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防衛予算

2015年11月 8日 (日)

H28概算要求-その5_10式戦車調達は3両のみ!_自己変革能力を伸ばした防衛省

H28の概算要求では、地味ながらも注目すべき点がありました。
10式戦車の調達数量がわずか3両になったことです。

図らずも、過去記事「H25概算要求-その5_10式戦車はせいぜい3両でOK」や「戦車に引導を渡す機動戦闘車」で主張・予言したことが現実となった訳ですが、注目すべき理由は、これではありません。

この調達数量低下は、防衛省が自己変革能力を身につけた証左と見るべきだからです。

上記過去記事では、私が3両でOKと言いつつ、そんなことはできっこないと見ていました。
それは、過去記事「自衛隊の無謬性と自己変革能力」を見て頂けば分かると思います。
調達計画を大きく変更しようとすると、財務省が「では、今までの計画は間違っていたということですか?」と言ってくるため、変更することが困難だったのです。

10式戦車についても、2009年に制式化し、まだ72両しか生産されていません。
調達数量を3両に落とせば、退役までの総生産量が200両に届くことはありえないでしょうし、100両に届くかさえ怪しくなります。
560両生産された61式戦車、870両あまりが生産された74式戦車、340両あまりが生産された90式戦車と比べれば、非常に少ない数で、高額の開発費を投じて新規開発したことは失敗だったと言わざるを得ません。

しかし、それで良いのです。
10年一昔どころか、20年先を見越して開発するのですから、ある意味失敗があって当たり前です。
もちろん、税金を使う以上、失敗をしない努力は必要ですが、失敗を認めずに無駄を続けるよりも、失敗を認めて方向転換すべきなのです。

ですが、上記の財務省との関係もあって、防衛省・自衛隊の自己変革能力は疑問符を付けなければならないものでした。

それが、戦車という非常に象徴的な装備の調達において、失敗を認めて方向修正を図ることができるようになったというのは、評価すべき点だと思います。

経済性を考えれば、3両ではなくゼロにすべきところですが、国内新規開発ではなく、ライセンスだった戦闘ヘリ、AH-64アパッチの調達によるゴタゴタで富士重工が防衛省を提訴したように、10式もゼロにすると防衛産業との関係が悪化します。
上記過去記事で、私が3両と書いたのも、3両くらい調達しておけば、関係維持ができるだろうというドンブリ感情の結果です。

今後、10式の調達は、しばらくは3両程度で推移し、10式に引導を渡した形になった機動戦闘車の現場での評価なども見ながら、どこかで打ち切りになるのでしょう。

失敗を認めて、方向修正を図るのは、自己変革能力を持った健全な組織として、妥当な行動です。

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2015年10月20日 (火)

H28概算要求-その4_本格的空母の必要性

来年度の防衛省概算要求を見ていると、いずれ、本格的な空母が必要となりそうな予感を抱かせられます。
防衛省・自衛隊は、既に導入を見据えているようにも見えました。

空母は、建造にも運用にも莫大なコストがかかるため、戦域が日本周辺に留まるのなら、私は基本的に反対です。
ですが、集団安全保障の行使に踏み切った以上、戦域が日本周辺に留まるのなら、という条件は、必ずしも当てはまりません。

そうした政治的な理由だけではなく、H28の概算要求を見ていると、DDGによる防空だけでは、足りないのではないかと思わせられます。

それは、現在でも相当進行している海自のヘリ重用が、さらに強まる内容になっているためです。

○ 哨戒ヘリコプター(SH-60K)の取得(17機:1,032億円)
○ 哨戒ヘリコプター(SH-60J)の機齢延伸(2機:10億円)
○ 多用途ヘリコプター(艦載型)の取得【機種選定中】
○ 新哨戒ヘリコプターの開発(295億円)

冒頭の2ページ、海自ヘリ関係だけで4件、1337億円も要求されています。
そして、これが冒頭2ページに来ているということは、それだけ重要な要求だと考えられているということです。

また、陸自に配備されるオスプレイが、おおすみ型やいずも型などで運用される可能性も、ヘリの重用と言えます。

現代の水上艦運用は、艦載ヘリがないと成り立たない状況になっています。
静粛性が向上した潜水艦の探知は、ヘリ頼みといって良いほどですし、水平線の彼方から飛来するシースキミングミサイルの警戒にも、ヘリが欠かせません。
もちろん、対艦戦闘を行うための目標捜索にも使えます。

多くのヘリが、艦艇を離れて、つまり艦艇よりも前進して運用されることになりますが、このヘリに対する防空を、固定翼機なしに行う事は困難です。
現在の防空用SM-2では、実効的な射程は、とてもヘリを防護するには心許ない数値です。

SM-6が配備されれば、かなり条件は改善しますが、中国のステルス機開発や空対空ミサイルの性能向上を考えると、将来的には、とても十分とは言えないでしょう。

そうなると、固定翼機を運用せざるを得ないのですが、集団的自衛権行使が可能になったとは言え、空自部隊の海外展開運用は政治的なハードルは、相当高いと言わざるを得ません。

