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研究開発

2014年11月29日 (土)

横やりは懸念ではなく、狙い_心神開発の真意

実証機『心神』の飛行が近づいていますが、産経がアメリカの横やりを懸念しています。
平成の零戦」離陸近づく 日本の先端技術結集の“勇姿”…懸念は米国の「横やり」(産経新聞1411xx)

日本の国産戦闘機構想は、1980年代のFSX(次期支援戦闘機)選定をめぐり米国の横やりが入り、日米共同開発に落ち着いた過去もある。自衛隊や防衛産業にとって、悲願ともいえる“日の丸戦闘機”は果たしてテイクオフできるか。


横やり懸念の理由は、やはりFSX(F-2)開発での実例があるからでしょう。

1980年代のFSX選定では、米国製戦闘機の購入を求める米側との間で政治問題となり、日本が米国の要求を飲む形で米国製のF16を母体に日米共同でF2戦闘機が開発された。バブル景気絶頂の当時は米国内の一部で日本脅威論も論じられており、戦闘機の独自開発もその延長線上で待ったがかかった-。こう受け止める日本政府関係者は少なくなかった。


しかし、この懸念は的外れです。
防衛省・自衛隊の狙いが、国産戦闘機開発にはないからです。

記事の前提は、防衛省・自衛隊の狙いが、国産戦闘機開発にあり、そのための『心神』開発だとしています。

確かにそれを願っている人も居るでしょう。(私だって、できればとは思います)
特に、防衛産業にとっては、国産機開発・配備となれば、大きなビジネスチャンスです。

しかし、過去の経緯を見れば、防衛省・自衛隊が、落とし所として狙っているのが自主開発ではないことは明かです。

心神の研究試作は、平成21年(2009年)度から始まっています。
研究開発評価会議資料
予算要求されたのは前年の2008年夏です。
この頃、F-Xの選定は山場に差しかかっており、空自はF-22の導入を目指していました。しかし、1998年のオビー条項に続き、2006年にもF-22の輸出を禁じる条項がアメリカ議会で可決されており、防衛省・空自はアメリカ空軍や各方面に働きかけはしたものの、2008年12月にF-22の導入を諦め、F-X候補から外しました。

つまり、心神開発とF-22の導入断念は、リンクした動きなのです。
12月にF-X候補からF-22を外し、年度末に予算を取り、4月から研究試作を始めた訳です。

この背景にあるのは、産経の記事にもありますが、日本がステルス技術を獲得することに対するアメリカ(特に軍事産業と関係する議員)の警戒です。

 だが、同盟国といえども、こと軍事技術に関しては警戒感が根強い。

 米政府はステルス性能試験施設の使用を「心神」に認めず、日本側はフランス国防装備庁の施設を使わざるを得なかった。平成23年12月に決定した次期主力戦闘機(FX)の選定で、日本政府は当初、ステルス戦闘機F22ラプターの導入に期待を寄せたが、米政府は技術流出を懸念して売却を拒否。最終的にF35ライトニング2が選ばれた経緯もある。


良い換えれば、心神開発は、「ステルス技術を渡さないのならば、独自開発するぞ」というアメリカに対するメッセージなのです。

単なる政治的なメッセージではなく、ここまでしなければならない、また逆に、ここまですればアメリカが動くというのは、前掲のFSX(F-2)の事例だけでなく、もう一つの事例からも、防衛省・自衛隊が学んでいるからです。

99式空対空誘導弾のwikiページには、自衛隊がAMRAAMの導入を目指したものの、日本には売ってもらえないことを懸念したため、その代替措置として同等かそれ以上の能力を持つAAM-4を開発したと書かれています。
が、実際はAMRAAMを売ってもらえる見込みは、全くという程ありませんでした。
しかし、実際に開発・配備が始まると、掌を返してAMRAAMを安価で売るという方針に転換しています。

日本は、国際共同で行われたF-35の開発に全く関わっていません。
にも関わらず、現在、F-35の自衛隊への配備に関して、整備拠点を日本国内に作るなど、防衛省・自衛隊は、破格の条件を勝ち得ています。

この条件獲得に、心神が大きく影響していることは間違いありません。

防衛省・自衛隊が、技術実証である心神から歩みを進め、戦闘機の独自開発にまで進むのか否かは、まだまだ流動的でハッキリしません。
しかし、F-35の開発を見ても分かるとおり、第5世代戦闘機の開発は、莫大なコストと時間を要し、もはや一国で行えるものではなくなってきています。

