮮が新規で開発する類の兵器ではありません。

では、北朝鮮はなぜSLBMの開発を行っているのでしょうか。北朝鮮の目は、アメリカに向いているものと見られます。


北朝鮮が意識している対象国の第1がアメリカであることは、疑いようもないですが、意志の面でも、能力の面でも、日本の脅威でないとすることは早計です。

以下、この弾道ミサイル潜水艦と搭載されるであろうSLBMについて考察してみます。

まずは、潜水艦の方から見てみましょう。
現在の所、一番詳細な情報を報じているのは38NORTHです。
North Korea’s SINPO-class Sub: New Evidence of Possible Vertical Missile Launch Tubes; Sinpo Shipyard Prepares for Significant Naval Construction Program

衛星画像の解析から、船体の概略サイズは判明しています。
全長:65.5m
全幅: 6.6m
排水量:1000~1500t

Fig3_20150107newsub990x475
38NORTHより

これは、北朝鮮が保有していることが判明している潜水艦とはサイズが異なるため、新型艦であると見られています。
全長 ロメオ型:76.6m
    サンオ型:35.5m
     ヨノ型 :29.0m

一部報道では、ヨノ型のサイズを増やしたという情報もありますが、あまりにサイズが異なっており、私は疑問です。
サイズとしては、ロメオ型が近いですが、ロメオ型は2次大戦時の潜水艦に毛が生えたような代物の上、切って伸ばすことは可能でも、切って大幅に縮めることは難しいだろうと思います。また、艦首の形状も全く違います。

ロシアのキロ型、ラーダ型とは、サイズは比較的近いですが、どちらも北朝鮮は入手できていないはずです。

38NORTHでは、ユーゴスラビアのサバ型やヘローナ型とサイズが非常に近い事を指摘しています。
設計図を入手して、それを参考としたかもしれません。

38NORTHが、シンポ型(新浦市から取った?)と呼ぶこの新型艦(以下、この記事でも、以下シンポ型と記載)の性能、特に航行性能は、その起源がはっきりしないため、そこから推測することはできません。
ですが、艦首形状が水中航行に有利な半球状になっているため、水上艦のような艦首形状を持つ、北朝鮮の主力潜水艦ロメオ型より高い性能を持つだろうとは推測できます。
(もっとも、今更ロメオ型以下の艦を作る方が難しいかもしれませんが……)

もう少し分析が可能なのは、SLBMの搭載・発射能力です。

38NORTHでは、衛星写真の解析から、セイル上にあるSLBMを収める部分のサイズを縦4.25m×横(幅)2.25mと見ており、SLBMを1発もしくは2発搭載可能と分析しています。

普通の潜水艦のセイルには、潜望鏡などのセンサー類などが収められているだけで、ミサイル発射装置が収められることはありません。
ですが、北朝鮮は、決して奇特なことをしたわけではありません。
この方式は、北朝鮮が必死になってくず鉄として輸入した旧ソ連のゴルフ型潜水艦で実用化されていたレイアウトだからです。
北のミサイル潜水艦開発(上)「日本企業」の影
北のミサイル潜水艦開発(中) 阻止に動いた日本
北のミサイル潜水艦開発(下)自衛隊と対峙

ゴルフ型は、旧ソ連の通常動力型弾道ミサイル潜水艦です。
以降の型が、原子力潜水艦になったため、ほとんど忘れ去られたような艦ですが、北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦を開発する上で、これほど参考になる船もないと言えるような艦です。

その理由は、
・通常動力型であること
・就役年がロメオ型と同じ1958年であり、ロメオ型と同等レベルの技術で作られていること
・小型の艦でありながら、弾道ミサイルを搭載可能とする特殊なレイアウトで作られていること

特に重要なのは、最後の点です。
弾道ミサイルは、発射時に、ほぼ垂直に打ち上がることが望ましいミサイルです。
しかしながら、小型の潜水艦では、船体内に弾道ミサイルを縦にレイアウトすることは困難です。
そこで、ゴルフ型は、船体から上に付き出したセイル内に弾道ミサイルを収めました。
しかも、それだけでは収まり切らなかったため、なんと、船底部にまで膨らみを持たせ、弾道ミサイルを縦にレイアウトしています。
Ssb_golfii
wikiより

さすがに、あまりに古いので、くず鉄として輸入したゴルフ型の船体をそのまま使っているとは思いませんが、参考にしていることは間違いないでしょう。

可能性の域を出ませんが、サバ型、もしくはヘローナ型の図面とくず鉄扱いで輸入したゴルフ型を参考に、一部部品はゴルフ型から流用しながら、新造艦を作ったのではないかと思われます。