コストが高く付いても、F-35Cの導入とカタパルトを備えた本格的な空母が必要になるかもしれません。

防衛省・自衛隊が、空母導入を念頭に置いているのではないかと考えた理由には、実は、もう一つの要求がありました。

○ 新早期警戒機(E-2D)の取得(1機:238億円)
南西地域をはじめとする周辺空域の警戒監視能力の強化のため、新早期警戒機を取得

AWACSよりも老朽化しているため、E-2の更新が検討されることは、ある意味当然なのですが、E-2からAWACSに切り替えるという選択もあるなか、E-2の更新とした理由には、元々艦載機であるE-2の空母上での運用が、念頭にあるのかもしれません。

さらに、これは、勘ぐりすぎかもしれませんが、F-Xの選定でタイフーンが落とされた理由も、艦載機化が見えないせいだったのかも知れません。
F-35であれば、AとCの違いはあれ、共通点が多く、運用上も整備補給上も、対応は容易です。
一時期、F-18が有力視されていた理由の一つだったと考えることもできます。

来年あたりには、空母保有の有効性を検討する研究なんかが盛り込まれてもおかしくないかも知れません。

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2015年10月10日 (土)

H28概算要求-その3_鮮明な対中国路線

防衛白書等でも路線がハッキリしているので、当然と言えば当然ですが、来年度の概算要求にも対中国路線が鮮明に現れています。

その2で書いた、陸自の海兵隊化も、投入場所の想定は、尖閣や先島を始めとした沖縄の島嶼ですから、相手は言わずもがなの中国ですし、その他の項目でも、やはり対中国を意識している要求事項が多くなっています。

海兵隊化と同様に、戦場を南西諸島・東シナ海を念頭においた要求は、中国が想定脅威です。

○ 新哨戒ヘリコプターの開発(295億円)
浅海域を含む我が国周辺の海域において対潜戦の優位性を確保するため、複数のヘリコプターとの連携により、敵潜水艦を探知する能力等を付与した哨戒ヘリコプターを開発

○ 与那国島の沿岸監視部隊に関連する施設の整備(76億円)

○ 南西地域における移動式警戒管制レーダーの展開基盤の整備(3億円)
移動式警戒管制レーダーの展開基盤を奄美大島に整備することにより、隙のない警戒監視態勢を保持

○ 戦闘機部隊等の体制移行の実施
・南西地域の防衛態勢の強化を始め、各種事態における実効的な抑止及び対処を実現する前提となる航空優勢の確実な維持に向けた態勢を整えるため、戦闘機部隊の体制移行の実施
・築城基地の戦闘機部隊を2個飛行隊とするとともに、新田原基地のF-4部隊と百里基地のF-15部隊を入れ替え
・航空自衛隊の戦術技量の向上を図るため、戦技研究や関係部隊への指導を実施する飛行教導群を広大な空域に隣接する小松基地に移動

○ 南西警備部隊の配置(194億円)
島嶼防衛における初動対処態勢を整備するため、警備隊等の配置に関連する

○ 輸送機(C-130H)への空中給油機能付加(12億円)
島嶼部に対する攻撃への対応等における十分な捜索救難活動の範囲及び時間を確保するため、救難ヘリコプター(UH-60J)に対する空中給油機能の付加改修に必要な
改修用部品を取得


展開・輸送能力の強化も、政治的な理由や訓練用地の確保が難しい等、平時から多くの部隊を置くことが難しい沖縄地域に戦力を投入することが大きな目的であり、対中国を意識したモノだと言えます。

○ 新空中給油・輸送機の取得【機種選定中】

○ ティルト・ローター機(V-22)の取得(12機:1,321億円)
・輸送ヘリコプター(CH-47JA)の輸送能力を巡航速度や航続距離等の観点から補完・強化するティルト・ローター機を整備し、水陸両用作戦における部隊の展開能力を強化
・長期契約による一括調達により、12機のティルト・ローター機(V-22)を確実に調達するとともに、調達コストを縮減
・その他教材等関連経費等(219億円)

○ 輸送機(C-2)の取得(1機:229億円)
現有の輸送機(C-1)の減勢を踏まえ、航続距離や搭載重量等を向上し、大規模な展開に資する輸送機(C-2)を取得

○ 機動戦闘車の取得(36両:259億円)
機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団・機動旅団)等に航空機等での輸送に適した機動戦闘車を整備し、作戦基本部隊の機動展開能力を強化


また、沖縄からは離れますが、小笠原における珊瑚密漁で問題化した太平洋側島嶼の防衛問題も、脅威は中国しかありません。

○ 太平洋側の島嶼部における防空態勢の在り方に関する検討(0.6億円)
太平洋側の島嶼部における防空態勢の在り方に関する検討を推進するため、調査研究を実施


同様に、展開能力に資する要望としては、陸上総隊の新編準備もあります。

○ 陸上総隊(仮称)の新編に向けた準備
陸上自衛隊における全国的運用態勢強化に資する統一司令部を新編するため、これに係る関連事業を計上
・陸上総隊(仮称)司令部庁舎等の整備(朝霞)(92億円)

一般の方には分かりにくいと思いますが、現在は、各方面総監が大臣直轄であるため、戦力を方面をまたいで展開、指揮移管をする場合は、大臣が命令を出さなければなりません。陸上総隊ができれば、多忙な上、専門知識が少ないため、判断してもらうために多くの報告をしなければならない大臣ではなく、知識豊富な、陸上総隊司令官が迅速に判断し、部隊を動かせます。

