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先島防衛

2013年11月26日 (火)

中国による尖閣上空への防空識別圏設定の意味と対策

中国が尖閣上空に防空識別圏(ADIZ:アディーズ)を設けたことで、ニュースが賑わっています。
これに関しては、日中双方に思い違いがあることで賑わっている側面があると思いますので、今回は、その思い違いと中国の真意に注目して書いてみます。

 

このニュースが(日本で)賑わっている一番の原因は、防空識別圏(ADIZ)とは何なのかという点に関する、マスコミを含めた大多数の日本人の誤解にあります。
この誤解については、以前にも記事を書いてますので、興味のある方は過去記事「防空識別圏(ADIZ)に関する誤解」をご覧ください。

 

ADIZは、実際に対応を行う自衛隊にとっては、名前の通りの空域です。
防空(Air Defence)識別(Identification)圏(Zone)であり、防空を行うために識別を行う範囲です。
つまり、識別を行うだけの空域だという事です。
一方、広大な空域を指定しているADIZに対して、強制力を行使できるのは、領海基線からわずか12マイル(21km)しかない領空の範囲だけです。

 

ですが、マスコミを含め、ADIZは、無許可で侵入した他国の航空機に対し、スクランブル機が撃墜を含む強制力を行使できると誤解している人が非常に多数いらっしゃいます。
(中国側でも6割の人が撃墜すべきと答える等、完全に誤解されているみたいですが)

 

確かに、ADIZに侵入する無許可の航空機に対しては、自衛隊は警告を与えます。
ですが、それはあくまで「領空に侵入するな!」との警告であって、ADIZに入ったこと自体には、警告も抗議もしません。(領空外は、どの国の航空機も自由に飛行する権利があるため)
実際に強制力を行使できるのは、領空侵犯した航空機に対してのみだけなのです。

 

また、上記の私の文章も、誤解を招きやすいのですが、ADIZに入ることに関しての「承認」や「許可」が行われている訳ではありません。
では、何に対して「承認」、「許可」が行われているかと言いますと、FIR(Flight Information Region:飛行情報区)に対してです。(この記述も正確ではないですが)
これは、国際民間航空条約に基づき、ICAO(国際民間航空機関)により設定された航空機の航行に必要な各種の情報の提供又は捜索救難活動が行われる空域で、日本では国交省が管制業務行っている航空管制のための空域です。
このため、航空自衛隊は、国交省が与えた許可情報を貰い、これと照合することで識別を行っています。

 

当然、他国でも同じことで、中国がADIZを設定したところで、これに対して「許可」を貰う必要はありません。
ただし、中国は国際民間航空条約を根拠とする上海FIRを超えてADIZを設定しているため、早めに許可を求めるよう「勝手」に要求しています。
防空圏設定 、民間にも影日航・全日空、中国に飛行計画」(朝日新聞13年11月26日)
もっとも、あくまで「勝手」な要求であるため、日本政府のようにヘタレではない韓国は、これを即座に突っぱねています。
韓国「通報せず、航空機通過へ」 中韓の防空圏一部重複」(朝日新聞13年11月25日)
日本も、及び腰ながら、航空会社に要求に応じないよう求めたようです。
飛行計画:航空各社、中国に通知 外務次官は提出拒否」(毎日新聞13年11月25日)

 

なお上で言及したとおり、FIRとADIZは、多くの場合、合致しません。
FIRは、国交省のサイトでも「領空及び公海上 空を含んだ空域で領空主権よりも航空交通の円滑で安全な流れを考慮して設定されており」と書かれているとおり、ADIZとは設定の意義が異なるためです。
結果として、日本でも、ADIZ内ではあるものの、FIRには入っていないため、日本側に許可が求められておらず、情報がないため、自衛隊でもアンノウンのままである航空機は多数存在します。
これらに対しては、当然スクランブルなんかかけません。

 

ですので、純粋に軍事上の、つまり自衛隊が対処を行う上では、中国が尖閣上空にADIZを設けても、さほど気にする必要はないのです。
例えば、敵対する2か国が陸上で国境を接していれば、ADIZは当然他国の領土上空にまでかぶせざるを得ません。
ADIZは、本来勝手に設定するものですから、軍事的 には、「また中国が勝手しやが って」くらいに思っておけばOKです。

 

しかし、今回のADIZ設定と、それ以上にその”発表”は、軍事的だけでない意味があります。(ADIZは、公開する必要さえありません)

 

