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火器管制レーダー照射事件

2013年2月13日 (水)

レーダー照射に対する反撃は違法行為

北朝鮮の核実験がありましたが、驚きのニュースではないので、引き続きレーダー照射関連の記事です。

保守派に弓引くようにもなってしまい、記事を書くことに抵抗もあるのですが、実情を訴えて行く必要があると思うので、今回は、片山さつき議員のブログを取り上げて、自衛隊の行動権限について書きます。

防衛出動がかかっていないからといって、何もできないわけではない!そしてまともな近代「軍」なら挑発としても非合理な面がありすぎる。」(片山さつきオフィシャルブログ13年2月7日)

 2007年の石破防衛大臣の「レーダー波を照射されたら自衛措置をとっていいのが国際法上の常識」という答弁以外にも、自衛隊法95条で「自衛隊の武器等の防御のための武器の使用」は、許されており、護衛官もsHー60のヘリも、勿論防御対象のはずですから、この条文の諸条件がクリアされていれば、こちらも武器使用は可能です。


よく勉強されていると思います。
今回のレーダー照射に対して、”国際法上”自衛措置として攻撃できる事に言及している方、及び”国内法上”は「正当防衛として反撃できる」と言う方は多い(政治家にさえ存在する)ですが、片山議員のように95条に言及している方は、私がネットサーフする中では見当たりませんでした。「レーダー 95条」でググッてもヒットしません。

しかし、残念ながら「正当防衛による反撃」だけでなく、95条の適用も間違ってます。

まずは、”論外”である正当防衛による反撃から書きます。
正当防衛は、刑法36条で規定されています。

(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
後略

これは、日本国民の全ての個人に対して、その生存権を保障し、自己防衛することを認めた条文です。
しかし、自衛隊の部隊が、国権の発露として武器を使用することを認めている訳ではありません。
そんな事を認めたら、それこそ自衛隊が存在し、他国の艦船や航空機から脅威を受けることに反撃することによって、自動的に戦闘が始まってしまうことを認めることになります。

正当防衛とほぼセットで語られる37条の緊急避難でも同じです。
自衛隊の行動に関しては、刑法では、むしろ35条の正当行為の方が、関連が深い条文です。

(正当行為)
第三十五条  法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

しかし、これも法令又は正当な業務となっている通り、自衛隊が行動するにあたっては、自衛隊法などの関連法規の存在が必要とされています。

そもそも、防衛省・自衛隊を始めとした官庁は、行政法で規定された権限の中でだけで行動できることになっており、禁止されていないことなら何でも行なってOKな民間とは違います。
自衛隊の場合、自衛隊法等で認められた権限のみが行使できます。

そうなると、今度は「自衛隊法に正当防衛が規定されているだろ」と思う方がいると思いますが、それらは危害許容要件として刑法36条の要件が借りられているだけです。

ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

ただし書きとして、人に危害を加えて良いのは、正当防衛や緊急避難の場合のみであると、むしろ権限を限定しているに過ぎません。

以上のように、国内法上は、正当防衛であれば(正当防衛を根拠として)、護衛艦が反撃できたというのは、完全に誤りです。
(国際法上は別です)

では、自衛隊には何の権限もないのかと言えば、そうではありません。片山議員が指摘した95条の武器等防護の規程があります。

(武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条  自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。


95条は、なんら行動任務(防衛出動や治安出動等)が発令されていない場合においても武器を用いる事が規定されている唯一(対領侵を除く)の条文です。
つまり、95条は、平時であっても常に適用されている条文なのです。
片山議員は、この点を認識して書かれていると思います。

だがしかし……
一つ問題があります。
片山議員が「護衛官(護衛艦の誤字)もsHー60のヘリも、勿論防御対象のはず」と書いているように、この95条の武器等防護の規程は、実際の運用は、かなり制限をされています。
詳細は、「武器等の防護に関する達」に規程されていますが、これは公開されていません。
参考答申書

警護物件の区分等警護任務に関する部分及び武器使用の命令等武器の使用に関する部分については,自衛隊法95条に規定する武器等の防護を実施する際の武器使用の手順や考え方等が含まれており,これを公にした場合,我が方の手の内を明かすことになり,相手方がこれを踏まえた行動を採ることが可能となる……後略