だとすれば、艦としては、弾道ミサイルを水中から発射する能力を持っていてもおかしくはありません。
ですが、搭載するミサイルの対応も含め、水中発射には拘っていない可能性が高いように思います。

ミサイルの搭載数は、38NORTHが分析したとおり、最大でも2発でしょう。
問題なのは、搭載できるミサイルのサイズ、特に長さです。

ゴルフ型を参考にしていると思われるため、ゴルフ型同様に、船底に張り出しがある可能性が高いです。
そのため、搭載可能なミサイル長は、10mを越える可能性はありますが、15mに達することはないでしょう。
15m以上のミサイルを搭載したいのならば、セイルをもっと伸ばすはずです。

この点から、搭載される可能性のあるミサイルを絞り込めます。
以下、北朝鮮が保有すると見られる弾道ミサイルとその長さです。
 6.40m:KN-2
11.25m:スカッドB、スカッドC、スカッドER
12.50m:ムスダン
16.00m:ノドン
18.00m:KN-08
25.50m:テポドン1
33.30m:テポドン2

テポドン1、2は論外、ノドンは微妙ですが、翼幅が2.6mもあり、やはりシンポ型への搭載は無理でしょう。
サイズ的に、可能性が高いのはムスダン以下ですが、北朝鮮が搭載したいのはKN-08のはず(大陸間弾道弾なので)

この中でも、特に注目すべきなのはムスダンとKN-08です。
というのも、このミサイルは、原型が、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)である旧ソ連のR-27と言われているからです。

KN-02とスカッドシリーズ(ノドン含む)は、SLBMがベースではないため、北朝鮮が独自改良しているとしても、水中からの発射は、おそらく不可能です。

ただし、浮上しての発射をする可能性もあるので、否定はできません。
特に、シンポ型は、ゴルフ型と同様に、格納式の潜舵が、艦首付近に装備されている可能性が高いので、完全に浮上せず、セイルだけを、水面上に出した状態で発射する可能性も考えられます。

一方で、スペック不明ながら有力な搭載ミサイルの情報は、つい先日行われたと見られる、KN-11ミサイルの水上プラットフォームからの発射試験情報です。
North Korea Flight Tests New Submarine-Launched Ballistic Missile

このKN-11ミサイルのサイズや射程に関する情報は、あちこち探してみましたが、今のところ見当たりません。
今回の発射試験自体は、大きな騒ぎになっていないため、恐らく長距離を飛翔させるものではなかったのだろうと思われます。

KN-という名前は、アメリカが付けている名前なので、名前から、KN-08やKN-2と技術的な関連性があるとは言えません。

しかし、前述のとおり、水上プラットフォームからの発射試験が行われたので、このKN-11は、R-27系統のムスダン、KN-08と技術的関連性のあるミサイルである可能性が高いものと思われます。

ゴルフ型に搭載されていたミサイルは、全長10.7mのスカッドAと全長12.9~14.3mとされるR-21でした。
あくまで推測ですが、シンポ型がゴルフ型より小型であることを考えれば、KN-11は、ムスダン以下の全長と射程を持つミサイルであろうと思われます。

ムスダンの射程は、3200km以上、4000km以下と見られています。
ですので、ここではこのKN-11ミサイルの射程を、ムスダンの下限と見られる3200kmであると仮定して、その戦術的価値を考察してみます。

グアムに対する、射点は、グアムから半径3200kmの範囲内なので、図のピンク色の部分になります。
3200
シンポ型は、それほど進出しなくても射点に着くことができますが、北朝鮮とは異方向から発射するという戦術的価値を得るためには、やはり相当な進出が必要です。

ちなみにハワイを攻撃するための射点は、次の通りですが、あまり現実的ではありません。
3200_2

これだけを見ると、シンポ型+KN-11には大した価値は無いように見えるでしょう。シンポ型の性能が、日米の対潜網を突破し、アメリカ本土に接近できる可能性が低いことを鑑みても、北朝鮮にとっては、最終的な開発目標である、アメリカに対する報復核戦力を作るためのテストベットでしかないようにも見えます。
冒頭リンクのブロガーdragoner氏も、そのように見ています。

ですが、コレはやはり早計です。
前掲38NORTHの記事でも、シンポ型が開発中であるため、現時点の脅威では無いとしつつも、これが韓国、日本、及び東アジアの米軍基地にとって脅威であり、SLBMによる異方向攻撃が可能になることから、弾道ミサイル防衛を行う上で、その計画・配備・運用の複雑性を増加させ、防衛を困難にすると述べています。

North Korea’s development of a submarine-launched missile capability would eventually expand Pyongyang’s threat to South Korea, Japan and US bases in East Asia, also complicating regional missile defense planning, deployment and operations. Submarines carrying land-attack missiles would be challenging to locate and track, would be mobile assets able to attack from any direction, and could operate at significant distances from the Korean peninsula.