さらに、ここまで言うと、うがち過ぎかもしれませんが、次の要求は、ちょっと注目しています。

○ 可変深度ソーナーシステムの開発(97億円)
護衛艦に搭載する新たなソーナーシステムとして、層深下に潜航した潜水艦の探知類別能力を向上させるため、えい航式ソーナーにアクティブソーナーの機能を付加し、複数の護衛艦で相互連携による捜索を可能とする可変深度ソーナーシステムを開発

注目しているのは、バイスタティック能力を得ようとしている部分ではなく、探知”類別”能力を獲得するためとしている点です。
中国の原潜は、探知も類別も容易です。ですが、中国が12隻も運用しているキロ級は、静粛性が高く、パッシブ探知が困難です。
アクティブで探知した場合は、そうりゅう型やおやしお型と類別することが難しく、対潜艦艇にとって厄介な存在です。
この要求は、中国のキロ級対策でしょう。
また、場合によっては、自衛隊艦艇が南シナ海に展開する場合、ベトナムのキロ級と中国のキロ級を識別する必要さえでてくるかもしれません。

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2015年9月17日 (木)

H28概算要求-その2_沖縄のための陸自の海兵隊化

陸自の海兵隊化の動きは、現大綱が出た頃から始まっていますが、来年度の概算要求では、これでもかと言うほどになっています。

関連する項目をピックアップしてみましょう。

装備面では、12機ものオスプレイを一気に調達しますし、水陸両用車であるAAV7も、11両の調達を進めます。

水陸機動団関連の施設整備にも、AAV7の取得費用以上のお金をかけて整備します。

○ 水陸両用作戦関連部隊等の整備(109億円)
・水陸両用車部隊の拠点整備(崎辺)
・水陸機動団(仮称)関連施設の整備(相浦)


大規模な訓練関係でも、米海兵隊との共同訓練や統合着上陸訓練が実施されます。

〇米国における米海兵隊との実動訓練(アイアン・フィスト)
米国カリフォルニア州キャンプ・ペンデルトン周辺海域に陸上自衛隊部隊を派遣し、島嶼部での作戦に必要な戦術・戦闘及び米海兵隊との相互連携要領を演練
○ 国内における統合訓練の実施
水陸両用作戦に関する自衛隊の統合運用能力の向上を図るため、南西諸島等において、着上陸訓練等の実動演習を実施


陸自装備ではありませんが、AAV7を運用するため、海自のおおすみ型輸送艦の改修も行われます。

開発関連では、米海兵隊が、オスプレイやヘリでの空中機動を重視しているように、前述のオスプレイ大量調達だけでなく、UH-Xの共同開発にも多額の予算が投入されます。

○ 新多用途ヘリコプターの共同開発(122億円)
・現有装備(UH-1J)の後継として、各種事態における空中機動、大規模災害における人命救助等に使用する新多用途へリコプターを開発


編成面でも、水陸機動教育隊(仮称)の新編が盛り込まれています。

かたや、陸軍らしい装備については、10式戦車の調達が、ついに年3両まで絞られ、替わりに機動戦闘車が36両も調達されることになっています。
これは、着上陸装備ではないものの、機動戦闘車の調達が、”島嶼部に対する攻撃への対応”用として”迅速な展開・対処能力の向上”の項目で記載されているように、陸自の海兵隊化と目的を一にした調達だとみることができます。

この陸自の海兵隊化は、別記事で細かく書く予定ですが、対中国シフトの鮮明化にリンクしています。

海兵隊化は、中国による侵略から島嶼部(沖縄)を防衛するための、陸自のトランスフォームなのです。

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2015年9月 7日 (月)

H28概算要求-その1_総評

今年も、夏の風物詩、概算要求の季節となりました。

例年、防衛省の概算要求をレビューしてますが、去年は最終回が11月になるほどサボってしまったので、今年はさっさと見ていきたいとおもいます。

平成28年度概算要求の概要

28年度は、平成25年12月に決定された現『防衛計画の大綱』に基づく3年目となります。
そのため、資料冒頭で示される考え方にも、現大綱のとおり、統合機動防衛力の構築、実効的な抑止及び対処、グローバルな安全保障環境の改善等を、着実に行うとされています。

中身を見ても、名実違わず、大綱に沿った防衛力整備を目指しているようです。

具体的な内容が始まる2ページ目以降を目にして、最初に感じる印象は、やはり海空重視です。
冒頭の2ページから7ページに、重複分を含めて見て39ほどの事業が掲載されていますが、陸自関係は4つしかない上、その内の2つは、11式短距離地対空誘導弾と12式地対艦誘導弾の取得であり、陸自装備ではあるものの、対空・対艦装備です。

自衛官定数でも、海空は増員ですが、陸は削減です。
実員増は目指していますが、海空とほぼ同数の160名程度であり、もともとの母数を考えれば、海空ほど実員増を目指していないことは明かです。

予算額では更に明確で、海自+8.3%、空自+4.6%に対して、陸自は-2.1%です。

次に感じるのは、直接に敵を撃破する装備、いわゆる槍の穂先と呼ばれる装備が少ないことです。
替わりに目立っているのは、”考え方”の中で重視するとされた警戒監視能力、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力などです。

