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防衛関係法規・規則

2008年6月21日 (土)

対領侵措置任務中の反撃

対領侵措置任務中に、領空侵犯機が自衛隊機にミサイル発射してきた場合、 許可がなければ反撃できないのか?
という質問が出てましたので、次の通り回答してます。

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反撃の許可を与えることの出来る人はいません。
たとえ最高司令官である総理大臣でも、領侵機に対する攻撃許可は出せません。
しかし、なにも出来ないわけではないと思われます。
思われますと書いたのは、今だ裁判で争われたことがなく、判例がないためにはっきりとした見解が固まっていないということです。

領空侵犯に対する措置は、自衛隊法84条で次の通りに定められています。
(領空侵犯に対する措置)
第八十四条  防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 (昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反 してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

この84条では、領侵機に対する攻撃については書かれていないため、航空機に限らず自衛官一般に定められている権限、自衛隊法95条の武器等の防護のための武器の使用しか適用できる権限がありません。

(武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条  自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上 警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる
。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

というわけで、反撃するためには刑法36条(正当防衛)または37条(緊急避難)に該当する場合のみということになります。

(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
(緊急避難)
第三十七条  自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2  前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

問題は、どのようなシチュエーションなら正当防衛もしくは緊急避難に該当するか、ということになります。
国会答弁等で回答されたことがあるかも知れませんが、そこまで承知していません。
また、国会答弁があったとしても、所詮は政府見解なので、司法判断で覆る可能性もあります。

冒頭で書いたとおり、判例がないので、以下は個人的な法解釈として読んでください。
最初に正当防衛についてです。
航空機は、基本的には前方象限しか攻撃できないため、物理的に反撃できるケースはヘッドオンで対峙した場合のみです。
判例のありそうなケースとしては、2人の人がナイフをもって睨みあっている状況から、相手がナイフを突いてきたため、突き返したという場合です。
ある程度法律を承知している人なら理解して頂けると思いますが、このケースは100%正当防衛とはなりません。
睨み合っている時点で、急迫不正な侵害とはならないからです。
簡単な言い方をすれば、逃げるというオプションを選択可能な限り、逃げなければならないということです。
また、当然ですがレーダー照射されたからといって攻撃を受けたと主張することは無理があります。
次に緊急避難の場合です。
セミアクティブホーミングミサイルで僚機が攻撃された場合に、ミサイル誘導を行っている領侵機を攻撃する場合などが、緊急避難に該当すると思われます。
ただし、僚機が撃墜される前でなければなりません。緊急避難が、あくまで「現在の危難」をさける場合しか認められないためです。

他にも様々なケースがありうるかと思いますが、基本的に正当防衛か緊急避難に該当する場合しか反撃はできません。
そしてその判断は、命令や許可ではなく、個人判断ということになります。

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この回答に対して意見をくれる人も居たのですが・・・
法学板に行けと怒られてしまいました。

自衛隊の行動任務についての法的根拠

これも先週の法律関係です。

自衛隊の行動が法的根拠が与えられていないのではないか?

そして自衛隊の行動について訴訟を起こす人がいるのではないか?

という質問がありました。


次の通り回答してます。

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自衛隊の行動に関する法的根拠は、 自衛隊法として存在しています。
ただし、なんらかの「出動」が発令されている必要があります。

平成15年までは、根拠としての自衛隊法は存在していたものの、 実際の行動時に当然問題となる土地の収用などについて、規定がされていなかったため、 「有事法制がない」という表現がされていました。
(平成15年の武力攻撃事態対処の自衛隊法の改正は、実際に実行するには煩雑過ぎ、法律としては不十分との論議があります)
法律を読みたい方はココ
http://www.mod.go.jp/j/yujihousei/index.htm

防衛出動が発令されていれば、「敵」に対する戦闘行為とそれによる「殺人」は、普通の法的解釈としては、正当行為として、違法性が阻却されます。
つまり罪には問われないということです。
(手術を行う医師が傷害罪に問われないことと同じ理屈です)
ただし、個々の状況については、正当行為の範囲を逸脱していないかという点において、誰かが自衛隊を告発することは可能ですし、逸脱していれば、罪に問われる可能性はあります。
具体的には、敵か否かの確認を怠り、あやまって一般の国民を殺害した場合などは、過失致死などの罪に問われる可能性があります。
実際に有罪となるか否かは、その時の司法判断次第でしょう。

