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2014年8月

2014年8月31日 (日)

H27概算要求-その1_総評

いよいよ27年度の概算要求が行われ、防衛省から資料も公開されました。
我が国の防衛と予算-平成27年度概算要求の概要-
以下、画像に引用は全て上記資料より。

例年通り、何回かに分けてレビューして行きたいと思います。

第1回目の今回は、総評です。

全体をさっと眺めてみた印象としては、特に驚くようなモノはありません。
もっとも、それもそのはずで、昨年12月に防衛計画の大綱、中期防が改訂され、それから半年ほどしか経っていない中での概算要求ですから、その路線に沿ったものであって当然だからです。

全体的に、海空を重視し、離島防衛を意識した要求内容となっています。

大きな装備買いは艦船や航空機がほとんどですし、陸関係の要求は、与那国への沿岸監視隊新編やティルトローター機、水陸両用車の取得と、離島防衛を強く意識した要求ばかりです。

各幕別の予算額伸び率を見ると、次の通りで、陸に比べて海空が高くなっています。
陸自:+0.5%
海自:+3.6%
空自:+1.9%

人員については、定員は防衛装備庁発足に伴って各幕とも減少ですが、実員増の要求も海空が大目です。
陸自:+145-70=+ 75人(-70は看護学生への身分変更分)
海自:        +139人
空自:        +132人

また、印象として強く感じるのは、正面装備ばかりを買っていた以前の要求と比べ、より実効性の高い防衛力を構築するため、以前は軽視されており、こんな状態で本当に戦えるのかと言われたような弱点を補うような要求が増えています。

この点で、強く感じるのは、今年の要求に医療・衛生関係の要求が非常に多い点です。
ピックアップしてみると、こんなにもあります。

・野外手術システムの取得(1式:2億円)
Ws000007
・防衛医科大学校等の教育・研究体制の強化等
Ws000008
・自衛隊病院の拠点化・高機能化に向けた取組
事態対処時における第一線の救護能力の向上
南西地域での自衛隊の円滑な活動に資するための取組Ws000009

自衛隊の医療・衛生については、各部隊に衛生組織があり、自衛隊病院、防衛医大と大きな組織は出来上がってはいます。
しかし、現場での応急措置、後送、本格的な治療がスムーズに流れ、本当に救命ができるのかを考えた時、かなり心許なかったのは事実で、負傷したら「どうせ助からないな」というのが正直な現場での感覚でした。

その点で、上記のピックアップした項目には入っていませんが、離島防衛での救命を考えた場合、非常に効果がありそうな要求項目として、ティルトローター機の取得も要求に入っています。
尖閣までの進出、医療設備までの搬送では、ティルトローターの速度と滑走路を必要としない垂直離着陸性能は、極めて有効です。
それに、戦況、負傷状況によっては、沖縄ではなく九州地区に搬送したいケースもあるかもしれませんが、オスプレイなら宮古島で待機し、尖閣でピックアップしてそのまま九州まで飛べます。

例えば、化学兵器が使用された場合などは、民間の病院では適切な治療が行えない場合が考えられます。
医療従事者が化学兵器に対する知識が必要ですし、負傷者の体や衣服を触った際に、医療関係者に2次汚染が発生する可能性もあるためです。
その場合、那覇病院のキャパを上回れば、九州まで搬送が必要かもしれません。

医療・衛生以外にも、除染時の廃液処理装置を取得したり、統幕と内局の改変など、部隊が実際に動く場合に不具合となりそうな点に手を入れようとしていますし、予備自衛官の雇用企業に対する税制補助など、震災時に顕在化した予備自出頭率の問題にも配慮するなどもしています。

総評を一言で言えば、本当に戦える自衛隊を作るための要求です。

ですが、離島防衛で八面六臂の活躍を要求されるであろう海空の装備を確保するため、相当量の機齢・艦齢延伸、ミサイルの再保証を行う反面、投入可能性の低そうな10式戦車や99式自走155mmりゅう弾砲を、引き続きかなりの数を買おうとしている点は、少々疑問です。

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2014年8月28日 (木)

書評「お国のために 特攻隊の英霊に深謝す」

元パイロットで南西航空混成団司令などを歴任した佐藤守氏による特攻隊本です。



特攻には、回天などによる水中特攻や大和の水上特攻もありますが、この本は、一般に特攻と言った時にイメージされる航空機による航空特攻について書いています。

特攻の歴史的経緯や特攻隊員の心情について、生き残りの方の証言や自身のパイロットとしての経験から紐解く本です。

個人的には、特攻を「統率の外道」と呼びながら、「特攻の生みの親」とも言われ、組織的特攻を初めて命じた人物とされる大西大西瀧治郎中将の心の内を洞察している点を興味深く読みました。
終戦後に自決した大西中将は、玉音放送後に特攻を行った宇垣纏中将とともに、どのような心情で、組織的特攻作戦を指揮したのか、人間的な興味を抱かせられる人物です。

