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2015年5月31日 (日)

安保法制だけで終わらない防衛関係法制の不備

自衛隊OB同士で言い合うのは気が引けるのですが、問題の背景が透けて見えた事例だったので、取り上げてみます。

海自OBで、最近はテレビにも出演される軍事評論家の文谷数重氏が、対領侵について言及されています。
領空警備で先制攻撃って、なんかロックかも

記事が取り上げているツイートは、”自衛官のリスク”について発言しており、このツイートが安保法制論議に関連したモノだと分かります。
Photo
リンク

ツイートは、防衛関係法制について、問題が多いことの事例として、対領空侵犯(以下、”対領侵”と記述)措置での法不備を上げています。
これに対して、文谷氏が反論されています。

 要は、「領海外で相手が撃ってこないのに、射撃していいように法制を改めろ」と主張しているようにしか見えない。

 そもそも、スクランブル発進と領空侵犯は同義ではない。日本領空が侵犯されないための予防的措置である。予防措置で領空外で攻撃していいというような法制を作るのは、公海使用の自由、国際法態勢への挑戦でしかない。

 また、領空侵犯したからといって撃っていいわけでもない。国内的にも、国外敵も必要な段階を踏む必要がある。この手の意見には、国境を超えたから問答無用で攻撃して良い、撃ち落としてよいとする頭がある。だが、平時に緊張状態でもないのにそんなことはしない。そもそも、今までの領空侵犯例を見ても、落とさなければならないほどの必要性はない。


元ツイートも少々不正確ではあるのですが、この文谷氏の反論を見ると、対領侵の法不備について、ご存じないのだろうと思われます。

対領空侵犯措置は、国際法的には、警察権に基づく行為で、分かりやすく言えば、地上において、警察が行っている不法入国の取り締まりを、空において行っているものです。

地上では、警察の手に負えない場合は、治安出動により、自衛隊が警察の手助けをする仕組み(法律)が出来ています。

海においては、海上保安庁が取り締まりを行っており、手に負えない場合は、海上警備行動によって自衛隊が手助けする仕組み(法律)になっています。

そして、空においては、普段から自衛隊が行うことになっておりますが、必要な法律が欠落したままなのです。

陸上における治安出動は、完全に領域内の話なので、領域に入るかどうかのところで、同じような状況になる海上での警察権行使、特に主に海上自衛隊が実施する海上警備行動(以下、”海警行動”と記述)と比較してみましょう。
(ただし、国際法上、海上では無害通航権が認められていたり、逆に領域の外まで追跡権が認められているなど、海と空では、かなり違いがあります)

自衛隊法で、海警行動について記述した条文は2カ所あります。

一カ所は、行動について記述した第6章中の第82条です。

(海上における警備行動)
第八十二条  防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。


もう一カ所は、権限について記述した第7章中の第93条です。

(海上における警備行動時の権限)
第九十三条  警察官職務執行法第七条 の規定は、第八十二条の規定により行動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。
2  海上保安庁法第十六条 、第十七条第一項及び第十八条の規定は、第八十二条の規定により行動を命ぜられた海上自衛隊の三等海曹以上の自衛官の職務の執行について準用する。
3  海上保安庁法第二十条第二項 の規定は、第八十二条の規定により行動を命ぜられた海上自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同法第二十条第二項 中「前項」とあるのは「第一項」と、「第十七条第一項」とあるのは「前項において準用する海上保安庁法第十七条第一項 」と、「海上保安官又は海上保安官補の職務」とあるのは「第八十二条の規定により行動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務」と、「海上保安庁長官」とあるのは「防衛大臣」と読み替えるものとする。
4  第八十九条第二項の規定は、第一項において準用する警察官職務執行法第七条 の規定により自衛官が武器を使用する場合及び前項において準用する海上保安庁法第二十条第二項 の規定により海上自衛隊の自衛官が武器を使用する場合について準用する。


では、次に対領侵について見てみましょう。
対領侵については、記述が1カ所しかありません。

行動について記述した第6章中の第84条です。

(領空侵犯に対する措置)
第八十四条  防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 (昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。


