H27概算要求-その4_分かりにくい統合
概算要求と言えば、夏の季語なのに、気が付けば11月が目の前……ということで、概算要求ネタを急いでやっちゃいます。
このシリーズの2回目に「H27概算要求-その2_SSMへのリンク搭載に見る陸自作戦構想の変化」と言う記事を書きました。
そこで、地味で分かりにくい内容ながら、陸海空3自衛隊の統合を進めるための要求が多かったと書いたのですが、SSMへのリンク搭載は、分かりやすい内容の要求でした。
そこで、今回は、本当に分かり難い統合に関する要求をピックアップしてみたいと思います。
まずは、指揮関係を2つ。
○陸上総隊の新編に向けた準備
陸上自衛隊における全国的運用態勢強化に資する統一司令部を新編するため、これに係る関連事業を計上
・陸上総隊司令部(仮称)庁舎等の整備に必要な調査等(3億円)
・陸上総隊の新編に向けた準備態勢の確立(準備室の設置)
海自の戦闘機能は、自衛艦隊司令官が指揮しています。空自の戦闘機能は、航空総隊司令官が指揮しています。
ですが、陸自の戦闘機能は、5つの方面隊司令官(北部、東北、東部、中部、西部)が指揮しています。
空自と海自は、それぞれ一人の指揮官ですから、連携が容易なのですが、陸の場合は地域別なため、特に戦略機動が必要なケース(関東地方の戦力を沖縄に展開するなどの場合)で調整が煩雑なのです。
意向が同じなら簡単ですが、得てして意向は異なります。
「沖縄に戦力増強が必要だ! VS 首都防護用の戦力は抜く訳にはいかない!」などという相克は、当然のごとく生じるわけです。
こうなると、意志決定が遅れ、場合によっては途中で変わるため、大変です。
陸自にも、一人の指揮官がいれば、この点が改善できることから、陸上総隊創設は、相当昔から俎上に上っていた改編事業でした。やっと、実現に漕ぎ着けるようです。
○海上作戦センターの整備(自衛艦隊司令部等の新庁舎)(10億円)
陸自・空自、米軍、関係省庁と緊密に連携し、各種の事態に、より効果的かつ円滑に対応できる態勢を確立するため、横須賀の船越地区に海上作戦センターを整備(整備の第1期工事として、敷地造成を実施)
クイズです。
海上自衛隊の戦力は、自衛艦隊司令官が指揮しています。では、指揮所はどこでしょう?
当然、自衛艦隊司令部がある横須賀基地の船越地区な訳ですが、必ずしもそうではないことがあります。
自衛艦隊には、かつて自衛艦隊の旗艦が存在し、有事となれば、自衛艦隊司令官はこの旗艦に座乗して指揮を執ることになっていました。当然、指揮所は、この旗艦だった訳です。
1963年に、自衛艦隊司令部が陸上に移転し、それまで自衛艦隊旗艦だったあきづきは、護衛艦隊の旗艦となりました。指揮所も、陸上に移転したのです。
が、しか~し、海自(のエライ方)の考えでは、指揮官は艦上にあるべしという考えのようで、その後もイザとなれば、乗艦して指揮を執るという考えでした。
指揮官先頭は旧海軍からの伝統ですし、統率という観点からは良いのですが、正直言って、現代ではナンセンスでしょう。
現在、弾道ミサイル防衛の統合任務部隊指揮官は、航空総隊司令官が務めることになっています。
しかし、当初の検討時、実は自衛艦隊司令官と航空総隊司令官の間で綱引きがあったのです。
空自の切り札は、開発していたJADGEでした。
方や海自は、ウチにもMOFがあると言ってました。
MOFで弾道ミサイル防衛をやるという時点で「冗談はよせ!」だったのですが、その点は、技術的問題を踏まえて折衝していました。
で、ある時、「では自衛艦隊司令官が指揮を執りMOFで処理をする場合、データは船越に回せばいいんですね?」と言う話になりましたが、いや指揮官によっては、艦に座乗するので、その場合は、データは艦に送って欲しいという話が出てきました。
流石に、「冗談はよせ!」とは口には出しませんでしたが……
とまれ、自衛艦隊の指揮所は、艦上になる可能性があるためか、陸上の指揮所は、あまり立派とは言えません。
それを、今回やっと陸上に腰を落ち着け、航空総隊司令官、陸上総隊司令官と、しっかりとした通信が取れる環境として、海上作戦センターを整備することになったようです。
指揮の他にはもう一つ、空地間の連携関係を見てみます。
○戦闘機(F-2)JDCS(F)※搭載改修(2機:7億円)
※ JDCS(F)(Japan self defense force Digital CommunicationSystem (Fighter) ):自衛隊デジタル通信システム(戦闘機搭載用)
デジタル通信システムという名前なので、ボイスの通信にも見えますが、地上側はタブレット端末みたいなものになるようです。
これにより、戦闘機側では目標情報を得ることができ、恐らくJDAMへのインプットなんかも簡単な操作で出来るようになるのでしょう。
また、各種資料には書かれていませんが、友軍位置なども当然表示可能となり、誤爆撃の可能性を減らせると思われます。
移動中の車両を狙うことはLJDAMがないと難しいですが、通常のJDAMだけでも、恐らく、ノドンハントにも効果的でしょう。
地上側端末では、CAS機の位置情報が確認できるようです。
これで、携SAMによる地上からの友軍誤射の可能性も減らせるはずです。
○対空戦闘指揮統制システムの取得(28億円)
島嶼部における経空脅威に対処するため、対空戦闘指揮統制システムを整備
以前からあるDADS(ダドス)の後継として、師団規模だけでなく、大は方面隊、小は旅団規模にも対応するシステムとして要求されています。
これも、CASを行う空自機に対する友軍誤射を防ぎながら、効果的な対空戦闘を行うための装備です。
ただ、意義は理解するものの、果たして本当に効果的な装備になるのかは、正直言って疑問です。
詳しくは書けないので伏せますが、技術的には多種の装備を連接するため、マッチングを取るのが非常に困難ですし、自動化しきらない部分で人間に対する負担が大きく、運用面でも使いこなせる人間を養成できるのか、正直言って疑っています。
現実には、一方送信みたいな使い方しかできないのではないかと思います。
何にせよ、いろいろと課題はあるでしょうが、3幕が協同して戦闘する態勢に向けて、態勢整備を進めるようです。
最近のコメント