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領域警備

2014年5月25日 (日)

中国機の自衛隊機への威嚇接近は通常営業

中国機による自衛隊機への接近が、妙に話題になってます。
20140525_su27
防衛省提供

中国機が自衛隊機に異常接近 東シナ海、30~50メートルまで」(産経新聞14年5月25日)
中国軍機、自衛隊機に異常接近…東シナ海で」(読売新聞14年5月25日)
自衛隊機に中国機が異常接近 防空識別圏重なる区域で」(朝日新聞14年5月25日)
中国機が自衛隊機に異常接近 防衛相「危険な行為」 」(日経新聞14年5月25日)
中国軍戦闘機が自衛隊機に異常接近」(NHK14年5月25日)

ですが、基本的に、そんなに騒ぐほどのニュースではありません。

中国機は、過去には米海軍のEP-3にぶつけるという海南島事件も起こしていますから、至近距離まで接近されたOP-3とYS-11EBの乗員は緊張したでしょうが、自衛隊機は中露の演習を監視に行っていたのですから、中国によるリアクションは織り込み済みだったはずです。

4年前には、自衛隊が行っていた演習に対して、ロシア機が同じように監視フライトを行い、自衛隊機がリアクションで上がるという、今回とは逆の状況が発生しています。
過去記事「ロシア軍機が日米共同統合演習を偵察 「客が来た!」

つまりは、お互い様な活動なので、注目すべき点は距離が近かったというだけです。
しかも、そこまで接近するということは、撃つつもりはなく、姿を見せて威嚇したかっただけです。

こう言った事例は、最近になって公表されるようになりましたが、空では自衛隊創設当時から続けられてきたことです。

しかし、自衛隊がそこまでの事を行っていると言うことが、国民に知られるのは良いことだと思います。
特に、対領侵措置でスクランブルする戦闘機パイロットの危険は、多くの人に認識されていましたが、今回接近されたOP-3やYS-11EBといった武装もなく速度も遅い機体であっても、相手が引き金を引きさえすれば命を失う危険な任務を行っているということが知られることは良い事ことですね。

ちなみに、報道に出ることは少ない画像・電波偵察機ですが、小説『黎明の笛』でも活躍しているので、チェックして頂けると有り難いです。


なお、各社の報道の内、NHKの報道では、小野寺防衛相が「日中の防衛当局間で、海上での安全確保について話し合うことは重要で、不測の事態を回避するためにも、海上連絡メカニズムの早期の運用開始を目指して、中国側に働きかけていく」とコメントした事を受け、「先月、海上自衛隊と中国海軍など太平洋地域の各国海軍は、相手の艦艇に射撃管制レーダーを照射するといった行為を避けるなどとした、不測の事態を回避するための行動基準を定め、合意していました」と報じ、偶発衝突防止の重要性をアピールしています。
が、皮肉?なことに、今回の事案は空の話なので、直接には関係しません。

空では偶発衝突防止策は不要なのか?という話があっても良いとは思いますが、海上に比べると空ではこうした話はあまり出てきません。
無線については国際緊急周波数があるので、昔から通話は可能だというような事情がありますが、その他にも”上がったら一人”、”恃むのは己のみ”というパイロットの気質が関係しているようにも思います。

こうした点では、空は未だにアナクロというか、侍の世界と言えるかもしれません。

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2014年3月21日 (金)

困難が伴う低速機対処(対領空侵犯措置)

前回の記事で、もう1本対領侵「マニュアル」関係の記事を書くと宣言しましたが、今回はそれです。

尖閣領空侵犯に「マニュアル」 空自着手、中国機念頭に強制着陸手順」(産経新聞14年1月29日)

意外に思うかもしれませんが、空自の戦闘機では、低速機への対処には困難が伴います。

 J10とともに領空に接近してきている中国情報収集機Y8は速度が遅い。空自のF15戦闘機が横並びでY8と長時間飛行することは難しく、多数のF15でY8を追い越しては後方に戻ることを繰り返すような誘導計画を作成。


Y-8は巡航速度で550km/hですが、尖閣上空を領空侵犯したY-12などは巡航速度でも300km/h以下です。
戦闘機の着陸速度は、250km/h程なので、これは着陸速度と大差ない速度です。
もしY-12が巡航速度以下でゆっくりと飛ぼうものなら、F-15が単純に速度を合せれば失速します。