政府の意思決定が遅れており、「敵」として認定はさてれない場合、つまり防衛出動が出されていない場合はどう判断されるか、ということになると思いますが、
この場合、「自衛隊法」も「行政法」の一種であり、行政組織の行動に法的根拠を与えるものであるため、出動が出されていない状況で、「行動」すれば、それは違法行為になります。

余談ですが、「政府の意思決定が間に合わない可能性がある」と考えられているケースに、弾道ミサイルによる攻撃が考えられています。
そのため、「弾道ミサイル等に対する破壊措置」として自衛隊法82条2項の3において、あらかじめ、弾道ミサイル等に対する破壊措置を命じておくことが出来ると規定されています。
もっとも、実際には、他にも間に合わない可能性のあるケースは、いくらでもあるでしょう。

2009年1月10日 (土)

海賊処罰取締法-浮かび上がるねじれ

1月4日に「海自によるソマリア海賊対策の根拠と限界」をUPしたばかりですが、そのわずか2日後の6日、新法「海賊処罰取締法」(仮称)が今国会に提出される方針であることが報じられました。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090107-OYT1T00007.htm


海上警備行動での海賊対処には問題があることは以前のエントリーで書いたとおりですから、その問題と解決するこの新法制定の動きはもちろん歓迎すべきものです。
ですが、この新法が制定されると、一つのねじれ現象が浮かび上がって来ます。


今回の「海賊処罰取締法」(仮称)は、警察比例の原則を超える対処(正当防衛や緊急避難に該当しない場合での危害射撃など)を公海上において行うための法律です。
翻って、わが国の領域警備はどうでしょう。

海上警備行動にせよ、航空自衛隊が行っている対領空侵犯措置にせよ、わが国の領域内にもかかわらず、警察比例の原則内でしか行動できません。

新法が制定されると、わが国の領域外である公海上においては、私人による不法行為に対して警察比例の原則を超えた対処が可能になるにもかかわらず、わが国の領域内で行われる敵性国家による不法行為に対しては警察比例の原則内でしか対処できないという状況が生起します。
これはもう、あまりにも酷いねじれと言わざるを得ません。


泥縄とは言え、海賊対処にはそれなりの法を作りながら、北朝鮮による不審船や中国、ロシア機による領空侵犯に対して、今後も自衛隊の手足を縛ったままである法体系を放置するとしたら、これはもう行政(政府)と立法(国会)の怠慢でしかないでしょう。


諸外国の対処がそうでないことはいまさら言うまでもないですが、いい加減、領域警備についてもっと突っ込んだ法整備が必要です。

2009年2月 1日 (日)

ネガティブリスト

海上自衛隊が海賊対処のために派遣されようとしています。
海上警備行動での派遣には諸処の問題があることは、以前の記事「海自によるソマリア海賊対策の根拠と限界 」でも書いた通りですが、派遣の途中から根拠が海賊処罰取締法に切り替えられる見込みで、この点は改善がなされる方向で固まっています。

新聞などでも問題視されている武器使用の基準、部隊行動基準(ROE)も、海賊処罰取締法への根拠移行とともに、より部隊が動きやすいものになるでしょう。
しかし、それでも残る懸念があります。

それは、上記の基準がネガティブリストで記述されるか否かです。
ネガティブリストとは、「○○をしてはならない。」と否定形式で書かれるもので、その逆は「○○をする。」あるいは「○○をして良い。」と肯定形式で書くポジティブリストとなります。

部隊行動基準などは公開されていないため、詳細は書けませんが、石破元防衛庁長官(当時)も著書の中で書いている通り、自衛隊法を始め、自衛隊の規則類は全てポジティブリストで書かれています。
その理由は、防衛省に限らず、各省庁の権限を発生させる行政法の全てがが、ポジティブリストで書かれるためです。
(お役所は規定された事以外を行うと違法行為となるため、これが、管轄外を理由に仕事をしないという、お役所仕事のお役所仕事たる所以となっています)

