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一般航空関連戦術

2009年5月15日 (金)

スパイラル・アプローチ

軍事研究誌の先月号(5月号)に、イラク人道復興支援派遣輸送航空隊(第16期)隊長だった北村1佐のインタビューが載っていました。

この中で、派遣空輸隊がイラクでの着陸の際、スパイラル・アプローチを行っていたことについて触れられています。


このスパイラル・アプローチについては、派遣が終了した後に報道され、多少の話題となりましたが、ネットで調べてみると、平成15年の石破防衛庁長官(当時)の会見にも出ていますし、16年の「防衛人事審議会職員処遇問題部会議事録」という資料にも載っています。
http://www.mod.go.jp/j/iraq/kisha/1218.htm
http://www.mod.go.jp/j/delibe/jinji/gijiroku/shokuin/gimo10.pdf


このスパイラル・アプローチは、新聞報道されていた内容では、飛行場の直上から、螺旋状に旋回し、着陸するというものでした。
このようなアプローチ方法が採られる理由は、地上兵力による空港周囲の安全化(MANPADSを打たれないよう、ゲリラなどが空港に接近しないようにすること)が空港周辺の6kmであるため、MANPADSの脅威の及ばない細い円柱状の空域内を降下するためだと報じられていました。(新聞は見たものの、今改めて資料が見つからず記憶で書いているため、新聞の書き方とは若干表現が異なっているかもしれません。)


インタビューの中では、スパイラル・アプローチとは、螺旋階段のようなものではなく、MANPADSの脅威範囲を至短時間に抜けるためのアプローチ方法だと言われています。
「滑走路の上からアプローチしていってサッと切り返して、スッと着陸する(公園にあるようちょっと複雑な滑り台のような軌道)とでも言ったらいいでしょうか・・・」と書かれており、コンバットピッチのようなものがイメージされます。
螺旋状という訳ではなく、MANPADSの脅威範囲を速やかに抜けるための急角度の降下と急旋回ということです。


ですが、このアプローチ方法が検討された当初は、本当に螺旋階段のようなアプローチが検討されていました。
このアプローチ方法が誰かの発案だったのか、あるいは米軍からのサジェスチョンだったのかは知りません。

ですが、派遣前は多聞に実験的なアプローチ方法として検討されており、硫黄島などで行われた事前準備の中で、検討の結果、北村1佐が述べているようなアプローチ方法になって行ったのです。
その理由としては、やはり何度も旋回しながら螺旋状に降下することが、安全面などで現実的ではないからです。

スパイラル・アプローチを採用することによって脅威を回避できるような印象もあるかもしれませんが、実際には派遣航空輸送隊は危ない橋を渡っていました。


また、インタビュー中にも触れられていない事ですが、考えてみれば簡単に分かる重要なことが一つあります。
それは、スパイラル・アプローチが螺旋状に降下するものだとしたら、その意図はPANPADSからの脅威に対して、安全化された空域内を飛行して輸送任務を行うことにあるわけですが、着陸した後には離陸もしなければならず、その時には、同じ発想の戦術が全くもって実施不可能だということです。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、輸送機の飛行性能では、狭い範囲を旋回しながら上昇するなんてことをしたら、いつまで経っても安全な高度に到達しない、ということです。
ゲリラ側としては、着陸後1時間程度で離陸することも分かっていますし、むしろ離陸時の方が狙い易いのです。


インタビューの中では、ランダム・スティープ・アプローチ(軍事研究誌では「スティーブ」となっていますが、これは誤植です)を行っていたことも述べられていますが、上昇時も、ある程度はランダムではあるものの、戦闘機のようなハイレート・クライムができるはずもなく、スティープ(急角度)にはなりきりません。
地上部隊がいくら努力したところで、空港周辺の民家もある範囲を含めて完全に安全化することなどできるはずもありませんし、MANPADS回避の手段が、ほとんどフレアしかないと言える上昇時には、相当に危険が高い状態でした。


派遣されていた方々には、改めて「お疲れ様でした」と言いたいと思います。

2008年8月30日 (土)

宇宙の軍事利用 日韓偶然の一致?

