防衛情報を公開する意義
先日の記事「米海軍が注目した自衛隊無人潜水艦の正体」に対して、防衛省がこう言った情報を公開することは不適切ではないかというご意見を頂きました。
「秘密の新兵器にしておいた方が効果的だろう」という訳です。
世界初の実用的ステルス機として開発されたF-117などは、50機以上が配備されるまで、その存在が秘密にされていましたし、至極当然な考え方です。
しかし、日本の場合、予算取得を行う上で、完全に秘匿することが難しいという側面もありますが、新兵器開発の軍事情報を公開することにも、それなりの理由があります。
大雑把に分けると、理由は二つです。
一つは、抑止力として機能させるためです。
当然ながら、敵を抑止するためには、その兵器が敵にとって脅威だと認識されないといけません。
その性能が、ある程度敵に理解され、敵に恐怖を与えて初めて抑止力となりますから、こうした目的の場合、性能が類推できる程度のスペックや特徴、それらが推測可能な外観等が公開されます。
ただし、抑止目的の場合、今回のようにこれから開発する兵器では、用を成しません。
基本的に、実運用が近くなった、もしくは実戦配備された兵器です。
これから開発する兵器の場合、その情報を公開する軍事的な目的は、敵に対する対抗策の強要、あるいは非効率な軍拡競争への引きずり込みとも言えます。
今回の無人潜水艦であれば、中国は、騒音が酷いと言われる原潜はもとより、静粛性が高いと言われる一部のキロ級通常型潜水艦も含めて、静粛性を高める努力をしなければならなくなるでしょう。
もちろん、数の問題もありますが、この情報を得た事だけでも、無人潜水艦開発の成否に係わらず、こうした努力(つまりお金)が必要になります。そして、それは無人潜水艦を開発するコストよりも、恐らく高いモノになるでしょう。
また、同種の兵器を開発させることにもなりますが、我が国に技術的アドバンテージがある現状では、同じ性能のモノを開発するコストは、中国の方が高く付きます。
今回の様に、燃料電池による無人潜水艦なんて誰でも考えつくものですし、浮力調整による水中グライダーも、原理は単純過ぎるほど単純ですから、性能を問わなければ、作ろうと思えば誰でも作れる代物です。だからこそ、隠そうとしても無理がありますし、広範な技術力が高い方が良いモノを作るには有利であり、自分が流す血(お金)よりも多くの血(お金)を敵に流させることができます。
この効果を狙った情報公開の事例として、もっとも有名なモノはレーガン大統領によるSDI演説でしょう。
SDI演説自体は、情報公開というより決意表明に近いものでしたが、当時既にレーザー兵器等は研究が始まっており、SDI演説により、これらを加速することが決定されたため、当時のソ連は対策を講じざるを得なくなりました。
(ソ連ファンが多かった)日本の報道では、当時も、そんなモノを作っても、核兵器とその運搬手段である弾道ミサイル等を増やせばいいだけ、あるいは回避機動を取るなど対抗手段を講じる事は簡単だというようなディスが多くなされましたが、結局、ソ連はその軍拡に応じることができず、政治的に核軍縮に向かう結果となっただけでなく、SDIは、ソ連を崩壊させ、冷戦を終結させるためのトドメともなったとも言われます。
具体的には、エネルギアやブラン等の金のかかる宇宙開発に多額の費用をかけなければなりませんでしたし、情報が出てこなかったものの、弾道ミサイルの宇宙空間における軌道変更や赤外放射低減のための研究はせざるを得なくなったはずです。
とは言え、防衛省の情報公開は、こう言った戦略的発想よりも、なんとか予算を付けてもらおうと言う意図の方が大きいとは思いますが、それでも各国の軍関係者は、上記のような要素を勘案し、政治的・経済的要素も勘案して、(自らに都合の良い範囲で)情報を公開します。
と言う訳で、防衛情報を公開する意義は、それなりにあるのです。
最近のコメント