防衛省も、当然その事は認識しています。

小野寺氏は「わが国の防衛に必要な能力を有しているか、コスト面での合理性があるかを総合的に勘案する」と述べるにとどめた。防衛省は国産戦闘機の開発費を5000億~8000億円と見積もっているが、追加的な経費がかさみ、1兆円を超える可能性もある。国産でまかなえば1機当たりの単価もはねあがり、防衛費が膨大な額に上りかねない。


なので、心神とその技術を生かした国産戦闘機開発は、アメリカからステルスに関わる交渉において好条件を引き出すための材料なのです。

“日の丸戦闘機”は、夢ではあるでしょうが、それが飛び立つことはないでしょうし、そんな否経済的なことを追い求めてもらっては、国家財政が危機に瀕します。

ですが、アメリカから好条件を引き出すための材料として、ある程度は進めざるを得ないでしょう。
それによる”横やり”こそが、防衛省・自衛隊の狙いです。

2014年8月13日 (水)

米海軍が注目した自衛隊無人潜水艦の正体

どうも最近、人気の出る記事は政治系が多く、技術系の記事は人気がないのですが、私的には趣味なので、今回は技術系記事です。

防衛省が開発中の無人潜水艦ですが、米海軍が目を付けて、一枚噛ませろと言ってきたようです。
無人潜水艦、日米で研究へ…30日間自律航行」(読売新聞140808)

 防衛省と米軍は、1か月間連続して海中で警戒監視を行うことができる「無人潜水艦」の開発に向けた共同研究を進める方針を固めた。

中略

 防衛省によると、当初は日本単独で開発を行うことを予定していたが、米海軍が高い関心を示したことから、共同研究に向けた協議を始めたという。

26uuv_2
上記、記事より

日本主導の研究に、アメリカ側から参加させて欲しいと言ってくるなんて、非常に珍しいケースでしょう。
日本の研究開発は、とかくオリジナリティが少なく(あれば良いってもんでもないですが)、あっても国産化の言い訳のための妙な仕様のモノが多いので、アメリカが興味を持つようなものは少ないのですが、コレはレアケースです。
この研究自体は、記事にもあるとおり、今年から予算が付けられており、防衛省としての研究がスタートしています。
26uuv_1
26年度防衛省予算資料より

予算資料では、長期間としか記載が無かったのですが、読売の記事によると、30日間にも及ぶ連続哨戒が可能な能力を目指しているようです。

 無人潜水艦は、全長10メートル程度で、航行する場所をあらかじめ決めておき、約30日間自律して行動した後、帰還することが想定されている。海中では水中音波探知機(ソナー)による警戒監視や情報収集を乗組員なしで行う。魚雷などによる攻撃能力は持たせない予定だ。


この性能が実現できれば、確かに米軍が高い関心を示すだけの価値があります。

1ヶ月の連続哨戒は、普通の潜水艦でも可能ですが、何せコストが違います。
艦の取得費用ももちろんですが、人が乗り込む艦と無人艦では、運用コストが桁違いだからです。
そして、コストが安いということは、大量に投入できる可能性につながります。

潜水艦が行うべき情報収集は多岐に渡りますが、やはり最も重要なのは、パッシブソナーによる水中音響の収集でしょう。
音響測定艦による遠方からの情報収集でも、相当の情報が収集できるようですが、電波と同様に遠方まで到達しやすい音は、回折などもし易く、音源の位置や移動については把握が困難です。

ですが、多数の無人潜水艦が、複数の位置で同時にデータ収集を行えば、目標とする音源の情報は、位置や移動能力についても詳細に把握できます。

潜水艦の有用性は、何よりもその隠密性によって成り立っています。
もちろん、現代の潜水艦は、魚雷だけでなく、ミサイルも搭載したり、特殊部隊の投入も行なうなど、多彩で強力な攻撃力を持つに至っていますが、「どこに居るか分からない。いつ攻撃を受けるか分からない」という恐怖を敵に与え、対潜戦を行わない限り、戦力の展開を行う事さえ困難にする所にこそ、最大の価値があります。

フォークランド紛争中、アルゼンチンの巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」は、イギリスの原潜「コンカラー」に魚雷で撃沈されました。
その後のアルゼンチン海軍主力は、原潜の活動が困難な浅海域に留まったため、大きな被害を受けることはありませんでしたが、原潜の存在を恐れ、活動自体ができなくなったため、その存在自体が無力化されてしまいました。