無理しても横並びをするなら、いわゆるハイアルファと呼ばれる状態で飛行すれば飛べない事はありません。

冒頭にハイアルファパス、機首を上に上げてゆっくりと飛ぶ状態

しかし、これでは燃費が最悪で、長時間の追随は不可能ですし、この状態からは機敏な機動も不可能です。Y-8やY-12が機銃で撃ってくることでもあれば、落とされるのは空自機の方になりかねません。

そのため、マニュアルとして検討されているような、周辺で旋回を繰り返しつつ監視をする方法が適切となってきます。

対領侵の現場では、低速機対処が難しい事は以前から分かっていることで、私が現役自衛官だった当時も、冗談交じりに教育集団のT-3(当時、今ならT-7)を借りてきて使おうかなんて話をしていました。
T7
T-7(wikiより)

これは、冗談まじりではありましたが、結構本気でした。
後席搭乗員に機関銃を持たせ、射撃の必要があれば、キャノピーを明けて撃てば良いので、機体改造なしでも使えるななんて話をしていたのです。
ただし、曳光弾を使って警告するとなれば、50口径機関銃であるM2あたりを載せなくてはならず、とても手で持って射撃できるような代物ではないため、大がかりなマウントを作る必要がありますが、それにしても大した改造ではなく、部隊での工作で可能です。

当時は、必要性がそれほどなく、結果として「冗談交じり」で終わっているのですが、中国による低速機が多数接近してきている現在では、冗談抜きで検討すべき事項です。

これと同様の主張をする方は、他にもいらっしゃいます。
COIN機を中国UAV対策に。」(清谷信一公式ブログ)

ただし、この軍事評論家清谷氏の主張は、低速機対処にF-15では困難が伴うからではなく、燃料代や機体寿命の点でコスト面を考慮した主張です。

実際に、こうした低速機による領空侵犯に対し、低速飛行が可能な機体で行うとしたら、尖閣が那覇からかなり遠いため、T-7では航続距離と飛行可能時間の点で問題があります。(下地島や宮古・石垣が使えれば、T-7でもそれなりには使えますが)
そのための機体を空自が買うとしたら、清谷氏が主張するようなCOIN機を買うことになるでしょう。

しかし、そんな余計な金を使わずとも、やる方法はあります。
今は統合の時代、なにも対領侵だからと言って、空自にこだわる必要はありません。
陸自のLR-2、海自のP-3を使えば良いのです。
800pxlr2
LR-2(wikiより)
300pxkawasaki_p3c_orion_japan__navy
P-3(wikiより)

陸自や海自に対領侵をやらせるとなれば、規則類の整備だけでなく、訓練も必要になりますが、それさえも、簡単に済ませる方法もあります。
なにも、陸や海に全面的にやってもらう必要はなく、空自のパイロットが乗り込み、機体の操縦以外を彼等がやれば良いのです。
DCとの通信とパイロットへの指示に1人、警告射撃等を行うガンナーとして1人の計2名をLR-2やP-3に乗り込ませれば、簡単な訓練だけで対処を行なう事が可能になるでしょう。(クルーコーディネーションの訓練は、それなりに必要ですが)
LR-2もP-3も、機体サイズが大きく、M2を設置することも可能でしょうし、航続距離も十分です。
どちらも、那覇基地内にあり、必要な際に空自のパイロットが足で走ったとしても、数分もかからず機体に乗り込めます。

那覇から尖閣までが遠く、進出には時間がかかるので、初動はF-15で行い、途中からこれらの機体が引き継ぐ事になりますが、F-15だけで行うよりも、相手機に与えるプレッシャーは遥かに高くなります。

そのためのコストもほとんどかかりません。
マニュアルを作るだけではなく、対領侵措置への陸海自衛隊の投入も真面目に検討すべきだと思います。

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2014年3月16日 (日)

対領侵マニュアルは、有効な指針か、それとも害悪か?

