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書評・DVD評

2016年5月28日 (土)

書評「深山の桜」

私のデビュー作『黎明の笛』が一般書籍として出版された後、私と同様の元自衛官が自衛隊を舞台に書いた2冊の本が、立て続けに出版されています。

『深山の桜』(神家正成著) 2015年3月刊行

『ウェーブ~小菅千春三尉の航海日誌~』(時武ぼたん著) 2014年6月刊行

の2冊です。

『黎明の笛』が2014年3月刊行でしたので、その3ヶ月後に時武さんの本が出て、さらに9ヶ月後に神家さんの本が出たことになります。
神家さんは元陸上自衛官、時武さんは元海上自衛官。

以前にも、それこそ浅田次郎氏をはじめ、古処誠二氏など、結構な数の元自衛官作家はおられるのですが、立て続けに3人がデビューしたというのは、やはり世間一般の自衛隊に対する関心が高まった上、対自衛隊感情が良くなったというのが大きいのでしょう。

また、出版業界の自衛隊に対するタブー視が弱まったというのもあると思います。
以前は、『亡国のイージス』のように、自衛隊の反乱や暴走を描かないと、なかなかメディアに出にくいという風潮がありましたが、明らかに変わってきたのだと思います。

2冊とも、結構前に入手していたのですが、なかなか手を付けられず、やっと『深山の桜』を読みました。
『ウェーブ・・・』の方は、まだこれからです。

『深山の桜』は、ミステリー調に展開しながら、自衛隊が置かれた現状に警鐘を鳴らしている点は、『黎明の笛』と似ていますが、より人間ドラマに重きを置いた作品になっています。

主人公である退官まぎわの亀尾准陸尉がかかえる心の闇を、ラストシーンまで明らかにせず、でありながら、それが彼の行動に意義を与えているところを描いていた点などは、私にはマネのできない芸当でした。
そして、彼の部下として行動する、杉村陸士長の葛藤や焦燥が、ドラマの核になっています。

さすがに、通称”このミス”と呼ばれる『このミステリーがすごい!』第13回の大賞優秀賞に輝いただけあります。

ミステリーとしては、銃器や自衛隊に詳しいと読み進めながら推理することも楽しいですが、そうしたことを知らない人には、推理は難しいかもしれません。
(小銃弾のトリックは、分かりました!)

キャラでは、オネエの植木1尉が目立ってます。
が、さすがに実際にオネエの自衛官は聞いた事がありません。

自衛隊を描いた小説で、リアリティを意識すると、どうしてもそうなってしまうのですが、この小説も、登場人物は多いです。
小説としては、あまり好ましくないのですが、致し方ないところです。それもあって、植木1尉のような目立つキャラを作っているのでしょう。

私の感覚も、普通の方とは異なると思うので、普通の方がどう思うのか分かりませんが、自衛隊内部での、組織人としての苦悩は、やはり現場を知っている人ならではです。
そうした苦労を書いているのは、元、現職ともに、自衛官として嬉しく感じる点です。

また、詳しく書くとネタばれになってしまうので、簡単に触れるに留めますが、この作品は、自衛隊内部での差別もテーマにしています。
こうしたテーマを取り上げたのは、著者である神家氏のプライベートも関係しているのだろうなと思いました。

なお、自衛隊は、一般社会と比べると、いわゆる差別が少ない組織だと思います。
恐らく、長い間、人材確保に苦しんでいることもあって、一般社会よりも、差別を受けている方の比率が高いからでしょう。

と、とりとめなく書きましたが、特に、進路として自衛隊を選択しようか迷っている高校生に読んで欲しい本です。
もちろん、はるか昔に高校生だった人にも、オススメです。

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2015年8月23日 (日)

映画評「天空の蜂」

このブログを転載して頂いているBLOGOSの招待で、映画「天空の蜂」試写会に行ってきました。
という訳で、ネタばれしない範囲で、見てきた感想などを書かせて頂きます。

Photo

上映時間2時間18分
大作と言える長さですが、スリリングな展開で、小気味良く進むため長さは感じません。
社会的なテーマを扱いながら、CGを効果的に使ったアクションシーンも楽しめるエンターテイメント作品になっています。