Nevertheless, such a threat is not present today. Moreover, an effort by Pyongyang to develop an operational missile-carrying submarine would be an expensive and time-consuming endeavor with no guarantee of success.


ポイントは、日米(韓)が弾道ミサイル防衛態勢を構築しているため、北朝鮮が陸上に配備する弾道ミサイルは、その効果を相当程度減殺されることは確実で、無力に等しい可能性もあるなか、シンポ型+KN-11は、その弾道ミサイル防衛網を突破できる可能性がある点です。

その可能性は、上記38NORTHが指摘する異方向攻撃による複雑性の増加、及びKN-11が日韓の米軍基地を攻撃するためには、十分過ぎる射程を持つため、ロフト及びディプレスト弾道で攻撃が可能であることから生み出されます。

現在発売中の「軍事研究」3月号誌上でも、能勢伸之氏がノドンをロフト弾道で射撃し、ソウルを狙う危険性を書いていますが、日韓及び米軍基地の防衛を考えた場合、危険性が高いと思われるのは、ディプレスト弾道の方です。

ロフト弾道の場合、落下時に高速で垂直に近い角度となるため、PAC-3およびTHAADによる迎撃は困難になりますが、発見から対処まで時間的余裕ができる上、イージスSM-3による迎撃にはあまり影響しないため、弾道ミサイル防衛網全体としては、それほど大きな影響は受けません。

対するディプレスト弾道の場合、弾道ミサイルを低い角度、野球の打球に例えれば、ライナー性の弾道で飛翔させます。
KN-11を、どの程度の低高度で飛翔させることが可能かは未知数ですが、シンポ型が日米の対潜戦力に補足されにくい沿海州沿岸や東シナ海西部から日本までは2000kmもないため、飛翔高度を相当下げても到達させることが可能です。

そうなると、ムスダンクラスのミサイルを迎撃する主戦力であるイージスSM-3の最低対処高度が70kmであるため、KN-11のディプレスト弾道がこれを下回るなら、対処は不可能ですし、70kmを越えるとしても対処時間は相当短くなります。
その上、高度が低いため、発見自体が遅れます。

この、ディプレスト弾道によって発見が遅れるという点に、潜水艦のステルス性が加わると、より厄介なことが起きます。
参考過去記事:「脅威の旧式ミサイルJL-1(巨浪1号)
この記事で指摘した通り、弾道ミサイル防衛では、多くのレーダーが捜索範囲を絞って集中監視しないと早期のミサイル補足ができない訳ですが、潜水艦によって北朝鮮とは別方向から撃たれる可能性が出てくると、捜索レーダーのカバー範囲を潜水艦行動域にもかぶせなければなりません。
もし、シンポ型が計画した捜索範囲外に進出し、弾道ミサイルを撃てば、弾道ミサイル防衛網が、ミサイル全く補足できない可能性さえあります。
なお、レーダーによる弾道ミサイル警戒の困難性については、次の過去記事をご覧下さい。
BMDシステム総合検証の意義と妥当性 その1
BMDシステム総合検証の意義と妥当性 その2
対艦弾道ミサイルは無意味ではない
対艦弾道ミサイルの可能性について補足

なお、ディプレスト弾道の場合、当然に、目標に正確に命中させることは困難になりますが、そもそも核を使うならそれほど精度は必要ありません。

シンポ型、KN-11が稼働し、ディプレスト弾道によって日本及び在日米軍基地を狙うようになると、日本の弾道ミサイル防衛にとって、相当な脅威となります。
また、この2発しか撃てないシンポ型対処に、警戒レーダーなどのミサイル防衛リソースを費やせば、大量に撃たれる可能性のあるノドンの対処にも悪影響が出ます。

最も有効な手段は、シンポ型が停泊する港の近傍に常時潜水艦を待機させ、出航時から帰港まで間断なく追跡し、出航後、ミサイルを発射する恐れがある場合は、その前に撃沈することです。

つまり、冷戦期にアメリカの攻撃型原潜が、ソ連の弾道ミサイル潜水艦に対して行っていた事と同じ活動をすることです。
シンポ型は、通常動力型潜水艦なので、AIPも装備するそうりゅう型なら、余裕で追跡できるでしょう。