また、第1章では、有馬正文少将を始めとした多数の自発特攻が、その後の組織的特攻開始に与えた影響を記述しており、組織的特攻という、外道とも言われた作戦を、軍隊という組織が、如何にして決心するに至ったかを分かりやすく書いています。

特攻を如何に評価するか、特に、自分自身があの戦争に身を置いていたら、どう行動しただろうかを考えた時、非常に複雑な思いがありますが、戦後、アメリカが日本を自陣営に組み込もうと考えた理由には、間違いなく特攻を始めとした日本将兵の奮戦があったと思っています。

その観点からすると、佐藤氏は、空自高官として、米軍トップクラスとも接触があった訳ですから、第7章で言及されている米軍将兵の意見が、その後のアメリカ政治の意志決定にどのような影響を与えたのか分析して欲しかったとは思います。

とまれ、『永遠のゼロ』で特攻を知ったという人には、是非読んで頂きたい本です。

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2014年8月24日 (日)

防衛情報を公開する意義

先日の記事「米海軍が注目した自衛隊無人潜水艦の正体」に対して、防衛省がこう言った情報を公開することは不適切ではないかというご意見を頂きました。

「秘密の新兵器にしておいた方が効果的だろう」という訳です。
世界初の実用的ステルス機として開発されたF-117などは、50機以上が配備されるまで、その存在が秘密にされていましたし、至極当然な考え方です。

しかし、日本の場合、予算取得を行う上で、完全に秘匿することが難しいという側面もありますが、新兵器開発の軍事情報を公開することにも、それなりの理由があります。

大雑把に分けると、理由は二つです。

一つは、抑止力として機能させるためです。
当然ながら、敵を抑止するためには、その兵器が敵にとって脅威だと認識されないといけません。
その性能が、ある程度敵に理解され、敵に恐怖を与えて初めて抑止力となりますから、こうした目的の場合、性能が類推できる程度のスペックや特徴、それらが推測可能な外観等が公開されます。

ただし、抑止目的の場合、今回のようにこれから開発する兵器では、用を成しません。
基本的に、実運用が近くなった、もしくは実戦配備された兵器です。

これから開発する兵器の場合、その情報を公開する軍事的な目的は、敵に対する対抗策の強要、あるいは非効率な軍拡競争への引きずり込みとも言えます。

今回の無人潜水艦であれば、中国は、騒音が酷いと言われる原潜はもとより、静粛性が高いと言われる一部のキロ級通常型潜水艦も含めて、静粛性を高める努力をしなければならなくなるでしょう。
もちろん、数の問題もありますが、この情報を得た事だけでも、無人潜水艦開発の成否に係わらず、こうした努力(つまりお金)が必要になります。そして、それは無人潜水艦を開発するコストよりも、恐らく高いモノになるでしょう。

また、同種の兵器を開発させることにもなりますが、我が国に技術的アドバンテージがある現状では、同じ性能のモノを開発するコストは、中国の方が高く付きます。
今回の様に、燃料電池による無人潜水艦なんて誰でも考えつくものですし、浮力調整による水中グライダーも、原理は単純過ぎるほど単純ですから、性能を問わなければ、作ろうと思えば誰でも作れる代物です。だからこそ、隠そうとしても無理がありますし、広範な技術力が高い方が良いモノを作るには有利であり、自分が流す血(お金)よりも多くの血(お金)を敵に流させることができます。

この効果を狙った情報公開の事例として、もっとも有名なモノはレーガン大統領によるSDI演説でしょう。
SDI演説自体は、情報公開というより決意表明に近いものでしたが、当時既にレーザー兵器等は研究が始まっており、SDI演説により、これらを加速することが決定されたため、当時のソ連は対策を講じざるを得なくなりました。

(ソ連ファンが多かった)日本の報道では、当時も、そんなモノを作っても、核兵器とその運搬手段である弾道ミサイル等を増やせばいいだけ、あるいは回避機動を取るなど対抗手段を講じる事は簡単だというようなディスが多くなされましたが、結局、ソ連はその軍拡に応じることができず、政治的に核軍縮に向かう結果となっただけでなく、SDIは、ソ連を崩壊させ、冷戦を終結させるためのトドメともなったとも言われます。

