H27概算要求-その1_総評
いよいよ27年度の概算要求が行われ、防衛省から資料も公開されました。
我が国の防衛と予算-平成27年度概算要求の概要-
以下、画像に引用は全て上記資料より。
例年通り、何回かに分けてレビューして行きたいと思います。
第1回目の今回は、総評です。
全体をさっと眺めてみた印象としては、特に驚くようなモノはありません。
もっとも、それもそのはずで、昨年12月に防衛計画の大綱、中期防が改訂され、それから半年ほどしか経っていない中での概算要求ですから、その路線に沿ったものであって当然だからです。
全体的に、海空を重視し、離島防衛を意識した要求内容となっています。
大きな装備買いは艦船や航空機がほとんどですし、陸関係の要求は、与那国への沿岸監視隊新編やティルトローター機、水陸両用車の取得と、離島防衛を強く意識した要求ばかりです。
各幕別の予算額伸び率を見ると、次の通りで、陸に比べて海空が高くなっています。
陸自:+0.5%
海自:+3.6%
空自:+1.9%
人員については、定員は防衛装備庁発足に伴って各幕とも減少ですが、実員増の要求も海空が大目です。
陸自:+145-70=+ 75人(-70は看護学生への身分変更分)
海自: +139人
空自: +132人
また、印象として強く感じるのは、正面装備ばかりを買っていた以前の要求と比べ、より実効性の高い防衛力を構築するため、以前は軽視されており、こんな状態で本当に戦えるのかと言われたような弱点を補うような要求が増えています。
この点で、強く感じるのは、今年の要求に医療・衛生関係の要求が非常に多い点です。
ピックアップしてみると、こんなにもあります。
・野外手術システムの取得(1式:2億円)
・防衛医科大学校等の教育・研究体制の強化等
・自衛隊病院の拠点化・高機能化に向けた取組
・事態対処時における第一線の救護能力の向上
・南西地域での自衛隊の円滑な活動に資するための取組
自衛隊の医療・衛生については、各部隊に衛生組織があり、自衛隊病院、防衛医大と大きな組織は出来上がってはいます。
しかし、現場での応急措置、後送、本格的な治療がスムーズに流れ、本当に救命ができるのかを考えた時、かなり心許なかったのは事実で、負傷したら「どうせ助からないな」というのが正直な現場での感覚でした。
その点で、上記のピックアップした項目には入っていませんが、離島防衛での救命を考えた場合、非常に効果がありそうな要求項目として、ティルトローター機の取得も要求に入っています。
尖閣までの進出、医療設備までの搬送では、ティルトローターの速度と滑走路を必要としない垂直離着陸性能は、極めて有効です。
それに、戦況、負傷状況によっては、沖縄ではなく九州地区に搬送したいケースもあるかもしれませんが、オスプレイなら宮古島で待機し、尖閣でピックアップしてそのまま九州まで飛べます。
例えば、化学兵器が使用された場合などは、民間の病院では適切な治療が行えない場合が考えられます。
医療従事者が化学兵器に対する知識が必要ですし、負傷者の体や衣服を触った際に、医療関係者に2次汚染が発生する可能性もあるためです。
その場合、那覇病院のキャパを上回れば、九州まで搬送が必要かもしれません。
医療・衛生以外にも、除染時の廃液処理装置を取得したり、統幕と内局の改変など、部隊が実際に動く場合に不具合となりそうな点に手を入れようとしていますし、予備自衛官の雇用企業に対する税制補助など、震災時に顕在化した予備自出頭率の問題にも配慮するなどもしています。
総評を一言で言えば、本当に戦える自衛隊を作るための要求です。
ですが、離島防衛で八面六臂の活躍を要求されるであろう海空の装備を確保するため、相当量の機齢・艦齢延伸、ミサイルの再保証を行う反面、投入可能性の低そうな10式戦車や99式自走155mmりゅう弾砲を、引き続きかなりの数を買おうとしている点は、少々疑問です。
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