それは、中国が尖閣を侵略するための1ステップであり、階段をほんの少し上る既成事実化の一つだということです。

 

海上においては領海内であっても無害通航権があり、中国公船による尖閣周辺の領海侵犯は既に当たり前のものになっています。
日本政府としても、明確に無害通航とは認められない行為を中国公船が行わない限り、打つ手がないのが現状です。

 

これをもう一歩進めるための措置が、今回のADIZの設定とその発表という訳です。

 

中国は、尖閣を自国領土だと主張する以上、彼らの論理で行けば、 尖閣周辺を飛ぶ日本の航空機の撃墜は、ADIZの有無に関わらず、国際法的には可能です。
ですが、自衛隊機を含め、日本の航空機は尖閣周辺をしょっちゅう飛んでいます。
私も、現役自衛官時代に数回尖閣上空を飛んでいます。

 

この事実自体が、尖閣を実効支配しているのが日本である証左なのですが、今回のADIZ設定は、中国にとって、即座に尖閣上空で実力行使をするとの意思表示ではないでしょう。
恐らく、これを契機として、無線による警告を始めるつもりだったのではないかと推測します。

 

中国の真意は、上記の通りですが、中国とすれば、日本がマスコミがADIZに対して、これほど誤解しており、強い反応が返ってくるとは思っていなかったのでしょう。
中国側の驚きを伝える報道がさ れています。
南シナ海や黄海へ拡大念頭対立、先鋭化も 日本には「騒ぎ立てている」と抗議」(産経新聞13年11月25日)
中国国防省、防空識別圏設定で日本の抗議を拒絶 「あれこれ言う権利はない」」 (産経新聞13年11月25日)
日米は「不必要なヒステリー」 中国紙が社説」(産経新聞13年11月26日)

 

また、中国が在日中国人の掌握を行っていることも、日中衝突に備えた在日中国人の動員蜂起のためかもしれませんが、もしかすると、予想以上の日本の反発に警戒をした結果なのかもしれません。
「日本に手を出すのか」「開戦か」書き込み相次ぐ 在日中国人に登録呼びかけ 防空識別圏設定と関連か」(産経新聞13年11月25日)

 

日本政府としては、この日本人の誤解と、それに基づく反発に対する中国の思い違いは、はある意味ラッキーなので、静観を求めるのではなく、むしろ中国の横暴を大いにアピールすべきです。

 

外部を見ても、安倍政権の対米外交が巧いこともあって、今回は、アメリカも明確な日本支持を打ち出しています。
中国防空識別圏:「不必要に挑発的」 米は強硬姿勢」(毎日新聞13年11月26日)

 

また、中国は、南紗諸島を念頭に南シナ海にもADIZ設定を目論んでいると自ら発表したことで、フィリピン等東南アジア諸国も味方に付けることができます。
南シナ海や黄海へ拡大念 頭 対立、先鋭化も 日本には「騒ぎ立てている」と抗議」(産経新聞13年11月25日)

 

中国のADIZ設定は、軍事ではなく、国際政治上の圧力です。
日本は、アメリカと緊密に連携して、政治圧力で押し返すべきです。

 

これはチャンスです。

 

参考FIR

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2013年10月31日 (木)

注目の離島奪還演習が実施

沖縄で、注目すべき離島奪還演習が行われます。
陸海空3自衛隊、沖大東島で離島奪還訓練へ」(琉球新報13年10月24日)

防衛省統合幕僚監部は23日、陸海空3自衛隊の隊員約3万4千人が参加する実動演習を11月1~18日の日程で、沖縄や九州を中心に実施すると発表した。上陸作戦や輸送の訓練を実施するとしており、事実上の離島奪還訓練となる。主な訓練場には那覇の南東約408キロの太平洋上にある無人島で、米海軍の射爆撃場となっている沖大東島(北大東村)を使用。


琉球新報では、「訓練」とされていますが、統幕公式発表では「演習」です。
平成25年度自衛隊統合演習(実働演習)について
この違いは、実は非常に重要です。
参考過去記事:「訓練と演習の違い
端的に言えば、演習の目的は能力向上ではなく、作戦計画の検証にあるということです。

この演習で注目なのは、演習場となる沖大東島の、尖閣諸島との地理的な類似性です。
引用記事にもあるとおり、沖大東島は、那覇から408キロの位置にあります。
一方、尖閣諸島魚釣島は、那覇から約410キロです。
これは、決して偶然の一致ではないでしょう。

