書評「お国のために 特攻隊の英霊に深謝す」
元パイロットで南西航空混成団司令などを歴任した佐藤守氏による特攻隊本です。
特攻には、回天などによる水中特攻や大和の水上特攻もありますが、この本は、一般に特攻と言った時にイメージされる航空機による航空特攻について書いています。
特攻の歴史的経緯や特攻隊員の心情について、生き残りの方の証言や自身のパイロットとしての経験から紐解く本です。
個人的には、特攻を「統率の外道」と呼びながら、「特攻の生みの親」とも言われ、組織的特攻を初めて命じた人物とされる大西大西瀧治郎中将の心の内を洞察している点を興味深く読みました。
終戦後に自決した大西中将は、玉音放送後に特攻を行った宇垣纏中将とともに、どのような心情で、組織的特攻作戦を指揮したのか、人間的な興味を抱かせられる人物です。
また、第1章では、有馬正文少将を始めとした多数の自発特攻が、その後の組織的特攻開始に与えた影響を記述しており、組織的特攻という、外道とも言われた作戦を、軍隊という組織が、如何にして決心するに至ったかを分かりやすく書いています。
特攻を如何に評価するか、特に、自分自身があの戦争に身を置いていたら、どう行動しただろうかを考えた時、非常に複雑な思いがありますが、戦後、アメリカが日本を自陣営に組み込もうと考えた理由には、間違いなく特攻を始めとした日本将兵の奮戦があったと思っています。
その観点からすると、佐藤氏は、空自高官として、米軍トップクラスとも接触があった訳ですから、第7章で言及されている米軍将兵の意見が、その後のアメリカ政治の意志決定にどのような影響を与えたのか分析して欲しかったとは思います。
とまれ、『永遠のゼロ』で特攻を知ったという人には、是非読んで頂きたい本です。
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大西中将は特攻のような外道策まで採らないと戦争を終結できず国が亡びる、だから早く交渉を始めろという警告の意図を持っていたと聞きます。
もしそうであったなら、こうした苦渋の思いを「一億総特攻」のようなスローガンのもとに本土決戦まで戦争継続を望んだ一部戦争指導層とマスコミの責任は重大でした。
もっとも、責任を取らないのが官僚の本質であって当時の軍中央はその極致にあったとも言えるでしょうけれど。
そんな中で玉音放送の翌日の自決による大西中将の身の処し方は立派なことであったと思います。
特攻に志願した方々は皆(周囲の空気によってそうせざるを得なかった、あるいは組織から半ば強制された方々も含めて)自らの命を投げ出すことで国の未来を残る国民に託そうとした、感傷的に過ぎるかもしれませんが私はそう思います。
投稿: まりゅー | 2014年8月29日 (金) 10時36分
まりゅー 様
大西中将を始め、特攻に関わった方の真実の心象は、私にはわかりません。
ですが、作家としては、非常に興味深いです。
特に、宇垣中将と一緒に行かれた中津留大尉や遠藤飛曹長が、どんな気持ちで行かれたのかは、いつか書いてみたい気もします。
このお二人と随伴機10機の乗員なんかは、政治的にも、戦術的にも無意味な作戦であり、従う必要さえない命令に、ほとんど自発的に参加しているのですから……
投稿: 数多久遠 | 2014年8月31日 (日) 23時36分