自衛隊の各種規則類は、全てその上位規則を根拠としています。
それは、上位規則がポジティブリストにとして、「可能」と規定している物について、その細部を規定する物が下位規則だからです。そのため、下位規則もまたポジティブリストになってしまいます。
自衛隊法や防衛省設置法は行政法ですから、それを根拠とする自衛隊の各種規則も、また同じようにポジティブリストとなってしまう訳です。
私も現役自衛官の頃、新たな試みや規則を作ろうとすると「根拠はなんだ!」、「根拠(文書)を示せ」と、耳タコなほど言われました。

このように、自衛隊の規則類がポジティブリストとなっているのは、それなりに理由のあることではあります。
ですが、派遣される海自の行動を規制する部隊行動基準などが、ポジティブリストのままでは危険です。

良く言われる事は、ポジティブリストでは、判断が難しく、一瞬の躊躇が危険につながると言うものですが、部隊行動基準などに触れたことがない人には分かり難い話でしょう。

うまく説明することは難しいですが、若干説明を加えてみます。
ポジティブリストでは、行っても良い事(場合)、つまり白だけが規定されるため、グレーは基本的に黒、行ってはいけない事(場合)と判断すべき物となります。つまり、白ではない可能性のある場合は、黒なのです。これは、非常な心理的負荷になります。

また、部隊行動基準などを作成する上では、グレーをなくそうとすると、網羅的に書かなければならなくなり、条文がどんどん増えてしまう結果となります。
現役時代に参加したある演習において、想定として出された部隊行動基準を見て絶句した事を覚えています。
それは、あらゆるケースに適合できるように統裁部(演習をコントロールする指導側のこと)が苦労した賜物だったのですが、私の感想は、「こんなもの、幹部だって全てを覚えきれない」というものでした。
また、項目が増えることによって、前述の心理的負荷も増える結果となります。

山のような項目数の部隊行動基準等が出されたとしても、CICで艦長を始めとした幹部が判断する場合はまだ良いでしょう。
ですが、今回の海賊対処では、特別警備隊が海賊船内に入って臨検することも考えられています。彼らに長大で複雑な基準を暗記させ、それによって咄嗟の判断を要求するとすれば、それは中央がすべき苦労を、現場に押し付けていることに他なりません。

前述したように、部隊行動基準などを、旧弊を排して、ネガティブリストとして作ることには、相当な困難(内閣法制局など関係者の納得)があるでしょう。
ですが、これなしに海自を送り出したとしたら、隊員が背広組に殺されることにもなりかねません。

2009年2月11日 (水)

海賊対処は改憲問題につながる

海上自衛隊による海賊対処について、これまでにも何回か記事を書きました。
この件については、このブログでけではなく、各所でいろいろな問題について語られていますが、この海賊対処が改憲問題を生起せざるを得ないことを論じているものはあまりないように見受けられます。
ですが、今後非常に大きな問題に発展する可能性のある問題があるため、今回はそれについて書いてみます。


自衛官は実直です。
海賊対処のために派遣されれば、真摯に任務に取り組むでしょう。
ですが、人の行う事でミスがないと言うことはありえません。間違いは必ず起ります。

現在海賊対処を実施している各国軍隊の中でも間違いは発生しています。
例を挙げると、2008年11月18日、インド海軍は海賊船の母船を撃沈しましたが、この船は実際には海賊に乗っ取られたタイの漁船だったことが判明しています。
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2543167/3556899


間違いが発生した場合、どんな事態になるでしょうか。
政治的な問題になることはもとよりですが、もし過失(過剰な武力行使など)があれば、それは罪に問われます。
諸外国であれば、特別裁判所である軍事法廷、あるいは軍法会議と呼ばれるもので裁かれます。
日本の場合は、憲法76条の規定により、通常の裁判所(地裁、高裁、最高裁)で裁かれることになります。
********************
憲法76条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。(後略)
********************


まず、第1にこれが適当なのか、はたして通常の裁判所が裁くことが可能なのかという問題があります。
海賊対処は、本来それを任とすべき警察権行使の機関である海上保安庁の手にあまることから海上自衛隊に白羽の矢が立った訳です。
つまり、通常の治安機関では対処できない事態だから軍隊(あえてこう書きます)の出番となった訳です。
そういった事態に対して、通常の司法によって判断することは不適切です。なにより、裁判官や検察官、弁護士ともに軍事という特殊な環境下に置かれる組織に暗いことが問題です。
また、自衛隊が通常の裁判所により裁かれるということは、指揮の一元性の否定にも繋がります。