沖大東島射爆撃場では、離島防衛を主な任務にする陸自西部方面普通科連隊が上陸作戦を模して、海上自衛隊輸送艦に乗り込み、さらに水陸両用のホバークラフト型揚陸艇「LCAC」(エルキャック)で島に近づき、空自戦闘機が実弾射撃したりする予定。
 ただ島の周辺にはサンゴ礁があるため、実際の上陸はしないとしている。


演習の目的は、尖閣諸島を模擬した沖大東島に離島奪還を意図した部隊を機動させ、陸海空統合運用の中で、運用能力の向上を図りつつ、尖閣奪還作戦における作戦計画の検証を行うことでしょう。

この演習で注目なのは、想定が極めて現実環境に近く、絵に描いた餅上での演習ではないため、今回の演習に参加する部隊は、恐らくそのまま尖閣奪還作戦に投入を予定している部隊であろうとの推測ができることです。

特に、海自輸送艦等に乗り込む陸自部隊の編成は注目です。
恐らく、中国軍の情報部も注目しているでしょう。

これが、どこまで公開されるか分かりませんが、自衛隊の尖閣奪還作戦の様相を占うため、今回の訓練ほど適切な訓練はないと思います。
続報が楽しみです。

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2013年8月15日 (木)

民間高速輸送艦をPFI方式で有事使用

このブログでは度々言及してきた高速輸送艦(ナッチャン等)使用の検討がPFI方式で本格化してきたようです。
海兵隊機能「高速輸送艦」 有事に民間フェリー転用 防衛省検討、PFI方式」(産経新聞13年7月26日)

 防衛省が、海兵隊機能の柱として導入する「高速輸送艦」について、PFI方式での民間フェリー導入を検討していることが25日、分かった。PFI法に基づき特別目的会社を設立し、平時は定期運航などの運用を委ね、有事や訓練の際に自衛隊が使用する。厳しい財政事情を踏まえ装備導入費を効率化するためで、有事での自衛隊の優先使用権も確保する方針。


これだけで、海上輸送能力の不足を払拭できる訳では無いですが、当ブログではしつこく言及してきた懸案ですので、解決の道が示されたことは、貴重な一歩だと思います。

ただし、懸念もあります。

 ただ敵の攻撃も想定される有事で民間人の船員に運航を任せられるか疑問視する声もあり、船員を有事に招集する予備自衛官に採用しておくことも検討する。

この方法に関しては、以前に現役の海自の方からコメントでも頂いておりましたが、戦争法規的に軍艦と同様に見なされるため、乗員については有事にあっては、どうしても自衛官の身分とする必要があります。
参照(コメント)過去記事「震災3次補正にC-2が2機

また、別の過去記事で指摘した国内法上の問題もあると思われます。
参照過去記事「「衛星」騒ぎで露見した艦船輸送力の不足

更に、実際に運用する際には、海空自による護衛が必要となりますが、その方法は、まだまだこれから研究が必要という状況です。
特に、対潜警戒において、速度の点で、護衛艦では、高速輸送船に随伴して護衛することが困難である点が問題です。
自ずとヘリと固定翼哨戒機で警戒することになるでしょうが、かなり大変な作業になることが予想されます。
また、魚雷攻撃だけなら、ヘリと哨戒機で防げる可能性がありますが、潜水艦発射の対艦ミサイルを使用されると、どうしても随伴艦艇による対空警戒が必要となるでしょう。
参照(コメント)過去記事「H24概算要求-その3_陸・輸送力

歓迎すべき方向ですが、課題山積というところでしょうか。

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2013年8月11日 (日)

Y-8による第1列島線突破飛行の軍事・政治的意味

7月24日、中国のy-8(早期警戒型)が、沖縄本島と先島諸島の間を通過し、太平洋上まで飛行しました。

統幕発表資料
Ws000016
Ws000017
同資料より

防衛大臣が発表したことで、各紙も中国の脅威を示す事例として、報じています。
中国軍機が沖縄-宮古間を通過 初の第1列島線越え」(産経新聞13年7月24日)

 中国にとっての対米防衛ラインである第1列島線(九州-沖縄-台湾)を中国軍機が越えて飛行したのは初めて。中国はこの防衛ラインを伊豆諸島-グアム・サイパンを結ぶ第2列島線まで押し上げようとしており、海軍艦艇に続き、空域でも第1列島線を越えた衝撃は大きい。


中国軍機、南西諸島上空を通過 空自がスクランブル」(朝日新聞13年7月24日)
中国:早期警戒機Y8 沖縄本島-宮古島間の公海上を通過」(毎日新聞13年7月24日)