空自が尖閣周辺での対領侵において使用するマニュアルを作成しているとの報道があります。
尖閣領空侵犯に「マニュアル」 空自着手、中国機念頭に強制着陸手順」(産経新聞14年1月29日)

中国による領空侵犯を懸念する方にとっては、歓迎したいニュースでしょう。

ですが、私はこのニュースを見て、眉を顰めました。
この「マニュアル」なるものが、果たして有益なモノになるのか、もっと言えば、部隊にとって邪魔なモノにしかならない可能性があるのではないか、と懸念するためです。

それは、端的に言えば、この「マニュアル」二人目の船頭にしかならない可能性があるからです。

対領侵については、訓令で実施要領等が定められています。
いずれも、中身は公開されていませんが、他の運用関係の規則類と同様に、あまり細かい規定はされていないハズです。
それは、規則類が細かすぎると、運用の柔軟性が損なわれ、実際の現場で発生する微妙な事象に対して、逆に適切な対処ができなくなるからです。

尖閣における対領侵では、実際の指揮官(意志決定者)は、南西航空混成団司令です。
しかし、この「マニュアル」”空自”として定めたのであれば、南混団司令の上にいる航空総隊司令さえもすっ飛ばして、空幕長が介入することになります。
しかも、”幕”の介入は、実態的には”内局”の介入となる可能性がかなりあります。

もし、この「マニュアル」策定の実態がそこにあるのであれば、これは空自の現場部隊にとって、害悪にしかなりません。現場を良く知らない内局が介入することになどなれば、最悪でしょう。

マニュアルでは、侵犯機を国内に強制着陸させる方法や手順を規定。

規定という表現が、記者が想像して書いただけであれば良いのですが、防衛省関係者の口からこの言葉が出たのであれば、本来は訓令や達を定める際に使用すべき言葉であり、要注意だと思います。

逆に、現在「マニュアル」と報じられていますが、単なるケーススタディであれば、政治的に微妙な問題であり、指針があった方が動きやすいですし、連携すべき警察や海保との意思疎通も図りやすくなるため有効だと思います。

問題は、この「マニュアル」なるものの位置づけです。
「マニュアル」が完成したとしても、ほとんど情報公開されることはないと思いますが、二人目の船頭でないことを祈るばかりです。

なお、冒頭の産経のニュース記事に関しては、別の観点での記事をもう1本書くつもりです。

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2013年12月 1日 (日)

小笠原諸島方面への防空識別圏拡大

日本の防空識別圏(ADIZ)には穴があります。
与那国の西側半分がADIZ外だった問題は、2010年に改善されていますが、竹島と北方領土は、領土問題と現状に照らし合わせて、ADIZから外されています。
が、問題はこの2カ所だけではありません。
小笠原諸島もADIZ外なのです。

日本の防空識別圏、小笠原まで拡大検討…防衛省」(読売新聞13年11月27日)

 小笠原の上空は、他国の航空機による領空侵犯の恐れが低いため防空識別圏を設定していなかった。中国が東シナ海に防空識別圏を設定したことをきっかけに、政府・自民党内で小笠原への範囲拡大を求める声が強まった。


主旨は分かります。
主権をしっかり主張して行くのは良いことです。

ですが、現場(自衛隊)を考えると、今頃航空自衛隊内では「どうせいっちゅうねん」と言われているように思います。

 防衛省は、周辺の自衛隊基地に緊急発進(スクランブル)のための戦闘機部隊の配置も検討。範囲拡大の時期は、中国を刺激しないよう慎重に検討する。防空識別圏は防衛省訓令で設定しており、法改正は必要ない。


周辺の自衛隊基地と言えば、硫黄島しかないでしょう。
恐らく常駐させるのではなく、太平洋方面に中国艦艇が進出した場合のみの措置でしょうが、だとしてもかなり大変なことです。

そして、さらに大変なのはスクランブルを行う戦闘機ではなく、監視の方です。

小笠原方面を見る事の出来る警戒監視レーダーは、千葉にある峯岡山と静岡の御前崎にあります。
これらのレーダーの捜索範囲は秘密ですが、基本的に地上のレーダーサイトの最大捜索範囲は400km程度です。と言うのも、地球の曲率のため、これ以上の捜索範囲があっても、通常の航空機の飛べない超高空しか見えないためです。
また、警戒管制レーダーではなく、航空管制用のレーダーが硫黄島にありますが、航空管制用レーダーは、主に出力の限界によりそれほど広い範囲は見えません。(航空管制用にはそれほど広い範囲が見える必要性がないため、出力の低いレーダーを置いている)
この航空管制用レーダーの捜索範囲も秘密ですので、これを仮に100kmとして、小笠原方面のレーダー覆域を図にしてみます。
(レーダー設置高度がそれぞれ違いますが、面倒なので統一して100mで計算)
Photo
警戒管制用レーダーについては、中央の円が高度1000m以上を、中間の円が高度6000m以上を監視できる範囲、外側の円が監視の限界である400kmの線とし、航空管制用レーダーは監視限界100kmとして描いています。