8月28日の読売新聞の記事に「宇宙の防衛利用解禁、技術研究の計画室新設へ…防衛省」という記事が出ていました。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080828-OYT1T00100.htm


内容は、前日27日、防衛目的の宇宙利用解禁を盛り込んだ宇宙基本法が施行されたことを受け、技術研究本部内に「宇宙技術計画室(仮称)」を新設し、防衛のために宇宙で利用可能な技術を検討することを報じたモノです。

日本政府は、従来、宇宙利用を非軍事に限定してきました。そのため、防衛省が実質的に管理している情報収集衛星も、偵察衛星ではなく、あくまで情報収集衛星でした。宇宙基本法の施行により、国連宇宙条約に定める「非侵略」と、憲法の平和主義の理念に基づく利用であれば、防衛省も宇宙空間を利用できることになりました。
自衛隊は、FPS-5レーダーやイージス艦でミサイル発射を監視できる態勢を整備しつつありますが、ミサイルの発射を発射直後から捉えるためには早期警戒衛星の配備が望ましいし、能力不足が噂される情報収集衛星よりも高性能な偵察衛星も必要です。軍事専用の秘匿機能を備えた衛星通信も重要です。
これらの衛星や、場合によっては衛星迎撃ミサイルを保有することを含め、必要な技術を開発しておくことは重要です。


そのため、記事内容については、「当然」というより「やっとか」というのが感想です。それは、この記事のわずか7日前、朝鮮日報が掲載した韓国空軍が航空宇宙軍の創設を目指し、宇宙特別兵科を新設するとの記事よりも遅れたものだからでもあります。
http://www.chosunonline.com/article/20080820000042


上記朝鮮日報記事によれば、韓国空軍は今年から宇宙専門の要員を、宇宙での戦力の運用や作戦の遂行と直接的に関連がある八つの兵科(操縦、航空統制、防空砲兵、情報通信など)から選抜し、宇宙で独自の作戦を遂行する能力を備えた「航空宇宙軍」創設を目指すそうです。


現在の自衛隊では、まだ宇宙関係の技能を兵科(自衛隊では職種、特技という)に指定するという所までは行っていません。もちろん、それをすれば直ぐに能力が高まるというわけではありませんが、少なくとも取り組む姿勢、意気込みが高いことは確かでしょう。
衛星の利用やMDへの取り組みがまだまだと言える韓国が、より高いレベルを見据えているのですから、自衛隊ももっと積極的に考えても良さそうです。来年中に取りまとめる次期中期防衛力整備計画に向け、具体的な宇宙利用策を策定するそうなので、今後は、この辺もウォッチしてゆくつもりです。


最後に邪推をちょっとだけ。
朝鮮日報の記事は、日本の宇宙基本法施行に併せ、対抗心からブチ上げただけの可能性もあるような気はします。

2008年7月12日 (土)

巡航ミサイルを落とせるミサイルなら弾道ミサイルも落とせる?

初心者歓迎スレに、次のような質問が出てました。
>AAM-4は対艦・対地巡航ミサイルの迎撃も重視してると、聞きましたが弾道ミサ>イルはどうでしょうか?
>もし、有効だとしたら弾道ミサイルを迎撃する際にAAM-4を装備したF-15を飛ば>すのも一つの手では?

何人かの方が、弾頭ミサイルは速度が速いので無理と答えていました。
もちろんそのとおりなのですが、あっさり答えすぎで、納得できないのではと思い、次の通りに答えました。

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他の方の回答にあるとおり、AAM-4は弾道ミサイルには対応していません。

対艦・対地巡航ミサイルは、低高度を飛行し、RCSが小さいという特徴はあるものの、プロファイルは航空機と大差ありません。
そのため、AAM-4に限らず射撃可能な体勢に占移できれば、他のミサイルでも対艦・対地巡航ミサイルは迎撃できます。
しかし弾道ミサイルは、プロファイルが航空機と全く異なる(特に速度)ため、通常のAAMでは迎撃できません。

速度が高いだけで迎撃不能になる理由も他の方の回答のとおりですが、若干補足します。
相対速度差が高いとちょっとした誘導誤差でも、最接近時の距離が大きくなってしまいます。
それを解消するため、PAC-3などではヘッドオンで誘導されますが、弾頭の起爆による破片効果での破壊では起爆タイミングがシビアすぎるため、直撃を前提に超高精度、高反応速度に作られます。
結局、通常のAAMとは別物にならざるを得ないということです。

米軍ではMEADS用のミサイルを空中発射に改造したALHTKというものを研究中のようなので、将来的にF-15がBMDの一翼をになう可能性はあります。
>なお、ALHTKに改造するミサイルはMEADS用で、PAC-3には使用できないものです。