日本側には、参院選で大勝した安倍政権に対する中国の警戒感の表れ、との見方もある。


ですが、さすが大手新聞。分析が甘く、第1列島線を越えて、今までより遠方に出た程度にしか捉えていません。
と言う訳で、以下では、この早期警戒型Y-8太平洋進出の軍事的及び政治的意味を分析してみます。

Y-8の進出位置は、前掲防衛省資料のとおりですが、この行動で何ができるかは、Y-8のセンサーによります。
参考:Y-8洋上偵察機(Y-8ASA)
防衛省は早期警戒型と言っていますが、このY-8のレーダーは、対空よりも対艦メインの洋上監視型です。
となると、飛行高度が問題になりますが、防衛省の発表では不明です。
実用上昇限度は10400mという情報があるため、哨戒位置から更に380キロ程遠方までの艦船を捉えることが出来た計算です。

Y-8が、今回の哨戒地点で艦船を捕捉できたはずの範囲
Ws000015
この図に、中国の沿岸から1500キロの範囲を書き加えてみます。
Ws000019
概ね符号することが分かるでしょう。

この1500キロというのは、DF-21Dが対艦弾道ミサイル(ASBM)として運用される場合の射程です。
ソース:http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2010_CMPR_Final.pdf(P2)

つまり、今回のY-8進出は、軍事的には、ASBMによる攻撃の際のセンシング活動を意図した訓練、あるいは検証活動だったと見る事もできます。

そして、そうであるとすれば、Y-8の飛行は、政治的には、ASBMの運用態勢を着々と準備中であり、中国が接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を推し進めているというアピールである可能性があります。

中国は、今回の行動を、「特定の国や目標に向けたものではない」と、わざわざアナウンスしていますが、かえって白々しく、アメリカの空母機動部隊を目標としている可能性が強く疑われるものです。
「特定の国に向けたものでない」=中国」(時事通信13年7月25日)

中国国防省は24日、取材に対し「海軍の航空機が西太平洋に行き訓練を実施した」とした上で、「いかなる特定の国や目標に向けたものでもない」とする談話を出した。


新聞記者では、このような軍事的に突っ込んだ分析をしませんが、情報本部など自衛隊の情報組織では、このような見方をしているのではないかと思われます。

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2013年4月20日 (土)

与那国自衛隊配備の交渉難航は自民党政権の策略か?

与那国への自衛隊配備が暗礁に乗り上げているようです。

陸自与那国配備見直しも 防衛相「要請の前提崩れた」」(産経新聞13年3月26日)

 小野寺五典防衛相は26日の記者会見で、与那国島(沖縄県与那国町)への陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備計画について「地元の理解が得られない状況なら計画全体を含め検討する」と述べた。部隊の拠点を置く用地の売買や賃貸借契約をめぐり町との交渉が難航していることを受け、配備計画自体を見直す可能性に言及したものだ。


この問題は、防衛省が概算要求に関連項目として10億円を盛り込んだ事に対して、この全額もらえると思い込んだのか、与那国町が”迷惑料”を含め、10億全額を要求したことで発生しました。
この辺りは、ほとんど笑い話なので、詳しく言及しません。

役人の一人だった経験からすれば、10億しか予算取りしていないにも係わらず、その全額が用地取得に取られてしまえば、他の項目分を他から予算を流用せざるを得ず、財務との交渉を含めて、非常に面倒であることは理解しているつもりです。
しかし、8億5千万程度なら、防衛省として準備できない金額ではありません。(1億5千万は、用地取得費として織り込み済み)

ただし、これが既定路線になれば、今後の下地島利用や噂される石垣島への陸自配備でも、地元側が「迷惑料」を要求することは確実で、その意味で飲みにくいことは確かです。

しかし、防衛大臣が記者会見で発言するという、交渉としては穏便とは言えない手段を採る理由は他にもあると思います。
まだ25年度は始まったばかりで、いくら希望価格が大幅に異なるとは言え、水面下での交渉を行なう余地はまだまだあるはずなのです。

私は、このある意味ブラフにも近い発言の意図は、与那国町、ひいては沖縄県の一部が、自衛隊を積極的に誘致しようとしていることを宣伝する意図があるのではないかと思います。
事実、この見解を裏付ける動きが、実際に発生しています。
与那国自衛隊配備、要求は「市町村協力費」 迷惑料の表現修正」(琉球新報13年3月29日)