次に、通常の裁判所で裁かれるということは、秘密の保持上も問題です。
憲法82条では、裁判は公開法廷で実施すると規定されています。
一応、同条2項において、公の秩序に害する場合など、特定の状況下では公開せずに裁判を行うことも可能とされていますが、基本は公開法廷です。
********************
第82条
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
********************


何らかの過失があった可能性がある事態では、その行動が、部隊行動基準(ROE)などに照らし合わせて適正だったかと言うことが問題となりますが、部隊行動基準(ROE)は決して公になってはならないものです。
もしこれが海賊の知るところとなれば、彼らは自衛隊が対処し難い行動を採る事になるでしょう。
今回の海賊対処では、各国との協調という点では問題になりませんが、インド洋で行われていた給油活動等、各国との協調が必要な事態では、ROEも調整が図られることは当然で、それが外部に漏れるとしたら、各国は自衛隊と協調することは難しくなってしまいます。


海賊対処は、相手が他国の軍隊ではないこともあり、過ちは起き易いものです。
海上自衛隊がインド海軍と同じような過ちを犯すことは十分にありえるのです。

自衛隊の行動上の過ちは、特別法廷である軍法会議によって裁かなければ、上記のような問題が発生します。

解決(特別法廷としての軍法会議の設置)には改憲が必要となるため、一朝一夕にどうにかなるものでもありませんが、その時になってから、慌てるようでは遅すぎます。
今からしっかりと議論するべきでしょう。

2009年3月21日 (土)

自衛隊が保有する武器の輸出

読売新聞が「海上警備行動の武器、輸出三原則の対象外に…官房長官談話」という記事を報じています。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090313-OYT1T00503.htm

非常に短いニュースなので、全文を転載しておきます。
********************
政府は13日午前、海上警備行動の発令に伴い、自衛官や海上保安官が携行する武器について、武器の輸出を禁じた「武器輸出三原則」の対象外とする、との官房長官談話を発表した。
 自衛官が武器を携行したまま、外国に寄港した場合、武器輸出にあたる、とみなされるおそれがあるためだ。武器輸出三原則の例外扱いは、イラク特措法に基づいて、イラクに派遣された自衛官の携行した武器などにも適用された。
********************


一般の方には、どういうことなのか理解不能なニュースでしょう。
「輸出」と言えば、普通の理解では外国に商品を売り渡すことを意味します。自衛隊が海外に武器を持ち出しただけで、それが「輸出」に当たるなどとは、普通は考えません。
もし、その通りなら、訓練でアメリカに行くケース(コープノースやミサイルの射撃訓練など)も「輸出」になってしまうはずです。

ところが、これらのケースも「輸出」に該当するのです。
実を言うと、私もある事件(と言うほどのものではないのですが)にぶち当たるまでは、そんなこととは知りませんでした。


ある時、私が担当していた海外訓練で器材の故障が発生しました。
修復のためには、交換部品を送る必要があったのですが、それを発送しようとしたところ、補給サイドから待ったがかかりました。
武器輸出に伴う経済産業省への申請・許可が間に合わないというのです。
「はあ?輸出?、向こうに行っている部隊に送るだけだぞ。何言ってんだコイツ。だったら今まで持って行った機材も全部申請が必要じゃねえか!」というのが私の感想だったのですが、くわしく話を聞くと、今まで送ったものは全て申請・許可を受けているとうことだったのです。
(アメリカは武器禁輸三原則に該当する国ではないため、申請・許可を受ければ輸出が可能)


この時、たとえ訓練でも武器を海外に持ち出すことが「輸出」にあたると、初めて知りました。
しかも、この時の部品は、どうみても武器には見えないただのピン1本だったのですが、それでも申請・許可が必要だったのです。
(実際にどのように処置したかは、口が裂けても言えません(書けません))


今回のケースでは、海自の艦艇はどこかの港に寄港しない限り、武器を持ち出したことにならない(船の中は日本の法律が通用する)のですが、記事に在るとおり、何らかの理由で寄航する可能性があるため、官房長官が予防線を張ったわけです。


自衛隊は、こんなところでも縛りを受けています。
国民の皆様のご理解とご支援をお願い致します。

2009年4月21日 (火)