ただし、攻撃の権限を艦長に与えておかなければならないため、法的には厳しい点もあります。
法的に、艦長に撃沈させる権限を与えられないなら、日本の潜水艦も露頂して緊急の通報を行う事で弾道ミサイル防衛網を、シンポ型の上空にかぶせる事になるでしょう。

また、海自がP-1にハープーンだけではなく、マーベリックを搭載するのも、不審船等の対処ではなく、セイルだけを出してミサイル発射をしようとするシンポ型への対処を念頭に置いた措置かもしれません。

以上のように、シンポ型が、ミサイル発射のためには浮上を必要とするとしても、発射されたミサイルは、日(韓)及び米軍基地にとって相当な脅威です。

もし、シンポ型が、何らかの理由で潜水艦の追跡を逃れるようなことがあれば、自衛隊としては極めて大きな脅威になります。

ですので、このニュースは、日本のメディアももっと注目すべきなのです。

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2014年4月20日 (日)

ノドンをディプレスト弾道で使用する可能性

先月末、日米韓首脳会談に合わせて北朝鮮がノドンを発射した事件については、その政治的な意味について、「ノドン発射に見る金正恩の思考回路」を書きましたが、軍事的な意味について、もれ聞こえてきた情報から考察してみます。

今回のノドンは、韓国国防部によると「ミサイルは高度160km、最高速度マッハ7以上で飛行した」とのことです。
北、中距離ノドンミサイル 2発発射…政府 "安保理決議違反"」(ハンギョレ新聞14年3月26日)

最大射程の半分程度と飛距離が短く、高度も若干低いかなという数値だったことから、ディプレスト弾道で撃ったのだろうと想像し、イージスSM-3での迎撃に困難が生じることを米韓軍に見せ付けるつもりだったのではないかという仮説を立てました。
(最小エネルギー弾道でやっと日本に到達するノドンは、ディプレストで発射すると、日本には到達しないため、自衛隊には直接の影響はありません)

しかし、検証のために図を描いて確認すると、「そうだった可能性はあるものの、断言できない」という結論になってしまいました。

いささか冴えない結果ですが、以下、検証結果です。

飛翔距離650km、弾道高度160kmを、地球の曲率と合わせて図示すると、次のとおりです。(曲線は汚いですが、ちゃんと計算した数値で図示しています)
Ws000019
一見して分かりますが、多少ディプレスト気味ではありますが、最小エネルギー弾道に近い弾道です。
(ノドンの射程は1300km程度と見られているので、燃料を減らして撃ったか、さもなくば、途中で燃焼を止めた可能性があります。だから速度も低めだった)

この弾道の内、SM-3(ブロックIA)で迎撃可能な範囲(射高70km~500km)は、図の青い弾道経路になります。
ただし、実際には、レーダーで捕捉してから迎撃を開始することになります。
仮に、イージスが着弾点付近に位置していたとすると、地球の曲率の関係で、目標が水平線上に表われてレーダーでの捕捉が可能なポイントは、ちょうど高度70km付近になるため、そこから迎撃が開始されると、実際の迎撃可能ポイントは、弾道の頂点付近及び後半となります。(青の実線部分)
Ws000020

それでも、弾道の内、かなりの経路がSM-3による迎撃可能ポイントになるため、イージスが適当な位置に展開していれば、十分迎撃が可能だと思われます。

ですが、北朝鮮が本格的なディプレスト弾道でノドンを打ち込んできた場合、どうなるかを見てみると、結構厳しい状況が見えてきます。
Ws000021
図中の弾道経路を下に下げ、全弾道経路がSM-3での迎撃が不可能な70km以下に収めるようにしても、ノドンの射程は400km程になることが分かると思います。
実際には、下げた際に、地表下に入る経路でのロス分(高度エネルギー分)もX軸方向の加速度にできるため、弾道高度が同じ70kmでも、射程は更に伸びます。

400kmの射程があれば、中国国境付近からでもソウルまで到達しますし、38度線付近から発射すれば、陸上戦力で劣る韓国が、北朝鮮を圧倒するために必須である航空戦力の戦力発揮基板である航空基地のほぼ全てを射程に収めることとが可能です。
開戦劈頭に、航空基地を破壊できなくとも、機能不全に陥らせることができれば、北朝鮮とすれば、戦勢はかなり有利になるはずです。

理論上可能でも、北朝鮮の技術力で、実際に可能なのかという疑問はあるでしょう。
ですが、弾道ミサイルの打ち上げ角度を変えることは、特に困難な事ではありません。北朝鮮は、既に地球周回軌道に物体を投入することが出来ている訳ですから、この程度のことは、簡単に実現できます。