 糸数氏は町や町議会が自衛隊誘致を要請していることや、中国の軍拡が進んでいることなどを指摘し、「与党議員にも相談せずに要求した。寝耳に水だ。目先の10億円にこだわる必要はない。迷惑料だけでも今すぐ撤回してほしい」と求めた。


この防衛大臣会見を発端として、誘致派議員が、町長に対して圧力をかける事態になっています。
防衛省としては、町民の要望として南西諸島防衛を行ない、そのために在沖縄の防衛力強化を図っているのだ、という姿勢をアピールしたいのだろうと想像します。
これは、何としても普天間の辺野古移設を実現したいためではないでしょうか。

と、何だか防衛省陰謀論のようになってしまいましたが、私はこの動きは歓迎しています。
誘致派議員の方には、もっと大きな声を上げて欲しいと思います。

与那国島民にとって、与那国が中国領になっても構わないなら、仕方ありませんが。

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2013年3月 4日 (月)

尖閣問題における台湾自制はアメとムチの成果

尖閣問題に関して、日米が台湾を自制させることに成功しています。

尖閣問題 日米で中台共闘阻止 台湾に自制要求 奏功」(産経新聞13年3月3日)

 中国と台湾が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島をめぐる日本政府の働きかけの結果、米政府が台湾側に尖閣諸島周辺海域の公船航行について自制を求めていたことが2日、分かった。

2月8日には台湾外交部(外務省)がホームページ上で尖閣について「中国大陸と合作(連携)しない立場」と題する声明を発表した。馬総統も同月18日の会合で中国との連携を拒否する理由を説明した。


日本が、沖縄に海兵隊を含む多数の米軍を駐留させ、中台危機を抑止している事実、及びその事による沖縄世論への配慮に多大な労力を割いている事を台湾が正当に評価すれば、これは当たり前の事です。

以前の記事「尖閣領有権問題は台湾から切り崩すべき」で指摘したように、水面下で台湾政府にブラフをかけた可能性があります。

例え、日本政府が主体的にブラフをかけたのではなくとも、今回の記事にあるように、アメリカが台湾に働きかけた際には、台湾有事における周辺事態法の適用を日本政府が行なう事が困難になる可能性や、普天間移設問題を持ち出した可能性は非常に高いものと思われます。

台湾に対するブラフを与えるというムチの一方で、日本政府は、沖縄の漁民の反感を覚悟しながら、台湾にアメも与えています。
日台漁業協議 地元漁民置き去りにするな」(琉球新報13年2月27日)

これも、日米間の連携を強化した安倍内閣の外交成果ですが、それほど難しい事ではなかったはずで、安倍政権を評価するべき事案というよりは、民主党政権の無能さを、改めて露呈させた事実と言えます。

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2013年2月27日 (水)

POMCUS方式による離島防衛

防衛省の予算や訓練の内容を見ていると、防衛省は離島防衛に戦車などの装軌車両を投入することは、あまり意図していないようです。

それは、中国が、南西諸島に対して、大規模な着上陸作戦を行なう可能性は低いと見ているからでしょうし、日本の対応としても、戦車や自走砲を戦略機動させることの負担が大きいからでしょう。

しかし、多額の予算を注ぎ込んだ大量の戦車や火砲を北海道に置いたまま、蓋然性の高い対中国の事案に対して備えないことはもったいないことでもあります。

そのため、沖縄へも戦車等を配備すべきだとする意見も少なくありません。
しかし、沖縄(特に沖縄本島)の世論、訓練用地が確保困難であることや赤土の流出による公害の問題を考えると、戦車等を配備することは現実的ではないでしょう。

そこで、こんなプランはどうでしょうか。
それは、POMCUS方式による、機甲戦力の離島配備です。

POMCUS(ポムカスorポンカス:Prepositioning Of Materiel Configured in Unit Sets)は、冷戦期において、アメリカ陸軍が大量のソ連機甲戦力による電撃的侵攻に備えるため行なっていた方式です。

ソ連の侵攻に対し、大量の部隊を配備しておく事は、アメリカにとっても非常な負担でした。しかし、大量の戦力を海上輸送してヨーロッパに送り込むことも、同じように困難でした。
しかし、人員だけなら、民間航空機を使用して、大量に送り込むことはできます。
そこで考えられたのが、整備された装備・弾薬を事前集積するPOMCUS方式です。

