書評「深山の桜」
私のデビュー作『黎明の笛』が一般書籍として出版された後、私と同様の元自衛官が自衛隊を舞台に書いた2冊の本が、立て続けに出版されています。
『深山の桜』(神家正成著) 2015年3月刊行
『ウェーブ~小菅千春三尉の航海日誌~』(時武ぼたん著) 2014年6月刊行
の2冊です。
『黎明の笛』が2014年3月刊行でしたので、その3ヶ月後に時武さんの本が出て、さらに9ヶ月後に神家さんの本が出たことになります。
神家さんは元陸上自衛官、時武さんは元海上自衛官。
以前にも、それこそ浅田次郎氏をはじめ、古処誠二氏など、結構な数の元自衛官作家はおられるのですが、立て続けに3人がデビューしたというのは、やはり世間一般の自衛隊に対する関心が高まった上、対自衛隊感情が良くなったというのが大きいのでしょう。
また、出版業界の自衛隊に対するタブー視が弱まったというのもあると思います。
以前は、『亡国のイージス』のように、自衛隊の反乱や暴走を描かないと、なかなかメディアに出にくいという風潮がありましたが、明らかに変わってきたのだと思います。
2冊とも、結構前に入手していたのですが、なかなか手を付けられず、やっと『深山の桜』を読みました。
『ウェーブ・・・』の方は、まだこれからです。
『深山の桜』は、ミステリー調に展開しながら、自衛隊が置かれた現状に警鐘を鳴らしている点は、『黎明の笛』と似ていますが、より人間ドラマに重きを置いた作品になっています。
主人公である退官まぎわの亀尾准陸尉がかかえる心の闇を、ラストシーンまで明らかにせず、でありながら、それが彼の行動に意義を与えているところを描いていた点などは、私にはマネのできない芸当でした。
そして、彼の部下として行動する、杉村陸士長の葛藤や焦燥が、ドラマの核になっています。
さすがに、通称”このミス”と呼ばれる『このミステリーがすごい!』第13回の大賞優秀賞に輝いただけあります。
ミステリーとしては、銃器や自衛隊に詳しいと読み進めながら推理することも楽しいですが、そうしたことを知らない人には、推理は難しいかもしれません。
(小銃弾のトリックは、分かりました!)
キャラでは、オネエの植木1尉が目立ってます。
が、さすがに実際にオネエの自衛官は聞いた事がありません。
自衛隊を描いた小説で、リアリティを意識すると、どうしてもそうなってしまうのですが、この小説も、登場人物は多いです。
小説としては、あまり好ましくないのですが、致し方ないところです。それもあって、植木1尉のような目立つキャラを作っているのでしょう。
私の感覚も、普通の方とは異なると思うので、普通の方がどう思うのか分かりませんが、自衛隊内部での、組織人としての苦悩は、やはり現場を知っている人ならではです。
そうした苦労を書いているのは、元、現職ともに、自衛官として嬉しく感じる点です。
また、詳しく書くとネタばれになってしまうので、簡単に触れるに留めますが、この作品は、自衛隊内部での差別もテーマにしています。
こうしたテーマを取り上げたのは、著者である神家氏のプライベートも関係しているのだろうなと思いました。
なお、自衛隊は、一般社会と比べると、いわゆる差別が少ない組織だと思います。
恐らく、長い間、人材確保に苦しんでいることもあって、一般社会よりも、差別を受けている方の比率が高いからでしょう。
と、とりとめなく書きましたが、特に、進路として自衛隊を選択しようか迷っている高校生に読んで欲しい本です。
もちろん、はるか昔に高校生だった人にも、オススメです。
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