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SAM戦術・対SAM戦術

2013年4月16日 (火)

対艦弾道ミサイルの可能性について補足

4月20日
ドナルド様のご指摘に基づき、数値を再修正しました。
**********************
4月17日
重大な計算ミスがあったので、数字を大幅に修正して、記事を更新しました。
修正前より、ヤバイ数値になってます……

***********************

前回の記事、やはり分かって頂けない方もいらっしゃったようなので、補足を書きます。
(本当は、これ以上書くとイージスについて、不安を抱きかねないので書きたくなかったのですが……)

数式的な事を書きますので、数字が苦手な方は結論だけ読んで下さい。面倒な説明ははしょります。

イージスのレーダービームは、幅1.7°です。(参照:レーダーのビーム幅とオシント

このペンシルビームで実際に捜索するためには、図のようにビームを打ちます。
Photo
よって、左右方向に1.5°、上下方向に1.3°毎にビームを打つことになります。

この状態で、STSSからのキューイングがなく、弾道ミサイルと対艦ミサイル双方の警戒をしなければならない場合、SPY-1レーダー1面の捜索範囲は、左右90°、上下80°(0°~80°)程度を捜索する必要性が生じます。(前回記事の図に書いたとおり、上下方向には、水平面上から若干上に捜索不要の角度が生じますが面倒なので計算上このように設定します)
ただし、上方に行くにつれて、隣接SPY-1の捜索範囲と重複するので、上方では要捜索範囲が狭まります。

すると、計算上、ビームは約2
00本必要です。

イージスの正確な捜索範囲(距離)が不明ですが、ここでは仮に1200kmとすると、ビーム一本の電波放射を行ない、信号が帰ってくるまでの所要待ち受け時間は、光速との関係から0.00
秒(PRF=125)です。

ここから、必要な捜索範囲を均一に捜索すると、所要時間は21.6
 秒となります。
如何に高機能なイージスと言えど、弾道ミサイル対処が必要な際には、全ての範囲をレーダービームで1回捜索するためには、20秒以上の時間が必要ということです。

実際のビーム偏向パターンは、こんな単純なモデルではありませんが、この物理的制約は、理論限界ですから、必ずついてまわるものです。

次に、この制約が、戦術環境下で如何に影響を与えるかを考えて見ます。
捜索に21.6秒必要とするということは、運が悪ければ、目標の補足は、目標が捜索可能範囲に入った後、21.6秒遅れるということです。

仮に、マッハ10の弾道ミサイルなら、この間に71km進みますから、1200kmから71km差し込まれることになります。
弾道ミサイル防衛では、71kmでも惜しいところですが、これはまだ大丈夫でしょう。
ただし、1回の捜索に20秒以上要すると言うことは、高速の弾道ミサイルの場合、その間に既にビームを打った位置に移動してしまう可能性があり、実際の発見の遅延は20秒どころか、大幅に遅れてしまう可能性があることは認識しておくべきです。
(複数回の走査を行なわないと捕捉できないということ

シースキミング可能な対艦ミサイルの場合はどうでしょう。
亜音速の超低高度飛行が可能なミサイルの場合、高度10mを飛行すると仮定すると(SPY-1の設置位置は30mと仮定)、地球の曲率の関係で、目標がレーダーの捜索範囲に入るのは、距離31kmに達した時です。
ミサイル速度を310m/secと仮定し、これから最大21.6秒遅延すると、ミサイルには6.7km差し込まれることになり、捕捉は
24.3km以内となる可能性があります。
まだ対処は可能でしょうが、条件的にはかなり悪くなったと言わざるを得ません。

次に、高速対艦ミサイルの場合として、中国も保有するKh-31(YJ-91/KR-1)とSS-N-22の場合を考えて見ます。
Kh-31は、高度100mをマッハ2.7で飛行します。
イージスの捜索範囲に入るのは56km先ですが、ここから最大21.6秒遅延すると、
19km差し込まれ、発見は37km以内となる可能性があります。
決定的とは言えないものの、弾道ミサイルに対する警戒をしなくて良い場合と比べれば、危険度が格段に増したと言えます。
SS-N-22は、高度20mをマッハ2.5で飛行します。
捜索範囲侵入は36km先ですが、遅延により18
km差し込まれ、km以内での発見となる可能性があります。
これは、極めて危険な数値です。

SM-2は、マニュアル(操作員による手動)では、間に合わない可能性があります。主砲やCIWSでの対処を余儀なくされるでしょう。
しかも、SS-N-22は終末段階で機動する能力を備えており、VLSで垂直に打ち上げられるSM-2では、最小射程距離を割られてしまう可能性も出てきます
し、砲による命中確率も低下するでしょう。