江口洋介演じるヘリの技術者、木本雅弘演じる原発の技術者を中心として展開される人間ドラマは、さすが東野圭吾作品だけあって、深みのあるものになっています。

Photo_2

俳優さんの演技では、木本雅弘の迫力が印象に残ります。キャラクター自体が、強烈なキャラなのですが、彼が演じることで一層強烈な登場人物になっている感じです。
2枚目俳優だったはずの綾野剛も、彼の”怪演”が光ります。
江口洋介は、父役がはまっています。この映画、社会的な内容でありながら、個人の感情である父子関係が、ドラマに織り込まれた強固な縦糸になっています。江口洋介が、子役の田口翔大とともに、中心を強固な糸を通していたため、見終わった後も、良い鑑賞後感?が残ります。

主役級以外の俳優さんでは、新米刑事を演じる落合モトキがイイ感じです。(イイ役だってこともありますが)
同じく刑事役の手塚とおるも、強烈に嫌なヤツを見事に演じています。

Photo_3

モノ書き目線で見ると、原作を読んでいないので、原作なのかシナリオなのか分かりませんが、2層に積み上げられたモールス信号の複線や、ちょっとしたシーン、台詞まわしが見事です。

ただ、ヘリの飛行や原子炉について、理論的な話を理解できないと、作中の人物の行動が理解しきれない部分がありそうです。私は苦になりませんでしたが、科学的な背景をある程度知っていた方が楽しめると思います。

パンフレットを見ると「20年に渡って”映像化は絶対不可能”と言われ続けた」とありますが、確かにそうだろうと思います。
この手の作品は、大型の舞台装置が必要になりますが、この内容では、自衛隊、防衛産業であるヘリメーカー、作中の原子炉「新陽」の名称モデルと思われる「常陽」「もんじゅ」を運用する日本原子力研究開発機構や「新陽」を運用している炉燃のモデルと思われる日本原燃など……どう考えても、どこも協力しそうにありませんし、実際協力していないようです。

自衛隊は、近年映像作品についてはかなり協力姿勢を見せていますが、原発のこともあってか、協力しなかったようです。
ヘリメーカーも、川重、富士重とも協力しなかったのか、エンドロールを見ると協力したのはエアバスでした。エアバスは、自衛隊にもTH-135等を納入していますが、防衛省の顔色伺いよりも、日本での知名度向上の方が効果があると思ったのかも知れません。

結果、CGが多用されており、CGによって映像化可能になった作品と言えそうです。
また、映画、ドラマ等で自衛隊が出ることが多くなり、衣装などの小道具が揃えられるようになったという点もありそうです。

正直言って、日本映画は、この手の映画が苦手という印象がありましたが、「天空の蜂」は、この印象を打ち破ってくれました。
いい映画です。見て損はありません。

今後も、この手の日本映画が増えてくれるといいなと思います。

天空の蜂公式サイト

9月12日公開です。

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2014年10月19日 (日)

書評「自衛隊のごはん 海上自衛隊 呉・佐世保編」

廣川ヒロト氏による、自衛隊のごはんシリーズ第3弾、海上自衛隊編が出ました。


海自の呉・佐世保両基地及び艦艇として護衛艦「こんごう」、潜水艦「いそしお」での喫食を中心としたレポートです。

おためし版である、プロローグバージョンは、現在無料キャンペーン中ですので、興味はあるものの、どうだろうと躊躇っている方は、とりあえずこちらのプロローグバージョンをダウンロードしてみて下さい。


以前の陸自・目達原駐屯地編、空自・芦屋基地編と比較すると、今回は艦艇での食事が加わっているだけでなく、読み物としてパワーアップしている感じがします。
食事は3自衛隊の中で一番だと言われる海自が、積極的に取材に応じてくれたのも大きいと思います。
水上艦、潜水艦の勤務と食事の関係なんかが分かって、面白いです。

また、陸海空3自衛隊の3編を読み比べると、3自衛隊のそれぞれの特質が感じられます。
食事という人間の生存に関わる部分だからでしょう。

また、この本は、これから自衛隊に入ろうと思っている人や、その親御さんにも参考になると思います。
食事は重要ですからね。

自衛隊の戦闘能力ではなく、まさに縁の下の力持ち的部分が見られる電子書籍です。


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2014年8月28日 (木)