具体的には、エネルギアやブラン等の金のかかる宇宙開発に多額の費用をかけなければなりませんでしたし、情報が出てこなかったものの、弾道ミサイルの宇宙空間における軌道変更や赤外放射低減のための研究はせざるを得なくなったはずです。

とは言え、防衛省の情報公開は、こう言った戦略的発想よりも、なんとか予算を付けてもらおうと言う意図の方が大きいとは思いますが、それでも各国の軍関係者は、上記のような要素を勘案し、政治的・経済的要素も勘案して、(自らに都合の良い範囲で)情報を公開します。

と言う訳で、防衛情報を公開する意義は、それなりにあるのです。

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2014年8月21日 (木)

終戦の日の自衛隊

8月15日は、終戦の日でした。
テレビでは戦争関連の特番が流れ、閣僚が靖国神社を参拝する、ちょっと異質な雰囲気の日です。

この日、一般の方は、自衛隊の内部では、どんな事が行われている日だと思っているでしょうか?
今日は、その秘密を暴露したいと思います。




8月15日!
お盆です。
終戦の日です。

基本的に、この日、自衛隊は……












お休みです!






ナゼか?
日本全国、お休みの日だからです。

行事もありません。
他の日に振り替えての行事も……ありません。

年中無休24時間営業ですから、勤務者は居ます。
彼等は、いつもと同じ仕事をしています。

基本的にお休みの日ですから、彼等しか、仕事はしていません。
交代で夏休みを取っていますから、「世間は夏休みなのに、俺は仕事か~」ぐらいの感覚です。

そして、休憩室等にあるテレビを見て知るのです。
「あ~、今日は終戦の日か」

で、愚痴るのです。
「畜生! ろくなテレビやってねえな!」

何か違う点があるとすれば……基地によっては、食事に何か特別メニューが付くかも知れません。

恐らく、ステロタイプな自衛隊のイメージとは、相当かけ離れていると思いますが、これが実情です。


私が体験した似たような事例を上げておきましょう。

8月ではなく、12月のある日のとある司令部での出来事ですが、モーニングレポートと呼ばれる朝のブリーフィングで、司令官が、「今日は何の日か?」と聞きました。

参加者は、顔を見合わせている状態で、誰も何の日か分かった様子はありません。

それを見て、司令官が嘆息して言いました。
「今日は、日本軍が真珠湾を攻撃し、太平洋戦争が始まった日だ」

これを良しとするか、なってないと叱責するかは、人によって分かれる部分だと思います。

私は、気に入ってました。
技術者集団、職人に感傷は必要がないと思っています。
ただ、やるべき事をやるのみです。

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2014年8月13日 (水)

米海軍が注目した自衛隊無人潜水艦の正体

どうも最近、人気の出る記事は政治系が多く、技術系の記事は人気がないのですが、私的には趣味なので、今回は技術系記事です。

防衛省が開発中の無人潜水艦ですが、米海軍が目を付けて、一枚噛ませろと言ってきたようです。
無人潜水艦、日米で研究へ…30日間自律航行」(読売新聞140808)

 防衛省と米軍は、1か月間連続して海中で警戒監視を行うことができる「無人潜水艦」の開発に向けた共同研究を進める方針を固めた。

中略

 防衛省によると、当初は日本単独で開発を行うことを予定していたが、米海軍が高い関心を示したことから、共同研究に向けた協議を始めたという。

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上記、記事より

日本主導の研究に、アメリカ側から参加させて欲しいと言ってくるなんて、非常に珍しいケースでしょう。
日本の研究開発は、とかくオリジナリティが少なく(あれば良いってもんでもないですが)、あっても国産化の言い訳のための妙な仕様のモノが多いので、アメリカが興味を持つようなものは少ないのですが、コレはレアケースです。
この研究自体は、記事にもあるとおり、今年から予算が付けられており、防衛省としての研究がスタートしています。
26uuv_1
26年度防衛省予算資料より

予算資料では、長期間としか記載が無かったのですが、読売の記事によると、30日間にも及ぶ連続哨戒が可能な能力を目指しているようです。

 無人潜水艦は、全長10メートル程度で、航行する場所をあらかじめ決めておき、約30日間自律して行動した後、帰還することが想定されている。海中では水中音波探知機(ソナー)による警戒監視や情報収集を乗組員なしで行う。魚雷などによる攻撃能力は持たせない予定だ。