以上、3つのケースに分けてみると、対艦ミサイル、特に高速対艦ミサイルに対する状況が悪化していることが分かると思います。(実際には、この状況は分かっていますから、低高度
を集中的に捜索することになります。なので、ここに書いた程には危険ではないはずです
このため、米議会調査局(CRS)の報告書では、SM-6の早期取得やレールガン等が必要とされていると考えられます。

ASBMは、もし所要の能力を満たせば、それ自体よりも、対艦ミサイルに対する対処性能を大きく低下させる可能性があるため、要注意です。

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2013年4月13日 (土)

対艦弾道ミサイルは無意味ではない

世間は北朝鮮の弾道ミサイル一色で、軍事に暗い方が的外れな事まで書いている状況ですが、既に軍事よりも政治、あるいは心理ゲームと化している状況なので、私は弾道ミサイルは弾道ミサイルでも、少し違うミサイルについて書きます。
それは、もうとっくにホットではなくなっている、中国による対艦弾道ミサイル(ASBM)についてです。

このニュースが流れ始めたのは2007頃です。
その時は、「嫌な物を目指してるなあ。でも本当にできるのか?」という所見でしたし、多くの意見が中国脅威論の方向だったので、特に触れなくてもいいかなと思ってました。
しかし、中国がこのASBMと関連の深い衛星破壊兵器(ASAT)実験を行なう等、嫌な動きを続けている事には懸念を持ってました。
なので、気にはなっていたのです。

それを、今頃記事にするのは、3月末に書いた記事「レーダーのビーム幅とオシント」で「弾道ミサイル探知の為に絞る必要性があるのは、ビーム幅ではなく捜索範囲」と書き、その関連記事を書こうと思っていたところ、週刊オブイェクトさんが、もろに関連する内容で、異論を差し挟ませざるを得ない記事をUPしたからです。

「対艦弾道ミサイルは対処可能」米議会調査局(CRS)
JSF氏は、米議会調査局(CRS)の報告書を引用し、ASBMが「対抗手段を用意できるもので、海軍の戦略に変更を迫るようなゲームチェンジャーではない」と評価していますが、これは「原爆に匹敵するような革命的兵器ではない」と言っているようなもので、同報告書に書かれているような、「SM-6の早期取得や、レールガン・レーザー砲の開発と配備」を強要されるとしたら、それはむしろ「重大な脅威」と評価すべきものです。
しかし、それでもJSF氏は、ASBMに対する否定的評価を変えていないようです。

ASBMに関連する週刊オブイェクトさんの以前の記事はいくつかありますが、特に注目すべきは「バックファイアと対艦弾道ミサイル?」だと思っています。

ASBMに対しては、情報が出てきた当初から、イージスで迎撃できるから無意味だろ、みたいなコメントが、2chでも良く出ていましたが、この記事は、もう少し踏み込んだ意見に対しても無意味だとしています。

「バックファイアと対艦弾道ミサイル?」が批判している産経の記事は、既に消えてしまっているようで確認できないため、ここでは詳しく言及しません。
産経の記事には、確かにおかしな部分もありそうですが、JSF氏による産経の記事批判には、指摘した方が良いと思われる妥当性を欠く部分があります。
それは、ASBMと対艦ミサイルの複合戦術が持つ可能性です。

>イージス・システムも「対艦弾道ミサイルやAS-4を大量に同時発射されれば、すべてを迎撃できる可能性は大きく低下する」(日台軍事筋)からだ。

そもそも、そういった同時多数飽和攻撃を防御する為に生まれてきたのがイージス・システムの筈です。

>防衛省は新たな迎撃手段の開発・配備を含む戦術の再構築を迫られそうだ。

現状で何も問題はありません。対艦弾道ミサイルにはスタンダードSM-3で対処、Tu-22Mバックファイア爆撃機のAS-4対艦ミサイルに対してはスタンダードSM-2で対処します。


通常の対艦ミサイルによる同時飽和攻撃の際に飽和し易いボトルネックの部分は、ミサイルでもSPY-1でもなく3基しかないイルミネータAN/SPG-62です。
米軍のCVGは、この点を、多数のイージス艦を護衛に配備することでカバーしています。
その意味で、引用前段の「そもそも、そういった同時多数飽和攻撃を防御する為に生まれてきたのがイージス・システムの筈です。」というJSF氏の指摘は正しいと思います。

一方で、SM-3での弾道ミサイル対処ではイルミネーターは必要ありません。よってASBM対艦ミサイル複合戦術でも、イルミネーターの限界は、露呈しません。

しかし、ASBM対艦ミサイル複合戦術において飽和しかねないのは、SPY-1の方です。

そして、この事実は防衛省も認識し、それが故に、弾道ミサイル破壊措置の際に、F-15でイージスを護衛する事態になってます。
北ミサイル対応、F15がイージス艦を警護へ」(読売新聞12年3月20日)