書評「お国のために 特攻隊の英霊に深謝す」

元パイロットで南西航空混成団司令などを歴任した佐藤守氏による特攻隊本です。



特攻には、回天などによる水中特攻や大和の水上特攻もありますが、この本は、一般に特攻と言った時にイメージされる航空機による航空特攻について書いています。

特攻の歴史的経緯や特攻隊員の心情について、生き残りの方の証言や自身のパイロットとしての経験から紐解く本です。

個人的には、特攻を「統率の外道」と呼びながら、「特攻の生みの親」とも言われ、組織的特攻を初めて命じた人物とされる大西大西瀧治郎中将の心の内を洞察している点を興味深く読みました。
終戦後に自決した大西中将は、玉音放送後に特攻を行った宇垣纏中将とともに、どのような心情で、組織的特攻作戦を指揮したのか、人間的な興味を抱かせられる人物です。

また、第1章では、有馬正文少将を始めとした多数の自発特攻が、その後の組織的特攻開始に与えた影響を記述しており、組織的特攻という、外道とも言われた作戦を、軍隊という組織が、如何にして決心するに至ったかを分かりやすく書いています。

特攻を如何に評価するか、特に、自分自身があの戦争に身を置いていたら、どう行動しただろうかを考えた時、非常に複雑な思いがありますが、戦後、アメリカが日本を自陣営に組み込もうと考えた理由には、間違いなく特攻を始めとした日本将兵の奮戦があったと思っています。

その観点からすると、佐藤氏は、空自高官として、米軍トップクラスとも接触があった訳ですから、第7章で言及されている米軍将兵の意見が、その後のアメリカ政治の意志決定にどのような影響を与えたのか分析して欲しかったとは思います。

とまれ、『永遠のゼロ』で特攻を知ったという人には、是非読んで頂きたい本です。

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2014年4月 6日 (日)

書評「自衛隊のごはん 航空自衛隊 芦屋基地編」

私と同じように、アマゾンの個人出版サービスを利用して本を書いている廣川ヒロト氏による自衛隊の”食”ルポルタージュ本。
陸自目達原駐屯地編に続き、その第2弾として、空自芦屋基地編が発刊されたので、ご紹介します。

今なら、発売記念価格!


と言うのも、芦屋基地編を読んで頂ければ分かりますが、前作目達原駐屯地編を拝見させて頂いた後に、「この調子で空自や海自にも取材を申し込んだらどうだろう」と言って、廣川氏を焚きつけたのは、何を隠そうこの私だからです。

自衛隊の3幕、陸・海・空は、旧軍の陸軍・海軍ほど険悪ではありませんが、やはり違いはあります。
自衛隊の中では、俗に「文化が違う」と表現されますが、それぞれの作戦態様などに応じて、あらゆる事に違いが出てくるのです。
その中でも、人間生活に密接に関連する衣食住のうちの一つ、”食”も、結構な違いがあります。
なので、陸自編を書いたのなら、空自編や海自編は、読み比べてもらうことで、更なる面白みを感じてもらえる本になるだろうと思ったのです。

本書は、廣川氏が芦屋基地に朝から晩まで、3日間足繁く通って食べた自衛隊の食事(事情)の紹介が、中心です。
(こう書くと、ただただ食べていただけのようですが、そんな事はありません)

どんなメニューなのか?、食べる場所は?、予算は?、ボリュームは?、そして何より味は?
これらを豊富な写真とともに紹介しています。

また、芦屋基地は、食事を作る給養特技員の教育を行っている基地でもあるため、その給養特技員の教育を取材するとともに、作る側の視点に立ったレポートもなされています。

そして、食堂で出される正規の食事だけでなく、基地内にある有料食堂やコンビニ、そしてお酒の飲める隊員クラブの紹介もされています。
オマケで、食とは関係がありませんが、給養員と共に芦屋基地で教育が行われている警備や警備犬の話題、救難員の話題にも触れています。

給養員や栄養士の方々など、作る側の人へのインタビューもした上で、多角的に自衛隊の”食”を紹介本となっています。

最後まで読ませて頂いて思ったのですが、この本(目達原駐屯地編を含む)は、隊員の募集にも役立つのではないでしょうか。
特に、高卒で家からお子さんを送り出す親御さんにとって、子供がちゃんと生活しているのか心配になるところですが、これを読めば、食については栄養バランスのしっかりしたモノが、飽きの来ない献立で食べられることが分かります。

地本の方は、この本をタブレットに入れてもらったら良いのではないでしょうか。

最後に、オマケとして、芦屋基地オリジナルレシピが付けられており、各家庭で再現できるようになっています。
隊員にも好評を得ていた芦屋丼は食べてみたいと思いました。
作り方も簡単そうですし。
(もしかすると、1回だけ実際に食べたことがあったかもしれないのですが、慌てて掻き込んだため味は覚えてない……)