この性能が実現できれば、確かに米軍が高い関心を示すだけの価値があります。

1ヶ月の連続哨戒は、普通の潜水艦でも可能ですが、何せコストが違います。
艦の取得費用ももちろんですが、人が乗り込む艦と無人艦では、運用コストが桁違いだからです。
そして、コストが安いということは、大量に投入できる可能性につながります。

潜水艦が行うべき情報収集は多岐に渡りますが、やはり最も重要なのは、パッシブソナーによる水中音響の収集でしょう。
音響測定艦による遠方からの情報収集でも、相当の情報が収集できるようですが、電波と同様に遠方まで到達しやすい音は、回折などもし易く、音源の位置や移動については把握が困難です。

ですが、多数の無人潜水艦が、複数の位置で同時にデータ収集を行えば、目標とする音源の情報は、位置や移動能力についても詳細に把握できます。

潜水艦の有用性は、何よりもその隠密性によって成り立っています。
もちろん、現代の潜水艦は、魚雷だけでなく、ミサイルも搭載したり、特殊部隊の投入も行なうなど、多彩で強力な攻撃力を持つに至っていますが、「どこに居るか分からない。いつ攻撃を受けるか分からない」という恐怖を敵に与え、対潜戦を行わない限り、戦力の展開を行う事さえ困難にする所にこそ、最大の価値があります。

フォークランド紛争中、アルゼンチンの巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」は、イギリスの原潜「コンカラー」に魚雷で撃沈されました。
その後のアルゼンチン海軍主力は、原潜の活動が困難な浅海域に留まったため、大きな被害を受けることはありませんでしたが、原潜の存在を恐れ、活動自体ができなくなったため、その存在自体が無力化されてしまいました。

このように、潜水艦は、ある意味で地雷のようなモノですが、動き回ることが可能なため、より厄介な存在です。

しかし、潜水艦は、それぞれの固有音響を収集され、行動データの蓄積から機動能力等を把握されてしまえば、隠密性を発揮することはできなくなり、水上艦に比べれば機動能力も攻撃力も劣る潜水艦は、ただの的でしかなくなってしまいます。

現状でも、日中間の戦力に、大きな差があるのがこの点ですが、この無人潜水艦が多数配備されれば、中国の潜水艦は、ほとんど無力と化すかもしれません。

特に、騒音の激しい原潜と比べ、対処に困難が予想される一部のキロ級などの通常型潜水艦の動向把握に効果を発揮するでしょうから、その価値は非常に大きなものになると思われます。

しかし、全長10mと、ある程度の大きさを有し、結構な量の燃料電池を搭載できるとしても、また、哨戒中は姿勢制御のために、舵が効く最低限の低速度で良いとしても、30日間も、空気中とは比べものにならない抵抗となる水中で、継続して行動できるのかは疑問です。
抵抗を考えれば、大型トラックを低速で走り続けさせるイメージかと思いますが、燃料電池とは言え、1ヶ月も走り続けられるとは思えません。

それに、防衛省が現在行っている研究は、無人潜水艦用とは言え、現時点では燃料電池の研究です。次世代のあらゆる産業に役立つことが予想される燃料電池の研究は、アメリカも当然ながら行っており、燃料電池の研究だけなら、米海軍が一枚噛ませろと言ってくるとは思えません。

となると、防衛省がこの無人潜水艦を実現する際に、採用するかもしれない開発技術には、燃料電池の他にもう一つあるのではないか思われます。

それが、コレです。
1305_img02

技本HPより

凧ではありません。

防衛省・技術研究本部が開発中の水中グライダーの実験機です。
水中滑走制御技術の研究(技本HPより)

詳しくは、上記技本のHPを見て頂きたいのですが、無人潜水艦用の技術として、非常に有望そうな技術です。
誰の発案なのか、最初にコレを見た時は、唸らせられました。(ナイスアイデアです)
1305_img01

上記技本HPより


水中を推進しようとすれば、水の抵抗が大きいため、エネルギーロスはどうしても大きなものになります。

1305_img04
1305_img03
上記技本HPより


しかし、水の比重に近い重量・容積で作った潜水艦で、注水・排水して浮力を調整するだけなら、大したエネルギーはかかりません。
その上で、沈降・浮上する際に、水中翼によって滑空(滑水と呼ぶべきか?)すれば、効率良く移動が可能になります。(理屈は違いますが、海上をほとんど羽ばたくことなく、長距離を飛行するカモメのようなものです)

