元空将発表は確信犯_現場の危機感と乖離する政府の認識
東シナ海上空において、中国軍機が空自スクランブル機に攻撃動作を行った事が、元空将の発表で明らかになっています。
「東シナ海で一触即発の危機、ついに中国が軍事行動 中国機のミサイル攻撃を避けようと、自衛隊機が自己防御装置作動」(JBpress160628)
この情報は、一部では注目され、政府関係者への確認を行った検証報道もされています。
「一線超えた中国軍機 尖閣、東シナ海上空の緊張高まる ネットで発表の元空将、改めて警鐘 政府関係者は「前例のない接近だった」と吐露」(産経新聞160630)
詳しい状況は、これらの記事を直接見て頂くのが良いと思います。
それ以上に、私が注目したのは、織田(おりた)元空将が、この記事を公表しようと思い至った理由です。
元空将とは言え、織田元空将はOBであり、今月に入って発生したこうした事態について、本来、防衛省・自衛隊が発表した以上の事を知ることはできません。
ですが、産経が政府関係者に確認したところ、事実のようです。
つまり、現役の防衛相関係者、恐らく空自の将官レベルの方が、織田元空将に話したのでしょう。
これを公表したことにより、織田元空将、及び彼に話した現役自衛官は、自衛隊法及び秘密保護法によって訴追されてもおかしくありません。
当然、織田元空将は、その事を承知した上で書いたのでしょう。つまり、確信犯です。
ではなぜ、訴追される可能性があることを承知で書いたのか?
今回の事例は極めて深刻な状況である。当然、政府にも報告されている。
だが、地上ではその深刻さが理解しづらいせいか、特段の外交的対応もなされていないようだ。だからニュースにもなっていない。問題は、こういった危険な挑発行動が単発的、偶発的に起こったわけでなく、現在も続いていることだ。
これら上空での状況は、海上での中国海軍艦艇の動きとは比較にならないくらい大変危険な状況である。政府は深刻に受け止め、政治、外交、軍事を含めあらゆる観点からの中国サイドに行動の自制を求めるべきである。
しかしながら、参議院選挙も影響してか、その動きは極めて鈍い。
ここで指摘されているような事象は、ソ連邦が健在で、航空自衛隊が北海道周辺空域で神経を研ぎ澄ませていた頃にも発生していません。
1987に沖縄上空の領空侵犯機に対して、警告射撃を行った事件がありますが、射撃の事実という政治的はインパクトを別として、現場の危機感という点では、今回の事象は、この警告射撃をはるかに上回ります。
筆者は戦闘機操縦者だったので、その深刻さはよく分かる。まさに間一髪だったと言えよう。冷戦期にもなかった対象国戦闘機による攻撃行動であり、空自創設以来初めての、実戦によるドッグファイトであった。
織田元空将は、こう書いていますが、操縦者でなかった私でも、司令部勤務のおかげで、どのような状態だったか、想像はできます。
パイロットは当然として、管制を行う那覇DC、そして恐らく開設していただろう南西航空混成団のSOC、そして横田にあるAOCC、COCとも、恐らくパニックに近い状況だったでしょう。
スクランブル機が、撃墜されるかもしれない状況だったのですから、当然です。
そして、航空自衛隊が、今後同様の事態を恐れ、スクランブル機を中国軍機に接近させないという行動を取った場合、尖閣の実効支配は中国のものになります。
問題は、この現場の危機感を政府が共有していないことです。
織田元空将による発表は、この政府が危機感を共有していないことを明らかにすることが目的だったのでしょう。
自衛隊法、秘密保護法によって逮捕でもされようものなら、政府の無作為は、より注目を集める事になります。
そこまで考えた上での発表だったのかもしれません。
今回の事件は、民主党政権が対応をしぶり、適切な対応をしなかった尖閣諸島中国漁船衝突事件に似ています。
そして、織田元空将の発表は、ビデオを公表した映像流出事件に似ているのです。
この時も、現場の危機感を、政府が共有していませんでした。
織田元空将も、そして私も、このような事態は、冷戦期にもなかったと書きました。
もし、似たような状況を探すと、太平洋戦争終結後、北方領土では物足らず、北海道侵攻のチャンスを伺っていたソ連が、北海道領空にソ連機を侵入させていた頃にまで遡ります。
当時、自衛隊は存在せず、日本には打つ手がなかったため、在日アメリカ軍に対領空侵犯措置を依頼し、米軍機がソ連機を”銃撃”(撃墜は未確認)しています。
中国軍が、攻撃動作まで取ってきている状況です。
自衛隊の対応も、レベルを上げないと、尖閣の実効支配は、自動的に中国のものになります。
織田元空将が書いているとおり、空の戦闘は、理解し難い物です。
特に、ミサイルが主力となっている現代の戦闘は、尚更です。
ですが、中谷防衛大臣をはじめ、政府関係者には、理解してもらう必要があります。
なお、織田元空将は、確信犯などではなく、猪突猛進、イケイケドンドンの人なのではないか、だからよく考えもせずに発表したのではないかと考える人もいるでしょう。
ですが、私は、そんなことはないと考えています。
織田元空将は、豪放磊落な方が多い戦闘機パイロットにおいて、少数派のインテリです。
私が以前に書いた小説『黎明の笛』に登場させたインテリ高級自衛官のモデルでした。
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