前作の目達原駐屯地編はこちら。

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2014年2月22日 (土)

書評「女子と愛国」

あちこちで日本の世情が”右傾化”していると言われています。

この動きは、以前から感じていましたが、その中でも、最近の傾向として、そう言った流れに女性が参加していることに驚きを感じるとともに、ナゼなのだろうと考えていました。
そんな中、ある方からこの本を紹介されたため、手に取ってみたという訳です。


内容は、何人かの”愛国活動”をされている愛国女子に焦点をあて、ルポルタージュ方式で追いかけて行くものでした。
この手の話題には、比較的アンテナを張っているつもりでしたが、この本で取り上げられている女性たちには、こんな人が居たのかと驚かされます。

その多くは、メディアやネットで積極的に情報発信している方ではなく、草の根で活動されている方なのですが、逆に、だからこそ、彼女たちの真剣さが感じられます。
ネットでは、誰とも顔を合わさずに済みますから、冷たい視線で見つめられることも、ましてや罵倒されることもありませんが、この本で取り上げられている女性たちは、デモに参加したり、靖国参拝を呼び掛けたりと、場合によっては危険さえある活動をされています。

こうしたアプローチは、非常に印象深く、ルポ形式なこともあって読みやすい本です。

ただし、私が期待した”ナゼ右傾化傾向が女性にも及んでいるのか”という、社会学的な追求はあまり深くありません。
それでも、今回の都知事選の出口調査でも、男性よりも明らかに少ないながらも、かなりの女性が田母神氏に投票していた事を考えると、このテーマは非常に興味深いです。

”愛国女性”には怒られてしまうかもしれませんが、私は、基本的に、男女の思考における性差を考えると、女性は基本的に愛国的にはなり難いと考えています。
それでありながら、右傾化傾向が女性にも及んでいる理由には、興味があるのです。

このテーマに対するこの本の回答は、ネットの影響、別の言い方をすれば、マスコミが封殺してきた情報の影響が大きいというものでした。
もちろん、その影響はあると思いますが、私はそれだけではなく、むしろ社会における女性のポジションが影響しているのではないかと思っています。

が、その話は、書評から外れて行くので、このくらいに。
また気が向いた時に書くかも知れません。

この本を読んで、改めて思うことは、”愛国女性”のインパクトです。
以前から、自衛隊協力会の中にも婦人部があり、そう言う意味では”愛国女性”は決して今までも居なかった訳では無いのですが、この本に取り上げられている女性たちのように、デモに参加する等、表に出て行く女性は少ないという実情がありました。
また、絶対数が少ないと言うこともありますが、私と同様に、多くの人は、女性は愛国的にはなり難いと考えています。

そのため、この本で取り上げられているような女性の活動は、非常に目だちますし、一人の”愛国女性”による心象に対する影響は、100人の愛国男性によるそれを上回るでしょう。
たった一人でも、デモ隊がいるようなものです。

この本のおかげで、また更に”愛国女性”が増えて欲しいものだと思います。

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2014年2月 8日 (土)

書評「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」

先日も、「黎明の笛」同じ、個人出版からの書籍化事例としてご紹介した「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」を読みましたので、書評を書かせて頂きます。


レビューを見ると、ミステリ風の青春小説とする評が多いですが、私はミステリ要素のある純文学だと思いました。
純文学だなんて書くと、堅苦しくて面白く無さそうだと思ってしまうかもしれませんが、決してそんな事はなく、最近は珍しくなくなっているライト調ミステリ風純文学という感じです。
でも、もしかするとファンタジーとも言えるかもしれない。何とも評しにくい作品であることは確かです。

純文学と言ってもピンとこない人のために、他の方法でイメージを伝えるとしたら、読んでいる最中に感じた印象が、宮部みゆき氏の作品を読んでいる時のそれに近いと言うところでしょうか。
宮部みゆき氏は、純文学ではなく、歴としたミステリ作家ですが、複雑な謎解きやどんでん返しが評判という訳ではなく、深い人物描写が特徴で、純文学を書いたら良さそうと思える方です。
しかし、かと言って、作風が似ているワケではないので、こちらも何とも言いがたいのですが、読後感が似ていると言えばいいかもしれません。
ちょっとだけ温かい、救いようのない世の中でも消えない小さな救いを示したような、独特の読後感が似ている感じです。