ただし、命中精度が、軍事作戦を行う上で、十分なものであるかは不明です。(ディプレストは、命中精度が落ちます)
今回、2発のノドンが発射されたため、もし2発が至近に着弾していれば、離れた場所に打ち込んだミサイルが、偶然至近に落ちる可能性は極めて低いため、北朝鮮は、狙って至近に落としたことになるため、韓国にとっては脅威となります。
もし、着弾点が離れていたとしても、安心はできません。性能を秘匿するため、そもそも話して着弾させるつもりだった可能性が否定できないためです。

数値的には、ソウルなど人口密集地に対して、心理的効果を狙って使用するためには、10数km以上の命中誤差があっても、十分に役立ちます。
ですが、航空基地など重要施設を狙う場合、弾頭が通常弾頭であれば、CEP(半数必中径)が1kmもあったら効果はかなり怪しいと言えます。化学弾頭を使う場合は、CEPが1km程度なら、米韓空軍にとっては深刻な脅威です。

しかし、2発の着弾誤差は公表されないでしょうから、この点は不明だとしか言えません。

結果として、ノドンをディプレスト弾道で射撃することで、SM-3の迎撃を回避することが可能かどうかは、可能性としては否定できないものの、今回の発射では断言できないという結論になってしまいました。
ですが、日米韓軍事筋は、着弾点を観測しているハズです。

もしかすると、近傍に着弾しており、深刻な脅威と認識しているかもしれません。
そうであれば、今後、朝鮮半島危機の際には、米軍はTHAADとPAC-3の大量配備することになるでしょう。

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2013年3月 6日 (水)

Xバンドレーダーを経ヶ岬に追加配備

2機目のXバンドレーダーが経ヶ岬に配備されることになりました。
米軍Xバンドレーダー配備 2カ所目は京都・経ケ岬」(産経新聞13年2月24日)

Xバンドレーダーについては、昨年の8月に沖縄以外の自衛隊基地という情報がありました。
参照過去記事
Xバンドレーダー追加配備_誤報と意味(その1)
Xバンドレーダー追加配備_誤報と意味(その2)

この時には、日本南部、島、沖縄県以外にある自衛隊基地等の情報から、沖永良部島を予想していたのですが、冒頭の産経記事を見ると、秋頃から経ヶ岬等が検討されていたようです。

 自衛隊と米軍は昨秋から西日本の空自基地で日本海に面した候補地を選定。(1)経ケ岬分屯基地(2)芦屋基地(福岡県芦屋町)(3)見島分屯基地(山口県萩市)の3カ所が浮上した。


なので、アメリカが対中国から対北朝鮮に比重を移したが故、配備地を沖永良部から経ヶ岬に変更した訳ではないようです。

つまり、8月の報道は、沖縄世論配慮ではなく、中国配慮だったようです。
さすが民主党政権。そこまで読み切れませんでした。

車力に配備された1機目のレーダーは、米本土に向けたミサイル対処でした。
ハワイ方面にも対処できる位置ではありましたが、グアム向けには不適でした。
経ヶ岬は、グアム向けのレーダーと言えます。
Ws000008

日本に対する価値としては、THAAD用ランチャーを持ってきたとしても、防護できる範囲に重要な施設が少ないので、これによる価値は少ないですが、イージスと連携することで、ほぼ日本全土に対するミサイル防衛力を強化できます。
Ws000010
THAADランチャーを持ってきた場合の防護範囲

しかし、基本的には日本防衛用ではなく、車力同様にアメリカ用です。

 

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2012年12月13日 (木)

北朝鮮の衛星打ち上げは成功?

北朝鮮が衛星を打ち上げました。
ちょっと多忙で、長い記事を書いている余裕がないので、コメントだけです。

事故が起こらず、どこにも被害がでなかったようなので、そのことは幸いと言えます。
ですが、これで北朝鮮のミサイル戦能力が1段階上がったと言え、その意味では不幸な事件でした。

とまれ、打ち上げられた衛星は、太陽同期準回帰軌道への投入に成功したようです。
ただし、この事実をもって北朝鮮による衛星打ち上げが成功だったと判断するべきか否かは微妙です。

少なくとも、北朝鮮の政治目的としては、"アメリカまで直接何かを打ち込む能力を示して見せた"という点で成功です。
ですが、狙った軌道に乗ったのか、つまり、軍事的に有効な”ミサイルと言えるのか”と言う点では、不明だと断言してもいいでしょう。