この技術、必然的に深度が変わってしまうため、水中音響の収集にはマイナス要素でもあるのですが、この公開されたデータ(最初の試験であるため、決して良いデータではない)に基づくとしても、滑空比(滑水比?)5.75であるため、最大深度200mの東シナ海では、一回の注・排水で、2.3km移動可能です。
1305_img05
上記技本HPより

無人潜水艦は、急速潜行・浮上をする必要はないでしょうし、人も乗って居ないため重量の変化も少ないので、有人の潜水艦のように高圧空気を使って注・排水しなくても、魚の浮き袋のようなものをアクチュエーターで、圧縮・膨張させれば、浮力調整は十分でしょう。(何より、魚がそれで数百m潜水・浮上できている)

このため、この技術を使えば、極々少ないエネルギーで、水中を長距離・長時間に渡って移動可能です。

恐らく、コレなら30日間の連続哨戒も十分に可能ではないでしょうか。

米海軍が目を付けた技術は、燃料電池よりも、むしろコチラなのではないかという気がします。

それに、この技術には副次的な効果もありそうです。
と言うのも、
恐らく音を全くと言って良いレベルしか出さないだろうと言う点です。

通常のスクリュー、あるいは静粛性に優れたポンプジェット推進でも、モーター音などのノイズはどうしても発生します。
しかし、ある意味船体全体がスクリューとして作用する水中グライダーは、魚と同レベルの音しか出さずに航行できそうです。
となると、この水中グライダーを利用した無人潜水艦は、パッシブソナーでの発見は不可能でしょう。

アクティブソナーでも、船体の大きさが小さいので、発見は難しいでしょうし、移動して逃げることも可能です。運悪く接近されれても、人が乗って居ませんから、1ヶ月でも沈底していたって構いません。
ソナーを取付ける位置の問題もあるので、形状が変わるかもしれませんが、この形状もアクティブソナーに対するステルス性を高めていそうです。
後縁の角度など、形状を見てもステルス航空機とそっくりで、音響ステルスを意図した形状と言えるでしょう。

読売の記事は、防衛省の予算資料を元に絵を描いているので、予算資料と同じような船体形状になっていますが、潜水艦でありながら、垂直尾翼のようなモノが描かれているのは、防衛省がこの水中グライダーの翼を書きたくなかったものの、ある程度はイメージできるようにこの垂直尾翼状のものだけ書いたような気がしてなりません。

と、この記事の後半は、ほとんど推測ですが、これが当たっていれば、開発に当たっている技術者は、さぞかし楽しいでしょう。
どんなモノに仕上がるのか、注目です。

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2014年8月 8日 (金)

強襲揚陸艦と集団的自衛権の素敵な関係

来年度の概算要求に強襲揚陸艦の調査費が計上されるようです。
強襲揚陸艦を導入へ 防衛省方針、名称変更も検討」(朝日新聞140804)

 防衛省は、陸上自衛隊の離島防衛部隊や新型輸送機オスプレイを載せて上陸作戦を行う強襲揚陸艦を海上自衛隊に導入する方針を固めた。2015年度予算の概算要求に調査費を盛り込む。


昨年12月に発表された中期防に「水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、結論を得る」とあったので、中期防を読んでいた人は、昨年の段階で”検討”することは分かっていましたし、そのための調査費なので、別に驚くようなニュースではないのですが、結構話題になっています。

自衛隊応援団の私としましては、防衛省が、”強襲”を取ってソフト路線で導入の理解を得ようとしているようなので、本来であれば、”災害派遣にも役立つ”とかをアピールすべきかもしれませんが、その辺はナゼか朝日新聞がやってくれています。

医療機能を充実させて災害時に利用することも検討し、導入への理解を図る。
中略
 小野寺五典防衛相は4日に都内であった講演で「病院船的な機能もあり、災害でしっかり使える。車もしっかり載せられる。そういう多機能なものをこれからの装備では考える必要がある」と必要性を強調した。


なので、私は逆にハード路線の指摘をしたいと思います。
というのも、しばらく前であれば、このニュースは、必ずしも歓迎すべきモノではなかったのですが、最近の政治情勢の変化により、強襲揚陸艦の価値が大きく変化し、基本的に支持したいモノになったからです。

強襲揚陸艦は、その名の通り、元来は着上陸作戦を実施するための艦艇です。
それも、艦自体を砂浜などの海岸に乗り上げさせ、ビーチングと呼ばれる方式で揚陸することが困難であるような、危険な戦場(敵が待ち構えている等)に、空中機動などを加えることで、強引に(強襲)陸上部隊を上陸させる(揚陸)ことのできる艦艇です。