これは、大綱の中で、”実効的な抑止及び対処”を目指すとされたためです。
基盤的防衛力を目指していた従来、敵を撃破する装備ばかりを多数配備し、目標を発見したり、それを味方に伝達する機能が乏しく、結果として”実効的ではなかった”反省に基づいています。
槍の穂先ばかりではなく、槍の柄も装備するようになったということです。

この他、少し驚かされたのは、安倍政権の肝いりだからだと思いますが、30ページあまりの主要施策のページ中で、女性の活躍を支えるための施策の推進に、まるまる2ページも割かれていることです。

さっくりですが、総評は以上です。

この他、トピック的な話題は、その2以降でレビューします。

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2014年11月 6日 (木)

H27概算要求-その6_その他

やっとの事で今回のシリーズ記事最終回です。

最後は、その他トピック的な要求を、取りまとめて書きます。

やはり強襲揚陸艦は大型か?
○水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能

艦艇の在り方について検討するための海外調査(5百万円)

この案件で海外調査となったら行く先はアメリカしかなく、アメリカで現存し、見る対象となる強襲揚陸艦と言ったら最も小型(と言っても現存3級は、どれも似たようなサイズですが)のタラワ級でも、満載排水量で4万トン近くになる大型艦です。
以前の記事「強襲揚陸艦と集団的自衛権の素敵な関係」で書きましたが、もし多機能艦艇が装備されることになれば、軽空母としての運用ができるような大型艦になりそうな可能性が高くなってきました。

佐賀・長崎にデッカイ飴
○水陸両用作戦関連部隊等の整備(190億円)

新編される水陸機動団及び作戦関連部隊の展開基盤
に係る用地取得経費及び調査費等を計上
・ティルト・ローター機の拠点整備
・水陸両用車部隊の拠点整備
・水陸機動団関連施設の整備

これも、以前の記事「オスプレイ配備は、ナゼ佐賀空港なのか?」で書きましたが、配備候補地の佐賀・長崎にデッカイ飴をぶら下げてきました。
用地取得と調査費だけで190億円ですから、実際に部隊ができれば、地元には相当の利益を、長期的にもたらすだろうと思われます。

海上輸送の増強
○民間海上輸送力の活用に係るPFI事業(354億円)

自衛隊の輸送力と連携して大規模輸送を効率的に実施できるよう、民間資金等を活用した民間船舶(フェリー2隻)の長期安定的な確保及び活用

やっと!、ついに!と言う感じの要求です。
これも、「民間高速輸送艦をPFI方式で有事使用」などで言及してきました。
モノはともかくとして、乗員の身分がどうなるのか、興味深い所です。

黎明期を脱するNBC対策
○NBC兵器による攻撃への対処

・NBC偵察車の取得(1両:7億円)
・化学剤検知器(改)の取得(76式:3億円)
・各種線量率計の取得(40式:1億円)
・NBC警報器の取得(1組:2億円)
・個人用防護装備の取得(9,200組:18億円)
・化学防護衣の取得(912着:2億円)
・新除染セットの取得(8両:5億円)
核・生物・化学(NBC)攻撃等における大量の人員や装備品の汚染等に迅速に対処して被害の拡散や2次被害等を最小限にとどめるため、各種の除染能力を強化

冷戦期、西側諸国は、抑止戦略により、NBC兵器を使われない事を追求していましたが、ソ連(当時)や中国は、核戦争に勝利する事を目指し、本気で核を使う事を念頭に、文明が後退する程のダメージを負っても戦うつもりでした。
ソ連や中国がそういう考え方である以上、前線である日本は、NBC対策に本気にならなければならなかったはずだったのですが……日本の場合は、お寒い状況でした。
やっと、黎明期を脱し、本気で体制整備を始めるようです。

仕切り直すUHX
○新多用途ヘリコプターの共同開発(10億円)

・現有装備(UH-1J)の後継として、各種事態における空中機動、大規模災害における人命救助等に使用する新多用途ヘリコプターを開発
・効率的な開発を進める観点から、国内企業と海外企業が共同で行う民間機の開発と並行して実施

これからの陸自のワークホースとして、私は反対しませんが……この要求内容を見ると、やはりこれも、清谷氏あたりは反対しそうですね。
実際、輸入ではダメで、国産にしなけばならない理由を付けることは難しいように思います。
もう、経産省にも金を出させた上で、堂々と国内航空機産業の育成・保護だと言った方が良い気がします。

バックアップになる?
○市ヶ谷庁舎被災時の代替機能の整備(3億円)

首都直下地震による被災に備え、朝霞駐屯地を代替地として活用し得るよう同駐屯地情報通信基盤の拡充等

太平洋戦争当時、松代大本営があったとおり、バックアップの指揮所は必要です。
しかし、市ヶ谷のバックアップとして、朝霞は近すぎるのではないかという気がします。
もちろん、あまり遠すぎると移動が困難で機能しないのですが、それにしても近いな~と感じます。

なぜ奈良?
○自衛隊の展開拠点確保に係る基本構想業務(福井・奈良)(8百万円)