このように、潜水艦は、ある意味で地雷のようなモノですが、動き回ることが可能なため、より厄介な存在です。

しかし、潜水艦は、それぞれの固有音響を収集され、行動データの蓄積から機動能力等を把握されてしまえば、隠密性を発揮することはできなくなり、水上艦に比べれば機動能力も攻撃力も劣る潜水艦は、ただの的でしかなくなってしまいます。

現状でも、日中間の戦力に、大きな差があるのがこの点ですが、この無人潜水艦が多数配備されれば、中国の潜水艦は、ほとんど無力と化すかもしれません。

特に、騒音の激しい原潜と比べ、対処に困難が予想される一部のキロ級などの通常型潜水艦の動向把握に効果を発揮するでしょうから、その価値は非常に大きなものになると思われます。

しかし、全長10mと、ある程度の大きさを有し、結構な量の燃料電池を搭載できるとしても、また、哨戒中は姿勢制御のために、舵が効く最低限の低速度で良いとしても、30日間も、空気中とは比べものにならない抵抗となる水中で、継続して行動できるのかは疑問です。
抵抗を考えれば、大型トラックを低速で走り続けさせるイメージかと思いますが、燃料電池とは言え、1ヶ月も走り続けられるとは思えません。

それに、防衛省が現在行っている研究は、無人潜水艦用とは言え、現時点では燃料電池の研究です。次世代のあらゆる産業に役立つことが予想される燃料電池の研究は、アメリカも当然ながら行っており、燃料電池の研究だけなら、米海軍が一枚噛ませろと言ってくるとは思えません。

となると、防衛省がこの無人潜水艦を実現する際に、採用するかもしれない開発技術には、燃料電池の他にもう一つあるのではないか思われます。

それが、コレです。
1305_img02

技本HPより

凧ではありません。

防衛省・技術研究本部が開発中の水中グライダーの実験機です。
水中滑走制御技術の研究(技本HPより)

詳しくは、上記技本のHPを見て頂きたいのですが、無人潜水艦用の技術として、非常に有望そうな技術です。
誰の発案なのか、最初にコレを見た時は、唸らせられました。(ナイスアイデアです)
1305_img01

上記技本HPより


水中を推進しようとすれば、水の抵抗が大きいため、エネルギーロスはどうしても大きなものになります。

1305_img04
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上記技本HPより


しかし、水の比重に近い重量・容積で作った潜水艦で、注水・排水して浮力を調整するだけなら、大したエネルギーはかかりません。
その上で、沈降・浮上する際に、水中翼によって滑空(滑水と呼ぶべきか?)すれば、効率良く移動が可能になります。(理屈は違いますが、海上をほとんど羽ばたくことなく、長距離を飛行するカモメのようなものです)

この技術、必然的に深度が変わってしまうため、水中音響の収集にはマイナス要素でもあるのですが、この公開されたデータ(最初の試験であるため、決して良いデータではない)に基づくとしても、滑空比(滑水比?)5.75であるため、最大深度200mの東シナ海では、一回の注・排水で、2.3km移動可能です。
1305_img05
上記技本HPより

無人潜水艦は、急速潜行・浮上をする必要はないでしょうし、人も乗って居ないため重量の変化も少ないので、有人の潜水艦のように高圧空気を使って注・排水しなくても、魚の浮き袋のようなものをアクチュエーターで、圧縮・膨張させれば、浮力調整は十分でしょう。(何より、魚がそれで数百m潜水・浮上できている)

このため、この技術を使えば、極々少ないエネルギーで、水中を長距離・長時間に渡って移動可能です。

恐らく、コレなら30日間の連続哨戒も十分に可能ではないでしょうか。

米海軍が目を付けた技術は、燃料電池よりも、むしろコチラなのではないかという気がします。

それに、この技術には副次的な効果もありそうです。
と言うのも、
恐らく音を全くと言って良いレベルしか出さないだろうと言う点です。

通常のスクリュー、あるいは静粛性に優れたポンプジェット推進でも、モーター音などのノイズはどうしても発生します。
しかし、ある意味船体全体がスクリューとして作用する水中グライダーは、魚と同レベルの音しか出さずに航行できそうです。
となると、この水中グライダーを利用した無人潜水艦は、パッシブソナーでの発見は不可能でしょう。

アクティブソナーでも、船体の大きさが小さいので、発見は難しいでしょうし、移動して逃げることも可能です。運悪く接近されれても、人が乗って居ませんから、1ヶ月でも沈底していたって構いません。
ソナーを取付ける位置の問題もあるので、形状が変わるかもしれませんが、この形状もアクティブソナーに対するステルス性を高めていそうです。
後縁の角度など、形状を見てもステルス航空機とそっくりで、音響ステルスを意図した形状と言えるでしょう。