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ALHTKが実用化されても、弾道弾を待ち構えてCAPをし続けるのは大変です。

2008年6月21日 (土)

ロックオンされた事の認識方法

時々2チャンネルの軍事板で質問に答える事があります。
結構苦労して書いても、直ぐにスレッドが流れてしまうので、こちらに転記して保存することにしました。
そんなわけで、前回の予告から内容を変更して、今回はロックオンされた事の認識方法について書きます。

質問は、軍用機がロックオンを感知する方法について、どうやってミサイルを撃たれる前に感知するのか、という内容でした。

それに対する回答として、次のように答えました。
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おそらくレーダー誘導ミサイルについての質問かと思いますので,
レーダー誘導ミサイルについて回答します。

戦闘機や攻撃機の場合、大抵はRWRと呼ばれるレーダー波をキャッチし、警報を発する装置が付いてます。
このRWRが、敵がロックオンした状態の時に発するレーダー波を照射された時に警報を出すように設定するわけですが、

相手がセミアクティブレーダーホーミングミサイルを使用している場合、照射されるレーダー波は一般的に次のような段階を経ます。(空対空、地対空問わず)
各種の捜索モード(発見まで)→追随モード→ミサイル誘導のための追随モード(この段階が不要なものもあり)
→ミサイル誘導モード→終末期のミサイル誘導モード(この段階が不要なものもあり)
この時、ミサイル誘導モード時のレーダーを照射、追随することを通常ロックオンと呼んでおり、多くの場合、ミサイル発射前にこの状態にしてから、ミサイルを発射します。
このため、このミサイル誘導モード時のレーダー波パターンをRWRに設定しておけば、敵がミサイルを発射する前にロックオンされたことを知ることができます。
ただし、ここで「設定しておけば」と書いたとおり、事前に電子戦の成果として敵が使用するレーダーのミサイル誘導モード時のレーダーパターンが判っていなければ、RWRを積んでいてもロックオンを感知することはできません。
また一部のミサイルでは、このミサイル誘導モードが存在せず、通常の誘導モードのままミサイルを発射し、ミサイルにはデータリンクでコマンドを送信して誘導するものもあります。
この場合、データリンクのデジタルデータまで解析して警報を出すことは困難でRWRには通常の追随モードのレーダーパターンをセットするしかないわけですが、単に追随されているだけなのか、ミサイルが発射される(された)状態なのか判断できないことになります。

相手がアクティブレーダーホーミングミサイルを使用している場合は、もう少し複雑です。
照射されるレーダー波は次のような段階を経ます。
(機上、地上レーダーによる)
各種の捜索モード(発見まで)→追随モード→ミサイル誘導のための追随モード(おそらくこの段階が不要なものが多い)
(ミサイルシーカーによる)
→追随モード→終末期のミサイル誘導モード(この段階が不要なものもあり)
ミサイルの発射は、機上または地上レーダーが追随モードかミサイル誘導のための追随モードになってからですが、通常この段階では、ミサイルシーカーによる追随は、まだ行われておりません。
ミサイルの発射以後、しばらくはミサイルに対してデータリンクで誘導を行います。
大抵の場合、セミアクティブミサイルのような、機上または地上レーダーによるミサイル誘導モードがないため、
RWRには、機上または地上レーダーによる追随モードとミサイルシーカーによる追随モードをセットすることになります。
警報は、強度の異なる2段階の警報を出すことになるわけですが、機上または地上レーダーによる追随モード時の警報は、単に追随されているだけなのか、ミサイルが発射される(された)状態なのか判断できません。
ミサイルシーカーによる追随モード時の警報は、ミサイルがかなりの距離まで接近している状態のため、
この段階からの回避は、困難な場合が多くなります。
また、発射前にミサイルシーカーによる追随を行ってから発射する場合もありますが、当然ながらこの場合は距離が近く、回避は困難です。

RWRを搭載していても、データリンクで誘導するセミアクティブ方式のミサイルや、アクティブ方式のミサイルの脅威を知ることはなかなか難しいと言えます。

また、ジャミング波に向かって誘導するオンボードのパッシブ誘導機能を備えたミサイルの場合、
自分からジャミング波を出しているとミサイルが命中するその時まで、ミサイル発射を感知できません。

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