イージス艦はミサイルを探知、追尾する際、レーダーをミサイルに集中させるため、周辺状況を把握できず、一種の「無防備状態」に置かれる。


ただし、これに対する異論もあります。

こんごう型等のイージスレーダーの弾道ミサイル対処能力と航空機・対艦ミサイル対処能力は当初から並立できるものとされており、またその検証のために2006年6月22日にタイコンデロガ級イージス巡洋艦「シャイロー」がRIM-161スタンダード・ミサイル3 (SM-3)ブロックIAとSM-2によって、模擬弾道ミサイル1つと模擬対空目標2つの同時撃墜に成功しており、同様の試験は「レイク・エリー」でも成功している。

アメリカ海軍太平洋域のタイコンデロガ級イージス巡洋艦・アーレイ・バーク級イージス駆逐艦と海自のイージス護衛艦は共に「ABMD3.6」という実験艦と同じか、又はより高いレベルでのイージスシステムへ更新される予定となっており、イージスが弾道弾に対処する時には従来型対空防御に有意な能力低下があるという説には疑問が提起されている。

wikipediaのあきづき型護衛艦 (2代)ページ
(元の出典は、軍事研究 2008年4月号の多田智彦氏による『進化する海自汎用護衛艦』とのことですが未確認)

ですが、同じwikipediaのページには、次のようにも乗っています。

ただし、この点についてはイージス艦のフェーズドアレイレーダーがSPY-1Dに到って天頂方向への捜索能力が強化されたのを含めて、天空の内、水平視野100度の覆域を弾道弾捜索に必要な区域だけに出力を集中させる方法によってであり、BMD3.6では衛星のリンクなどイージスシステム以外の向上化と、操作方法を操作員の技量によって対応していたものを自動化した形態であるために旧来のイージス艦でミサイル防衛に改良される以前の海自イージス艦がBMD演習に参加出来た由来を考えると、同一レーダー面同一象限の異種目標に対する対処能力は限定的にならざるを得ないと推察されるのが、対抗する意見である。(MD目標方向アンテナ面80度以外なら他の3面のレーダーで複数目標追尾能力が使える)

(元出典不明)

なお、ここで記述されている「水平視野100度の覆域を弾道弾捜索に必要な区域だけに出力を集中させる方法」が、前回記事において「弾道ミサイル探知の為に絞る必要性があるのは、ビーム幅ではなく捜索範囲です」と書いた部分です。

この説明で、ほぼ言い尽くされてしまった感がありますが、分かり易くするため、イージスの歴史に触れながら、図も用いて説明しましょう。

開発当初のイージスは、航空機及び対艦ミサイル対処が目的でしたから、捜索範囲は500km程だと言われていました。
これは、ミサイルの射程にも係わりますが、それ以上に、地球の曲率と航空機が飛行可能な大気層の厚さからして、捜索範囲をこれ以上伸ばすことに意味がないからです。
図1(通常の航空目標(含む対艦巡航ミサイル)探知の際に必要となる要捜索範囲)
Ws000005
少々見難い図ですが、SPY-1レーダーにかかる負荷を見て頂くため、模式図とはしていません。(上下方向の)スケールは、実際の比率に合せています。
これを見て頂くと、大気層というのが実に薄っぺらで、通常の航空目標探知では、ほぼ水平線上だけを見ておけば良いという事実が分かるはずです。

また、レーダーが目標を初度探知する時は、一定高度を飛行して接近してきた目標が、マスクエリア内から要捜索範囲に入った瞬間である可能性が高いことも容易に理解してもらえると思います。
そのため、通常の目標探知については、水平線のすぐ上を重点監視しておけば、基本的に、それだけで捕捉可能です。

なお、500kmに満たない近距離では、多少上方も見ていますが、常時レーダー発振をして、水平面上で探知できるなら、極端に言えば捜索を行なう必要の無い範囲ではありますが、極小目標が接近してきた場合も含め、レーダービームを振る頻度を落として、一応捜索すべき範囲なので、捜索範囲に含めています。なお、この際は、捜索距離が短く、PRFを高くできるため、最大探知距離付近を捜索するよりも、レーダーの処理負荷は非常に少なくなります。(これは結構重要なことです)
レーダーの処理負荷は、この図中の捜索範囲面積だと思って頂ければ、概ね正しい理解になります。

これに対して、ASBM対処を行なう場合の捜索範囲がどうなるか書いてみます。
図2 (弾道ミサイル対処のため1200kmまで監視する場合の要捜索範囲)
Ws000006
これを見ただけでも、レーダーの処理負荷が爆発的に増大していることは理解して頂けるでしょう。
FTM-10(Stellar Predator)において、SM-3による弾道ミサイル迎撃とSM-2による通常目標迎撃の同時対処が試験されたのも、このレーダー負荷が、システムに影響を与えることが間違いなく、懸念事項であるからです。