広域防災拠点となり得る自衛隊の展開基盤を確保し、大規模災害への実効的な対処体制を確立するため、基本構想業務に係る経費を計上

福井は、原発銀座があるので理解できるのですが、何故奈良に災害時の展開拠点確保が必要なのか、疑問です。
何となく想像できる理由としては、全国の都道府県の中で、陸海空合せても、唯一部隊と呼べる部隊が全く無い県だからでしょう。
空自の幹部候補生学校はあるのですが、みんなひよこですし、装備もないので、災害派遣を行っても、土嚢運びくらいしかできません。
しかし、別に他府県から来ても問題ないはずです。必要性は疑問です。

貧乏な自衛隊
○災害時における機能維持・強化のための耐震改修等の促進(303億円)
自衛隊の施設は、キレイに整備されているところも増えてきましたが、ボロいのも、まだまだ多くあります。
それらの中には、消防署の点検で、「危険だから使うな」というご指導を頂いてしまう施設もある状況なので、耐震改修は必要です。

将来はガンダム?
○双腕作業機の取得(2両:0.6億円)

大規模災害等に対応するため、人命救助及び瓦礫等の除去などに柔軟に対処可能な双腕型の作業機を整備し、大規模災害等への対処能力を検証

日立建機の双腕式油圧ショベル「ASTACO」(アスタコ)を買うみたいですね。
日立建機のアスタコは、開発者がガンダム好きだったと言う程なので、自衛隊がガンダムやレイバーを使う日もくるのかもしれません。
“ガンダム好き”の研究者が開発 日立建機の双腕式油圧ショベル

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2014年11月 1日 (土)

H27概算要求-その5_自衛隊は沖縄からの撤退を考え始めたのか?

27年度の防衛省概算要求は、納得のできる内容が多いのですが、これだけは疑問だと強く思う要求があります。
それがこれです。

○南西警備部隊の配置(34億円)

島嶼防衛における初動対処態勢を整備するため、警備隊等の配置に関連する奄美大島の用地取得経費等を計上


島嶼防衛の初動対処態勢を整備するという理由で、陸自の配備が進められている訳ですが、これは以前から石垣での配備を念頭に言われていたものです。
石垣、宮古島でしたら、初動対処態勢を取るための整備として理解できます。

しかし、奄美は沖縄本島よりも後方です。
これでは、初動対処用として機能するか、甚だ疑問です。

自衛官OBの軍事評論家、文谷数重氏も、疑問を提示しています。
奄美は無意味と言わない不思議

 南西諸島に新しく警備部隊を置く発想だが、中国と台湾に見せつけるだけのものに過ぎない。

 その部隊を、奄美大島に置いても意味は無い。既に沖縄本島には部隊が置いてある。その本土よりに部隊を置いても、見せつける効果はない。それなら、沖縄本島の部隊を増強したほうが安く上がるし、機動力も持たせられるので良い。


それでも、奄美に陸自を配備しようとする以上、初動対処態勢という建前以外の本音があるはずです。

与那国での地元の反応に嫌気がさした陸幕は、石垣や宮古で苦労したくないため、歓迎してくれている奄美を選んだ可能性は考えられます。
しかし、初動対処の役に立たない以上、わざわざ新たな駐屯地を作ることまでする本音は、陸海重視の最近の傾向に対して、陸自の勢力維持を図るためだと思われても仕方がないくらいです。
実際に、そう言う思考の陸上自衛官も、恐らくいるでしょう。

しかし、もう一つ考えられる可能性があります。
沖縄知事選に沖縄の独立を唱える方が出馬意向を示すなど、琉球新報や沖縄タイムスといった地元紙の誘導や中国からの観光客増という経済的な実利も相まって、日本から離脱して、中国の一部になった方が良いと思っている沖縄県民が増えてきているのかもしれません。

沖縄県による調査では、対中意識は相当に悪く、現時点で日本から離脱して中国の一部に入ろうなどと考えている人は、極少数だと思いますが、オピニオンリーダーである地元メディアがそう言う方向ですから、方向としてはそちらに動いている可能性もあります。
参考過去記事
昨年に続く「沖縄県民の対中意識調査」結果と沖縄世論形成
沖縄県民は反米・親中なのか?_沖縄県民の対中意識調査結果

なお、沖縄の独立は事実上の中国の属国化であり、いずれは吸収される公算が大だと思っていますから、沖縄県民が気づいているか否かは別として、沖縄の独立は、中国への編入であると、私は認識しています。

この点を勘案すると、防衛省は沖縄を放棄することを念頭に、奄美に最終防衛ラインを構築しようとし始めたと考えることもできます。

だとすれば、陸自の奄美配備は、大多数の沖縄県民にとって、危惧すべき事態のはずですが、今のところ、そう言う話は聞えてきません。

沖縄県民の見解を聞いてみたいものです。

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2014年10月27日 (月)

H27概算要求-その4_分かりにくい統合

概算要求と言えば、夏の季語なのに、気が付けば11月が目の前……ということで、概算要求ネタを急いでやっちゃいます。

このシリーズの2回目に「H27概算要求-その2_SSMへのリンク搭載に見る陸自作戦構想の変化」と言う記事を書きました。
そこで、地味で分かりにくい内容ながら、陸海空3自衛隊の統合を進めるための要求が多かったと書いたのですが、SSMへのリンク搭載は、分かりやすい内容の要求でした。