RVを使用して、大気圏再突入してないという点も勿論ですが、太陽同期準回帰軌道に乗ったとは言え、狙った軌道とは程遠かった可能性は十分にあります。
何せ軌道計算なんて、一重に太陽同期準回帰軌道と言っても相当幅がありますし、正確なら手計算でもできる程度のものですから。
(実際アポロ13号は、船長が手計算で軌道計算して地球に帰ってきた)
アポロ船長手帳、3千万円 手計算の跡、米で落札」(47ニュース11年12月2日)

例えて言えば、今回の打ち上げは、遠投で100m投げる能力を示したに過ぎません。
これが軍事的に有効なものになるには、100m遠投して、カゴに入れられないといけません。
もっとも、核弾頭の小型化ができれば、カゴではなく、サッカーのセンターサークル程度に入れられるだけでも有意なものになりますが……

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2012年12月 9日 (日)

北朝鮮ロケット迎撃の垂直面評価

いよいよ、北朝鮮によるロケット打ち上げが近づきました。

春の打ち上げの際には、琉球新報が当ブログの記事をパクって頂いたりと、なかなか盛り上がりました。
琉球新報にパクられた~!_2012北朝鮮「衛星」発射

で、水平面での防護可能性については、一連の記事で書いてしまったので、今回は垂直面での検討をしてみたいと思います。
(水平面での防護可能性については、記事を探すのがめんどいので、前掲のリンク先よりしばらく前の記事をいくつかご覧下さい)

まず、迎撃対象が何かですが、ほぼ予定通りに飛行し、途中で燃焼が止った結果、先島方面に落下するとした場合、落ちてくるのは次の画像の赤丸で囲まれた部分、第2段ロケット以上の部分です。(第1段は分離して黄海に落下。第1段での不具合や分離不能な場合は、日本まで届きません)
  Photo_3
Copyright Fabe27 2009/5/30 wikipediaより転載の上加工

この部分が落下してくると予測された場合、まずイージスSM-3が迎撃します。
その際に、どの程度目標を破壊できるかですが、目標は第2段ロケットが高さ8m、第3段が6m(by wiki)もあります。重量は不明ですが、テポドンの全重量から推定すると、10t程度と推定されます。

対するSM-3のキネティック弾頭は、重量わずか23kgしかありません。速度エネルギーが大きいため、エネルギーとしては大きい(約125メガジュール。目標の速度も大きいため、実際には更に高い数値となる)ですが、その多くは瞬時に熱エネルギー化してしまい、全高14mを越えるロケット全体の破壊は不可能と思われます。特に当たり所と衝突角度によっては、目標を2つに分断するだけになってしまう可能性もあります。

ですが、ロケットに回転モーメントを与えることは間違いなく、ロケットが大気圏内に再突入した際、空気抵抗による飛翔速度低下による飛翔距離の低下と摩擦熱による弾体の破壊で内部の危険な非対象ジメチルヒドラジンが燃焼・拡散してしまうことは確実です。
そのため、先島に落下する予測がされていたのでしたら、その北方海域に落下しますし、ヒドラジンが地表まで届く可能性は低いと思われます。

次にSM-3による迎撃が失敗し、宮古島あるいは石垣島に落下してきた場合のPAC-3による迎撃を考えてみます。
この時、目標であるロケットの速度は、飛翔距離からしてマッハ9程度だと思われます。
対するPAC-3の速度もマッハ5を越えますが、重量は320kg以下(ロケットモータの燃焼分は重量低下)です。推定重量10tのロケットからすれば、3%でしかありません。こちらもSM-3と同様に、ロケット全体を破壊するには小さすぎます。

そのため、このデータを元に、以下ものっっっすごく大雑把な推定をして、PAC-3弾が目標の飛翔経路をどの程度変更可能か推定してみます。
PAC-3弾はロケットに対し速度が55%程度、重量が3%程度だとすると、PAC-3弾がヘッドオンで迎撃した際にロケットに与える速度エネルギーは、ロケットの速度エネルギーの約7.2%です。
実際には、かなりのエネルギーが熱に変化してしまうとはずですが、仮に全てがロケットの速度を減ずる方向で作用したとすると、ロケットの速度は3.7%減少し、マッハ8.67程度になる計算です。
さらにPAC-3が通常2発発射されることを考慮すると、ロケットはマッハ8.34程度に減速させられることになります。

PAC-3が2発とも命中する可能性や、前述の熱エネルギーへの変換のため、実際にはこれよりかなり悪い結果になることは明かですが、一応この数字を画面上に落とし込んで見ます。
Photo_5
石垣市役所に落下するロケットを想定した場合、ちょうどその背後にPAC-3が展開するような配置になります。

