F-35の短射程ミサイル搭載等について
日本に納入されるF-35が、所要の性能を満たしていないとして、問題視されています。
「F35、実戦配備不可能に 初期納入4機、防衛省の性能要求満たさず」(産経新聞13年1月27日)
F35Aの最初の4機の性能が、防衛省の要求を満たさないことが米国防総省の年次報告書で明らかになった。
中略
F35Aが搭載予定の最新ソフトウエア「ブロック3」には、短射程空対空ミサイルなどを装備できる最終型のF型と、同ミサイルが搭載できないI型の2種類がある。日本へ引き渡す機種に搭載されるソフトウエアは、「ブロック3I」と明記。これでは至近距離での対空戦に不可欠の短射程空対空ミサイルを装備できず……後略
中距離ミサイルは運用できても、短射程ミサイルが運用できないとなると、懐に飛び込まれると弱いという弱点を抱えることになり、総合的な能力として、欠陥があるとも言える状態になってしまいます。
ネットやツイッターでも話題になっていますが、一方で問題ないとの意見もあります。
「F-35戦闘機がアラート任務に就く時期とブロック3ソフトウェアの書き換え」(週刊オブイェクト)
記事趣旨としては、納入される機体が、ブロック3Iであっても、「実戦配備」には影響が出ないと言うものです。
また、ステルス戦闘機は至近距離で戦闘を行う機会が殆ど無い(有視界戦闘はステルスの意味が無い)として、ステルス機には短距離ミサイルは不要とも取れる主張をされてます。
この記事ですが、そもそもJSF氏がツイッターで、「そもそも短距離AAM、アメリカはあまり使う気が無くて、F-22にも通常は殆ど積んでないらしいし。」と発言した事に対して、私が「アメリカが短距離AAMを使うつもりが無くても、日本で必要性がない訳じゃありません。」と返しながら、過去記事「F-22が高いかどうかはROE次第」を提示したことに対して、反論として書いて頂いたモノです。
そういう経緯のある記事ですし、内容には、誤った認識が多いと考えるので、以下に書かせて頂きます。
なお、引用がめんどいので、週刊オブイェクトさんの記事を読んでいることを前提に、はしょって書かせて頂きます。(未読の方は、先に週刊オブイェクトさんの記事をお読み下さい)
まず、実戦配備=スクランブル発進を行うアラート任務(領空侵犯警戒任務)開始ではないとの指摘について。
「実戦配備」という言葉の定義の問題になってしまいますが、空自の場合、パイロット個人に対してOR(Operetion Readiness)検定が行なわれ、初めて戦力として認められるのと同様に、部隊についてもORI(operational readiness inspection)が行なわれ、これに合格することで初めて実戦可能であると判断し、任務付与が行なわれます。これ以前は、訓練だけが任務の訓練部隊であり、実戦部隊ではありません。
つまり、空自においては、実戦配備=スクランブル発進を行うアラート任務(領空侵犯警戒任務)開始と言って差し支えありません。
次に、実戦配備遅延の可能性について。
JSF氏は、アメリカのエグリンで訓練中にブロック3Iから3Fにプログラムさえ書き換えてしまえば問題ないとしています。
しかし、今のグダグダ状況を見る限り、そもそも3Fへの変更がエグリンでの訓練中に間に合う保障もありませんし、真偽の程は不明ですが、「F型は最大高度5万フィート(約1万5千メートル)とI型の4万フィートを上回る性能を持つ。」という情報もある中、プログラムの書き換えだけで3F化が可能であるとの主張も疑問が残ります。ハードの変更も伴うのであれば、改修自体にも時間が必要です。
そして、それ以上に確実に問題なのは、エグリンで行なわれる作業が、単なるパイロットの訓練だけでは無いことです。
私も、F-15導入時の米国での作業については詳細を知りませんが、自衛隊が新装備を受け入れるに当たって、最初に行なう作業は、自衛隊としてのマニュアルや教育訓練の計画作成です。
もちろん、F-35の購入に当たってメーカー、米軍からマニュアルは渡され、恐らく既に翻訳作業は進んでいるでしょうが、自衛隊として運用するには、これだけでは足りず、前述のような作業が必要になります。これらの作業は、最初に器材に触れる人間が行なわなければなりません。
3Iが短射程ミサイルを使えないことで、この部分に関する作業は確実に遅延します。
通常は3年程度かかる新機種の導入作業が、コレによってF-2のように4年かかるかどうかは不明です。
もちろん、空自は早期導入に努力するでしょう。
しかし、そこに無理があれば、危険性が増します。F-2の場合、特定の装備をしなければ問題が発生しなかったため、運用制限で問題を回避できる可能性もありましたが、それでも4年かけました。
訓練機ですが、T-4の墜落事故についても、配備を急ぎすぎたという意見はありました。