読売の記事は、防衛省の予算資料を元に絵を描いているので、予算資料と同じような船体形状になっていますが、潜水艦でありながら、垂直尾翼のようなモノが描かれているのは、防衛省がこの水中グライダーの翼を書きたくなかったものの、ある程度はイメージできるようにこの垂直尾翼状のものだけ書いたような気がしてなりません。

と、この記事の後半は、ほとんど推測ですが、これが当たっていれば、開発に当たっている技術者は、さぞかし楽しいでしょう。
どんなモノに仕上がるのか、注目です。

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2012年9月11日 (火)

UHX談合疑惑と自衛隊の装備開発姿勢

疑惑の内容が良く分からないため、積極的に書きたい話題ではないのですが、ここ数日のアクセス解析を見るに、無視できない話題なので、私が感じた自衛隊の装備品開発の姿勢と絡めて書いてみます。

疑惑の内容自体は、UHXの開発に関して、公示前に、その内容である仕様書の内容を伝えたことのようです。
ヘリ不正納入:陸自佐官級幹部ら 「仕様書」の内容伝える」(毎日新聞12年9月7日)

 陸上自衛隊のヘリコプターを巡る不正納入事件で、契約に関与した防衛省技術研究本部(技本)に在籍した複数の佐官級幹部らが同省の内部調査に対し、ヘリ開発に関する情報を受注企業側に伝えたと認めていることが分かった。必要な性能などを記した「仕様書」の内容を、企業選定時の「公示」の数カ月前に伝えたという。


仕様書自体を川重が代理作成していたとの報道もあります。
防衛省ヘリ談合 川重が“代理作成”か 仕様書で受注有利に」(産経ビズ12年9月7日)

 提案書の参考となるのが、研究や開発を担う技術研究本部(技本)が提示する仕様書。関係者によると、技本の複数の佐官級幹部が川崎重工の担当者らにヘリの機能として最低限必要とする仕様などを漏らし、これを受けて川崎重工側が仕様書を“代理作成”した疑いがあるという。


事実関係は、捜査中なのではっきりしませんが、この報道に対して清谷信一氏が興味深い記事を書いています。
UH-X談合疑惑そもそも論

 防衛省の装備調達で、本命業者が仕様書を書いてるなんで、業界では常識、公然の秘密です。
 実際メーカーの方で、開発しながら仕様書書いたり、本来官側が書くべき各種レポート書いていたと証言する人間を何人も知っています。


私は、開発の最前線で働いた経験はないので、この話が本当なのかは知りません。ですが、感覚的には、ありえそうな話という気がします。
開発中の装備やこれから開発される装備に関して、現場の意見が反映されることが、あまりにも乏しかったからです。
「防衛省として欲しいモノ」が開発されるのではなく、「メーカーが作れるモノ」を開発するという姿勢ありきだったように感じてました。

清谷氏は、こうも書いています。

 既に過去ぼくが指摘してきたように防衛省の調達担当部署の人員は列国に比べて一桁少ない陣容です。それでまともな調達ができるはずないじゃないですか。

 ですが仕様書が書けないということは、本当は自分たちが何を欲しいかと把握していないということです。
 つまり防衛省には当事者能力がない。 


人員不足に加えて、私が感じていた問題は、開発に関する運用系の人間が関与できるチャンネルが非常に少ないことです。

空自の場合ですが、開発集団への現場を知る人員配置が少ないことがあります。技術特技の人間だけでなく、運用や整備の現場に携わった人間が定期的に開発集団にも配置され、開発に携わることが必要だと思いますが、それらは非常に少ないと感じました。
それが左遷ととられる事も問題だと思いますが……

指揮系統に沿った現場意見の反映は、確かにされてます。
空幕に意見を上げて、空幕の装備体系課がそれを開発サイドと調整してゆく訳ですが、何せこちらも人員が少ないためか、十分に機能しているとは思えませんでした。
もちろん、予算の制約とかが多いのでしょうが……

そんな訳で、業者が仕様書を書いてるなんて話は、とんでもない話ではありますが、私は「さもありなん」と感じてしまいます。

結局、調達・開発にかける予算の不足が根本原因なんでしょうね。防衛費総額の問題でもありますが、自衛隊の極端な「槍の穂先重視」が背景にあるように思います。

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