そして、石垣市役所に落下するロケットを、仮に20km付近で迎撃した場合のロケットの落下経路を前記速度低下を前提に計算(鉛直方向の加速度は無視)すると、市街地外側の畑付近にロケットを落下させられる計算になります。
吉原小に落下するロケットの場合、迎撃ポイントが近くなるため、小学校をなんとか躱し、海岸付近に落下させられるようになる見込みです。
Pac3

相手の剣先を、首の皮一枚で躱すようなものでしょうか。
このため、PAC-3部隊は、どの場所に落下する場合は迎撃し、どの場所なら無視するのかという細かいマップを作成し、システムに入力していると思われます。

たとえば、バンナ岳西付近に落下する見込みの場合は、迎撃したことで逆に名蔵中付近に落下することになるため、迎撃しない方が適切だということになります。
これは、先日のハマスのロケットを、イスラエルのアイアンドームが迎撃した時と同じです。

ただし、微妙な場合は迎撃した方が適切です。
なぜならSM-3の場合と同様に、迎撃することで毒性を持つヒドラジンを上空で拡散・燃焼させてしまえるためです。

上記は、かなり粗い計算ですが、自衛隊はもっと綿密に、同様のシミュレーション(自衛隊では見積もりという事が多い)を行ない、計画を立案しています。

今日の報道によると、発射が若干遅れるようですが、万が一どころか、億に一で落下して来た場合は、確実に対処してくれることを期待しましょう。

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2012年9月 1日 (土)

Xバンドレーダー追加配備_誤報と意味(その2)

前回の続きです。

続いて、配備場所を予測してみます。

日本政府筋によると、両政府は現在、沖縄県以外にある自衛隊基地に配備することで最終調整している。


他の記事でも、日本南部とか島とか報じられています。その上で、沖縄以外の自衛隊基地との報道が間違っていないのであれば、候補は次の3つだと思われます。
・沖永良部島(空自:沖永良部島分屯基地)
・奄美大島(空自:奄美大島分屯基地、海自:奄美基地)
・喜界島(喜界島通信所)

恐らく、周辺のレーダーマスク等も考えると、場所は沖永良部島の可能性が極めて高いと思われます。
Ws000000
沖永良部にAN/TPY-2を配置し、中国大陸方面を監視した場合の監視範囲

これだけ広範囲を監視できるのですから、FPS-5等による監視の補完として、非常に有益な措置です。
イージスやPAC-3による日本のMDにキューイングデータを送る上で、効果があるでしょう。

ですが、この措置の意義は、それだけに止まりません。
車力と沖永良部に配備されることを考えれば、そこには米軍の意図として、別の意味も見えてきます。

AN/TPY-2は、もともとTHAAD用のレーダーとして開発されたものです。
ですから、THAADランチャーを持ってくれば、即THAADシステムとして稼働させられる訳です。

THAADシステムも、C-17等による空輸が可能ですが、ランチャーはどうにでもなるものの、レーダーが十分な性能を発揮するためには、事前にその場所での電波環境にシステムの設定をしなければなりません。
例えば、広範囲を監視するシステムであればあるほど、その覆域内にある他の電波放射源がECMと同様の監視阻害要因となるため、ECCMと似たような活動が必要になってくるからです。
本年度の予算で、石垣島に移動式警戒管制レーダーを展開させるため、防衛省が電波環境調査を行っているのも同様の理由です。

車力と沖永良部には共通点があります。
それは、どちらも極東米軍の戦力発揮に不可欠な重要航空基地の近傍であるということです。(車力は三沢の近傍、沖永良部は嘉手納・普天間の近傍)
つまり、XバンドレーダーAN/TPY-2の配備は、緊急時にTHAADを展開させ、嘉手納等の防護をするための事前措置の可能性があるということです。

嘉手納には、PAC-3が展開していますが、グアムを攻撃できるほどの射程のあるDF-4等をロフト弾道で撃たれると、速度が速いためPAC-3で迎撃できない可能性があります。
現状では、それらに対してはイージスSM-3に期待するしか無い訳ですが、米軍とすれば、THAADとの2本立化を考慮しているのではないかと考えられます。

また、より広範囲なミサイルディフェンスを行う意図もあると思われます。
早期警戒レーダーを追加配備へ…沖縄以外で調整」(読売新聞12年8月24日)

青森の車力分屯基地より西方に配備することで、北朝鮮の弾道ミサイルに加え、米空母への脅威となる中国の対艦弾道ミサイルへの対応がテコ入れされることになるという。


THAADのランチャー配備制限については、資料がありません。
ですが、PAC-3がランチャーをレーダーと離れた位置に展開させ、防護範囲を広げるランリモートランチという機能を持っていることを考えれば、THAADも同様の機能を持っている可能性は高いと思われます。