海警行動に関しては、その
行動を行うことを第6章で規定し、その際の権限を第7章で規定しています。
それに対して、対領侵は、対領侵措置を行う事
自体は、第6章で規定していながら、その際の権限が定められていないのです。

この
第6章の規定で行動根拠を与え第7章の規定で権限根拠を与えるという条文の構造は、海警行動だけでなく、防衛出動など、あらゆる行動でこの構造が取られています。

ですが、対領侵だけが違うのです。

これに対して、政府(防衛省)の見解は、国会答弁等において、この第84条で規定されている”必要な措置”に武器の使用も含まれるという解釈をしており、防衛白書にさえ、次のように記載されています。
(ただし、一時は、政府もこの84条に武器使用は含まれないという見解を取っていたこともあります)
Photo_2

この法不備の原因は、自衛隊法成立時の日ソ関係にあったようです。
http://gunjihougaku.la.coocan.jp/ryousin6html.html

問題は、7章の権限規定の不備だけではありません。

対領侵における武器使用は、「領空侵犯に対する措置に関する訓令」及び「領空侵犯に対する措置に関する達」において、細部が規定されているとされていますが、内容は公開されていません。
ですが、基本的に正当防衛及び緊急避難に該当する場合のみと言われています。

その一方で、海上警備行動における武器使用では、文谷氏の言う「領海外で相手が撃ってこないのに、射撃していいように法制を改めろ」がなされた状態になっています。
(ただし、”領海外”の部分は空では適用されない国際法の追跡権に基づくものなので、この部分を航空の世界では適用できません)

根拠は、自衛隊法93条の海警行動時の権限を定めた条文で準用が規定されている海上保安庁法の第20条第2項です。

第二十条  海上保安官及び海上保安官補の武器の使用については、警察官職務執行法 (昭和二十三年法律第百三十六号)第七条 の規定を準用する。
○2  前項において準用する警察官職務執行法第七条 の規定により武器を使用する場合のほか、第十七条第一項の規定に基づき船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員等がこれに応ぜずなお海上保安官又は海上保安官補の職務の執行に対して抵抗し、又は逃亡しようとする場合において、海上保安庁長官が当該船舶の外観、航海の態様、乗組員等の異常な挙動その他周囲の事情及びこれらに関連する情報から合理的に判断して次の各号のすべてに該当する事態であると認めたときは、海上保安官又は海上保安官補は、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。
一  当該船舶が、外国船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であつて非商業的目的のみに使用されるものを除く。)と思料される船舶であつて、かつ、海洋法に関する国際連合条約第十九条に定めるところによる無害通航でない航行を我が国の内水又は領海において現に行つていると認められること(当該航行に正当な理由がある場合を除く。)。
二  当該航行を放置すればこれが将来において繰り返し行われる蓋然性があると認められること。
三  当該航行が我が国の領域内において死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮に当たる凶悪な罪(以下「重大凶悪犯罪」という。)を犯すのに必要な準備のため行われているのではないかとの疑いを払拭することができないと認められること。
四  当該船舶の進行を停止させて立入検査をすることにより知り得べき情報に基づいて適確な措置を尽くすのでなければ将来における重大凶悪犯罪の発生を未然に防止することができないと認められること。


この規定により、ただ逃走を続けるだけで、攻撃をしてこない船舶に対して射撃を行えるようになっています。

この規定は、1999年に発生した能登半島沖不審船事件において、逃走を続ける不審船に対して、警告射撃しかできず、結果的に逃走を許してしまった事の反省として規定されました。

海保法の改正によって、この規定が加えられたのは、2001年11月でした。
そして、そのわずか1ヶ月後、九州南西海域工作船事件が発生します。

この時は、この規定に基づき、逃走を続けるだけの不審船に対して、海保の巡視船が機関砲による船体射撃を行っています。

海警行動時は、この規定が準用されるため、海上においては、相手から攻撃を受けなくても、つまり正当防衛や緊急避難に当たらなくても、人を殺傷しても全くおかしくない攻撃が可能となっています。

