小説家デビューへの新たな道?_個人出版→商業出版を検証
先日、「黎明の笛」書籍化の告知をした際、2chに立ったスレのタイトルが「小説新人賞へ投稿するのはもう古い? 元航空自衛隊幹部がAmazon個人電子出版から4人目のプロデビュー」でした。
誰が付けたのか、出版業界に足を踏み入れた人間としても興味深かったので、ちょっと検証してみることにしました。
(作業が大変でした!)
アマゾンがKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)を開始して以後、同サービスで話題になり書籍が出版されたケースとしては、「黎明の笛」で3例目になります。
KDPスタート以前に、販売サイトまで作って電子書籍の個人出版を始めた藤井大洋氏の「Gene Mapper」を含めれば、個人出版→商業出版では4例があることになります。
では果たしてこの4例というのが、小説新人賞と比べて多いのか少ないのかが検証課題です。
しかし、クオリティはともかく、一定の分量を満たしていないと応募受付もしてもらえない小説新人賞と比べ、個人出版は極端な玉石混交です。
わずか数ページしかない作品も、ちゃんと値段が付けられて売られている事もあります。
また、個人出版された本の総数を把握することも困難です。
ですので、一定の判断基準として、KDP開始直後に開設され、電子書籍の個人出版レビューを行っている「つんどく速報」さんにレビューが掲載されたものから、実用、マンガ、エッセイ等は除外して、小説だけをピックアップしてみました。
なお、短編集も入れていますが、同一著者によるものだけで、アンソロジーは含めていません。
また、LINEノベルも除外しています。
ナンバーは掲載順で、ナンバーが小さいもの程、(概ね)早い時期にリリースされた作品、タイトルが青字のものは、書籍化作品になります。
001 ★4 未来少女ミウ
002 ★4 夏は暗殺の季節
003 ★4 おかえりください
004 ★4 残念な聖戦
005 ★4 セックス公務員ケン 秋田編
006 ★4 Gene Mapper
007 ★3 絶対すくみず黙示録
008 ★3 「おまえはスーパーモデルを目指せ!」なんて、よくもそんな残酷なことが言えたわね
009 ★3 Campus Notes - Loose Leaves -
010 ★4 Pの刺激 - Punk is UNknown Kicks -
011 ★3 わたしの物語
012 ★3 まほろば
013 ★3 架空サークルのつくりかた
014 ★5 黎明の笛
015 ★3 コルキータ
016 ★4 セックス侍・忠臣蔵 ~大石内蔵助と47手~
017 ★4 幻術記──修験者、密教僧、陰陽師たち呪術者の験力・法力比べ
018 ★3 トラベラーズ
019 ★4 440Hz
020 ★3 王殺し
021 ★3 demi
022 ★4 POSTMAN!!(1):ア・ノーブル・ウーマン
023 ★4 りらりらん
024 ★4 ノウチラスの黒猫
025 ★4 関東心霊庁除霊局/自走式人形お春改
026 ★4 東京エスカレーターガール
027 ★4 天の種
028 ★4 DISTANCE
029 ★4 追憶のシャーロック・ホームズ-ワトスン博士最後の告白-
030 ★3 そのたま! その銃弾が、確かにセカイを変えたのだ
031 ★3 コンビニの戦士達
032 ★3 メカねこと空気入れ
033 ★4 百物語 弐千壱年
034 ★3 大東京共和国の一日
035 ★5 マヨネーズ
036 ★3 ツリーチルドレン
037 ★3 超神記
038 ★4 酒を飲む酒
039 ★3 農魂ライダーは爆走する! ~農大王道青春物語~
040 ★3 彼女のための幽霊
041 ★4 宇治見陽介の眼
042 ★5 来たるべき日曜日
043 ★4 憂春の光芒
044 ★4 村まつり
045 ★4 ナル NULL
046 ★3 箱入り魔王
047 ★4 殺人★こみゅにけいしょん
048 ★3 全ての輝けるもの
049 ★4 架空の歴史ノート-1 帝国史 分裂大戦編
050 ★5 ゴースト≠ノイズ(リダクション)
051 ★3 正吾と冴の物語Ⅰ
052 ★4 頸折れ人形考
053 ★4 俺は絶対悪くない
054 ★3 魔法中年っ!
055 ★3 苦き泡
056 ★4 二人家康
057 ★4 藍の炸裂
058 ★3 絶滅!? SF研の死闘
059 ★3 サクラ戦線異状アリ!?