しかし、そのためには指揮機能の充実や、医療機能など、多様な機能を詰め込まなければならないため、近年ではむしろ多目的艦と言える存在に近づいています。
防衛大臣のコメントも、その事を意識したものでしょう。

自衛隊の艦艇で言えば、陸上部隊の揚陸を目的としたおおすみ型輸送艦と、多数のヘリコプターを運用できる全通甲板を備えたヘリコプター護衛艦である、ひゅうが型あるいはいずも型DDHをかけ合わせたような艦艇と言えます。

しかし、当然ながらここで言及されている強襲揚陸艦は、おおすみ型やひゅうが型、それに建造中のいずも型とは異なる艦艇となるはずですし、海自はアメリカ海軍と極めて密接なことから、この強襲揚陸艦は、アメリカの現行強襲揚陸艦であるワスプ級強襲揚陸艦、あるいは建造中のアメリカ級強襲揚陸艦のような艦艇になる可能性が高いと思われます。

そうであることを前提に考えた場合、この強襲揚陸艦が、現在海自が保有・建造している艦艇と何が違うのか、そしてそれがどんな意味を持つのかがポイントです。
そこに違いが無いのであれば、そもそも強襲揚陸艦の導入を検討する必要などなく、従来艦の追加建造で事足ります。

細かい説明を後回しにして結論を言いましょう。
おおすみ、ひゅうが、それにいずも型は、すべて全通甲板を持ち、艦型が空母に似ていることから、一部に軽空母としての能力を期待する人もいます。
しかし、実際にはどの艦も軽空母にはなりえません。
ですが、強襲揚陸艦は、軽空母にもなりえます。

おおすみ型は、航空機を移動させることのできるエレベーターも航空機を整備する格納庫もなく、全通甲板はヘリも離発着できる、車両搭載スペースでしかありません。(車両用エレベータ等はある)

ひゅうが型、いずも型は、装備としてはそれなりのエレベータ等を備え、サイズ次第ではありますが、VTOL固定翼機を運用することも可能です。
しかし、へりの搭載定数を見ると、いずも型で9機、ひゅうが型では4機でしかありません。
搭載容量としては、それぞれ14機、11機ですが、こんなに乗せたら、まともな運用は不可能です。
この容量は、運搬することが可能な容量でしかない訳です。
しかも、VTOLでの離発着しかできませんから、武器の搭載量は制限を受けます。

そして、航空機は、飛行している短い間しか戦力発揮ができず、しかも整備・補給に多大な時間を要するため、相当数の機数を運用できなければ、全く航空機運用ができない時間が必然的に発生します。
つまり、完全な無力となる時間が発生するため、敵にとっては運用次第で単なる的にすることができます。

海自艦艇で最大の航空機運用能力を持ついずも型でも、ヘリ搭載定数は9機しかなく、ヘリ以上にかさばる固定翼機を運用しようものなら、運用可能機数は更に減りますし、本来の機能である対潜哨戒などが全くできなくなってしまいます。
つまり、この程度の航空機(ヘリ+固定翼)運用能力では、軽空母としても小さすぎるのです。(2次大戦の頃の飛行機は運用できますが、当時と比べたら現代の航空機は巨大化しています)

しかし、強襲揚陸艦の場合、アメリカが現在運用しているワスプ級であっても、対潜任務を行うMH-60Rを6機搭載しながら、ハリアーを20機(1個飛行隊以上)も搭載運用可能です。
アメリカ級強襲揚陸艦も同程度です。
(上記の機数は、軽空母として運用する場合の搭載機数なので、本来の強襲揚陸艦としての運用の際には、搭載機数は減ります。)

この違いは、何よりも艦艇のサイズの違いから来ています。
海上自衛隊最大となる予定のいずも型でも、満載排水量は2万6千トン。
対するワスプ級は、4万トンを越え、アメリカ級では、4万5千トンを越えるため、倍近い大きさがあります。

つまり、紛争の状況次第では、空母としての投入が可能であることが、最大のポイントです。

しかし、私のブログを以前から見ていてくれた方は、「お前は空母導入には反対してたんじゃないのか?」と思うでしょう。
確かに、私は自衛隊への空母導入に反対していました。
参考過去記事
「カテゴリー空母保有」全9記事

しかし、これらの記事でも「アフリカへの政治・軍事的プレゼンスを強化して、資源確保や国際世論の形成を誘導するなどと言った目的なら、それを実行するための目標として、インド洋に空母機動部隊を遊弋させることは適切です。必須と言っても良いと思います。」と書いていたように、以前の記事は、現状の安全保障環境が大きく変化しない事を前提に書いていました。

