ゾンビ対処計画とヤマサクラ
CNNが面白いニュースを流しています。
「米国防総省、「ゾンビ」襲来の対応策を策定していた」(CNN14年5月17日)
この文書は、米戦略軍が作成した「CONOP8888」という極秘文書で、現実の大規模な軍事作戦、緊急事態、大災害に対する作戦の立て方の訓練用テンプレートとして、地球全体がゾンビに襲われるという恐怖のシナリオが採用されている。
ネタではなく、真面目なニュースです。
さすがに、自衛隊ではゾンビを想定することはしませんが、発想としては理解できます。
米戦略軍の報道官、クンツェ海軍大佐は「この文書は、軍内部の演習で使用される訓練用ツールと認定されている。この演習では訓練生が架空シナリオを通じて、軍事計画や治安・秩序の発展に関する基本概念を学ぶ」と述べ、「この文書は米戦略軍の(正式な)計画ではない」と付け加えた。
日本流に言うところの”頭の体操”用のシナリオという訳です。
その”頭の体操”を行うため、ゾンビにリアリティを与えられるだけの想定を作ることが大変なので、自衛隊ではもっと簡単なものを使ってしまうのですが、米軍がわざわざゾンビを使う事にも一理あります。
同文書によると、人々が訓練用の架空のシナリオを実際の計画と勘違いしないよう、あえて全くありえないシナリオを採用したのだという。
”ゾンビ”を使わないとどうなるかという良い事例があります。
日米合同図上演習「ヤマサクラ37」から見る中国地方
ヤマサクラは、陸自の方面隊と米陸軍が共同で行う指揮所演習(CPX)です。
私もお客さんとしてお邪魔した事がありますが、お互いの意思疎通に慣れることを主目的にして、図上演習だけでなく、各種レセプションで交流を図る、なかなか豪勢な演習です。
で、このヤマサクラの想定が、何度か公表されたことがあります。
2010年のヤマサクラ37もそうでした。
「馬鹿げたウォーゲーム」
赤旗の記者は、実は結構軍事に明るいので、このヤマサクラがどんな演習で、なぜこんな想定なのかも理解した上で、読者を意図的にミスリードする目的で記事を書いていると思われます。
赤旗の意図とは別の方向で、これを誤解してしまうのは、ミリタリーマニアです。
ゾンビにリアリティを持たせるだけの想定を作る作業が大変なので、ヤマサクラでは「C国」といった仮想の地理環境・軍事力の国を作り、装備はロシア・中国あたりの装備品を準拠した兵器を持っているという想定で訓練します。
ところが、ここでロシア製や中国製兵器が日本に上陸(陸自と米陸軍の訓練なので、上陸されないと訓練が始まりません)していることを見ると、前掲リンクのように、ロシアや中国が日本に着上陸することを自衛隊が予期していると誤解してしまう人がいるのです。
自衛隊単独や日米共同の訓練・演習では、様々な想定の下で訓練・演習が行われます。
訓練と演習の差異については、過去の記事「訓練と演習の違い」で書いていますが、ヤマサクラに関しては、名前は演習でありながら、実態は仮想の国を対象としている通り、訓練です。
戦場となるのも、当然に、その演習に参加する方面隊の担任区域です。
これは、訓練を行うために、そう想定しているだけで、その場所が危険だと自衛隊・米軍が予測している訳ではありません。
また、敵戦力の規模は、陸自だけでは手に余り、米軍の来援があれば反攻が可能なレベルのものを、想定します。
これは、リアリティではなく、相互の意思疎通を図るという目的を達成するため、訓練効果を最大化できる敵の規模を想定したと言うことです。
この手の事は、訓練を計画する際に常にあることで、リアリティの高い訓練を目指す場合は少なくなるものの、「これじゃ○○部隊の訓練にならないじゃないか。計画を作り直せ!」なんて事は、私も何度言われたか数知れません。
しかし、それを見て、それを自衛隊・米軍(という権威)が、大規模な機甲戦力が上陸してくる事を予期していると見てしまう人がいます。
アメリカが”ゾンビ”を使うのも、同じような事が過去にあったのではないかと思われます。
さて、視点を転じて、このネタ(ニュース)のもう一つ面白い(と言ったら怒られてしまうかも知れませんが)点について、触れておきたいと思います。
このゾンビ想定、なんだかゲームや映画になっているバイオハザードを想起させますが、作っているのがアメリカの戦略軍だという点が注目です。
戦略軍とは、大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機や弾道ミサイル搭載潜水艦を統合指揮する統合部隊です。
ということは、このゾンビ想定での訓練での最大の決心事項は、パンデミック的に広がるゾンビ感染を、核で焼き尽くす点にあるのでしょう。
映画では、封鎖地域に核を使用するシーンが良く出てきますが、アメリカはいざという時には、本気で核で焼き尽くす事を考えていると思われます。
日本でも、生物兵器が使用された場合には、最悪のケースとして、想定する必要があるのではないでしょうか。
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