060 ★4 お前たちの中に鬼がいる
061 ★4 我が名は魔性
062 ★3 ノワールの旋律
063 ★4 コンビニの戦士達 本篇
064 ★4 流しのミニヨン・レーサー北川【第一部】
065 ★4 暴女桜子さんはラノベの読みすぎです (佐々木家は順調に病み続けます)
066 ★4 魔王「私に勝てたらエッチなことしていいぞ」勇者「よし」
067 ★4 ナイト=ゴーント
068 ★5 ゆっくりとオレンジが潰れる
069 ★3 落語り帳 春寄席
070 ★5 関東心霊庁除霊局/自走式人形お夏MK2
071 ★4 光速文芸部
072 ★5 仮面騎士
073 ★4 Testament ‐テスタメント‐
074 ★4 そして、世界は静寂を迎える
075 ★4 笑いたい奴こっち来い!
076 ★3 デイトレ探偵 エピソード1 犬に訊け
077 ★5 鋼牙 / 試製一〇式装甲歩行機開発記
078 ★4 俺の棒銀と女王の穴熊〈1〉
079 ★4 夕餉を買いに / それから、蓮見先生は (京都詭弁案内)
080 ★4 見ざル、聞かざ流、言わざ瑠 ニュー・ワールズ・エンド
081 ★4 真夜中ラーメン同盟
082 ★4 Point Kill G
083 ★4 シャンバラの住人
084 ★4 飽食戦線ガダルカナル
085 ★5 ナイン・ストーリース? ー球児九人夏物語ー
086 ★4 幻覚少女
087 ★4 ドアノッカー
088 ★5 440Hz -1978-
089 ★4 最後の夏山
090 ★4 煉獄街
091 ★4 潜入日記 The Diary of an Undercover Detective
092 ★4 よいこの有害図書
093 ★4 空白からの手紙
094 ★4 人類を養殖している生物がいる
095 ★4 LeLeLa
096 ★4 弾道
097 ★4 除妖師
098 ★4 いとしの小さな殺人鬼
099 ★5 ある文章の告発
100 ★4 機密符牒
101 ★4 13匹目のバナナフィッシュ
102 ★4 緑眼魔女の事件簿 テロリズム・イン・チベット
103 ★4 三毛猫のものさし a rule of Mi-ke
104 ★5 白く汚れて冷たく綺麗な
105 ★4 こくいきさん
106 ★3 彼女はウワバミ
107 ★4 僕のセイシュンの三、四日
108 ★4 リーディング・ナイフ
109 ★4 美少女キケン 薬科大生の甘い毒蜜
110 ★3 むささびレディは君のために翔ぶ
111 ★3 悪兄!!
112 ★4 プロミス・リング
113 ★4 サマータイムリバース
114 ★4 歳と一
115 ★4 わたしと!あなたの?声春ラジオ!?
116 ★4 東京フラッパーガール 1
117 ★4 すけかの。
118 ★4 法律事務所×家事手伝い 1 不動正義と最初のスイーツ
119 ★4 舟崎 泉美 短編集「夜桜」
120 ★4 蒲生田岬~夕方午後五時の彼氏~
121 ★5 写楽事件帖もどった男
122 ★3 ヒトとキ (ヒトトキ)
123 ★4 僕は小説家
124 ★3 走れ、エロス!
125 ★4 愛を下さい
126 ★4 ゴールド市民カードをお持ちですか
127 ★4 疎外
128 ★4 クレイフィッシュ/ブルー
129 ★4 イタコに首ったけ!