ですが、安全保障環境は、大きく変化しました
それが、集団的自衛権行使への憲法解釈変更です。

この解釈変更問題も、私は当初それほど注目していませんでした。
集団的自衛権を行使するとは言っても、日米安全保障条約を(実質的に)双務的なモノとし、アメリカに向かう弾道ミサイル防衛に協力するという程度だろうと予想していたからです。

しかし、安倍政権は、支持率を落しながらも、オーストラリアとの関係を、準軍事同盟的なモノにする他、中国が、尖閣以上に露骨な侵略行為を行っている南シナ海における紛争に関して、ASEAN諸国を支持して介入する可能性まで含めて、集団的自衛権を行使可能であるとしました。(韓国に対する支援も入っていますが、韓国自体が、むしろ中国側に付きそうなので、構図が奇怪です)

安倍政権による集団的自衛権行使は、日本の安全保障における、戦略の大変更です。
今までは、防衛力を、ひたすら自国(日本)の安全が脅かされた際にだけ行使し、隣で無辜の他国民が侵略されても見て見ぬ振りをする予定でした。
しかし、今回の解釈変更で、同様の状況で無辜の他国民を助ける替わりに、沖縄や尖閣が侵略を受けた際にも、他国が支援してくれることを期待して行動する方向に舵を切りました。

であれば、南シナ海での紛争等に、プレゼンスだけ、あるいは実際に介入するにしても、空母としての能力も期待できる強襲揚陸艦は、最適です。
もちろん、事態に応じて、空母的装備も揚陸艦的な装備も可能ですし、後方に徹して病院船・補給艦機能として関与することも可能です。

つまり、
強襲揚陸艦は、安倍政権が進める積極的平和主義を実のあるモノにするためのツールとして、非常に適しています。

ですが、ここで指摘した軽空母としての活用をするのであれば、問題もあります。
当然の事として、艦載機がなければ、CPUのないパソコンのようなものだからです。

候補は、当然にVTOLステルス機であるF-35Bとなるでしょう。

F-4の後継となるFXとしては、通常離着陸タイプのF-35Aが選定されましたが、この選定により、以前の記事「F-15延命プランは、FXへのF-35選定圧力を高める」でも書いた通り、F-15の性能向上が図られていないPre-MSIP機については、F-35とすべきですし、実際にそうなる可能性が高まっています。
F35の追加取得検討も  防衛相「価格低下なら」」(産経新聞140709)

強襲揚陸艦が導入されたとしても、そこに常に艦載機を載せておくことは適切ではありませんし、米軍でもそんなことはしていません。

空自機であるF-15のPre-MSIP機後継にF-35Bを選定し、必要な時だけ強襲揚陸艦に搭載して運用することには、海・空自間で、いろいろな問題も生じるでしょうが、統合の時代にあって、それは乗り越えなければならない問題です。

しかし、それができれば、強襲揚陸艦とF-35Bは、積極的平和主義を推し進める強力なツールになります。

前掲リンクに上げたように、この強襲揚陸艦のニュースが、F-35追加取得の可能性を報じたニュースのわずか1ヶ月後にリリースされたことは、決して偶然ではないと思います。
恐らく、時期をずらすことで、一体化した話題ではないとイメージさせながら、それぞれに観測気球とする、あるいは予防線を張ったのではないか……

まだまだ可能性の域を出ない話ではありますが、この強襲揚陸艦の検討は、Pre-MSIP機後継に、F-35Aではなく、F-35Bを導入することととリンクして検討されるでしょう。

民主党・共産党を始め、野党は反対すると思われますがが、私は支持します。

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2014年8月 2日 (土)

ゆらぐ核の傘と対応策

日米拡大抑止協議というのが行われています。

防衛省だけでなく、外務省からも参加しているため、双方のサイトに告知が載っています。語調がちょっとだけ違いますが、内容は基本的に同じです。
日米拡大抑止協議について(防衛省)
日米拡大抑止協議(外務省)
なお、「拡大抑止」というのは防衛省も外務省も意図的に一字抜いていますが拡大「核」抑止の事であり、平たく言えば核の傘、つまり、日本が核攻撃された時に、アメリカは核攻撃を受けた訳ではないにも係わらず、核で報復することです。