放棄されたシビリアンコントロール

今回の北朝鮮による「弾道ミサイル」発射に対して、いろいろと課題は出てきたものの、日本政府の対応は良かったと評価されていますし、私もそう思います。

ですが、政府として決定的な失策が一つありました。
それは、シビリアンである内閣総理大臣が、シビリアンコントロールとその責任を放棄してしまったことです。

このブログでも何回も触れましたが、今回自衛隊に命ぜられた弾道ミサイル等の破壊措置は、自衛隊法82条の2の3項を適用されてのものでした。

これは、「事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがない」場合に適用される条項です。ですが、今回は十分な「いとま」がありました。にも関わらず、政府は今回、飛来する恐れは認められないが、「事故が発生したら落下する場合がある」ことから3項を選択した、と言われています。
一見、筋が通っているようにも見えますが、こちら に在るとおり、防衛白書でも「事柄の重要性および政府全体としての対応の必要性にかんがみ、内閣総理大臣の承認(閣議決定)と防衛庁長官の個別の命令を要件とし、内閣および防衛庁長官がその責任を十分果たし得るようにしている」と書かれており、3項はあくまでいとまのない緊急時のみの条項として法律が制定されました。逆に、「いとま」がある場合は1項を適用し、内閣総理大臣が承認することを前提としているのです。

つまり、今回の措置では、内閣(総理大臣)がその責任(シビリアンコントロール)を放棄してしまったのです。
防衛省・自衛隊に責任を押し付けたとも言えます。

最近では、田母神元空幕長の更迭問題などがシビリアンコントロール上の問題と言われることもありましたが、今回の事案にあたって、内閣自らシビリアンコントロールを放棄しているようでは話になりません。

今後は、もっと責任ある対応をとって頂きたいものです。

2009年11月11日 (水)

岡田外相の「自衛隊若葉マーク」発言は天唾だ!

アフガニスタンへの自衛隊派遣について、岡田外相が「若葉マークのついた自衛隊を出すのはあり得ない選択だ」と発言し、これに対してヒゲの隊長こと佐藤正久参院議員がかみついたことが話題になってます。
ヒゲの隊長、岡田外相にかみつく「あなたが若葉マーク!」」(産経新聞09年11月10日)

佐藤氏は「どれだけの隊員が傷ついたか」とせまり、撤回を求めたそうです。
ですが、岡田外相は「表現の問題だ。普通の軍隊と違い武器の制約がある」と反論し、発言は撤回しなかったそうです。

佐藤議員の言っておられる事は当然ですが、岡田外相の発言は完全に天唾なんですから、こちらをもっと追求しないといけません。

自衛隊に武器の制約があることは、自衛隊の責任ではありません。この問題は、佐藤議員も自身のサイト内で書いている通り、集団安保や武器使用基準の法的枠組みの問題です。
http://east.tegelog.jp/index.php?itemid=3361

ですから、誰の責任かと言えば、それは国会議員あるいは政治家の責任と言えるわけです。
厳しい言い方をすれば、立法の不作為であり、政治家の怠慢とも言えます。
それを、大臣も務める与党の有力議員が問題視している訳ですから、もう完全に天に唾を吐いているとしか言えません。

佐藤議員には、そこを指摘して欲しかったと思います。
すかさず「ではさっそく国会で議論しましょう」くらい言って欲しかったと思います。もし言っていただけたら、岡田外相がどう反応したか見ものです。

2009年12月18日 (金)

自衛隊による殺人の根拠

先日、ブログのアクセス解析を見ていたら、「自衛隊 法的根拠 殺人」というワードで検索して来られた方がいらっしゃいました。

これについて、以前の記事「自衛隊の行動任務についての法的根拠」という記事で簡単に触れているのですが、気になる方がいらっしゃるようなので、もう少し詳しく書いてみます。

殺人については、刑法199条に「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と書かれており、自衛隊云々という記述はありませんし、自衛隊法にも刑法を適用除外するという記述はありません。

しかし、自衛隊による戦闘行為(による殺人)は罪にはなりません。
それは、刑法35条に「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」と規定されているからで、この条文によって違法性が阻却されることになりなるからです。

法解釈的には、法令による行為及び正当業務行為は違法性阻却事由に該当する、と言われます。

ただし、言うまでもないことかもしれませんが、自衛隊による殺人が無条件で正当化される訳ではありません。
自衛隊法第6章「自衛隊の行動」(76条~86条)に基づいて出動等を命じられた部隊でなければなりませんし、第7章「自衛隊の権限等」(第87条~96条の2)で与えられた権限を範囲でしか認められません。