比喩の使い方なんかも、何となく似ている印象が何カ所かありました。単に事物の形象を伝える比喩だけではなく、全く違う事象を表現しながら、感情の動きを的確に表現する比喩が使われています。

ミステリとして見てみると、ミステリの中でよく使われるトリックの変形が使われていることが、最後まで読むと分かります。
私は、そのトリックは好きではないのですが、この作品ではいい感じでした。

ネタばれになってしまうので詳しく書けませんが、最近の話題とリンクする部分があるので、この作品もつられて話題になるかもしれません。
プロモーションを考える方としては、扱い方が難しいでしょうけど。

この本を書評で取り上げた理由も、実はこの点にあったりします。
ミリタリーとは縁遠い話題ですが、個人的に興味もあり、小説のネタにしようと思った事もあるくらいです。

いよいよ、書籍版も販売開始されました。
手に取ってみては如何でしょうか。

 

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2014年1月22日 (水)

TV番組評「空飛ぶ広報室」

久々、どころか、過去記事を確認すると、なんと1年ぶりの書評・DVD評です。

お正月に、昨年TBSで放映された「空飛ぶ広報室」を見ました。


それと言うのも、アマゾンでインスタント・ビデオのサービスが始まり、わざわざ買ったり借りたりする手間なく、それどころか、ぬくぬくと布団から出ることさえなく、視聴できるようになったためでした。(何と言う自堕落)
という訳で、冒頭のリンクはインスタント・ビデオのリンクです。DVD、ブルーレイで見たいという方は、次のリンクでどうぞ。


で、問題の中身ですが、ドラマ放映時の評判通り、かなり良い出来です。
普通の視聴者の評価は、上のリンク先で、DVDのカスタマーレビュー(50件、平均4.9という非常な高評価)でも見て頂ければ分かると思いますので、ここでは元自衛官、創作者の端くれ目線で書いてみたいと思います。

自衛隊が、全面的に撮影協力したというだけあって、これだけ自衛隊施設内部、それも他の映像素材ではあまり注目されなかった部分まで、バッチリ写っている映像は、まずないでしょう。
飛行機関係なんかは当然ですが、1話でヘルメットを探すシーンなんかは、実際の災害派遣資材倉庫で撮ったのではないかと思われます。
空幕広報室自体は、多分撮影用のセットだと思いますが、廊下の作りなんかも実際の防衛省庁舎A棟内部に似せて作ってありますし、A棟及び市ヶ谷内で撮ったと思われるシーンも多数あります。

自衛官の肉声に迫っているという点では、原作の段階からして他とは一線を画していると思います(後述)し、空幕広報室が、自分達を描いたドラマとして、綿密にチェックしたでしょうから、違和感のある部分はほとんどありません。

ただし、1話の冒頭には物議を醸したシーンがありました。
新垣結衣が演じる主人公の稲葉リカの「戦闘機って人殺しのための機械」という発言に対して、綾野剛が演じる空井大祐二尉が「人を殺したいと思ったことなんて1度もありません!」と言って切れてしまったシーンです。
ドラマ放映後のネットでもちょっと話題になってました。

自衛隊を暴力装置と呼ぶ国会議員がいますし、こういう考えの人は、実際に居ます。マスコミには一般以上に多いでしょう。
右派が強いネット上では、このセリフでこのドラマ自体に反感を持った人も居たようです。

ですが、私が「ちょっとなぁ」と思ったのは、むしろ空井の発言の方です。
人を殺したくて自衛隊に入ってくるサイコパスは、ゼロとは言えませんが、ほぼ皆無です。
なぜなら、実際に人を殺した事などない訳ですし、これからもそうめったにはないでしょう。(なので、そんな人は自衛隊を辞めてフランスあたりの外人部隊に行ったりします。外人部隊に行く人全員がサイコパスではありませんが)
なので、ありえない話ではないのですが……

問題なのは、このセリフからは、空井が人を殺す覚悟も持っているようにも見えない点です。
自衛隊が、国防の任務を全うするためには、人を殺さなければならない状況が出る可能性が極めて高いにもかかわらず……
ただし、それもリアリティがないかと言えばそんな事はなく……実際、飛行機に乗りたいという動機だけで自衛隊に入ってくる人間も居るのが事実です。