一目で分かるとおり、穴だらけというか、監視できる範囲など一部に過ぎないと分かるでしょう。
(この他にも国交省の航空管制用レーダーが空港のある島にはありますが、やはり狭い範囲です)
特に、中国艦の艦載機によって領空侵犯される恐れの高い沖ノ鳥島などは、次の図のような位置関係ですから、地上レーダーでの監視など、できるはずもありません。
Ryokai_setsuzoku2
海保のHPより

実効性のある監視を行うためには、ここでもAWACSが必要ということになりますが、保有機が少なく、ロードは過大になります。

警戒すべきは、前述の通り、中国艦の艦載機ですから、中国艦隊が太平洋側に進出する際には、海自護衛艦に貼り付いてもらい、レーダーピケット艦として運用してもらわないと、実態的な監視は不可能でしょう。
以前の記事でも書きましたが、レーダーピケットだけでなく、対領侵措置まで海自艦に行ってもらう方が適切かも知れません。

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2013年1月24日 (木)

防空識別圏(ADIZ)に関する誤解

以前にも書いた事がありますが、未だに誤解が蔓延っている、どころか、ほとんど正しい理解はされていない防空識別圏(ADIZ:アディーズ)について書きます。

小野寺防衛大臣の記者会見で次のようなやり取りがありました。
大臣会見概要(13年1月15日)

Q:中国の国防軍は、先週中国の軍の飛行機が中国と日本にある尖閣に入ったことに関して、「日本側の自衛隊の戦闘機が先に追跡をしたからだ」と、つまり「日本側が挑発をした」というふうに説明していますが、この説明に対する大臣のお考えをお聞かせください。

A:すみません、正確に今のお話なのですが、それは日本の領空に中国の公機、公の飛行機が入ったことが日本の航空機の追跡によるということなのでしょうか。

Q:東シナ海の上空において、中国の戦闘機が日本の防空識別圏に入ったといった報道がありました。この事実に関してはまず防衛省の方では公表はされていないかと思うのですけれども、しかし、日本側としては「中国の飛行機が入ってきたので日本の戦闘機も緊急発進した」というふうに説明しているかと思うのですが、それに対して中国の国防軍は「中国が正常にパトロールしている中で日本の戦闘機が追跡をしてきたので、日本側が挑発をした」と説明しています。

A:我が省からは正式に、例えば今言った戦闘機の話とかそういうことは公表しておりません。あくまでも私どもとしましては、通常の警戒態勢を日々行っているということでありますので、その範囲から抜けない活動をしているのだと思っています。


防衛大臣の記者会見における質問者が誰なのか承知していませんが、恐らく記者クラブの記者でしょう。
防衛に関して、全くの素人ではないはずです。
しかし、その記者にしても、ADIZを全く理解していません。

中国機の尖閣接近事例は頻発しているため、記者が質問した事例が、どの事例なのかハッキリしませんが、1月10日に発生した中国機(恐らくY-12だが裏付け情報なし)による日本領空接近に対して、那覇のF-15がスクランブルし、その空自機に対応する形で中国軍機が進出した事例を念頭に質問したと思われます。
日中の戦闘機がスクランブル発進、尖閣上空で一触即発―中国」(レコードチャイナ13年1月12日)

中国国防部の公式サイトによると、同部は10日、尖閣付近に戦闘機を緊急発進させた問題について説明した。

現在、中国は尖閣諸島について「海と空からの定期巡視」を実行していると主張している。10日、巡視の航空機が日本の防空識別圏に侵入したため、自衛隊のF-15がスクランブル発進。自衛隊機が接近してきたため、中国軍がJ-10戦闘機2機をスクランブル発進させたという。なおJ-10戦闘機は防空識別圏には侵入していないという。