この納入機が3Iとなることは、空自にとって、予想外の負担をかけることは間違いないのです。単純に、間に合うから問題ありません、とは言えません。
次に、最も重要な「ステルス戦闘機は至近距離で戦闘を行う機会が殆ど無い(有視界戦闘はステルスの意味が無い)」という主張について。
「短距離AAM、アメリカはあまり使う気が無くて、F-22にも通常は殆ど積んでない」そうですが、F-22にしても、F-35にしても、中国が戦力化している最新のJ-11やSu-30MKK、J-10などとの戦闘では、最強の戦術はウォール隊形で前進、相手から捕捉される前に、一方的にAMRAAMを撃って反転退避です。
これだけで交換比は、簡単に100を越えるでしょう。AMRAAMを射耗する中距離戦闘後、接近して短射程ミサイルなど使おうものなら、交換比を悪化させるだけです。
この状況では、確かに、短射程ミサイルなど不要です。
ところが、相手もステルス機を出してくると、この状況は一変します。
ステルスが相手ですと、レーダーで捜索しても、所詮相手を捕捉できません。むしろF-35が搭載するAN/APG-81は、ESM機能も搭載していると言われ、おそらくJ-20でも同様の機能を搭載してくる事を考えると、レーダーを作動させると、所在方位を暴露することになります。
いきおい、ステルス対ステルスでは、レーダーもパッシブ作動させAN/AAQ-37 EODAS等と共にパッシブでのセンシングに頼って戦闘することになります。
EODASは、相当遠距離でも目標を捕捉できる可能性があり、AMRAAMの必要性がなくなる訳ではありませんが、当然の事として、侵攻側としては雲を利用するなど対策を講じてきます。雲を出たとたんに、目の前に敵機がいたというような状況が想定され、ステルス対ステルスでは、非ステルス対非ステルスの現代と比較しても、間違いなく近距離戦闘の可能性は高くなります。
この状況で、短射程ミサイルを搭載していないことは、致命的でしょう。
そして、この事を予測しているからこそ、アメリカは、格闘戦用として高い能力を持つEODASを開発装備しようとしています。
EODASについては、JSF氏も、前掲記事の直後に非常に詳しく記事を書いているので、その存在は十分に知っているはずです。
「F-35戦闘機の電子光学分配開口システム「AN/AAQ-37 EO DAS」」
この戦闘様相の変化は、潜水艦の静粛性が高まったことから、潜水艦対潜水艦戦が、アクティブソナーからパッシブソナーでの戦闘に移行したことに似ています。
また、シースキミングミサイルの発展に伴って、艦載対空ミサイルの長射程能力が価値を減少させ、ESSMが登場したことにも似ています。
ステスル機では、短射程ミサイルは重要性を増しこそすれ、必要性が薄いなどいうことはありません。
ただし、前述のように相手がステルス機を出してこない限り必要ないので、開発の優先度が後回しになっていることは合理的です。
また、日本のように、ROE(部隊行動基準)でVID(目視識別)を要求する可能性があれば、短射程ミサイルは尚のこと重要です。冒頭に挙げた過去記事参照。
続いて、ステルス戦闘機でアラート任務に就く場合、わざわざレーダーリフレクターを装着する理由について。
アラート機が対象機に接近する際は、可能な限り後方に回り込んで接敵します。(いきなり撃たれると困るため)
自ずと、対象機のレーダーの覆域外です。
リフレクターを使用する理由は、存在をアピールするためではなく、ステルス性能を情報収集されないためです。存在をアピールするなら、機上レーダーで捕捉してやればOKですが、対領侵では極力やりません。
最後に、配備地とその理由について。
空自が、F-35を三沢基地に配備予定なのは、各種訓練・試験の際に、データ取りをされないためではないかと思います。
また、この要素だけなら、百里の方が望ましいでしょうが、三沢の方が、ロッキード・マーチンの技術者が、米軍の定期便等で、サポートに来日し易い事も影響しているでしょう。
それでも、ORIを受け、対領侵任務を付与されれば、F-35もリフレクターを装着し、普通に対領侵に投入されるでしょう。FSだったF-1さえ対領侵を行なっていたのですから。
それに、任務付与される頃には移駐することになるかもしれません。
JSF氏は、F-35が、ステルス能力を生かした視界外中距離空対空戦闘、対地爆撃、偵察任務に投入されるべく後方で温存されるとしていますが、中国がJ-20を実戦投入してくれば、非ステルス機では一方的に被害を受けるだけであるため、F-35を出さざるを得ないハズです。
週間オブイェクトさんの記事については以上です。
F-35については、開発の遅れなど不確定要素が大きく、今後も計画されている事項が次々変更されることもあるかもしれません。
当面、注目して行く必要があると思われます。
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