横やりは懸念ではなく、狙い_心神開発の真意
実証機『心神』の飛行が近づいていますが、産経がアメリカの横やりを懸念しています。
「平成の零戦」離陸近づく 日本の先端技術結集の“勇姿”…懸念は米国の「横やり」(産経新聞1411xx)
日本の国産戦闘機構想は、1980年代のFSX(次期支援戦闘機)選定をめぐり米国の横やりが入り、日米共同開発に落ち着いた過去もある。自衛隊や防衛産業にとって、悲願ともいえる“日の丸戦闘機”は果たしてテイクオフできるか。
横やり懸念の理由は、やはりFSX(F-2)開発での実例があるからでしょう。
1980年代のFSX選定では、米国製戦闘機の購入を求める米側との間で政治問題となり、日本が米国の要求を飲む形で米国製のF16を母体に日米共同でF2戦闘機が開発された。バブル景気絶頂の当時は米国内の一部で日本脅威論も論じられており、戦闘機の独自開発もその延長線上で待ったがかかった-。こう受け止める日本政府関係者は少なくなかった。
しかし、この懸念は的外れです。
防衛省・自衛隊の狙いが、国産戦闘機開発にはないからです。
記事の前提は、防衛省・自衛隊の狙いが、国産戦闘機開発にあり、そのための『心神』開発だとしています。
確かにそれを願っている人も居るでしょう。(私だって、できればとは思います)
特に、防衛産業にとっては、国産機開発・配備となれば、大きなビジネスチャンスです。
しかし、過去の経緯を見れば、防衛省・自衛隊が、落とし所として狙っているのが自主開発ではないことは明かです。
心神の研究試作は、平成21年(2009年)度から始まっています。
「研究開発評価会議資料」
予算要求されたのは前年の2008年夏です。
この頃、F-Xの選定は山場に差しかかっており、空自はF-22の導入を目指していました。しかし、1998年のオビー条項に続き、2006年にもF-22の輸出を禁じる条項がアメリカ議会で可決されており、防衛省・空自はアメリカ空軍や各方面に働きかけはしたものの、2008年12月にF-22の導入を諦め、F-X候補から外しました。
つまり、心神開発とF-22の導入断念は、リンクした動きなのです。
12月にF-X候補からF-22を外し、年度末に予算を取り、4月から研究試作を始めた訳です。
この背景にあるのは、産経の記事にもありますが、日本がステルス技術を獲得することに対するアメリカ(特に軍事産業と関係する議員)の警戒です。
だが、同盟国といえども、こと軍事技術に関しては警戒感が根強い。
米政府はステルス性能試験施設の使用を「心神」に認めず、日本側はフランス国防装備庁の施設を使わざるを得なかった。平成23年12月に決定した次期主力戦闘機(FX)の選定で、日本政府は当初、ステルス戦闘機F22ラプターの導入に期待を寄せたが、米政府は技術流出を懸念して売却を拒否。最終的にF35ライトニング2が選ばれた経緯もある。
良い換えれば、心神開発は、「ステルス技術を渡さないのならば、独自開発するぞ」というアメリカに対するメッセージなのです。
単なる政治的なメッセージではなく、ここまでしなければならない、また逆に、ここまですればアメリカが動くというのは、前掲のFSX(F-2)の事例だけでなく、もう一つの事例からも、防衛省・自衛隊が学んでいるからです。
99式空対空誘導弾のwikiページには、自衛隊がAMRAAMの導入を目指したものの、日本には売ってもらえないことを懸念したため、その代替措置として同等かそれ以上の能力を持つAAM-4を開発したと書かれています。
が、実際はAMRAAMを売ってもらえる見込みは、全くという程ありませんでした。
しかし、実際に開発・配備が始まると、掌を返してAMRAAMを安価で売るという方針に転換しています。
日本は、国際共同で行われたF-35の開発に全く関わっていません。
にも関わらず、現在、F-35の自衛隊への配備に関して、整備拠点を日本国内に作るなど、防衛省・自衛隊は、破格の条件を勝ち得ています。
この条件獲得に、心神が大きく影響していることは間違いありません。
防衛省・自衛隊が、技術実証である心神から歩みを進め、戦闘機の独自開発にまで進むのか否かは、まだまだ流動的でハッキリしません。
しかし、F-35の開発を見ても分かるとおり、第5世代戦闘機の開発は、莫大なコストと時間を要し、もはや一国で行えるものではなくなってきています。
防衛省も、当然その事は認識しています。
小野寺氏は「わが国の防衛に必要な能力を有しているか、コスト面での合理性があるかを総合的に勘案する」と述べるにとどめた。防衛省は国産戦闘機の開発費を5000億~8000億円と見積もっているが、追加的な経費がかさみ、1兆円を超える可能性もある。国産でまかなえば1機当たりの単価もはねあがり、防衛費が膨大な額に上りかねない。
なので、心神とその技術を生かした国産戦闘機開発は、アメリカからステルスに関わる交渉において好条件を引き出すための材料なのです。
“日の丸戦闘機”は、夢ではあるでしょうが、それが飛び立つことはないでしょうし、そんな否経済的なことを追い求めてもらっては、国家財政が危機に瀕します。
ですが、アメリカから好条件を引き出すための材料として、ある程度は進めざるを得ないでしょう。
それによる”横やり”こそが、防衛省・自衛隊の狙いです。
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