つまりは、ASBMと対艦ミサイルの複合戦術は、対艦ミサイルのみによる飽和攻撃と比べて、遥かに(イルミネータではなくSPY-1が)飽和する確率が高くなるのです。

ただし、米軍が進めているSTSSからのキューイングが、効果的に機能すれば(配備が進めば当然に機能するでしょう)、要捜索範囲は、非常に少なくなり、レーダー負荷は大したレベルではなくなります。
図3 (STSSリンク)
Ws000007

しかし、STSSによるキューイングによって、ASBMが事実上無力化される可能性は、中国も承知しています。
そのため、中国はASATの開発も行なっております。この事が、冒頭でASATとASBMがリンクしていると書いた理由です。

中国が描く戦術は、ASATでSTSSを撃墜し、イージスがASBMと巡航ミサイルの双方に警戒をせざるをえない状態を強要することで、ASBM、巡航ミサイル併用飽和攻撃を行なう事だと思われます。
これが、日台関係筋が警戒していると言われる「イージス・システムも「対艦弾道ミサイルやAS-4を大量に同時発射されれば、すべてを迎撃できる可能性は大きく低下する」」という言葉が意味するモノです。

ASBMが実用化され、中国がAS-4を含む対艦巡航ミサイルの飽和攻撃能力を高めれば、実際に米空母が撃沈される可能性は非常に高くなると思われます。
アメリカが各種報告で警戒し、産経が防衛省に注意が必要だと書いた事は、単なる予算確保のための煽りではなく、実際に警戒すべき脅威です。

問題は、ASBMが本当に実用可能なレベルになるのかですが、それについては、まだ不明です。
ASBMについてのその後の情報は、「海国防衛ジャーナル」さんが詳しく書いています。
中国の「対艦弾道ミサイル」が米空母艦隊の脅威?
中国が対艦弾道ミサイル「DF-21D」を地上固定目標に試射?

なお、週刊オブイェクトさんのASBM関連記事としては、前述リンクの他に、次の三つがあるようです。
一貫して、ASBMは、大きな脅威ではないとされています。
対艦弾道ミサイルという使えない兵器よりも超音速巡航ミサイルを!
中国の対艦弾道ミサイルは空母破壊兵器ではない?
対艦弾道ミサイル「ハリジ・ファルス」

また蛇足ではありますが、「バックファイアと対艦弾道ミサイル?」には、次のような内容もあります。

>自衛隊に外洋におけるTu-22Mの迎撃手段はない。

Tu-22Mから発射されるAS-4を迎撃すれば自衛隊の任務は達成される筈です。Tu-22Mそのものを撃破する必要はありません。

産経の元記事の流れが分からないので、ハッキリ言えませんが、元記事の趣旨は、Tu-22Mの行動範囲が広いため、自衛隊艦船に防護されていない商船に対する攻撃を迎撃する手段はないと言っているように思えます。
その意味では読み違えであるように思えます。

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2012年3月27日 (火)

資料検索依頼_SAMの射程と射高

PAC-3の射程とフットプリントについて記事を書こうと思い資料を探したのですが、適当なものが見つからず、難儀しております。

中射程以上の地対空ミサイル(PAC-3でなくて構いません。ロシア製でもなんでも)の射程と射高を示した模式図(断面図)を見かけた方は、コメント欄にて、リンク先等を教えて頂ければ助かります。
もちろん、日本語でなくてもOKです。

一般論として自分で図を描くことも可能なのですが、ソースがないと説得力がありませんので、探しております。

よろしくお願いします。

2010年2月26日 (金)

大型機によるSAM回避機動

昨年5月の記事「スパイラルアプローチ」で、スパイラルアプローチやランダムスティープアプローチが、MANPADS(スティンガーなどの携帯式SAM)を撃たれないための機動だった事を書きました。
これに関連して、今回は撃たれた場合の回避機動はどうするべきなのかについて書いてみます。

「大型機がSAMを機動で回避なんてできる訳ないだろ。電波な事かいてんじゃねえ」と思う人もいるでしょうが、C-130などの戦術輸送機レベルの大型機であれば、効果のある機動が可能です。(C-17くらいまでは可能でしょう)
もちろん回避機動をする余裕がある程度の距離から発射された場合に限りますが。
このことは、「スパイラルアプローチ」中で取り上げた、イラク派遣輸送飛行隊隊長だった北村1佐のインタビュー中にも「C-130ならば、MWSで脅威を捉え、機動性を発揮してこれをかわすことも期待できるでしょう。」とあることでも分かっていただけると思います。
もちろん機動だけでは十分ではありませんが、フレアなど機動以外の回避手段を併用することは戦闘機でも同じです。