しかし、自衛隊が平和のために存在してるのは事実ですが、人を殺す可能性がある事も事実で在りながら、それを忌避しているこのセリフには「ちょっとなぁ」と思えてしまう訳です。
ソフト路線で売りたい広報室としては、合っているのかもしれませんが、生身で戦闘せざるを得ない陸自普通科などの人からすれば、迷惑なセリフかもしれません。

ちょっと脱線気味になりましたが、このドラマが自衛官の肉声に迫っている理由は、原作の成立経緯にあるようです。
原作は、作者である有川浩氏が、思い立って書いたのではなく、なんと当時の空幕広報室長だった荒木正嗣1佐(当時、現浜松基地司令、空将補)が、自衛隊をモデルに小説を書かないかと持ちかけた事が発端だったそうです。
当然、空幕広報室を通じて綿密な取材を行ったようです。
そして、結果的に有川氏が作品の舞台として選んだ部隊は、実働部隊ではなく、有川氏が最も深く接触した空幕広報室だったというオチが付いた訳です。

有川氏としては、取材の調整をする中で、広報室の頑張りに感銘を受けた点があったみたいです。
それだけに、原作の段階で、リアルな自衛官の肉声に迫っていると言えます。
柚木3佐のエピソードなんかも、実際にあった話なんかがベースなのかもしれません。(女性自衛官に限らず、新米幹部がベテラン空曹とうまくやれないケースは、めずらしくもないので)

ドラマを実際に見た方は、”鷺坂室長のようなハジケた自衛官が居るのか?”と思うかもしれません。
ドラマは最近のドラマにありがちなちょっとコミカルな演出がされていますが、あの位のハジケて無茶をする自衛官は、(特に空自では)それほど珍しくありません。
私の感覚とすれば、”居るよ、こういう人”という感じです。

登場人物で、良い味出してるなと思ったのは、柴田恭兵演じるその鷺坂室長と、空井のサポートというか指導をするベテラン広報官比嘉1曹(ムロツヨシ)です。
この二人が挙げられると、作者である有川氏とすれば、あまり嬉しくないかもしれません。
と言うのも、この二人には、実際に空幕広報室にいたモデルが居たそうだからです。
鷺坂室長は、前述の荒木将補で、比嘉1曹は、空自広報の生き字引と言われるベテラン広報マンとのことです。
超売れっ子作家有坂氏と言えど、キャラを作るのは難しいということでしょうね。
(私などはもっと精進せねば)

物語全体は、ネタばれになるのであまり書きませんが、さすが有川氏の直木賞候補になった原作だけありますし、脚本も素晴らしいので、自衛隊に全く興味のない人でも、楽しめる内容です。

テレビで見逃した人は、必見です。

で、ここからはオマケです。
アマゾンのインスタント・ビデオですが、便利ですね。

huluとかもありますが、定額制のためか、空飛ぶ広報室のように新しい作品はないようです。
レンタルのDVDと比べると期間の割に、若干高いですが、わざわざ借りに行ったり返しに行ったりしなくても良い利便性の高さは魅力的です。
テレビアニメなんかは1話無料になってますから、動画を見る機会のある人は、検討してみたら良さそうです。

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2013年1月 6日 (日)

書評「Gene Mapper」

正月に、話題の電子書籍「Gene Mapper」を読みました。


Gene Mapper | Official Web Site


読む前から、電子書籍だからという理由で、このブログでも取り上げるつもりだったのですが、実は、読んでみると少しミリタリーテイストが入っています。
ドンパチがある訳ではないのですが、こう言う世界(遺伝子改造が一般化した未来)ならありえそうな紛争の姿が背景にあります。

ネタばれにならないよう、具体的な内容については、このくらいに留めておこうとおもいます。

その評価は、ここまで話題になっていることや、あちこちにあるレビューの評価を見て頂ければ分かると思いますが、非常に高いモノです。
私の感想としても、久々に展開がワクワクさせられるSFを読んだと感じました。
キタムラ氏がカッコイイです。

また、作品に込められたメッセージが、日本の商業出版で流されるステロタイプなモノではなく、現実を見ながら(現在の)現実を肯定したもので、好感を受けました。
しかも、このメッセージは、作者である藤井氏が、原発事故に対する世間一般の根拠無視のヒステリックな批判を危惧してのモノのようです。
Gene Mapper発売のお知らせ