そこで、今回は、本当に分かり難い統合に関する要求をピックアップしてみたいと思います。

まずは、指揮関係を2つ。
○陸上総隊の新編に向けた準備

陸上自衛隊における全国的運用態勢強化に資する統一司令部を新編するため、これに係る関連事業を計上
・陸上総隊司令部(仮称)庁舎等の整備に必要な調査等(3億円)
・陸上総隊の新編に向けた準備態勢の確立(準備室の設置)


海自の戦闘機能は、自衛艦隊司令官が指揮しています。空自の戦闘機能は、航空総隊司令官が指揮しています。
ですが、陸自の戦闘機能は、5つの方面隊司令官(北部、東北、東部、中部、西部)が指揮しています。
空自と海自は、それぞれ一人の指揮官ですから、連携が容易なのですが、陸の場合は地域別なため、特に戦略機動が必要なケース(関東地方の戦力を沖縄に展開するなどの場合)で調整が煩雑なのです。
意向が同じなら簡単ですが、得てして意向は異なります。
「沖縄に戦力増強が必要だ! VS 首都防護用の戦力は抜く訳にはいかない!」などという相克は、当然のごとく生じるわけです。
こうなると、意志決定が遅れ、場合によっては途中で変わるため、大変です。
陸自にも、一人の指揮官がいれば、この点が改善できることから、陸上総隊創設は、相当昔から俎上に上っていた改編事業でした。やっと、実現に漕ぎ着けるようです。

○海上作戦センターの整備(自衛艦隊司令部等の新庁舎)(10億円)

陸自・空自、米軍、関係省庁と緊密に連携し、各種の事態に、より効果的かつ円滑に対応できる態勢を確立するため、横須賀の船越地区に海上作戦センターを整備(整備の第1期工事として、敷地造成を実施)


クイズです。
海上自衛隊の戦力は、自衛艦隊司令官が指揮しています。では、指揮所はどこでしょう?

当然、自衛艦隊司令部がある横須賀基地の船越地区な訳ですが、必ずしもそうではないことがあります。
自衛艦隊には、かつて自衛艦隊の旗艦が存在し、有事となれば、自衛艦隊司令官はこの旗艦に座乗して指揮を執ることになっていました。当然、指揮所は、この旗艦だった訳です。
1963年に、自衛艦隊司令部が陸上に移転し、それまで自衛艦隊旗艦だったあきづきは、護衛艦隊の旗艦となりました。指揮所も、陸上に移転したのです。

が、しか~し、海自(のエライ方)の考えでは、指揮官は艦上にあるべしという考えのようで、その後もイザとなれば、乗艦して指揮を執るという考えでした。
指揮官先頭は旧海軍からの伝統ですし、統率という観点からは良いのですが、正直言って、現代ではナンセンスでしょう。

現在、弾道ミサイル防衛の統合任務部隊指揮官は、航空総隊司令官が務めることになっています。
しかし、当初の検討時、実は自衛艦隊司令官と航空総隊司令官の間で綱引きがあったのです。

空自の切り札は、開発していたJADGEでした。
方や海自は、ウチにもMOFがあると言ってました。
MOFで弾道ミサイル防衛をやるという時点で「冗談はよせ!」だったのですが、その点は、技術的問題を踏まえて折衝していました。

で、ある時、「では自衛艦隊司令官が指揮を執りMOFで処理をする場合、データは船越に回せばいいんですね?」と言う話になりましたが、いや指揮官によっては、艦に座乗するので、その場合は、データは艦に送って欲しいという話が出てきました。
流石に、「冗談はよせ!」とは口には出しませんでしたが……

とまれ、自衛艦隊の指揮所は、艦上になる可能性があるためか、陸上の指揮所は、あまり立派とは言えません。
それを、今回やっと陸上に腰を落ち着け、航空総隊司令官、陸上総隊司令官と、しっかりとした通信が取れる環境として、海上作戦センターを整備することになったようです。

指揮の他にはもう一つ、空地間の連携関係を見てみます。
○戦闘機(F-2)JDCS(F)※搭載改修(2機:7億円)

※ JDCS(F)(Japan self defense force Digital CommunicationSystem (Fighter) ):自衛隊デジタル通信システム(戦闘機搭載用)

Jdcs

デジタル通信システムという名前なので、ボイスの通信にも見えますが、地上側はタブレット端末みたいなものになるようです。
これにより、戦闘機側では目標情報を得ることができ、恐らくJDAMへのインプットなんかも簡単な操作で出来るようになるのでしょう。
また、各種資料には書かれていませんが、友軍位置なども当然表示可能となり、誤爆撃の可能性を減らせると思われます。

移動中の車両を狙うことはLJDAMがないと難しいですが、通常のJDAMだけでも、恐らく、ノドンハントにも効果的でしょう。

地上側端末では、CAS機の位置情報が確認できるようです。
これで、携SAMによる地上からの友軍誤射の可能性も減らせるはずです。

○対空戦闘指揮統制システムの取得(28億円)

島嶼部における経空脅威に対処するため、対空戦闘指揮統制システムを整備


以前からあるDADS(ダドス)の後継として、師団規模だけでなく、大は方面隊、小は旅団規模にも対応するシステムとして要求されています。
これも、CASを行う空自機に対する友軍誤射を防ぎながら、効果的な対空戦闘を行うための装備です。