さて、では実際にどう機動すべきなのかですが、いきなり結論から書きます。
それは、MANPADSの発射を確認したら、旋回し機首をミサイルの方向に向ける事です。
多分、この記事を読んでいただいている方の頭の中にはクエスチョンマークが浮かんでいることでしょう。
映画「レッドオクトーバーを追え」やかわぐちかいじ氏のマンガ「沈黙の艦隊」で魚雷の起爆を防いだような安全距離を利用する訳ではありません。(MANPADSの安全装置は、発射時のGなどで発射直後に解除されています。)
回避機動は、正確に書くと、機首をミサイルの方位に向け、速度・エンジン出力の許す範囲で緩上昇をかける(無理ならレベル(水平飛行))事です。
エンジン出力をどうするかは、機種や状況によります。効果的な機動のためにはエンジン出力をあげる事がベターですが、赤外放射をおさえるには出力は絞った方がベターです。判断は個別の状況でパイロットに任されますが、C-130の場合は、元々赤外放射は多くないので出力はあげ、上昇する方が得策でしょう。

さて、ではなぜそんな機動がSAM回避に効果的かと言うと、直線的なトラジェクトリーを採るMANPADSなど小型短射程なミサイルの場合、次のようなことが言えるからです。
・ロケットモーターのエネルギーの内、位置エネルギーに変換される分が多くなり、速度エネルギーが不足してミサイルの機動性が悪くなること
・ミサイルから見て下方に高温の排気が来るため、目標よりも下方に誘導されやすいこと
・フレアを併用した際に、フレアが沈降するためミサイルがより下方に引っ張られること
・(基本的に)重力加速度を検知、補正する手段を持っていないため、ミサイルが根本的に目標の中心よりも下方に飛翔しやすいこと(それでもミサイルの機動性による誤差修正が目標の大きさの範囲に収まるため命中するし、ミサイルによっては発射時に重力加速度分のリード角を挿入して発射される)
結果として、上記の回避機動をとると、ミサイルは目標の下方を通過することになります。

ただし、ここまで読んでセンスのある方は分かるかもしれませんが、この回避機動には根本的な制約があります。
それは、迅速に2発目の発射が予想される場合には使えないということです。機体がミサイルの発射点に近づくため、2発目があればより近距離で発射されることになりますし、その時にはより上方に向けてリード角が取られた上で発射されるからです。
逆に、ミサイル側とすれば連射機能があれば、この欠点は補えることになるため、多くの短射程SAMは連射能力に優れています。自衛隊の短SAMなんかもそうです。

ですが、イラクではこの機動は有効です。それは、飛行場周辺にはびっしりと米軍の地上部隊が配備され、武装勢力とすれば2発目の発射をする余裕はないからです。

という訳で、大型機でもSAM回避機動が取れることは分かって頂けたでしょうか。

しかし、戦術というのはじゃんけんのようなものです。
スパイラルアプローチやランダムスティープアプローチが採られ、ミサイルを撃たれた際にもこのような回避機動が採られることが分かっていれば、それを踏まえた戦術も可能です。
それを書くことはマズイと思うので書きませんが、「戦術眼には自信がある!」という方は考えてみてください。(もちろん、地上部隊にやられても構わないという決死の覚悟で2発目を撃つ、なんてのはダメです。)

2009年8月29日 (土)

陸自高射特科の全般防空使用は試金石

産経新聞は、パトリオットの全高射群PAC-3化を報じた日と同日、コラム欄で空自高射部隊を弾道ミサイル対処に特化させ、中SAMの陸自高射特科部隊を全般防空に使用する可能性を報じています。

【視点】国民防護の意思鮮明 PAC3配備拡大」(産経新聞09年8月18日)記事内容は末尾に転載

この記事は、空自高射部隊と陸自高射特科部隊の大きな変化に言及した記事だったので、2チャンネルなどでも結構話題となっていました。

ここで、この記事に関連する本題に入る前に、自衛官時代にたびたび耳にすることになったある質問とその回答について書いておきます。
3自衛隊間で相互に研修を行うことは良くあることですが、陸自の方を研修で受け入れた際、空自、中でも特に空自の高射部隊であるパトリオット部隊が、彼らにどのようにエアカバーをかけられるか、という質問がされることが多くありました。
ただし、この質問は幹部ではなく、陸曹の方から貰うことが普通でした。幹部の方は、答えが分かっていたから質問はしなかったのでしょう。
この質問がされた時、私は決って次のように答えていました。
「陸自が戦闘を行う際、空自によるエアカバーは期待しないで下さい。なぜなら陸自が戦闘になる時は、空自は壊滅した後だからです。」