この事例、日中の戦闘機が接近する事態になれば、確かに緊迫した事態にはなります。
ですが、最近のY-12の飛行態様を見る限り、この日も、Y-12は、それほど尖閣には接近していないと思われます。
そうであるならば、両国の戦闘機が接近したとしても、国際法的には、互いに何ら権利がない状態ですから、特に目くじらを立てるような事態でもありませんし、もし空自機が攻撃を受けるような事態になれば、中国の無法ぶりは明かで、政治・法的には日本はむしろ有利な立場になります。

領空は、国際法で認められた日本の主権が及ぶ範囲です。
一方、ADIZは、法的には何らオーソライズされていない
各国が勝手に決めた範囲です。

ウィキペディアの防空識別圏ページにも、明らかに間違った情報が載っています。

領空の外周の空域に防空識別圏を設定し、届けのない航空機が防空識別圏に進入した時点で空軍力による強制措置を含む対応がなされる。そのためのスクランブルは、当該機が防空識別圏に進入する姿勢を見せた時点で行われることが多い。


防空識別圏と対領空侵犯措置については、領空侵犯に対する措置に関する訓令及び達で記載されていますが、これらは公開されていません。

私が知る限り、防空識別圏について、ネット上で最も正しい情報が記載されている場所は、元空自の要撃管制官であり、現参議院議員である宇都隆史議員のブログです。
防空識別圏って?【決戦まで、残り46日!】」(宇都隆史オフィシャルブログ10年5月27日)

ADIZはあくまで識別圏であって、自衛隊の行動範囲や日本の主権の及ぶ領域を表すものではありません。つまり、この識別圏内を飛行する全ての飛行物体については、味方機(フレンドリー)なのか、敵機(ホスタイル)なのか、あるいは彼我不明機(アンノウン)なのかを航空自衛隊は識別しますという領域を設定しているに過ぎないのです。基本的にADIZの殆んどの範囲は公海上空なのですから、どの国にも自由航行権がありますし、他国にとやかく言われる筋合いはないエリアなのです。
中略
ADIZに通報なく侵入したからと言って緊急発進(スクランブル)の対象となるわけではありません。先任管制官が緊急発信を下令するか否かは、総合的な情報から、「領空防護の必要性」に基づいて判断されるのです。しかも、相手国が勝手に決めているADIZに侵入するのですから、別に許可など必要ないのです。(そのような法的義務はどこにも存在しません。)侵入の許可を必要とするのは、相手国の主権が及ぶ領空に侵入する場合です。しかし、例え公海上であるからと言って、許可なく領空に近づけば間違いなく要撃機による防空行動の対象となりますので、「公海上空だから問題ないだろう!」という飛行活動は、相手国の防空体制を強く刺激するので賢明とはいえません。


ADIZは、防空識別圏という名前が、実態を反映した名前となっています。
防空のため、この範囲に入った航跡は、ちゃんと識別しろという範囲です。

連日報道されているY-12の防空識別圏に進入しての飛行は、尖閣の領空まで、まだかなり距離があります。
それでも空自機がスクランブルしている理由は、以前の記事でも書いたとおり、那覇基地が遠いため、尖閣周辺まで距離があるため、Y-12が尖閣に進路を向けた場合、領空侵犯されてしまう恐れがあるためです。

ですが、宇都
議員が「総合的な情報から、「領空防護の必要性」に基づいて判断される」と書いているとおり、進路を領空に向けた場合、領空侵犯されてしまう恐れがあるケースでも、空自機は必ずスクランブルしている訳ではありません。

北方領土に対する領空侵犯は、無視するとしても、メドベージェフ首相による国後島訪問の際、同氏搭乗機は、方位を北海道に向ければ、容易に領空侵犯が可能な範囲を飛んでいたはずです。
しかし、空自はこの搭乗機にスクランブルはしていません。私は姿勢だけでも、行なうべきだと思ってますが、実際にやっていればロシアは大分強く反発したでしょう。

Y-12の飛行についても、実際に領空侵犯が発生し、首相から対処を厳格に行なう旨指示が出ているため、逐一反応していますが、私は感覚的にはそこまで一生懸命やらなくてもいいくらいじゃないかと思っているくらいです。