また、電子書籍を出版社を通さずに刊行している者として見させて頂くと、その”書籍”としてのクオリティの高さには目を見張らせられます。
表紙のグラフィックや、縦書きでのルビや章冒頭のロゴなど、「これプロに発注したのでは?」と思うレベルです。

ただし、これは著者である藤井氏の経歴を見れば単純な話でした。
何のことはなく、藤井氏自身がDTPやグラフィックのプロだったからです。
このあたり、私を始め電子書籍を出している者にとっては、考えさせられる部分でした。

全体的に見て、SFファンなら手にとって損はない作品です。
藤井氏は、この作品をiPhoneで書いたそうなので、スマホでも読みやすく仕上がってます。
通勤時間の有効化にいいと思います。

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2012年7月20日 (金)

書評「塩の街」「空の中」「海の底」

有川浩(ありかわひろ 女性)の自衛隊三部作と呼ばれる作品群です。
ただし、三部作とは言われているものの、3作品とも、全く関連はありません。(なので、どれから呼んでもオッケーです)

「塩の街」(陸自に焦点。ただし主人公は空自P)

「空の中」(空自)

「海の底」(海自)

となっているが故、自衛隊三部作と呼ばれているようです。
(陸・海・空の順でないのは、刊行順だからです)

3作とも、ジャンルで言えばSFで、SF的設定の中で、自衛官が活躍する小説となっています。
自衛隊ではなく、米軍だったなら、ハリウッド映画にありそうなストーリーとも言えます。

著者の有川浩は、wikiでもライトノベル作家とされていますが、筆致は軽めなものの、ストーリーや登場人物は、ちっともライトノベル的ではありません。
ただし、3作品とも人がバタバタと死んで行きますが、それでありながら、作品に重苦しさを感じさせないところには、ライトにしようという作者の意図は感じます。

そして、3作品に共通して見事なのは、深刻なストーリー展開にも係わらず、全く違和感を感じさせずに、しっかりとラブストーリーになっている所です。
これも、ある意味ハリウッド的で、映画「トップガン」にも通じるところがあるように思います。
有川氏は、ラブストーリーの名手と言われていますが、これらの作品の中でも、それは遺憾なく発揮されている感じです。

自衛隊の行動や装備に関しては、間違いも少なからずありますが、自衛隊が描かれる小説としては、良く調べて書いてある部類だと思います。
ですので、ミリタリーファンでも、あら探しが趣味でなければ、十分に楽しめると思います。

ハリウッドを引き合いに出してますが、それだけ優れたエンターテイメントだということです。
「ミリタリーにラブストーリーをかぶせるんじゃねえ!」という硬派な方でなければ、読んで損はないでしょう。

なお、外伝的続編として「クジラの彼」、「ラブコメ今昔」も刊行されています。


以下、各作品について、少し細かく書きます。
ネタバレ有りなので、未読の方はご注意下さい。

「塩の街」
著者のデビュー作であり、電撃ゲーム小説大賞(現在の電撃小説大賞)で大賞をとった作品です。
電撃小説大賞と言えば、押しも押されぬライトノベルの小説賞な訳ですが、先にも書いたとおり、ちっともライトノベルではありません。
そのため、一旦は電撃文庫で刊行されながら、その後に大幅加筆され単行本化された上、現在は角川文庫に収蔵されるという、変った出版過程を経た作品になってます。
(ただし、今でも、単行本版どころか電撃文庫版も新品で手に入ります。恐るべし……)

内容としては、疫病?による崩壊後の世界を描いた作品で、自衛隊の活躍も、戦闘というより治安維持や災害派遣的です。
3作品の中では、最もラブストーリー色の強い作品です。

「空の中」
最初から、単行本としての刊行された作品で、いわゆる(知的生命体との)ファーストコンタクト物のSFです。
SFとしては、定番のネタですが、良く練られており、ベタなSFファンの観察眼にも耐える作品だと思います。
3作品の中では、最もSF色の強い作品です。

「海の底」
これも単行本です。
SFはSFですが、怪獣物と呼んだ方がしっくり来る作品で、停泊中の潜水艦内に閉じ込められて、というより閉じ籠もった自衛官と子供達の交流?を描いた作品と言えます。
設定は、なんとなく、「ガメラ2 レギオン襲来」を彷彿させるところがあります。
3作品の中では、最もミリタリー色の強い作品です。

個人的には、「海の底」がお勧めですが、SFファンなら「空の中」がいいかもしれません。

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