さて、ここからが本題です。
湾岸戦争、イラク戦争を見ても分かるとおり、戦闘はまず航空作戦から開始されます。
その中でも、敵防空網制圧は最も初期に実施される作戦で、高い性能を持つSAMは必ず標的となります。高性能のSAMが航空基地を守っていれば、これを制圧することなしに攻勢対航空などの作戦実施は困難です。
中SAMほどの性能を持つSAMが、全般防空を任として航空基地などを守っていれば、必ずSEADの対象となります。

陸自高射特科部隊の現在の任務は、機甲師団などの陸戦戦力を航空攻撃から防護する野戦防空ですが、これに全般防空加えることは、単に任務を増やし、負担を増やすと言うに留まりません。
実質的に、「全般防空を任務にする」=「野戦防空には使えない」となるのです。
別の言い方をすれば、現在の陸自の構想である「野戦防空用の戦力とする」=「防空戦闘間は隠して温存する」となるのです。

中央即応集団や西部方面普通科連隊が編成されているように、陸自の考え方、あり方は変わりつつあります。
ですが、基本的には敵による着上陸侵攻を阻止することが基本的な考え方です。装備もそれに沿って調達されていますし、部隊配備もそうです。
その流れの中で、野戦防空を任とする陸自高射特科部隊は、空自が戦う防空戦闘間は、ひっそりと身を隠すことで部隊保全を図り、空海自衛隊の壊滅後に実施される敵による着上陸に備える事を期待されています。
陸自の高射特科部隊は、BADGEと連接した空自との共同訓練も行っていますが、私が思うに、それ以上の努力で部隊保全の訓練を行っています。指揮所を地下に設置する訓練などを実施しており、「ココまでやるか」と思ったことは度々ありました。

だからこそ、産経の記事にあるとおり、陸自は「(全般防空に使用してしまえば)野戦防空が手薄になるとの懸念」を持っているのです。
ですが、この話は、産経の記事に書かれているように、財政的な理由だけではないでしょう。
離島防衛では、まず航空作戦により航空優勢を確保し、その後に着上陸という従来型の戦闘様相にはならない可能性が高くなります。
政治的な要素もからめ、彼我の航空優勢が拮抗した離島において、大規模な防空火器を持たない部隊どおしが対峙するという状況が生起する可能性が高いでしょう。
陸自とすれば、そういった様相下で活躍できる部隊の育成に(財政)資源を投下し、高射特科部隊は、空自による広範囲の全般防空に資する方向に使った方が適切だ、という考えが出てきているに違いありません。

陸自高射特科の全般防空での使用は、陸自のあり方そのものを、従来の大規模着上陸に備えるものから、離島対処などを念頭に置いたものに変えることができるかどうかの試金石です。
もっとも、民主が政権を取ると、これが試金石となる以前に機甲師団の解体など大規模な改編を受けることにもなりかねませんが・・・

以下、産経の記事内容の全文転載
********************
【視点】国民防護の意思鮮明 PAC3配備拡大
 PAC3の配備拡大は全国民を弾道ミサイル攻撃から防護する意思を鮮明にするものだ。PAC2ではノドンの迎撃は不可能で、強硬姿勢を強める北朝鮮の脅威除去に向け、妥当な計画変更といえる。

 4月に北朝鮮が発射したミサイルは秋田、岩手両県の上空を通過。東北にPAC3は未配備で、両県には浜松基地のPAC3を移動させたが、東北選出の自民党国会議員は恒常的な配備を要請している。配備拠点に偏りがあることには納税者を区別しているとの不公平感もつきまとい、全国配備でこれも解消できる。

 空自高射部隊は基地や重要防護地域を守るため、PAC2で敵の航空機を迎え撃つ「全般防空」も担っている。防衛省はPAC3の配備拡大に伴い、空自高射部隊を弾道ミサイル対処に特化させ、防空を陸自高射特科(砲兵)部隊の新中距離地対空誘導弾(新中SAM)に代替させることも検討している。

 ただ、陸自の高射特科部隊は本来、地上戦闘部隊を敵機から守る「野戦防空用」。陸自には、より広域をカバーする全般防空も任務に加われば、野戦防空が手薄になるとの懸念がある。空自の統制下に組み込まれることへの陸自の抵抗感も強いが、「厳しい財政状況の中、統合運用を進め、部隊を整理することは避けられない」(防衛省幹部)との指摘がある。 (半沢尚久)
********************

2009年8月25日 (火)