公開されている情報としては、防衛省のサイトで説明されている武器使用規程のページがあります。
武器使用規程

2 武器などの防護のための武器の使用

 武器などの警護を命ぜられた自衛官は、武器などやこれらを操作している人などを防護するため必要な場合に、通常時から武器を使用することが認められています(自衛隊法第95条)。この武器使用は、次のような性格を持っています。

(1) 武器を使用できるのは、職務上武器などの警護に当たる自衛官に限られること。

(2) 武器などの退避によってもその防護が不可能である場合など、他に手段のないやむを得ない場合でなければ武器を使用できないこと。

(3) 武器の使用は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度に限られていること。

(4) 防護対象の武器などが破壊された場合や、相手方が襲撃を中止し、又は逃走した場合には、武器の使用ができなくなること。

(5) 正当防衛又は緊急避難の要件を満たす場合でなければ人に危害を与えてはならないこと。


分かりにくい文章ですが、解説すると今回の反撃は、絶望的であると分かります。

まず、護衛艦の艦長や火器管制を行なう隊員が警護に当たる自衛官に指定されていなければなりませんでした。
実際に指定されていたかどうかは、情報がありませんし、通常どうだという事も書く訳にはいかないので伏せます。
しかし、本来、この条文は、不法分子が基地等に侵入して、武器の破壊や、特に”強奪されることを防止”することを念頭に制定された条文なので、警護に当たる自衛官は限定されるものだという事実があります。
そして何より、次のようなニュースの存在が、この警護に当たる自衛官が限定されていることを示しています。
北ミサイル対応、F15がイージス艦を警護へ」(読売新聞12年3月30日)

防衛省は(中略)、東シナ海などに展開するイージス艦にF15戦闘機の警護をつける方針を固めた。

 ロシアや中国の情報収集機が飛来し異常接近する恐れがあるためで、自衛隊法95条の「武器等防護のための武器使用」規定を初めて適用する形で配備する。

普段は、護衛艦が攻撃を受けても、航空自衛隊機がこれを防護するために武器を使用することは許可されていないのです。

また、「武器などの退避によってもその防護が不可能である場合など、他に手段のないやむを得ない場合でなければ武器を使用できない」と書かれている通り、今回の照射事案でも、まず第一に退避し、退避が困難で、逃げ切れない、あるいは拿捕されそうであるなどの状態で無ければ、武器を使用できませんでした。

さらに、「事態に応じ合理的に必要と判断される限度に限」られる上、「正当防衛又は緊急避難の要件を満たす場合でなければ人に危害を与えてはならない」以上、火器管制レーダーの照射に対して、砲やミサイルを発射して反撃すれば、完全にやり過ぎであり、違法でした。

つまり、片山議員が指摘した95条を根拠にした反撃も、完全にムリだったのです。

私(空)や中村秀樹氏(海)、それに柳井たくみ氏(陸)等、自衛隊OBが、こぞって創作モノで国内法制上の縛りによって、自衛隊の絶望的な状況を描くのは、何も話をドラマチックにしたいからだけ(もちろんそれもあるけど)ではありません。



では、どうすべきかという論は、また別の機会に書きたいと思います。

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2013年2月10日 (日)

レーダー照射事件とESMの重要性

前回記事「レーダー照射問題における高度な政治判断」に対する補足記事です。

電子戦の最も一般的な分類、ESM、ECM、ECCMの内、その意義や効果が最も理解されないのがESMです。

前回記事へのコメントとして、日本にESMの能力があることを中国も承知しているのだから、日本が中国のレーダー特性を知っていることを知っているのでは、
あるいは、ロックオンされて警報を発するレーダー警戒装置なんて装備として当たり前との意見を頂きました。

しかし、レーダー警戒装置があれば、それだけで警報を発すると思うのは間違いです。

ESMにも2種類あるからです。
一つは、レーダー警戒装置等が警報を発すること、そして、もう一つはレーダー警戒装置が照射を受けたレーダー波と比較対象とするためのレーダーデータを、それ以前に収集してデータベース化しておくことです。
ESMとして、特に大切なのは、後者の方です。

普通は、火器管制レーダーのデータを収集させないため、射撃訓練等は、敵国によってデータ収集されない空間・時間において行ないます。
それを敢えて収集するため、日本の場合は、YS-11EBやEP-3を上空に飛ばして、標的である火器管制レーダーの捜索範囲の遥か遠方から収集(レーダーの捜索範囲は一定でも、レーダー波自体は、それより遠距離に飛んで行きます)するか、あるいは潜水艦を訓練海域に侵入させ、ESMマストを使用して潜行したまま収集させます。