この拡大抑止協議ですが、注目の点は2つあります。

一つは、なぜこの協議が行われているのか、それも2010年以降は毎年定期開催されるようになっているのかです。

 なお、日米間では、従来から拡大抑止に関する協議を様々な形で行っており、2010年以降は定期的に行っています。

アナウンスでは、以前からやっていることを強調していますが、定期開催するようになっているのは、それだけ重要性が増している事の証左です。

その理由は、以前の記事「集団的自衛権問題は、ナゼ今なのか_その背景」でも同じような事を書きました。
中国関連では、アメリカの国力低下、中国の隆盛により、アメリカ世論では重要な国として中国が日本よりも上位に来る状況の中、日中紛争に際して、中国が核を使用したり、実際に使用しなくても、ブラフをかけてきた時に、核の傘により中国に対して核報復する可能性が低下しています。
北朝鮮関連の場合、核・ミサイル技術の発展により、米本土が核攻撃を受ける可能性が高まったことで、やはり核の傘がやぶれ傘になりつつあります。

このため、尖閣に対する日米安保適用にオバマ大統領の言質を求めたように、拡大核抑止に対する保証を求める動きが、一部政治家や政府関係者の中にありますが、”保証”となると難しいでしょう。

また逆に、日本政府としても、核兵器不使用の共同声明に賛同を示すなど、自ら核の傘を拒否するような事をしているため、アメリカから不信感を抱かれている可能性もあります。

という訳で、アメリカによる日本に対する核の傘が揺らいでいるからこそ、この日米拡大抑止協議が行われています。

そして、もう一つ注目な点は、何やら核の傘提供用の核兵器を視察するらしく、何かかの動きがある可能性がある事です。

 協議の一環として、日米の出席者は、米国による拡大抑止の保証を支える核兵器システムに関する理解を深めるため、サンディア国立研究所における核関連施設を視察する予定です。

行き先のサンディア国立研究所は、ローレンス・リバモア国立研究所及びロスアラモス国立研究所と並んで、核兵器の先端技術を開発する研究所として有名な所で、特にZマシンによる核爆発を伴わない核兵器開発を行う事のできる施設です。

そこで見たはずの「拡大抑止の保証を支える核兵器システム」と言うのが注目ですが、それがどんなモノなのかは不明です。

ですが、サンディアがZマシンで有名な研究所であり、見てきたモノが「拡大抑止の保証を支える核兵器システム」であることを考えると、協議参加者が見たモノは、いわゆる
”きれいな核兵器(水爆)”関連ではないかと思われます。

核兵器が忌み嫌われるのは、破壊力もありますが、原発事故と同様に、放射能による汚染が、長期・広範囲に渡るからです。
そして、それが故に、核が”使えない兵器”などと呼ばれるように、政治的に使用のハードルが高くなっています。

そのため、放射能による汚染が発生しない”きれいな核兵器”であれば、政治的な使用のハードルは低くなり、アメリカが直接攻撃を受けていない状況でも、核の傘を提供しやすいのです。

通常の水爆は、重水素と三重水素(トリチウム)の核融合反応を、小型の原爆を起爆剤として使用することで起こさせるものです。
そのため、この起爆剤として使用した小型の原爆が、放射能(放射性降下物、フォールアウトあるいは死の灰)となります。

それに対して、”きれいな核兵器(水爆)”とは、原爆を起爆剤とせずに重水素と三重水素(トリチウム)の核融合反応を起こさせるモノなので、放射能汚染が極めて少ないことが特徴です。
これは起爆剤に原爆を使わないため、純粋水爆などと呼ばれます。

この”きれいな核兵器”開発には、核融合反応を起こさせるための特殊な施設が必要となりますが、サンディアのZマシンがこれに当たります。
ロシアでも同種の技術を使用して、サロフ(アルザマス16)において、”きれいな核兵器”の研究を行っています。

しかし、この”きれいな核兵器”は、開発に巨額の資金を必要とする上、開発も困難であるため、アメリカも開発を断念してしまっており、1992年に過去の研究データを公開してしまっている状況です。

ですが、当時と比べると、政治環境の変化が、より”きれいな核兵器”を必要としています。

もしかすると、日本に提供する核の傘の信頼性を確保するため、日本が資金、状況によっては原発の停止で職にあぶれた核技術者の提供を行う事で、研究を再開する……なんて話が、水面下で動いている可能性もあります。(小説のネタになりそうな眉唾話ではありますが……)

あるいは、さらに眉唾ですが、日本が核兵器を保有するとしたら、”きれいな核兵器”であれば、政治的には取組易いはずです。
日本の核保有も視野に入れた視察という可能性も……

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