PACー3化の軍事的合理性

今回は、報じられている全高射群PAC-3化が軍事的に評価できるかどうかを考えて見ます。

・MD上(対北朝鮮)
対北朝鮮でのMDを考える場合、2つのケースが有り得ます。

一つには朝鮮半島有事に際し、在日米軍基地を拠点とした米軍の行動を直接に阻止するため、米軍基地を攻撃する場合です。
この場合、ノドンのCEP(半数必中径などと訳されるミサイルの精度の指標で、撃ったミサイルの半数が集中する半径のこと)が2500mと命中率が悪く、たとえ滑走路の中心を狙ったとしても、滑走路どころか基地にも命中しないミサイルが多数となるほどの状況であることから、PAC-3で基地を防護すれば、200発を超えるノドンによっても基地の機能がマヒさせられることは、まず有り得ません。(ノドン全弾を迎撃する必要性はなく、重要な防護対象に落下するもののみを迎撃すれば良い)
全高射群のPAC-3化により、三沢、横須賀、岩国、佐世保といった米軍基地にもPAC-3を展開させられる余裕がでるため、PAC-3化は有意義だと言えます。

もう一つは、恫喝により日本の世論に圧力を加え、政府による(在日)米軍の支援を阻害しようとするケースです。
この場合、ニュースで報じられている防衛省の意図に反して、実際には大した意味はありません。
国民への恫喝に対して、PAC-3は防護範囲が狭く、6個群体制となったところで防護不可の地域が広範囲に及びます。その意味では全高射群をPAC-3化する価値は限定的、と言うより大した効果はないと言えます。
4月の弾道弾騒ぎの時を見ても明らかなように、PAC-3の防護範囲を秘匿することは事実上困難です。例え報道管制が行われたとしても、朝鮮総連関係者など、北朝鮮による展開場所の情報収集を防ぐことは難しいでしょう。
北朝鮮とすれば、防護範囲外の地点を狙って弾道ミサイルを発射するぞ、と言ってしまえば良いわけです。

・MD上(対中国)
中国の場合、無差別に人工密集地に弾道弾攻撃を行うことは既に政治的に困難で、軍事的な妥当性を説明できない場所に弾道弾攻撃を行うことは困難でしょう。
そのため、PAC-3化による防護範囲の拡大及び対処可能弾数の増加は意義があります。
中国との衝突の可能性が高い事態は尖閣などの離島防衛ですが、特に先島まで攻撃可能範囲におさめるSRBMに対する対処能力が大幅に増加する意義は大きいと思われます。
3個高射群では、PAC-3で東京や那覇、九州の自衛隊基地を防護するするので精一杯ですが、6個高射群がPAC-3化されれば、先島にも展開させられる余力が出ます。SRBMにはPAC-2でも一定の効果がありますが、PAC-3の方が効果的なことは明らかです。SRBMはイージスSM-3での迎撃が困難であることからも、PAC-3を投入できる価値は高いでしょう。
その意味で、全高射群のPAC-3化に対して、中国がどんな関心をしめすのか興味深いところです。

・防空戦闘上
2チャンネルの書き込みなどを見ていると、PAC-3化によって、防空戦闘にパトリオットが使えなくなるように誤解している方もいるようですが、PAC-2弾も同時に運用できるので、そんなことはないどころか、対航空機の防空戦闘上でも能力は向上します。
(4月の弾道ミサイル騒ぎの際に、展開部隊がPAC-3搭載ランチャーしか持ってゆかなかったことも、そう言ったイメージの植え付けに影響しているかもしれません。)
PAC-3化によりレーダーの能力向上が図られ、特に小型目標に対する探知性能が向上します。現代のSAM戦闘では、SAMに対してARMが使用されることはもはや当たり前の事ですが、PAC-3化によりARMのピックアップが早くなり、ARMに対する対処行動が取りやすくなります。
ARMに対する対処行動では、レーダー放射を止めることが最も一般的ですが、早期にARMをピックアップし、レーダー放射を止めれば、風の影響などにより、ARMが外れる可能性が高くなります。
また、既にARMが至近距離にある、他の脅威もありレーダー放射を止めることが適切でない、あるいはレーダー放射の位置を記憶し、その他の手段をもって誘導を補正して、レーダー放射が停止されていても高い命中率を確保できる高性能なARMに対しては、ARM自体をパトリオット弾で迎撃できます。PAC-3化で小型目標に対する誘導性能も向上するので、ARMを迎撃できる可能性も高くなります。また、ARM程度であればPAC-2弾でも迎撃可能ですが、PAC-3弾を使用できる状況(保有弾数に余裕があれば)であれば、より高い確率で迎撃できます。

