撤収判断は妥当なのか_ゴラン高原PKO
UNDOFに派遣されている自衛隊のゴラン高原PKO部隊が撤収するとのこと。
「ゴラン高原PKO、年内にも撤退へ シリア内戦激化受け」(朝日新聞12年12月8日)
野田内閣は7日、中東・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に国連平和維持活動(PKO)で派遣する自衛隊の部隊について、年内にも撤退を始める方針を決めた。UNDOFはイスラエルとシリアの停戦を監視するが、シリアの内戦激化で自衛隊員に危険が及びかねないと判断。国連とも調整し、関係閣僚が協議して決めた。
自衛隊員に危険が及びかねないとの判断だそうですが、ゴラン高原で起こっている戦闘は、UNDOFが引き離し監視を行なっているシリア正規軍とイスラエル軍との間の戦闘ではありません。
朝日の記事にもあるとおり、シリア内戦の余波です。
戦闘が発生している理由は、シリア反体制派が安全地帯として同地域を利用した事に端を発します。シリア正規軍がイスラエルとの停戦合意からゴラン高原に入り込めないからです。
その結果、シリア政府軍が停戦合意を無視してUNDOF展開地域に侵入攻撃しています。
UNDOF兵士は、眼前でシリア政府軍と反体制派の戦闘を目撃しているようですが、シリア、イスラエル間の戦闘ではないため、見ているだけです。
UNDOFが標的として攻撃を受けた訳ではありません。
しかし、反体制派とすれば、戦況が不利になれば、シリア正規軍がUNDOFを攻撃できないことを理由として、それこそUNDOFの後方に回り、UNDOFを盾にすることもあるかもしれません。
また、シリア内戦の経過によっては、ゴラン高原にシリア難民が押し寄せる事態になるかもしれません。
そうなれば、UNDOFが武装難民も混じるであろう難民の管理もせざるを得なくなります。
もし、UNDOFが武装難民のコントロールをできないような事態に陥れば、イスラエル北部を正確に砲撃可能な高台であるゴラン高原をイスラエルが武装勢力の根拠地として放置する訳がありません。
自ずとイスラエルが地上侵攻することになります。
それを考えれば、確かにゴラン高原のPKOは危険です。武装難民が押し寄せる事態にでもなれば、物資を狙ってUNDOFの輸送部隊が襲撃を受ける可能性も否定できません。
しかし、事態はまだそこまで行っていませんし、何より自衛隊部隊は6月からシリア側宿営地への輸送業務を6月から停止しています。
つまり、自衛隊PKO部隊に危険が及ぶ可能性は大きいとは思えません。
今回の撤収決定に当たっては、制服組から撤収を求める声が上がっていたとのことですが、輸送や施設部隊である以上、駆けつけ警護を求められるような事はないはずですし、法的にも自衛戦闘なら可能なのですから、撤収が妥当とは思えません。
危険があるから止めるというなら、最初から自衛隊である必要性さえ無かったはずです。
UNDOF全体が撤収するなら構いませんが、「危険だから俺は帰るよ」と言って自分だけ引き下がる自衛隊を見て、他国部隊が何と言うか懸念を持ちます。
こう言う事を行なうと、今まで築いてきた他国PKO部隊の信頼は、一瞬で地に落ちかねません。
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