不審船事件は、この後パッタリとなりを潜めます。
この海保法の改正によって、北朝鮮が不審船での工作活動を諦めたのだと思われますが、そうした規定が不備のまま残されている空においては、不審な航空機が飛来しても、法の不備により国民が死ぬような事態になりかねません。

なお、ほぼ余談ですが、文谷氏は、次のようにも述べています。

 だいたい、日本のスクランブルで、相手に撃ち落とされるような危険性があるのだろうか? 対象はたいていは大型機であって、まず戦闘機を落とす力はない。しかも、翼下に兵装を吊っていない戦闘を意図していない状態での飛行がほとんどである。

日本周辺で良く見られる大型機ですと、ベアとバジャーですが、機体によっては、こんなのが付いてたりします。
ベア(wikipediaより)
800px_95_23__4

バジャー&H-6
(wikipediaより)
1280pxtu16_rear


その場合、当然近寄らないようにするのですが、基本的には速度を合せて飛ぶ(見かけ上止っている)
ため、もし撃ってくれば、非常に危険です。

自衛隊関係者でも、対領侵法制の不備をご存じない方がいらっしゃるようですが、この問題が、いつまでも解決されない理由の一端は、この点にあるのかもしれません。

空自だけが問題意識を持っても、ダメなんでしょう。

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コメント

いわゆる個別的自衛権発動における防衛法制の不備ですね。

文谷氏については前にも書いた記憶がありますが、左というか民主支持者というか反組織的というか、早稲田時代に革マルにシンパシーを持った(文谷氏入学の年か年度から反革マルの一環として定期試験復活)か、海自時代にパイロットにも特別警備隊にも行けなかったルサンチマンか、司令がP出身だった大湊分屯基地の空自交通事故処理に不満を持ったっていうのもあるでしょう。

ところで、数多先生は空自高射出身だそうですが、その目から見て戦闘機パイロットの方言とか尊大とかってのは過去現在を通じて思ったことはありますか?

>法律の不備

その辺り空のお話は海事関連の軍事ライターである文谷氏も空自OBである数多様ほど詳しくないかも知れないが知らない訳でもないみたいですよ。

コメント欄に

「法律は必要があって作られるもので、現状問題となっていない事態の先回りや想像で作るもんじゃないですからねえ」
と述べております。

現状としては問題になっていないというのが氏の認識認識なのでしょう。

まあ確かに数多様の仰るように今時ケツに鉄砲つけてる航空機に近づくのは空のPからしたら堪らんでしょうが。
相手様からしたら機動力がはるかに勝る戦闘機にミサイルを着けてツケられている訳ですから。法律に不備が有るから絶対撃ってこないだと決め込んでも暴走する兵隊はどこにでも要るんですから相手の領空飛ぶのも結構根性が要ると思いますよ(笑)

その辺りは海自の哨戒機がよくスクランブルで逆に相手様にツケられているので相互主義という所でしょう。

以下は私見何ですが。あえて不備のままで良いと思っています。空はスピードも早くて何が起こるか分からない。故に形式上は法律・ルールが完備されたから杓子定規に撃墜して良いのか?不審船を海保が沈めるのとは、また違う議論が必要とは思います。

>しやもし様>もんたに氏

あの人は左翼とかいうよりは単なる変わり者でしょう。顔が出て人物像が流れて来ていますが(もんたにはペンネーム)。本当にブログ通りの人みたいですよ。

一部の噂じゃプロの軍事ライターになるためのステップとして海上自衛隊に幹部で入ったという話も有る位ですから。


一応法整備云々と徒桜さんが最後に述べている以上徒桜さんは国内法上の根拠規範が言いたいことのようなので、隅田金属さんの批判は外在的なものになってしまっていますね
相手が国際法上瑕疵を抱えている立論をしたので国内法上の根拠規範がどうなのかという視点が落ちてしまったのかもしれないですね
140字以下という文章だと出発点の立論が不明確になるので咬み合わない議論になってしまう危険が現実化したということなのでしょうかね

安保法制で自衛隊法95条が改正されて、米艦を防護できるようになるそうです。
これの範囲でどうにかならないのでしょうか?