ただ、意義は理解するものの、果たして本当に効果的な装備になるのかは、正直言って疑問です。
詳しくは書けないので伏せますが、技術的には多種の装備を連接するため、マッチングを取るのが非常に困難ですし、自動化しきらない部分で人間に対する負担が大きく、運用面でも使いこなせる人間を養成できるのか、正直言って疑っています。
現実には、一方送信みたいな使い方しかできないのではないかと思います。

何にせよ、いろいろと課題はあるでしょうが、3幕が協同して戦闘する態勢に向けて、態勢整備を進めるようです。

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2014年10月18日 (土)

H27概算要求-その3_リンク運用も実戦対応

このシリーズ記事の前回「SSMへのリンク搭載に見る陸自作戦構想の変化」において、リンク搭載が効果的だと書きました。

リンクの価値は高いモノがあります。
しかし、それに伴う困難は、ミリタリーマニアはもちろん、自衛官にも必ずしも認識されて来ませんでした。

27年度の概算要求では、本当に戦える自衛隊を作るために、やっとリンクを本当に使えるモノにするための施策が盛り込まれました。

・米軍委託教育による人材育成(0.8億円)
リンク機能を運用する隊員を育成するための人材育成費を計上


携帯電話が普及したせいなのか分かりませんが、リンクは、スイッチさえ入れれば必要なデータが入手できる機械だと思っている人が多いと思います。
ですが、実際のリンク運用は、大変な苦労の上に成り立っています。

リンクは、電波を用いたデータ電送ですから、確かに携帯・データ通信網に似ています。
しかし、軍用のリンクが、これらと大きく異なるのは、流動的な戦域においいて、流動的に加入してくる局間での通信をさせる点です。

分かりにくい表現になってしまいましたが、一言で言えば、携帯電話網であれば、高いビルの屋上などに、しっかりとした設備が設けられている基地局設備が、軍用リンクの場合は、動き回る上に、戦域に出たり入ったりする事が大きく異なります。

代表的なデータリンクであるリンク16の場合、F-15やパトリオットは、携帯電話の端末ですが、AWACSやイージス艦は、携帯電話で言えば、基地局に近い存在です。
端末が、網に出たり入ったりすることは、その端末がリンクに入れるかどうかだけなので、大した問題ではありませんが、基地局となると大事です。

リンク16の場合、UHF帯を使用していますから、見通し外通信はできません。
イージス艦は、長期に渡って戦場に留まれますが、地表上のユニットとは、ちょっと距離が離れただけで連接できなくなります。
AWACSの場合、1万m以上の高度を飛行していますから、広範囲のユニットと連接可能ですが、戦域に留まれる時間は限られます。
しかも、各局がそれぞれに通信できる相手局の数にも制限があります。

これは、単に無線がつながるというだけではなく、電送するメッセージの内容にも関係しています。例えば、戦闘機は、自機・友軍機のステータスと敵機の位置情報ぐらいで十分ですが、AWACSの場合は、指揮統制を行うために、もっと細かい情報をリンクでやり取りします。

リンク構成の担当者は、これらを勘案して、何日の何時何分からは、どのユニットを基地局にして、この範囲をカバーし、別のユニットが系に入ったら、元のユニットは系から出ても構わないというような見極めを行い、場合によっては部隊運用に注文を付けなければなりません。例えば、対空監視用ではなく、リンク連接のためにAWACSを滞空させるなどです。

それに、F-15とイージス艦が連接されるのですから、海空自間の調整が必要ですし、SSMもリンクを搭載すれば、陸自との調整も必要です。
また、日本周辺では、米軍も同じ企画のリンクを使用しますから、そちらとの調整も必要です。(米軍は、非常に勝手ですし……)

細部は分からなくても、大変そうだというのは、何となく分かるかと思います。
演習なら、この見極め調整を何日も前から行えますが、実戦ではこれらは極めて流動的になります。
演習対応でも激務な仕事です。
リンク運用に長けた人材を多数育成しておかないと、とても実戦はおぼつかないでしょう。

例として、リンク16を上げましたが、リンクには様々な種類があります。
統一すれば良いだろうと考える方が多いと思いますが、様々なリンクが併存している理由は、導入時期の問題もありますが、リンクの性格(性能とは違う)に依っているので、今後も複数のリンクが在り続けるでしょう。

一般的に言って、高度な情報をやり取りすることが可能なリンクは、運用が困難です。
逆に、やり取りする情報は少ないが、運用が容易で、系を構成することが難しい環境にあるユニットを連接することが可能なリンクもあります。
リンク16は、高度で困難な方です。

現代戦は、これらリンクを使いこなさなければ、勝てません。
以前、何かの記事で、これからは通電職域隊員の地位が上がるだろうと書きましたが、この米軍委託教育を受けた隊員が、将来の自衛隊を支えて行く人材になるはずです。

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2014年9月23日 (火)

H27概算要求-その2_SSMへのリンク搭載に見る陸自作戦構想の変化

来年度の防衛省概算要求で目立っていた事の一つに、地味で分かりにくい内容ながら、陸海空3自衛隊の統合を進めるための要求が多かった事があります。
しかも、その内容を見て行くと、陸自の作戦構想の変化が見て取れるものが、多く要求されていました。

