IS人質問題に対する政府対応の危険性と解決策
ISの日本人人質2名の殺害予告に対する政府対応は危険です。
「日本人2人の身代金支払い、明言避ける政府」(読売新聞150122)
政府は2億ドル(約236億円)の身代金の支払いの可能性について慎重な物言いに終始している。
菅官房長官は22日の記者会見で、他国のケースを含めたイスラム国への身代金支払いの可否について、「人命最優先は国家にとって当然のことだ。同時にテロに屈することはない」と語り、明言を避けた。安倍首相も20日の事件発覚直後の記者会見でも、「人命確保に全力で取り組んでいく。いずれにせよ、国際社会は、決してテロに屈してはならない」と述べるにとどめた。
政府関係者の発言は、多分に国内政治を意識した発言で、日本国民の救助に全力を挙げるという姿勢を示すためでしょう。
しかし、IS関係者が日本政府の対応を注視していると見られるなか、このような政府の対応は、ISに誤ったメッセージを与えてしまう危険が危惧されます。
金銭を払うだけではなく、何らかの形で人質の命と引き替えに、取引を行うなら(例えば2億ドルの支援を止める等)、ISにとって、日本は、利益を引き出せるオイシイ相手ということになります。
そうなれば、各方面で指摘されているとおり、今後ISは、日本人を人質にすることで、金銭的あるいは政治的利益を得ようとするでしょう。
ISは、日本国内の支持者にサポートさせれば、テロリストを日本国内に送り込んむことも難しくないと思われます。
そうしたテロリストは、例えば、多数の乗客が乗ったフェリーをシージャックするような事も容易なはずです。
生還を望まないテロリストであれば、警察が強行手段を採った場合にも、自爆を含めて人質を殺してしまうような行動を採ってくる可能性も高く、もし事件が発生すれば、発生後の対処は極めて困難です。
前述のフェリーが、修学旅行生などを乗せていた日には、極めて過酷な決断を下さなければならない状況になるでしょう。
つまり、今回の2名を助けるために、ISと取引すれば、次の人質事件がどこで起こるか分かりませんが、次は4名、その次は8名となって行く可能性が高いと言うことです。
一度詐欺被害に合った人は、だましやすいとして、再度詐欺の標的にされるようなものです。
ですから、今回人質になった2名の自己責任なのかどうかは一切関係なく、今後の人質被害を防ぐためには、ISに利益を与えてはいけませんし、身代金の支払いの可能性について慎重な物言いをする事も不適切です。
また、政府関係者でなくとも、身代金を払ったり、2億ドルの支援を止めるように主張する方は、別の日本人を危険に晒していることを認識すべきでしょう。
国会議員でありながら、そのような行動をしている方に至っては、常軌を逸しているとしか思えません。
「山本太郎氏、仰天のツイート「2億ドルの支援を中止して下さい」」(zakzak150122)
この他、田原総一朗氏などは、政府が身代金の支払いに応じないだろうとしていますが、その理由を、「欧米から非難される」からとしています。
「イスラム国に拘束された後藤健二さんは日本政府に迷惑をかけたのか??田原総一朗氏に聞く」
イスラム国は「2億ドルを支払え」と要求している。日本政府としては2億ドルを出すこと自体はそんなに大変ではないだろう。だが、身代金を支払えば、欧米から批判されるのは間違いない。
いまから約40年前、福田赳夫首相のとき、日本の過激派に日航機がハイジャックされる事件が起きた。過激派が多額の金と獄中にいる仲間の釈放を要求した。これに対して、福田首相は「人の命は地球より重い」と言って要求に応じたが、欧米から非難を浴びた。
中略
僕は、日本政府は金の支払いをしないのではないかと思う。そのことで日本国内から、なぜ人命を大事にしないのかと、少なからぬ批判が出る可能性があるが、それでも過去の教訓と現在の国際情勢から、過激派の要求には応じないだろうと考えている。
この人の場合は、身代金を支払うことが、更なるテロを招くことは承知しながら、欧米諸国が悪だという印象付けをしたいがためにこのような表現になっていると思われます。
ISと取引することはできません。
しかし、今後の人質事件の発生を抑えつつ、2名の開放を交渉する手段が無いわけではありません。
政府も、これを狙っている可能性があります。
それは、ISにとって、日本が必ずしも敵ではなく、状況次第では共闘できる相手であることを理解してもらうことです。
「敵の敵は味方」という格言は、アラビア起源だと言われます。
その真偽は不明ですが、IS構成員にとっては受け入れやすい考え方だと思われます。
この点を踏まえた時、ISと連携を深めているウイグル族が、中国共産党と対立するため、その中国と国家レベルで対立する可能性が高い日本は、ISの味方でもあるわけです。
ISが支援するウイグル族の中国国内での活動と尖閣問題等による日中間の緊張を裏で連携させ、中国に2正面作戦を強要することは、双方にとって非常なメリットです。
この構図は、ISにウイグル族が多数流入している事と、それに反応するように、日本人が人質に取られている事に対して、中国が非難していることからも見て取ることができます。
「東南ア経由でイスラム国に=ウイグル族の密出国警戒-中国」(時事通信150123)
「中国政府、日本人人質問題で<イスラム国>を非難・・・「罪なき庶民に対する極端な行為。無事釈放を願う」」(サーチナ150123)
問題は、この方向で解決を図ろうとする場合に、ISの指揮・統治機構がまともに機能しておらず、日本の意図を理解してもらうことに困難がある可能性が高いことです。
また、このような極めて政治的な交渉を、人質の解放よりも、日本政府非難や自己の保身に利用しているように思われるジャーナリストや大学関係者任せる事は到底できません。
トルコやウイグル人組織に仲介を頼むことが適切だろうと思いますが、政府が実際にどういったルートで交渉を行っているかは情報が出てくるはずもありませんから、実際の動きを把握することは困難でしょう。
ですが、安倍首相を含めた政府関係者のISに対する非難トーンが、非常に低いモノであることから見ても、政府は、利益は渡さないものの、共闘する可能性をちらつかせて交渉を行っているのではないでしょうか。
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