だからこそ、中国とすれば、その後に行なわれた戦闘機10機ほどによるADIZ進入事案につても、恐らく訓練だったでしょうから、空自の対応を逆に批判するような状態になっています。
中国戦闘機が日本の防空識別圏に侵入、新華社「言いがかりだ」」(サーチナ13年1月11日)
詳細が報じられていないので、訓練態様は分かりませんが、日本のADIZの内側にある中国のオイルリグを艦艇と見立てた対艦攻撃訓練でも行なっていたのではないかと想像しています。

ただし、中国の反応は、次の引用する部分も、後半は完全な宣伝になっているので、こちらには注意が必要です。

 日本の報道について、「誇張により情勢を緊迫させ、わざわざ危機をあおり高めている」と批判。日本の防衛識別圏については「そもそも法的な根拠がなく、国際法に違反している。釣魚島(尖閣諸島の中国側通称)は中国の領土であり、日本が釣魚島の主権を有すると認める国はない。米国も釣魚島は日本の固有の領土とは認めていない」と論じた。


色々と書いてしまったため、論旨が拡散しがちですが、結論としては、ADIZに進入(あえて侵入とは書かない)した程度では、最近の報道が報じる程ヒステリックになる必要はないし、その権利もないということです。

対領空侵犯措置では、主権の範囲である領空さえしっかり守っておけばOKです。

再び、冒頭の記者会見です。

Q:今の件に関連してなのですけれども、結局、戦闘機が防空識別圏の中に複数入ったということで我々は報道していますし、情報も掴んでいるのですが、防衛省が「公表していない」と言って、中国の国防部というのはマスコミに対してそういうアナウンスメントをするわけで、今後防衛省として、こういった事案について積極的に公表していくということをやられるのか、今回の事案のことが起きても、引き続き防衛省として公表しませんということで済ますのか、どうなのでしょうか。

A:私どもは、日本の領土・領空・領海を守るという仕事でありますので、そのことを目的に活動させていただいております。公表できる事案につきましてはしっかり公表していきたいと思いますし、また反面それが逆に我が国の様々な能力ということも相手側に分かられてしまう内容でもございます。私どもとしては、しっかり対応しているということで、ご理解をいただきたいと思っております。

Q:公表するかしないかの基準というのは、以前、多分何かで作ったものがあると思うのですが、昨今の尖閣を巡る事案というのは、中国側の行動というのが変わってきている、事態が変わってきている中で、過去作ったルールに則したものでいいのでしょうか。

A:まず、公表させていただいておりますのは、特異的な事例ということ、それがあった場合に、公表させていただいております。また今後、この特異的なという判断がどういう形でなされるかは、今後も検討していく課題だと思っております。


防衛省としても、ADIZに進入したダケの事例まで、一々公表しないということです。

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2012年12月16日 (日)

尖閣の領空侵犯に対する対策

中国機が尖閣周辺空域を領空侵犯しました。
この事件に対するアプローチには、何をすべきかという話と、何ができるのか(できないのか)という話があると思います。

(自制の効いた)何をすべきなのかという話を書ける人はいくらでもいるので、私は(自制などせず)何ができるのかについて書いてみます。
久々のロング記事です。分割掲載も考えましたが、本日の選挙に間に合わせたかったので、一挙掲載します。
おつきあい下さい。

まず最初に、一部で問題視されている航空自衛隊が領空侵犯に気が付かなかった事について、触れておきましょう。
自衛隊、中国領空侵犯探知なぜできぬ 「レーダー死角」解消策は2年前から「検討」」(JCASTニュース12年12月14日)

   政府の発表によると、海上保安庁の巡視船が2012年12月13日11時6分頃、中国のプロペラ機1機の領空侵犯を確認し、無線で領空外に出るように求めた。4分後の11時10分頃、領空外に飛び去ったという。航空自衛隊では海保からの連絡を受けてF15戦闘機8機とE2C早期警戒機1機を現場に向かわせたが、現場に着いた時には、すでに飛び去っていた。


