F-22は、昨年4カ月半もの間、飛行停止措置が取られました。
パイロットに酸素を供給する機上酸素発生装置 (OBOGS=Onboard Oxygen Generation System、オボグス)に不具合があり、パイロットが低酸素症に陥る可能性があるためでした。
2010年の11月に発生したF-22の墜落事故は、この不具合による低酸素症が原因と見られています。
部品の不具合→飛行停止措置は、良くある話で、飛行停止措置が解除になったため、対策が出来たのだろうと思っていましたが、有効な対策が採られないまま飛行再開されていたようです。
そのため、パネッタ国防長官が、F-22の飛行制限と対策の実施を指示しました。
「F22戦闘機パイロットに低酸素症の懸念―米国防長官が対応を指示」(ウォールストリートジャーナル12年5月17日)
F-22の訓練飛行については、今後飛行距離が制限される。パネッタ長官はまた、予備の酸素供給システムの開発を急ぐとともに、緊急着陸できる範囲内に飛行を制限するよう命じた。
OBOGS搭載機は、OBOGSの不具合に備えて、小さな液体酸素ボトルemergency oxygen supply (EOS)を搭載しています。ですが、あくまで緊急用で、基本的にマスクを外しても問題ない高度まで降下するためのものです。
そうなると今度は巡航高度まで高度を上げられないため、場合によっては基地に帰るまで燃料が保たないという問題が発生する可能性があります。パネッタ長官がF-22を基地周辺での運用に限るという制限を課した理由も、こういう理屈からでしょう。
改修がなされれば、今後、F-22は、事実上OBOGSを2台積むことになるんでしょうね。
さて、前記記事内容に戻ります。
空軍はF-22の操縦を拒否したパイロットもいることを認めている。また同機の墜落で死亡したパイロットの未亡人は訴訟を起こした。
低酸素は非常に怖いものです。
パイロットが、機械的な警報が無い場合、努力や注意で回避できるものではありません。
それにも係わらず、2010年のF-22墜落事故原因が、パイロットエラーとされていることなどからすれば、乗りたくないと言い出すパイロットが居ることは、あたりまえにも思えます。
低酸素症(Hypoxia)については、また別の機会に詳しく書きたいと思いますが、自覚症状としては、ちょっとほてった感じがする、頭がボーとする、体がだるい等、で呼吸が苦しいというような事は全くありません。(呼吸の苦しさは酸素不足ではなく、二酸化炭素過多によるものです)
その一方で、簡単な計算ができなくなるなど、知能活動が低下します。しかも、恐ろしいことに知能低下しているので、知能低下していることを自覚することは難しいという事態に陥ります。
2010年のF-22墜落事故では、パイロットのジェフリー・ヘイニー大尉が、OBOGSの作動停止後、適切にEOSを作動させず、誤って(EOSを作動させるつもりで)機種下げ操作をしたため墜落したと結論付けられています。
他にも多数のパイロットが低酸素を訴えていることを考えれば、この時も低酸素症のため、パイロットが正常な判断力を失っていたと考える方が妥当だと思いますが、なんとも酷な調査結果です。
「F-22 oxygen system malfunctioned moments before crash 」(Flightglobal11年11月10日)
The accident investigation board still blames the accident on the pilot, Captain Jeffrey Haney, who failed to activate an emergency oxygen supply (EOS) that could have saved his life and the aircraft.
中略
The investigators said Haney failed to activate the EOS during the 31s period after his normal oxygen supply became restricted.
中略
The report concluded that Haney inadvertently pointed the aircraft at the ground while trying to activate the EOS, a procedure that calls on the pilot to pull up on a small ring tucked into the side of his ejection seat.
Simulator tests later concluded that this manoeuvre may have led to inadvertent stick or rudder movements.
The investigators ruled out loss of consciousness as a possible cause, despite possible oxygen deprivation.
ウォールストリートジャーナルの記事に戻ります。
空軍はまだ問題の原因究明には至っていない。ホィーラー氏はパイロットが訴えた症状について、酸素欠乏でなく、汚染物質あるいは毒素が原因であることを示す証拠もあるという。
OBOGSが生成する酸素に、エンジン排気が混じった可能性があるようです。
OBOGSの生成する酸素に排気が混じれば、燃焼しきっていない燃料が含まれていた場合、最悪空中爆発などの事故も想定されます。
そのため、前掲のFlightglobalの記事にもありますが、F-22は、排気が混じった可能性があれば、OBOGSを停止させるように作られているようです。
F22は昨年飛行が再開された後、1万2400回出動したが、その間にパイロットが体調不良を訴えたのはわずか11件だった。空軍関係者によると、症状の発生率がこのように低いため、原因解明が遅れているという。
再現性の低い不具合ほど、原因究明が難しいトラブルはありません。
パネッタ長官が指示したとは言え、この不具合は、長期化する可能性が懸念されます。
ちなみに、航空自衛隊機では、F-2とT-4がOBOGSを搭載していますが、F-22と違い、排気が混じる可能性はないので、日本での心配は無用でしょう。
最近のコメント