130 ★4 デイズ・オヴ・ホミサイド
131 ★4 強請屋ドットコム
132 ★5 メインディッシュはあなたに
133 ★4 血を研ぐ
134 ★4 夜の半分
135 ★3 まちる通りの殺人
総数135作品、★5段階評価ですが、サイトのトップにもあるとおり、面白かったものしか載せてないとのことなので、★3以上のものばかりになっています。
作品点数と書籍化点数を見てみれば、33.75点に1点が書籍化されている事になりますから、非常な高確率だと言えます。
もちろん、個人出版された書籍全部が網羅されている訳ではありませんが、小説新人賞と比べれば、かなりの確率だと言えます。
小説新人賞の場合、一般小説では応募総数は200台から2000程度、平均すると700程度のようです。その中から受賞・書籍化されるのは1点か2点ですから、2点書籍化としても、1点あたりの応募総数は350にもなります。
ライトノベルに至っては、応募総数は2000から6000程度。受賞・書籍化も数点になりますが、一般小説以上に狭き門です。
なお、リストをずらっと流してみれば分かるとおり、今まで書籍化されている作品は、リストの前半に偏っています。
私もそうでしたが、書籍化の情報を出せるようになるまでは、それなりに時間がかかります。
なので、このリストには、まだ情報が出ていないだけで、書籍化の動きがある作品が他にも含まれているかも知れません。
もちろん、書籍化点数だけをもって、個人出版が良いとは言えません。
最大の違いは、○○賞受賞作という肩書きと話題性です。
個人出版の場合も、最初の事例だった「Gene Mapper」は、初事例という事で話題になりましたが、4例目ともなると、珍しい事でもなくなってしまいました。
その分、個人出版の場合、プロモーションを自分で頑張らなければなりません。
私の場合は、以前からこのブログを書いてましたから、これが使えましたし、SNSを使う方は多いようです。
また、自力以上に前述の「つんどく速報」さんや「きんどるどうでしょう」さんのように個人出版を積極的に紹介してくれるサイトもあります。
が、○○賞受賞作という肩書きには遠く及ばないのが実情でしょう。
翻って、出版社サイドの事情を考えて見ます。
出版社とすれば、新人発掘は新規仕入れ先の開拓ですから、商売をしようと思ったら欠かすことはできません。
しかし、そのために小説賞を運営するとなったら、多大なコストがかかります。
具体的な金額は分かりませんが、最終審査をお願いする評論家や著名作家さんにはそれなりの数を読んでもらう訳ですし、2次選考では出版社の編集者さんが相当の時間を費やしているはずです。1次選考などの下読みと呼ばれる選考段階では、多くの場合バイトみたいですが、相応の人手が要ります。
応募総数が4桁もあったら、事務経費だけでもバカにはできません。
それを考えれば、アマゾンのレビューやあちこちの書評サイトで一般読者の評判が確認できる訳ですから、コストをかけずに新規仕入れ先の開拓ができることになります。
作者への連絡も、大抵はSNS等でなんとかなります。
書籍化された事例の内、唯一「お前たちの中に鬼がいる」の梅原涼氏だけは、SNS等も一切やっておらず、編集の方に聞いたところによると業界内でもナゾの動きだったようですが、出版社から打診を受けたアマゾン自身が梅原氏に連絡を取り、両者を取り持ったということですから、アマゾン自体も書籍化を後押ししているのでしょう。
作家デビューを目指す者にとって、個人出版は悪くない選択だと思うのですが、大量の小説新人賞への応募と比べて、個人出版の事例は、私が予想よりもかなり少ないです。
その最大の理由は、やはり小説を書くだけに留まらない電子書籍を作る上での苦労でしょう。
ePubなどの電子書籍フォーマット知識も必要ですし、手にとってもらおうと思ったら、表紙もそれなりのモノを用意しないとなりません。
それらを、自分一人でこなすのは、正直言って困難です。
「Gene Mapper」の藤井氏のように、書く以外は、全て仕事として経験済みだったなんて人でなければ、小説を書く以上の苦労をしないと出来ません。
私の場合も、フォーマット形式に付いては、アマゾンから不備を指摘するメールをもらってます(未だに放置)し、表紙については、途中からプロの方に手伝ってもらっています。
また、校正も、自分だけでは問題を潰しきらないので、プロの方にお願いしました。
今なら、電子書籍フォーマットについては、BCCKSやパブーのようなサービスを使う方が、手軽に良いものが出来ると思います。
加えて、個人出版の場合、盛大なdisりがある事もあり、著者としては”怖い”という点も大きいと思います。
また、KDPの場合、アマゾンがアメリカ企業であり、KDPについては消費者に対するサービスというより、一つの取引先と考えているためなのか、アメリカでの課税を含め、あまり親切とは言えません。
しかし、これに関しても、今なら日本の電子書籍サービスからの配信を使えば、回避できます。(現在これを行っているのはパブーだけのもよう)
と、個人出版→商業出版については、出版社サイドで手がかからない分、確率的には高そうですが、反面苦労も多く、執筆者にとっては良し悪しで、自分のスキルに合わせて選択することが良さそうです。
そんな訳で、「小説新人賞へ投稿するのはもう古い?」とは言えないものの、新たな道だろうというのが結論です。
なお、アメリカでは、個人出版だけで作家として食べていける人も多数でている状況ですが、日本では、まだまだアメリカのようにはならないでしょう。
私自身も、紙の方が好きですし。
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