この尖閣上空の監視に問題があることは、以前の記事「与那国島上空のADIZ再設定は大したニュースじゃない」(10年5月31日)でも簡単に触れました。

それよりも更に問題なのは、与那国だけでなく、尖閣上空なども含めて「見えないし、間に合わない」と言う事です。
言うまでもなく、これは与那国に一番近いレーダーサイトが宮古島であり、スクランブル発進する飛行場が那覇だということです。
レーダーサイトが遠すぎるため、高高度でも近くに来てからでなければ見えないし、低高度であれば全く見えません。


そして、同年10月には防衛省も重い腰を上げ始めます。
那覇へE-2Cローテーション配備 尖閣周辺防空網の欠陥を改善」(10年10月7日)
この時には、尖閣上空では、2000m以下が宮古のレーダーで監視が不可能であることが明らかにされています。

が、実際に措置が講じられ始めたのは、やっと今年になってからです。

那覇基地における早期警戒機(E-2C)の整備基盤を整備(空自)(2億円)
・南西地域において早期警戒機(E-2C)を常続的に運用し得る態勢を確保するため、整備器材等を取得

24年度の予算の概要」から

この措置は、25年度も継続される予定で、概算要求には同じ内容で少額(7千万円)が計上されています。

なお、23年度にも移警隊展開関連の予算が投入されてますが、石垣島への展開なので、平時の尖閣上空の監視強化にはあまり有意な変化がない施策でした。

この措置によるE-2Cの配備で、今回の領空侵犯事案でもE-2Cが飛行したようですが、以前の記事で指摘した通り、常時監視には程遠い状態で、監視の間隙を突いて領空侵犯されています。

今回の事案を受け、岩崎統合幕僚長は、「できるだけAWCAS(早期警戒管制機)、E2C等を使った補完をしていかなければならない」と述べたそうですが、”できるだけ”と逃げの言葉が挟まれているとおり、空自の全AWACS、E-2Cを投入しても、尖閣上空に常続的監視網をしくのは、まず無理です。(器材的にも、要員的にも、とてもローテーションが回りません)

物理的に、安定的な常続監視網を敷くためには、魚釣島にレーダーサイトを設置するか、海保あるいは海自艦を尖閣周辺に常に遊弋させ、いわゆるレーダーピケット艦として活用しないと不可能です。
しかし、政治的に問題もある海自艦艇の投入ができればいいですが、海保の場合は次の2点が大きな問題として残ります。
①識別:海保は自衛隊、米軍が使うIFF(モード4)による識別ができない。
②連接:データリンクできない。

という訳で、海自の人には「また仕事を増やすつもりなのか!」と怒られそうですが、海自艦艇を尖閣周辺に貼り付けるべきだと思います。

続いて、監視ができたとしても、対処の問題が残る事について書きます。
前掲の過去記事でも、尖閣上空の対領侵には、那覇からでは間に合わないと書きました。
これについては、下地島の必要性を書いた次の記事で詳述しています。
下地島空港を自衛隊が使用する効果

興味のある方は、この記事を読んで頂きたいところですが、この時に作成した次の地図を見れば、
大体事足ります。
Photo
那覇-尖閣間の距離は、中国大陸-尖閣間の距離とほぼ同じです。
つまり、例え尖閣周辺に海自艦をピケット艦として配置しても、那覇から対領侵機が上がったのでは、まず間に合わないのです。

これに対し、もし現状の体制で対処するなら、尖閣までとは言わずとも、那覇と尖閣の中間地点あたりで、常にCAP(戦闘空中哨戒)を行なわなければなりません。
しかし、普通に地上待機を行なうのでさえ、現在の83航空隊の勢力では困難で、そのために2個飛行隊化して航空団に格上げしようとしているのですから、常時CAPなど、2個飛行隊化したところで不可能なことは分かって頂けるでしょう。
ちなみに2個飛行隊化に向けては、25年度の概算要求でも「那覇基地における戦闘機部隊の2個飛行隊化に向けた所要の施設整備を実施(34億円)」となっており、施設整備さえこれから行なう状態ですから、如何に道のりが遠いか分かると思います。

政治を無視して書けば、前掲の地図を見て分かるとおり、対領侵機は、下地島を利用して前進待機させなければなりません。
沖縄(特に先島)の方は、尖閣の実効支配が危うくなり、いずれは自分達が脅威にさらされる事を良しとするか、屋良覚書を破棄するか選択することが必要です。

