ソマリア沖の海賊対策に海自艦艇の派遣が検討されています。
しかし、海自の派遣は、自衛隊法82条(の1)に規定されている海上警備行動を根拠とする方向で調整されています。
海上警備行動を根拠とする理由は、法改正の必要性は認識しつつも、法改正には時間がかかるためですが、さまざまな限界があります。
最も問題な点として報じられている点は、保護する対象が日本籍船、日本の事業者が運航する船及び外国船に乗船している日本人に限られることです。
また、現場において、これ以上に問題となりそうな事項は、海上警備行動は、警察権の行使として本来は海上保安庁が行う任務を代わって行うものであるため、強力な火器を持っていても武器使用権限などは警察並にならざるを得ないことです。
このことが、12月25日の記者会見で、増田防衛次官が「海上警備行動時の権限と、海賊対策での武器使用とには差があるように感じる」と発言した理由です。
「海上における警備行動に関する訓令」等の関連規則は公開されていないため、詳細はご紹介できませんが、基本的に海上警備行動時の(武器使用)権限は、自衛隊法九十三条ににおいて「警察官職務執行法(第7条)に準じる」と規定されています。
(なお、自衛隊法第93条の3において準用されることが規定されている海上保安庁法第20条の2では、警察官職務執行法第7条よりも、武器を使用する条件が緩和されていますが、この規定は我が国の内水又は領海での規定であるため海賊対策には使えません)
警察官職務執行法第7条は、次のように規定されています。
********************
(武器の使用)
第七条 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
一 死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
二 逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
********************
法文を読んだことのない方には、はなはだ辛い文章かもしれませんが、ものすごく大雑把に言うと、相手の状況に応じて、やりすぎない範囲でのみ武器を使用して良いという規定です。
これは、「警察比例の原則」と呼ばれる物で、この原則が在るゆえに、警察による拳銃使用がニュースとして流れる度に、警察が「適正な銃の使用だった」とアナウンスするわけです。
警察比例の原則については、詳しいサイトが沢山あるので、興味のある方はそちらをご覧下さい。
この比例の原則があるため、海自が派遣される場合、相手に危害を与える射撃(いわゆる危害射撃)については、正当防衛もしくは緊急避難の場合に限られるなど、海賊を相手とするには難があることが予想されます。
ソマリア沖の海賊については、相当に重武装であることが報じられており、RPGなどを所持していると考えるのが妥当ですが、発見した海賊が、発砲もせずに逃走した場合、いきなり機関砲弾を叩き込むわけには行きません。
不審船事案と同様に、相手が相当の抵抗の意思を示さない限り、如何に強力な火器を持っていても使用できない訳です。
また、海上警備行動における権限には、海保が司法警察官として実施する捜査や逮捕、送検などの権限などは含まれていません。
そのため、海自艦艇に海上保安官が同乗することが検討されています。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090103/plc0901030108000-n1.htm
実力行使の部分は海自が行い、その後の処置は同乗する海上保安官が実施するという、なかなかの妙案だと思います。
(このニュースが流れるまでは、巡視船も行かなければ無理か、と思ってました)
なお、清谷信一氏は、自身のブログで、自衛隊の警務隊も司法警察官なので、海上保安官が乗り込む必要は無く、海保が縄張り争いでこんなことを言い出したと書いています。
http://kiyotani.at.webry.info/200901/article_3.html
ですが、警務隊は基本的に部内の犯罪に対してしか司法警察権がないため、民間船舶に対する海賊行為を、犯罪として処置することはできません。
(海自艦艇に対する抵抗については処置できる)
このように、海自が海賊対策を海上警備行動として行うには様々な問題があります。
自衛隊の海外派遣は、今までも多くの問題があるまま派遣されてきたケースがほとんどです。
その都度、現場の努力で乗り越えてきた訳ですが、今の政治のドタバタを見ると、またしても同じ様相になりそうです。
最近のコメント