そのため、これらを逸脱した行為であれば、例え戦闘行動によるものであっても、起訴され有罪となることもありえます。
自衛隊発足から現在まで、個人の行動は別として、部隊行動が(意図があっての行為として)殺人罪として罪に問われたことはありませんが、業務上過失致死に問われたケースはあります。
最近の例としては、海自特警隊養成課程入校者の死亡事件がありますし、古くは雫石事故を挙げる事ができます。

上記の様な事故ではなく、戦闘行動でも罪になる可能性がある例を挙げてみると、次のようなものが考えられます。
例1:自衛隊施設にテロ行為で損害を与えた犯人が基地外を逃走中に、背後から銃撃し死傷させた場合
例2:治安出動中の隊員が、手配中のテロリストを発見し、警告を与える余裕があるにも関わらず、即座に射撃し死傷させた場合
例3:防衛出動中の隊員が、降服の意思を示した敵兵を射撃し死傷させた場合

グレーなものを含め、例を挙げればキリがありませんが、自衛隊による殺人のライセンスには、ちゃんと制限がかかっています。

2010年1月 1日 (金)

違法となる行為の解説 その1

あけましておめでとうございます。

年末にも更新するつもりだったのですが、インフルではないものの、カゼでダウンしておりました。

みなさんもお気をつけください。

さて、先日の記事「自衛隊による殺人の根拠」で書いた、違法行為として訴追を受けそうな行動の例として挙げた3点について、解説をして欲しいというコメントがあったので、今回はこれを書いてみようと思います。

まず以前に挙げた3つの例です。
例1:自衛隊施設にテロ行為で損害を与えた犯人が基地外を逃走中に、背後から銃撃し死傷させた場合
例2:治安出動中の隊員が、手配中のテロリストを発見し、警告を与える余裕があるにも関わらず、即座に射撃し死傷させた場合
例3:防衛出動中の隊員が、降服の意思を示した敵兵を射撃し死傷させた場合

この3つは、行動命令の発出状況で場合分けをした例となっています。
つまり、例1はなんら行動命令が発出されていない状況ですし、例2は治安出動命令下、例3は防衛出動命令下となっています。

例1から見てみます。
例1:自衛隊施設にテロ行為で損害を与えた犯人が基地外を逃走中に、背後から銃撃し死傷させた場合

これは、なんら行動命令を受けていない状況ですから、自衛隊法第6章の「自衛隊の行動」には、関係する条文がありません。そして、権限としては出動命令を受けていないわけですから、自衛隊に常に与えられている権限だけが使えます。条文としては、同法第7章の「自衛隊の権限等」の内、次の3点が関連条文となります。なお第九十六条条も行動任務とは関係有りませんが、この条文は警務隊にしか関係しません。
・第八十七条(武器の保有)
・第九十五条(武器等の防護のための武器の使用)
・第九十五条の二(自衛隊の施設の警護のための武器の使用)
この例の場合、自衛隊施設にテロ攻撃で被害を与えたわけですから、権限に関する条文で実際に適用されるのは九十五条の二、いわゆる施設警護のための武器使用になります。
そして、この例に関して、この条文の中で関係する部分は、危害許容要件である刑法第三十六条又は第三十七条に該当するか、つまり正当防衛か緊急避難に該当するか、そして「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」内かという点になります。
例の場合では、既にテロ攻撃は完了して逃走中なわけですから、自衛隊が武器使用によってテロリストを死傷させても、テロ攻撃自体を防ぐことはできません。
そのため、逃走中のテロリストに対する攻撃を正当防衛(
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛)や緊急避難(自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避ける)とすることは出来ません。事態に応じていると言うのも無理があります。
おまけに、条文には「当該施設内において」という記述もあり、攻撃対象が既に基地外の場合ちょっとグレーでもあります。(自衛隊員も基地外に出ていれば完全にアウト)
自衛隊は武器を持って警備しているのだから、それ相応の事はできるハズ、と思っている一般の方にはちょっとショックかもしれませんが、実際にはこの程度でも違法になります。

その2へ続く

より以前の記事一覧

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