・部隊編成
PAC-3化に併せ、各高射群4個高射隊体制から3個高射隊体制に削減されることが報じられています。
高射隊数の削減は、軍事的合理性から決して良い事とは言えませんが、削減による影響は限定的でしょう。
これは推測ですが、高射隊数が削減されても保有するランチャーが廃棄されるわけではないと思われます。
となれば、各高射隊の保有ランチャー数は現在の5から6ないし7となるはずで、高射群としての戦闘能力には大きな差が出てこないはずです。
パトリオットは、中SAMなどと異なり射撃方位が限られますが、3個高射隊があれば、完全に後背に回られない限り、カバレージの隙を衝かれることは防げます。後背が弱くなる分は、DCがFIのコントロールで気をつければ良い話ですし、陸自SAMが展開していれば、それによって後背を守ることも可能です。
MDに関しては、産経で報じられていたとおり、リモートロンチによるランチャーファームを設けることで、高射隊を削減してもフットプリントは増やせます。
(4月の弾道ミサイル騒ぎの際の市ヶ谷のように)
なお、報道では高射隊の削減の話しか出ていませんが、各高射群に1個ある整備補給隊も削減される可能性があるかもしれません。

・まとめ
PAC-3化の結果、ノドンに対する在日米軍基地の防護、対中国のMDや防空戦闘能力の向上では大きなプラス効果がありそうです。一方、付随的に実施されそうな部隊改編の結果、高射群の戦闘力は多少低下するものの、大きなマイナスにはなりません。
という訳で、全高射群のPACー3化は軍事的合理性に照らして評価できる施策です。

2008年6月30日 (月)

北京五輪、テロ対処にSAM配備

ミサイル総合スレに北京五輪に備え、地対空ミサイルが配置されたとのニュースが出てました。
配置されたミサイルが、短射程だということに疑問が提示されていたので、短射程SAM擁護で次の通り書いておきました。

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テロ対処では無闇に迎撃するわけには行きませんから、 目標を目視で確認しつつ、確実に目標を迎撃できるSHORADは使い易い兵器でしょう。
北京郊外にはS-300あたりが置いてあるのかも知れません。
ラジコン機などへの対処を含めて、対空機関砲も配置されるような気がします。

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コストだけではなく、SHORADには、SHORADなりの利点があります。

2008年6月28日 (土)

AAMで接近するSAMを迎撃できる?

ルックダウン・シュートダウンが可能な軍用機が、 搭載ミサイルで自機を狙うSAMを撃ち落す事が可能なのか?
という質問が出てました。

リアクションタイムの必要性などから、可能性としては有るかもしれないとの回答もあったのですが、ほぼ0なので、次のように回答しました。

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(可能性があるとしても)限りなく0に近い可能性でしかありません。

・ミサイルのRCSは、航空機と比べると極端に小さいため、地上(海上)設置レーダーと比べて出力の小さい機上レーダーでは捕捉できる可能性が低い
・SAMの到達までに、AAMのリアクションタイムを消化して、ミサイルシュートできる可能性が低い。 SAMの加速は数十Gで、あっという間にマック3~5程度まで加速する。(長射程のSAMを遠距離で発射された場合は、ミサイルシュートできる可能性があるが、その状況なら逃げた方が確実)
・ミサイルシュートできたとしても、AAMのシーカーがSAMを捕捉できるとは限らない。 AAMが赤外線誘導の場合も、大抵のSAMのロケットモーターの燃焼時間が短く、遠距離で発射された場合は、SAMが途中から慣性と位置エネルギーを速度エネルギーに変換して飛翔する(長射程SAMのトラジェクトリーは放物軌道に近い)ため、赤外線放射が小さく(空気との摩擦熱のみ)ロックオンできる可能性は低い。
・仮にAAMのシーカーがSAMを捕捉できたとしても、直撃できる可能性は極めて低い。 直撃しない場合、近接作動信管が無いAAMは無論、有る場合もRCSの問題から作動しない可能性がある。さらに、近接作動信管が作動する近距離を通過した場合も、SAMとAAMの相対速度が容易にマック5を越える高速のため、両者がすれ違った後にAAMの弾頭が起爆する。

特に、最後の信管作動の問題から、可能性はほぼ0と言えます。
ちなみに、途中で書いたとおり、長射程SAMのトラジェクトリーは、上空に打ち上げてから、空気密度の低い上空を通過して打ち下ろす形になるため、AAM側からすればルックダウン、シュートダウンではなくなります。
また逆に、弾道ミサイル対処能力のあるSAMの場合は、ASMを迎撃できる可能性があります。

AAMでのSAM迎撃はほぼ不可能ですが、ラプターやライトニングⅡでは、搭載レーダーによってSAMシーカーを狂わす(OR電子的に破壊する)ことによってSAMを無力化できる可能性があるようです。

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航空機について詳しい方は結構いますが、ミサイルのことまで詳しい方は少ないですね。

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