モロッコでのオスプレイ墜落原因は失速_報告書は妥当か?
防衛省がモロッコでのオスプレイ墜落事故に関する分析評価報告書を発表しました。
原因は、なんと失速です。
以前の記事「モロッコでのオスプレイ墜落は、セットリングか?」で、原因はセットリングウィズパワーが疑われると書いたのですが、実際には、もっと遥かに単純な失速だったとのこと。
モロッコにおけるMV-22墜落事故に関する分析評価報告書
防衛省発表の事故概要
ただし、防衛省の報告書には「失速」の語は一語も出てきません。
恐らく、「失速」ではあまりに酷いと言うことで、使用を避けたのだと思われます。
玉虫色であるとも言えるでしょう。
状況を単純に言えば、背風状態のホバリングから、前進速度がつく前にナセルを前傾させたため、固定翼部分が揚力を発生させるに前に、回転翼での揚力も失われたという状況のようです。
原因を詳しく知りたい方は、前掲リンクの防衛省発表資料を見て下さい。
問題は、それが致し方のない人的ミスだと言えるのか、そして、その対策は採られているのかということです。
人間のミスはゼロにはできないため、事故の原因を人的ミスに求めることは、防衛省に限った話ではありません。
しかし、人的ミスは、必ずしも、致し方ない人的ミスとは言えません。
今回のケースなどは、それに当たると思われます。
一つには、フェイルセーフで防げなかったのかと言う疑問です。
人間はミスをするものですから、人間がミスをしても事故に至らないよう、システムを作ります。
このケースでは、前進速度が付くまでナセルを傾けることが出来ないようコンピュータ制御されていれば、事故が防げたはずです。
実際、報告書でも、このことに触れています。
この操作がなぜ上述のコンピュータ制御によって制限されることなく可能となったのかについて、米側より聴取したところ、機速40kt以下におけるナセル角度操作は、ナセル角度を60~75度に設定する転換モードにおける短距離離陸/着陸滑走時に必要となることから、コンピュータ制御によって操作不可能とすることはできず、このため、NATOPS飛行マニュアルによって禁止すること
で対応していると説明を受けた。
一見、なるほどと見えなくもありませんが、転換モードでのSTOL離着陸の場合だけフェイルセーフを働かせないように作り込めば良いだけでしょう。
この説明だけでは、納得し難いです。
むしろ、この書き方では、システム上の欠陥であり、機体というより、設計上の不具合ではないかとさえ思えます。
この事の言及しているニュース記事もあります。
報告書をそう言う方向でまとめないのは、日本政府として、機体設計にまで注文を付けられないという理由があるでしょうが、別の理由があるのではないかとも疑えます。
オスプレイはオートローテーションが難しいと言う情報があります。
そのため、非常時には固定翼モードでの滑空で機体をコントロールするため、強引にナセルを傾斜させられるように作っている可能性が考えられます。
ところが、オスプレイ反対派がオートローテーションが難しいことをもって、欠陥だとのキャンペーンを張っているため、これを言い出せなかったのではないかとも思えるのです。
防衛省がこの報告書をまとめることになった原因は、ウィドウ・メーカーとも呼ばれたオスプレイの欠陥機疑惑です。
ですから、そもそも、この報告書は人的ミスありきでまとめたものなのでしょう。
しかしながら、オスプレイは軍用機ですから、安全だけを考慮して作り込む訳にはいきません。
何らかの攻撃を受けた際、緊急に回避する必要から、通常であれば危険な飛行領域に入れる操作であっても、受け付ける必要もあるはずです。
ですが、そうならば、そうとはっきり書くべきだと思います。
また、対策が採られているのかという問題もあります。
一言で言って、この報告書には対策は何も書かれていません。ただ「事実はこうでした」と書いているだけです。
通常、この手の文書には、原因と対策を書くモノです。まとめるまでにこれだけの時間をかけたのですから、当然そうなっていると誰もが思うでしょう。
だから、沖縄県知事なども反発するのでしょう。
報告書の中を見ても、先ほどのフェイルセーフだけでなく、対策が必要と思われる記述が入っています。
なお、今回の事故を踏まえ、海兵隊においては、NATOPS飛行マニュアルにおける記載の明確化の検討についての提言がなされ、操縦士及び関係者に対する教育の徹底が実施されることとなっている。
この書きぶりも頂けません。
書き出しからして、なお書きで始まっており、読んだ人の印象からすれば、まるで人ごとです。
米軍にマニュアルの是正を求めるか、最低限でも日本政府として、国内で運用するためには特別の手順を求めるくらいは書いてしかるべきだと思います。
この事を指摘しているニュース記事もあります。
「米手引書に不備 オスプレイ・モロッコ事故報告」(琉球新報12年8月29日)
米側の調査結果には、調査官の提言として「飛行マニュアル(手引書)内に、追い風の中での離陸から巡航への移行に関する参照事項をほとんど見つけられなかった」と記され、追い風の際の運用に関するマニュアルの不備が指摘されていることが明らかになった。だが、機体の安全性に直結するこの不備は日本側の報告書には明記されていない。
そして、対策についての言及不備は、結局防衛大臣が苦し紛れのコメントをするに至るというお粗末な結果をもたらせています。
「オスプレイ:国内運用ルールに人的ミス防止策…森本防衛相」(毎日新聞12年8月31日)
森本氏は「(モロッコでの事故と)ともに人的要因だとすれば、飛行の安全を確保するためにどのような措置ができるのか、日米合同委員会での非常に重要なテーマになる」と述べた。
報告書の発表から、わずか3日でこんなコメントを出すくらいなら、最初からこの事を報告書に盛り込んでおけば、沖縄の反発だって、もう少し落ち着いたモノになっていたはずです。
マスコミは、沖縄の全員がオスプレイに大反対しているかのような書きぶりですが、実際にはそんなことはないでしょうし、政治家もそれなりに歩み寄りは見せています。
「知事「受け入れ困難」 防衛相、オスプレイ事故分析を報告」(琉球新報12年8月30日)
仲井真知事はオスプレイ配備について「原因の究明、安全の確認、日本政府が(安全を)保証することをわれわれが理解、納得できるようにすれば不安は払拭される」と述べ、より徹底した安全性の確認を求めた。
どんな機械にせよ100%の安全はあり得ない以上、保障しろというのは無茶な要求ですが、安全性が納得できれば不安は払拭されるとまで言ってくれているのですから、防衛省としても、もっと腹を割って話すべきではないでしょうか。
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