ですが、最初に政治を無視して書くと言ったのですから、他にも策があることを書いておかなければなりません。

それは、前述のレーダーピケット艦とすると書いた海自艦艇に対領空侵犯措置まで行なわせてしまう事です。
現在、海上自衛隊は対領空侵犯措置を行なっていません。ですが、空自に対領空侵犯措置を行なわせている根拠である自衛隊法84条には”自衛隊の部隊”と書かれているだけで、海自がダメとは書いていません。

(領空侵犯に対する措置)
第八十四条  防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 (昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。


正確には、対領空侵犯措置ではありませんが、空自のパトリオット部隊も、いざという時に備えて地上待機を行なっていますし、過去には陸自のホーク部隊さえ地上待機を行なっていました。

防衛大臣が、海自部隊にも対領空侵犯措置の任務付与をしてしまえば、海自艦艇でも対領空侵犯措置が可能なのです。

法律の問題に触れたので、法的に物理的な対処が可能なのかも書いておきましょう。
まず、国際法的には、大韓航空機撃墜事件への反省から、民間機についてはハイジャックされたのでも無い限り、撃墜する訳にはいきません。
ですが、今回のように中国政府が運用する機体は、国際法的には撃墜することさえOKです。この点は、公船に対して、一切手出しできない船とは全く状況が異なります。

一方、国内方的には、現状の自衛隊法84条に関する政府見解では、今回のように領空を侵犯しただけでは撃墜することは不可能です。
ですが、射撃を含む警告を行なうことは可能です。
撃墜もできるよう、自衛隊法の改正も必要でしょう。

次に、海自艦艇が物理的に対領侵を行ないうるのかについて考えてみます。
イージス艦はこんごう型、あたご型6隻しかなく、先日の北朝鮮のロケット騒ぎにも駆り出される中、それこそローテーションが無理じゃないかと思う方もいるかもしれませんが、対領侵を行なうだけなら、イージスなどのミサイル護衛艦(DDG)だけではなく、汎用護衛艦(DD)でも十分です。

DDの中でも艦齢の古いはつゆき型でも、射程26kmのシースパローを備えており、12マイル(21.6km)の領空を守るには十分です。

それに、対領空侵犯措置は、警告射撃を行なう必要からも、ミサイルよりも艦載砲の砲が便利です。
はつゆき型などは、76ミリ砲しか備えていないため、射程が少々苦しいですが、撃墜するよりも警告として使うケースの方が遙かに多いことを考えれば、76ミリ砲でも事足ります。
それこそ、発煙弾をばらまいてやれば、肝を冷やすでしょう。
たかなみ型以降は127ミリ砲を搭載していますから、尚良しです。

最初に断った通り、今回の記事は政治を無視して書いています。
ですが、逆に言えば、政治決断さえできれば、今回の事件を受けて一部報道が示したような、領空侵犯されながら、何もできないことで実行支配が危うくなる事態は回避できます。

それを政府が行えるようになるか否かは、本日の衆院選挙で決まります。
投票に行きましょう。
でも、くれぐれも日本の防衛をズタズタにした某党に投票しちゃダメですよ。

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2010年10月19日 (火)

海保関連2題

海保関連で2つほどニュースがあったので、軽く紹介します。

【代表質問】首相が尖閣防衛の海保に「適切な警備」と謝意」(朝日新聞10年10月8日)
本当に「適切な警備」をやっていると認識しているなら、なぜ彼らが拿捕した漁船の船長を起訴させずに解放するのか?
全く筋が通ってない。
「現場職員の士気低下が懸念されていることへの配慮とみられる。」と報じられていますが、菅氏が首相をやっている以上、士気は低下して当然です。

海保:体制強化 巡視船を整備へ 経済対策に盛る」(毎日新聞10年10月8日)
海保が来年度予算で概算要求している巡視船の新規整備費が今年度補正予算案に前倒しで計上されるそうです。

複数年での調達とは言え、1000トン型巡視船4隻と中型ヘリコプター4機で72億だそうです。
自衛隊装備の金額になれていると、海保の装備は安いと感じますね。

政府が日和っている以上、次に尖閣周辺で衝突が起こる時には、彼ら海保が体を張って被害を受けてもらわなければ、政治的に十分な主張ができません。
この程度の予算措置は積極的にやらないといけないと思います。

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