これと同じ事を、先島の離島において行なうのです。
具体的には、機動の困難な90式戦車を、拠点となり得る大きな有人島(宮古島、下地・伊良部島、石垣島)に各1個戦車中隊規模、中規模の有人島(西表、与那国)に各1個戦車小隊規模の装備を事前集積します。
必要な戦車の数は50~60両、現在360両ある90式の1/6程度です。

この程度の数であっても、中国が先島に手を出すつもりであれば、相当な障害となります。

それに、このPOMCUS方式には、副次的な効果もあります。
それは、運用に関わる要員を減らせることです。
試算として、戦車を考えてみます。
90式50両とすれば、乗員だけで150人にもなります。25年度に増員される陸自人員数の1.5倍にもなります。
これだけの数
、機甲部隊の維持に必要なくなる訳ですから、この分を普通科等に振り返られることになります。

また、普段の整備は、整備するだけなので、技術さえあれば、体力などは無くても構いません。
自衛官として定年になった方を、専門の会社を作らせた上で雇い入れる形で、事実上再任用することもできます。(この方式は、最近広まっています)

沖縄世論の反感が出にくい形で、離島の防衛力を高めると共に、機甲戦力の維持に関わる負担を事実上軽減できるのです。
25年度の予算に、南西諸島における陸自の態勢の充実に係る検討が入っていますが、普通科だけでなく、POMCUSによる機甲・特科戦力の活用も検討してみたらどうでしょうか。

ただし、POMCUS集積資機材を敵に奪われると極めてやっかいな事態になります。POMCUSを行なうとしたら、
ゲリコマに奪われないよう、普通科部隊の駐屯は必須です。

なお、同じような発想として、洋上に事前集積船を置いておくプランもありますが、これはこれで負担も大きいですし、作戦正面が明確な南西諸島においては、POMCUS方式の方が適当だと思われます。

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2013年1月30日 (水)

那覇の2個飛行隊化とソフトハード両面の増強を急げ-スクランブル実績の分析

24年度のスクランブル実績の途中経過が発表されました。
平成24年度3四半期における緊急発進実施状況について
H24_34hanki
同資料より

中国がらみの南混団の負荷が急増していることが、防衛省の資料から読み取れます。
しかし、以前も行なった各方面別の1個飛行隊あたりのロードを計算してみると、南混団、具体的には那覇の204飛行隊のロードは基地外じみた程高まっていることが明かです。
H24_34_sq
2012年のみ3四半期(9ヶ月)のデータ
(後3ヶ月あるので、2012年通年ではもっと増えるでしょう。)

21年に南混団の危機的状況を記事「21年度スクランブル実績」にした時には、南混団の負担は、西空の10倍、北空の3倍でした。
しかし、今や西空の14倍、北空の6倍にもなっています。

那覇の2個飛行隊化を急がないと、海保が11管だけで回せなくなっているように、空でも主権の維持が困難になってきます。
これほど負担が増えると、各方面からローテーションで展開して支援しないと204飛行隊が音を上げる事態になりかねません。

また、気になる事項として、中国が早期警戒機を沖縄方面に指向していることがあります。

中国機は早期警戒機に対して多くの緊急発進を実施しました。


こちらの対領侵の実施状況及びその能力把握を行なっている可能性がありますし、通常訓練の偵察を行なっている可能性もあります。
中国の早期警戒機が進出して来た時には、データを取らせないため、空自として訓練も中断している可能性もあるでしょう。

南混団については、太平洋側に訓練空域を増やす等、ハードだけではなく、ソフト面でも増強を図る必要があると思われます。

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2013年1月20日 (日)

下地島空港を空自が使用する場合の問題点

修正概算要求に、防衛省が下地島空港の活用を念頭に置いていると見られる項目が盛り込まれ、注目を集めています。
このニュースは、沖縄2紙が報じ、全国紙が追従したことで、yahooのニュースでも掲載され、そこにリンクを貼って頂いた以前の記事「下地島空港を自衛隊が使用する効果」に多数のアクセスを頂きました。

タイトルの通り、自衛隊が下地島空港を使用した場合の効果は前掲過去記事のとおりですが、今回は、自衛隊が下地島空港を使用する場合の問題とその解決策について考えてみます。

なお、修正概算要求「平成25年度概算要求に関する主要事項」には、「南西地域における航空自衛隊の運用態勢の充実・強化に係る調査研究【事項要求】」と盛り込まれているだけであり、下地島という言葉は一語も入っていませんが、防衛省が表向き否定したとしても、宮古島空港や新旧石垣空港と並び下地島空港が念頭にあることは疑念の余地がないため、以後は下地島空港の活用を前提として記述します。
また、宮古や石垣であったとしても、多くの問題点は共通です。