仮に、THAADランチャーを沖縄周辺の離島(与那国島、石垣島、宮古島、久米島、沖縄本島、沖永良部島)展開させた場合のTHAADによるフットプリントは、次のようになります。
Ws000002

嘉手納は勿論、下地島、そして何より尖閣諸島周辺まで防護範囲に入ります。

つまり、これは中国の接近阻止戦略に対する対抗策ではないかと思われるのです。

今回の話は、急に降って湧いたような話です。
事の真相は、アメリカに「尖閣を巡ってアメリカの関与を望むなら、THAAD展開の事前準備としてAN/TPY-2を配備させろ!」とでも言われたのではないでしょうか。

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2012年8月31日 (金)

Xバンドレーダー追加配備_誤報と意味(その1)

日本南部にXバンドレーダーが追加配備されるそうです。
新聞報道は誤報+突っ込みが甘いので、誤報の指摘と配備の意味(アメリカの真意等)について書いてみます。
長くなるので、2回に分けて掲載します。

早期警戒レーダーを追加配備へ…沖縄以外で調整」(読売新聞12年8月24日)

 日米両政府は、アジア太平洋地域のミサイル防衛(MD)能力を向上させるため、飛来情報を解析する米軍の早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)を日本国内に追加配備する方針を固め、調整に入った。

 今月3日の米国での森本防衛相とパネッタ米国防長官の会談で早期配備で一致したもので、2013年春にも配備したい考えだ。日米関係筋が23日、明らかにした。


現在、青森県の車力に配備されているAN/TPY-2に加え、もう1カ所に追加配備するそうです。
車力のAN/TPY-2については、過去記事「コレが車力のFBX-Tサイトだ!」を参照下さい。

日本の弾道ミサイル防衛にも貢献する処置ですから、もちろん歓迎すべき話です。
4月13日あった北朝鮮による弾道ミサイル騒ぎ等でも、もし配備されていれば効果があったでしょう。
読売以外でも報道されていますが、やはり否定的論調は見られません。

さて、ではまず誤報について書いておきます。
(以前からこの件をフォローしているJSF氏が週刊オブイェクトで書くかなと思ってましたが、書かないようなので……)
オブイェクトの関連記事「産経新聞がXバンドレーダーの性能を誤って報道

このニュースのソースはウォールストリートジャーナルのようです。
日本南部に追加配備検討 米ミサイル探知レーダー 北朝鮮や中国の脅威に対抗」(産経新聞12年8月24日)
また、森本防衛大臣も会見で言及しています。
米レーダー追加配備を日米で検討 ミサイル探知で日本に」(共同通信12年8月24日)

 日米両政府は、発射されたミサイルを正確に追尾できる米軍の「Xバンドレーダー」の日本国内への追加配備に向けて検討に入った。森本敏防衛相は24日午前の記者会見で「どのような形で配備するか、日米間で話を進めている」と述べた。


どの記事も「Xバンドレーダー」と記述しています。
この言葉が、現在車力に配備されているAN/TPY-2と同じモノを指すのか、それとも海上配備Xバンドレーダーの地上配備版を指すのかはっきりしませんが、どうもAN/TPY-2のようです。
レイセオンのAN/TPY-2ページ
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AN/TPY-2(ウィキペディアより)

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海上配備Xバンドレーダー(ウィキペディアより)

両者は、サイズが決定的に異なるため、探知距離が大きく異なります。
AN/TPY-2は、最大でも2000km程と見られており、もう一方の海上配備Xバンドレーダーでは5000kmにも及ぶと言われています。
冒頭の読売の記事は、この両者を混同しています。

 Xバンドレーダーは、弾道ミサイルを探知するため、米国が開発。米軍は06年、青森県の航空自衛隊車力分屯基地に初めて配備した。探知距離は約4000~5000キロ・メートルと非常に幅広く、追加配備されれば、MD体制は飛躍的に強化されることになる。


2009年に産経が犯したミスと同じミスを、読売も犯してしまったようです。
ちなみに、同じミスを韓国の中央日報も犯しています。
数千キロ監視レーダー基地…米国が日本南部に追加建設も」(中央日報12年8月24日)

  早期警報レーダーのXバンドレーダーは数千キロ離れたところにある小さな目標物も識別できるという。米国はすでに06年から日本青森県でXバンドレーダー基地を運営している。


ウォールストリートジャーナルの記事は有料版なので、元記事まではチェックしてませんが、もしかすると、元記事が間違っているかもしれません。

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