その中で、最も象徴的な要求が、12式・88式地対艦誘導弾に対するリンク機能導入です。

・陸上自衛隊へのリンク機能導入に係る調査・研究(0.4億円)
陸・海・空自衛隊のリアルタイムによる目標情報等の共有を実現するため、主に陸上自衛隊地対艦誘導弾システムへのリンク機能導入に係る調査・研究費を計上

Photo
我が国の防衛と予算-平成27年度概算要求の概要-より

この要求は、地対艦ミサイルの”実質的”射程を、大幅に延伸するものです。
12式・88式地対艦誘導弾の射程は200km弱と言われていますが、現状では、目標情報は捜索・標定レーダー装置によっています。

このレーダー装置を沿岸に置き、目標を捜索する訳ですが、石垣島の於茂登岳に置いたとしても、標高500mしかありませんので、目標艦の高さが30mとしても、100km先の目標しか発見できません。
西表島なら450mとして95km、与那国島なら200mとして70km、宮古島では100m程しかありませんから55km先までしか発見できず、当然攻撃もそこまでしかできません。
実際には、山頂付近までレーダー装置を持って行くことはできませんから、射程は更に短くなります。
Photo_2

リンクを搭載すれば、この射程が、ほぼスペック通りの数値になります。
実際の運用では、単に到達させるだけでなく、ミサイルを命中させるために工夫も必要になりますが、リンクを搭載すれば、海空自と同時弾着を狙う協力も可能になりますから、この意味でも意義があります。

これだけ効果のありそうなリンク導入が、”なぜ今まで導入どころか、検討さえされてこなかったのか”という理由にこそ、陸自の作戦構想の変化を見る事ができます。

この要求が、陸自作戦構想変化の一端である図式は、海及び空自は、以前から同じ戦場で戦う事を想定していながら、陸自だけが、同じ敵を想定していても、同じ戦場を想定していなかった事にあります。
ここで言う戦場は、具体的には、場所もさることながら、時間軸です。

端的に言えば、海空が敵の侵攻を洋上で撃破するつもりだったのに対して、陸自は、海空自が壊滅した後に、敵が行う着上陸侵攻を、沿岸及び内陸で迎え撃つ事が作戦構想だったと言うことです。

88式地対艦誘導弾のwikiには、次のような記述があります。

江畑謙介は、水平線の向こうを捜索できないレーダーの特性上、JTPS-P15に捜索標定を依存する陸上自衛隊の運用法では、十分な運用ができないとして批判。これからは捜索標定に無人航空機(UAV)などを活用すべきであると主張した。
中略
同ミサイルの運用は沿岸に接近した敵艦を内陸深くから発射地点を隠して攻撃するものであり、沖合の艦隊を攻撃するために長射程を有している訳ではない。


つまり、12式・88式地対艦誘導弾の長射程は、陸から遠く離れた目標を攻撃するためのモノではなく、捜索レーダー以外のシステムを内陸に隠すことで、ミサイルの生残性を高めるためのものでした。
射程だけでなく、威力も桁違いのため、狙う目標は大型艦ですが、地対艦ミサイルの陸自の運用構想は、対舟艇ミサイルと大差なかった訳です。

この事は、防衛省の資料にも書かれています。
Photo_3
防衛省HP「わが国防衛の現状と課題

このような運用構想だった地対艦ミサイルにリンクを搭載すると、彼我双方にとって存在意義が変わります。
150km
射程150kmとし、主要島嶼に配置した場合の射程

尖閣諸島周辺で紛争が発生した場合、中国海軍は尖閣周辺の海上優勢確保を狙うでしょうが、リンクなしであれば、地対艦ミサイルは、無視はできなくとも留意しておくだけで、特に対処せずに放置しても構いません。
しかし、リンクが装備されれば、海上優性確保のためには、必ず事前に潰しておかなければならない存在になります。

従来の陸自の作戦構想では、敵による着上陸作戦備えるため、着上陸部隊が接近するまで、戦力は温存されていなければなりませんでした。
そのため、沿岸から遠く離れた目標を攻撃するためのリンクは、不必要であるどころか、それを装備することで、早期に敵の攻撃目標とされるため、ある意味邪魔でさえあった訳です。

また、着上陸侵攻が行われる状況が生起するとしたら、それ以前に海・空自は、ほぼ壊滅していますから、リンクを装備したところで、目標情報を送ってくれる航空機も艦船もないハズでした。

こうした理由から、効果的であるはずでありながら、リンクは検討さえされてきませんでした。

この図式は、陸自の高射特科の使い方や空自の近接航空支援にも見られます。
参考過去記事
これが陸自の生きる道
陸自高射特科の全般防空使用は試金石

陸自は、島嶼戦を戦うため、従来の敵による着上力作戦が行われるまでは、戦力を温存するという作戦構想から、早期に攻撃目標とされても、海空自とともに統合作戦を戦う方向に作戦構想を変えて来ています。

概算要求には、この他にも多数の統合関係、陸自の作戦構想に関わる要求がありましたが、地対艦ミサイルネタだけで長くなってしまったので、それらについては、このシリーズの次回に回したいと思います。

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