これはどうなったんでしょうか?

日本「攻勢的武器使用」を明記する方針 2006年01月04日19時39分
http://japanese.joins.com/article/386/71386.html?sectcode=200&servcode=200
>産経新聞は4日、日本防衛庁が最近、東シナ海にあるガス田周辺の紛争問題に関連、
>領空主導権を握るために「攻勢的武器の使用」を公式化する方針を決めた、と報じた。
>同紙は「最近、東シナ海・ガス田周辺への電子戦機の侵入が著しいのを受け、防衛庁が、
>自衛隊の交戦規則(ROE、部隊行動基準)に武器使用を明確に『任務』と明記することを決めた」と伝えた。
>現行では、戦闘機の武器使用は「正当防衛」などに限定され、判断もパイロットに委ねられている。しかし、
>規則が改正されれば、防空識別圏に接近する敵機にひとまず航路の変更を勧告した後、
>それに抵抗する場合、指揮官がパイロットに武器の使用を命じられるようになる。

しやもし 様
対領空侵犯措置は、自衛権に基づくものではなく、管轄権の一部である領域管轄権に基づく警察権の行使です。

確かに、古い方では、傲岸なPもいらっしゃいましたが、今はもういらっしゃらないと思います。

エンリステッド 様
文谷氏も、海自哨戒機の件を出していますが、それ以外にも良くあることです。

不備のままでいいですか?
何かあった時、あるいは逆に、何かあった時に対処を行って処罰されることを恐れたパイロットが何もしなかった時、誰に責任があるんでしょうか?

名無し① 様
ツイッターは、いろんな意味で、危険ですね。

名無し② 様
95条は、今までも拡大解釈的な使い方で、自衛戦闘を可能にする法令でしたが、安保法制では、それを同盟国部隊にも拡大して適用するということになります。
領域警備とは、別の話になります。

名無し③ 様
どうなったも何も、もとから内容がメチャクチャです。
ガス田に領空はありませんし、いくつもの話題が、恐らく意図的にゴチャゴチャにされていますし、戦時の話までが、平時の内容として混同されています。
書いた人間は、相当に悪意があるか、相当に頭が悪いかどちらかです。

>処罰を恐れるパイロット・・・

それがこの分野のルールが整備されない狙いかもしれませんよ。

私はスピードが早い空の世界に「正当防衛」とも違う状況で「警告射撃」を超える危害攻撃は現場がどんなに適性に出来ると主張しても信用は置けません。

国際情勢の機微まで考慮した。超政治的判断が必要な場面はいくらでも想像できる。どのレベルの指揮官にその判断をさせるのでしょう。

現在システムの方が空自にとって楽で有り。我が国の国益を毀損するような間違いが起きなくて良い。

しかし、もし将来この不備で大きな問題が有れば、それから整備すれば良い。国民や野党も諸手を上げて賛成してくれますよ。安保法制は、残念ながら問題具現化するまでは難しいでしょう。

エンリステッド 様
以前に、記事で書いたこともあったかと思いますが、空での衝突において、「正当防衛」(かつ反撃可能な状況)と言える実際の状況を思い浮かべて下さい。

現実的には、ほとんどありません。

陸上において、銃を向け合うような状況は、空ではほとんど発生しません。

すいません。返答が遅すぎて気づきませんでした。失礼しました。

やはり空の世界は難しいですね。

法令の不備が改正されたからと言って911テロばりにテロリストに占拠された多数の人員・国籍の罪のない民間人が多数搭乗した大型旅客機が首都圏にむかってるだけで撃墜しなければならない状況に対応する。現場パイロットや防空指揮官に同情します。

特に政府に責任能力低い現状では。


エンリステッド 様
法令自体、それを作る国会議員や内局の人間が、どうしても肉体のある人間同士の対峙でモノを考えてしまうんでしょうね。

ご指摘のテロのケースなんて、本当にどうしようもないくらい法の不作為ですから。

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