問題点①:飛行隊をどこから持ってくるか

例え下地島空港を使えるとしても、移駐させる飛行隊が存在するのかという問題です。

北空は、千歳と三沢ですが、ロシア対処で忙しい両航空団の削減は難しい。
中空は、対北朝鮮の最前線小松を削減にはできない。首都防空の任を負う百里を削減も疑問。
西空も、韓国があるとは言え、北朝鮮に近い上、中国との距離は那覇とさほど違わず、後方とは言いがたい。ただし、対領侵のロードは、多方面と比べれば、少ない。
参考過去記事「21年度スクランブル実績

オマケに、那覇は2個飛行隊化の関連事業が進められているし、津波被害でまるまる1個飛行隊分が水没して使えない状況になっている。

航空総隊の航空団を見てみると、飛行隊の状況はカツカツな訳です。

ですが、総隊外なら、ない訳ではありません。
それは、新田原に所在する、教育集団隷下の第23飛行隊を総隊隷下に戻して移駐させる方法です。

23飛行隊は、1995年に制定された07大綱による1個FI飛行隊の削減により、F-15を装備しながら基幹部隊及び作戦用航空機から外され、実態的な戦力ではないと位置づけられた部隊です。
戦闘用の部隊ではないことから、23飛行隊分の弾薬は準備されていませんが、機体
自体は紛う事なきF-15です。
悪い言い方をすれば、村山政権による07大綱を骨抜きにするため、航空自衛隊が取った詭弁による部隊温存策な訳です。

この23飛行隊を、基幹部隊・作戦用航空機に戻せば、大した予算を使う事無く、手の空いた1個飛行隊が手に入る訳です。
これで、下地島に1個飛行隊を持ってくる余裕が生まれます。
ただし、現在23飛行隊が行なっているF-15の機種転換操縦課程と戦闘機操縦課程については、部隊で行なう必要が出てきます。
しかし、津波で被害をおったF-2の教育が、なんとかなっていることからしても、こなせない話ではないと思っています。

それでも、那覇の2個飛行隊化もあるので、F-35の導入と合せて、空自の部隊編成は当分苦労することになるでしょう。

次の問題に行きましょう。
問題点②:那覇空港の拡張により下地島不要にならないか

ウィキペディアの下地島空港ページには「那覇空港の拡張案も具体的に検討されており、那覇空港の利用実態においての下地島空港の優位性は将来には低下するものとみられる」と書かれています。

しかし、尖閣までの進出距離が、中国の空軍基地からの距離の半分ほどで済む位置の優位性は変わりませんし、「下地島空港を自衛隊が使用する効果」で書いたとおり、それによる戦術的はメリットは計り知れないモノがあります。

それに、那覇空港の拡張は、現在検討中でありますが、基本的に滑走路の複数化が成されるだけで、エプロン地区の拡大は計画されていません。
むしろ、現在ランウェイの西側に所在しているパトリオット高射隊が行き場を無くしかねず、下手をしたら現在よりも窮屈になりかねません。

それを考えれば、下地島空港を利用した、南混団の複数航空団化が望ましいでしょう。(そうなれば南混団も、混成団ではなく、方面隊に格上げでしょうが)

問題点③:下地島は中国大陸に近く、攻撃を受けて破壊される可能性が高いのではないか

この懸念は当然のモノです。
しかし、中国が保有する巡航ミサイルのDH-10は、射程1500kmを越え、那覇も余裕で射程に捉えることができます。
戦闘機を運用する基地が、那覇1カ所しかない場合の方が、むしろ危険性が高いとも言えます。
ただし、懸念は、巡航ミサイルを迎撃する、安価な防空火器であるはずの11式短距離地対空誘導弾の整備ペースが遅いことです。25年度の概算要求でも陸自、空自とも1式づつしか調達されない予定でしたし、大幅な増額をされたはずの修正された概算要求では、空自分は、何故か削られ、0になっています。
また、当然ながら、陸自中SAMも貴重な戦力ですから、下地島展開は必須です。

対航空機を考えた場合も、下地島が大陸に近い事は、確かに攻撃を受けた場合の被害発生の可能性を高めます。
しかし、下地の存在は、縦深の確保になり、中国側とすれば下地、那覇両基地を破壊しなければ、常続的な航空優勢の確保は困難になることから、複数基地化の恩恵は大きく、リスク以上の価値があると言えます。

