『航行の自由作戦』は、中国による国際法の変更阻止が目的
アメリカが実施している『航行の自由作戦』によって、緊張が高まるとか、衝突が起きるとする評論があります。
中国自身、海軍の呉勝利司令官が「重大な懸念」を表明し、「危険な挑発行為を続ければ事態が緊迫し、衝突が起きる可能性がある」と警告しています。
「米「航行の自由作戦」後初の直接対話 「挑発続ければ衝突起きる」と中国軍高官」(産経151030)
しかし、そのような懸念は、杞憂でしかありません。
それは、中国(海)軍の実力がアメリカに及ばないからという点も関係していますが、中国がスビ礁やミスチーフ礁において、「力による現状変更」を行おうとしている対象が、個別の地物の領有権ではなく、国際法そのものだからです。
スビ礁やミスチーフ礁は、満潮時には海面下に沈む暗礁です。
これらは、国連海洋法条約では島とは認められていません。当然、コレを領土とすることはできず、周囲に領海を設けることもできません。
しかし、中国はこの暗礁周辺を埋め立て人口島としてこの人口”島”を領有していると主張し、領海があると主張しています。
『航行の自由作戦』が挑戦しているのは、この中国による国際法変更主張です。
朝日新聞社の野嶋剛氏は、中国は、国際法上領海を設定できないことを理解しているため、抑制的な対応(横暴を行っている者に対して、それを諫めようとする者に手を上げないからと言って、それを抑制的と表現する神経は理解できませんが)を取っていると言っています。
「米艦「南シナ海作戦」で中国が「抑制的」な理由 - 野嶋剛」(新潮社フォーサイト)
国連海洋法条約を批准している中国も、人工島には領海を設定できないことは法理的には十分に理解しているだろう。一方で、南シナ海の全島嶼は中国の領土であるという伝統的な主張を習近平国家主席は先の米中首脳会談で語ったばかりで、その整合性については十分に理論構築されているわけではない。だからなおさら、中国は今の時点では抑制的な対応を取っているとも考えられる。
確かに中国は理解しています。
ですが、国内法と同様に、国際法は変更可能です。
それも、法を破っていると、それが新たな法になってしまう恐ろしい法が、国際法の実態です。
中国は、今後数十年かけ、暗礁であっても、それを埋め立てた人口島を継続的に実効支配すれば、領土と認められると主張するでしょう。
そして、中国の経済力になびく国、それも海を持たないアフリカの国々などが、中国の主張を支持してしまえば、国連海洋法条約を変えることさえ可能なのです。
(現行の国連海洋法条約は、多くの海無し国が批准しています)
現在の国連海洋法条約で基線から12マイルと規定されている”領海”の概念についても、過去には3マイルでしたし、もっと長い距離を”勝手に”主張する国が増えたため、12マイルに増えたという経緯がありますし、領海を200マイルなどと主張した国もありました。
また、中国が、国際法の規定を変えようとしている実例としては、大陸棚に対して自然延長論を展開している例などがあります。
国内法と異なり、国際法は、力による”現状”変更が可能なものです。
スビ礁やミスチーフ礁は、現時点の国連海洋法条約では、領有できない地物です。
そのため、中国の主張は、現時点ではゴリ押しです。
ゴリ押しを根拠に、危機を高めれば、国際的には不利になります。(政治的に批判を受ける)
中国が”抑制的”なのは、危機を高めず、実効支配を各国が暗黙に認めてしまう状態まで、長い時間経過させたいからです。
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