更に、これらのデータは、空自であれば、電子戦訓練隊等が解析しなければ、火器管制レーダーのものなのか、火器管制レーダーであっても、ロックオンした状態なのか等までは分かりません。

ちなみに、火器管制レーダーを目標に向けて照射すること=ロックオンであるとか、火器管制レーダーで対象を補足する前段階における捜索レーダー的運用でもロックオン時と同じレーダー波が出ているとの認識は誤りです。

レーダーの型式によって異なりますが、火器管制レーダーであっても、大抵少なくとも3つの段階の作動モード(捜索-粗追随-精追随(ロックオン)等)があり、PRF(繰り返し周波数)、送信出力(ピーク、平均)、パルス幅等が変わります。(もちろん捜索レーダーでも同じです)
これに加えて、天候によるクラッタ状況や妨害電波の存在の有無などに応じて、周波数ホッピングやスペクトラム拡散の技術が、選択的に使用されたり、されなかったりします。

つまり、レーダー警戒装置が警報を発し、今回のように現場で火器管制レーダーを照射されていることが即座に認識できるためには、これら無数の場合分けに応じた膨大なレーダーデータの集積(これこそがESM)が必要な訳です。

これらは、プロとすれば常識的な事実ですが、軍事評論家であっても理解されていない
があります。

前回記事では、
「今回の公表は、自衛隊が照射を受けたレーダー波を、火器管制のための諸元で発信されていることを、自衛隊がデータとして把握していることを暴露してしまいました。」
と書いただけだったので、はなはだ分かりにくかったようでしたので、今回の補足記事を書きました。

今回の公表によって、ハード的に変えられないものはともかくとして、中国軍は変更可能なレーダー運用要領は変更するでしょう。
潜水艦が危険を冒して収集したデータベースがパーになりかねない訳です。

また、更なる公開により、レーダー電波の解析結果を公表すれば、更なる危険も考えられます。
レーダー照射:日本政府、証拠公開へ」(毎日新聞13年2月9日)

護衛艦が受信したレーダー電波の解析結果を公表すれば、「自衛隊の分析能力を知られてしまう」(防衛省幹部)との危惧は強い。小野寺氏も「出せるデータと出せないデータがある」と語る。


ビデオは問題ありませんが、レーダー波の解析結果は、絶対に公表してはなりません。
なぜなら、自衛隊の解析が完璧なら問題はありませんが、少しでも誤謬があれば、中国側として、日本の解析能力の”限界”が確定的に分かってしまうためです。

レーダーの解析結果なんて、どうせ一般の方には意味不明ですし、前掲報道にもあるとおり、どんな証拠を突きつけたところで、「中国は絶対に自分の非を認めないだろう」(官邸スタッフ)と言う見込みがある以上、レーダー波の解析結果は、非公開とするか、さもなければ、中国からしたら明らかにデタラメであると分かる本当のデタラメを公開したらいいのです。
中国は、本物であってもデタラメだと言い張るに決まっているのですから、最初からデタラメを公表しても結果は同じです。(国家としての誠実性の問題は、第3国の専門家からすれば明らかになってしまいますが)

今回同様の野放図な電波照射が、過去にも行なわれていたのかについては、確かな情報がありません。
継続して野放図であったのなら、確かにデータは取り放題だったでしょうから、そのデータには、それほど重要性があるとは言えませんし、この記事は妥当でないという事になります。

しかし、普通は、おいそれと火器管制レーダーを照射することなどありませんし、もし行なうとしても、レーダー諸元を簡易なモノにごまかすことを行ないます。
今回の事象が、今回1回だけだったとしても、3分も照射を続けるなど、中国軍のレベルが低いと断ずるには十分ですが、これを過去から継続していたのであれば、中国海軍のレベルは、夕刊ゴシップ紙が書くように近代海軍のレベルにはないと言えます。
私には、そこまで中国軍がマヌケだとは思えません。

同じ事を自衛隊が行なったら、間違いなく処罰モノです。注意では済まされず、なんらかの懲戒処分でしょう。
中国艦艦長の人事(軽処分で済むか、文字通り首が飛ぶか)が分かれば、中国海軍のこの問題に対する認識が分かって面白いと思われます。

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