朝日に欠けている重大な視点_自衛隊による人質奪還
週間朝日が、自衛隊による人質奪還作戦実施に対して、一言で言えば、「難しいから反対」という主旨の記事を載せています。
「「人質救出なんて無謀」との声も これだけ難しい自衛隊・人質奪還作戦」(週刊朝日150211)
ISによる日本人殺害を受けて、自衛隊の海外活動についての議論が活発になっていますが、スタンスのハッキリしている朝日は、やはり反対する側です。
しかし、さしもの朝日も、邦人救出という目的には反対できません。
憲法上好ましくないなどと言ったら、それこそ「憲法を変えろ」と言われかねないので、そうしたロジックも使えません。
結果、技術的に難しいから反対というロジックになっています。
確かに、人質救出は、国内であっても非常に困難なオペレーションで、それを敵性勢力の支配地域で実行することは、極めて困難であることは間違いありません。
困難である理由を列挙する週刊朝日の記事は、その点において、間違いではありません。
(細かな点では、突っ込みどころはいろいろとありますが)
しかし、この記事には、重大な視点の欠落、あるいは、それが意図してのものなら、隠蔽があります。
それは、自衛隊が人質救出能力を持たなければ、交渉が極めて不利になるということです。
今回の2名の日本人人質では、要求から殺害まで非常に短期間でしたが、拘束時から考えれば、かなりの期間が経過しています。こうした人質事件では、要求から事件の解決に至るまで、年単位の長期間に及ぶことも珍しくありません。
その間、自衛隊に人質救出能力がなければ、テロ組織は大した監視要員を付ける必要も無く、生きながらえるだけの最低限の食事を与えるだけで、人質を確保することが可能です。
しかし、自衛隊にその能力があり、政府に救出を遂行する法的権限が与えられていれば、テロ組織は、多数の護衛を24時間付けなければなりませんし、拘束場所についても頻繁に移動させざるを得ません。
それによってテロ組織に対して与える物的・心理的負担は、何らかの交渉を行う際に、テロ組織を譲歩させるための圧力となります。
基本的に、身代金を支払うことには反対ですが、支払うことをで人質を開放させる場合でも、自衛隊に人質救出能力があり、政府にそれを実行する意志と権限があれば、テロ組織としても、長期の人質維持と交渉は大きな負担ですから、金額は低い額に抑えられるでしょう。
つまりテロ組織としては、条件を妥協しても、早期に妥結しようと考えざるを得なくなるということです。
交渉の過程で、拘束場所や警備の情報が得られ、救出作戦が実行可能なら実行すれば良いですし、それが難しければ、救出作戦を行う姿勢を、テロ組織に対するブラフとして使用して、交渉圧力とすれば良いわけです。
自衛隊が人質救出能力を持ち、政府にその権限を与えることは、救出要員の訓練に多少のお金を要するものの、能力・権限を持たないことに比べれば、そのコストパフォーマンスは非常に高いものとなります。
人質救出作戦が困難であることは、その能力・権限を、自衛隊・政府が持つべきでないとする理由にはなりません。
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