また、下地島には、那覇と異なり周辺住民の避難が容易だという利点があります。
那覇の場合は、基地のすぐ外まで市街地が広がっており多数の住民の避難は事実上困難です。
しかし、下地島の場合は、住人はわずか60人程しかおらず、隣接する伊良部島の6283人と合せても、宮古島への避難は、那覇と比べれば遥かに容易です。

この、周辺住人のコラテラルダメージと避難の可能性は、実は政治的に微妙ながら、重要な問題です。
「基地が那覇しかなく、那覇が攻撃を受ける可能性と、下地島が攻撃を吸収してくれる可能性と、どちらを受け入れますか?」と沖縄県民に問えるのです。(基地が下地と那覇の2カ所なら、攻撃側
が下地を優先するのはほぼ自明
私は沖縄県民と、沖縄メディアに問いたい。
那覇空港周辺にまで爆弾が降り注ぐ可能性を受け入れて、屋良覚書を維持しますか?

下地島が被害を受ける可能性に関して、私が最も懸念するのは、短距離弾道弾による攻撃です。
中国は、対台湾攻撃用に多数の短距離弾道ミサイルを保有していますが、その大部分は、下地島まで届くのです。
これらは、弾道軌道が低く、イージスでは迎撃出来ない可能性があります。
つまり、ほとんどをパトリオットで迎撃しなければならないと言うことです。
この懸念については、以前に「下地島空港活用時のMD態勢」で詳細な検討をしていますので、こちらをご覧下さい。
下地島を本格的に活用するなら、PAC-3弾(ミサイル)を大量に調達する必要があります。

また、いずれの手段で攻撃を受ける場合でも共通の事項として、シェルターを始めとした被害局限による基地防護策、及び被害復旧策は必須です。

主要な問題は以上3点です。
それぞれの問題に対して、解決には努力が必要ですが、下地島を使うメリットは大きく、使わないとすれば、海自を増強したとしても、いずれ航空優勢の確保は困難となり、尖閣は失うことになると思われます。

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2012年12月28日 (金)

オスプレイは離島防衛に寄与するか?

オスプレイの自衛隊導入を検討するそうです。
関連の記事としては、以前も「オスプレイ配備で一挙三得」を書いてますが、今回のニュースを踏まえて、有効な活用策があるか考えてみました。

オスプレイ、自衛隊導入に向け検討へ(読売新聞12年12月22日)

 南西諸島など離島の防衛強化をにらんだもので、安倍新政権の下で導入に向けた検討が加速する可能性がある。

 防衛省はすでに、オスプレイの具体的な活用方法などに関する調査研究費500万円を13年度予算案に計上する方向で調整中だ。


本音は、むしろ沖縄の世論対策な気がしますが、建前である離島の防衛強化という点で、費用効果が高い使い方としては、目達原駐屯地の西部方面ヘリコプター隊に配備し、相浦駐屯地の西部方面普通科連隊の輸送を行なうという方法があります。

オスプレイの航続距離を持ってすれば、地元の反感が強い沖縄にオスプレイを配備しなくても、尖閣で緊急事態が発生した際、相浦から離島対処即動部隊であり、島嶼防衛を主な任務とする西普連の精鋭を載せて、一気に尖閣まで飛行後、リペリングで降下させ、無給油で宮古島の宮古島分屯基地まで飛行させることが可能です。(さすがに
搭乗人数は満載という訳にはいかない)
Photo
目達原-相浦75km、相浦-尖閣1030km、尖閣-宮古220km、総行程1325km
オスプレイ航続距離:
ペイロード2,721kg、垂直離陸700nm (1,295km) 以上

ちなみに、CH-47は航続距離を伸ばしたJAでも航続距離は1037kmに留まるので、相浦からでは尖閣まで到達するのがやっとです。

しかも、所要時間は、相浦から尖閣まで2時間程です。目達原から相浦への移動を考慮しても3時間も要せずに、尖閣にレンジャーを主体とした陸自の海兵とも言える西普連を送り込める意義は大きいものがあります。
この時間は、中国本土から活動家を乗せた漁船や公船が出航してから動き出しても、先に到着が可能な時間です。

今後、主権の主張のために陸自を緊急に送り込む必要が出てくれば、少数でも、高価でも、オスプレイを配備する意義はあるでしょう。

何より、恐らく政府の本音である沖縄世論の沈静化のために役立ちます。
調査費500万などとケチな事を言わずに、一気に配備に動いても悪くないと思います。

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