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2014年4月20日 (日)

ノドンをディプレスト弾道で使用する可能性

先月末、日米韓首脳会談に合わせて北朝鮮がノドンを発射した事件については、その政治的な意味について、「ノドン発射に見る金正恩の思考回路」を書きましたが、軍事的な意味について、もれ聞こえてきた情報から考察してみます。

今回のノドンは、韓国国防部によると「ミサイルは高度160km、最高速度マッハ7以上で飛行した」とのことです。
北、中距離ノドンミサイル 2発発射…政府 "安保理決議違反"」(ハンギョレ新聞14年3月26日)

最大射程の半分程度と飛距離が短く、高度も若干低いかなという数値だったことから、ディプレスト弾道で撃ったのだろうと想像し、イージスSM-3での迎撃に困難が生じることを米韓軍に見せ付けるつもりだったのではないかという仮説を立てました。
(最小エネルギー弾道でやっと日本に到達するノドンは、ディプレストで発射すると、日本には到達しないため、自衛隊には直接の影響はありません)

しかし、検証のために図を描いて確認すると、「そうだった可能性はあるものの、断言できない」という結論になってしまいました。

いささか冴えない結果ですが、以下、検証結果です。

飛翔距離650km、弾道高度160kmを、地球の曲率と合わせて図示すると、次のとおりです。(曲線は汚いですが、ちゃんと計算した数値で図示しています)
Ws000019
一見して分かりますが、多少ディプレスト気味ではありますが、最小エネルギー弾道に近い弾道です。
(ノドンの射程は1300km程度と見られているので、燃料を減らして撃ったか、さもなくば、途中で燃焼を止めた可能性があります。だから速度も低めだった)

この弾道の内、SM-3(ブロックIA)で迎撃可能な範囲(射高70km~500km)は、図の青い弾道経路になります。
ただし、実際には、レーダーで捕捉してから迎撃を開始することになります。
仮に、イージスが着弾点付近に位置していたとすると、地球の曲率の関係で、目標が水平線上に表われてレーダーでの捕捉が可能なポイントは、ちょうど高度70km付近になるため、そこから迎撃が開始されると、実際の迎撃可能ポイントは、弾道の頂点付近及び後半となります。(青の実線部分)
Ws000020

それでも、弾道の内、かなりの経路がSM-3による迎撃可能ポイントになるため、イージスが適当な位置に展開していれば、十分迎撃が可能だと思われます。

ですが、北朝鮮が本格的なディプレスト弾道でノドンを打ち込んできた場合、どうなるかを見てみると、結構厳しい状況が見えてきます。
Ws000021
図中の弾道経路を下に下げ、全弾道経路がSM-3での迎撃が不可能な70km以下に収めるようにしても、ノドンの射程は400km程になることが分かると思います。
実際には、下げた際に、地表下に入る経路でのロス分(高度エネルギー分)もX軸方向の加速度にできるため、弾道高度が同じ70kmでも、射程は更に伸びます。

400kmの射程があれば、中国国境付近からでもソウルまで到達しますし、38度線付近から発射すれば、陸上戦力で劣る韓国が、北朝鮮を圧倒するために必須である航空戦力の戦力発揮基板である航空基地のほぼ全てを射程に収めることとが可能です。
開戦劈頭に、航空基地を破壊できなくとも、機能不全に陥らせることができれば、北朝鮮とすれば、戦勢はかなり有利になるはずです。

理論上可能でも、北朝鮮の技術力で、実際に可能なのかという疑問はあるでしょう。
ですが、弾道ミサイルの打ち上げ角度を変えることは、特に困難な事ではありません。北朝鮮は、既に地球周回軌道に物体を投入することが出来ている訳ですから、この程度のことは、簡単に実現できます。

ただし、命中精度が、軍事作戦を行う上で、十分なものであるかは不明です。(ディプレストは、命中精度が落ちます)
今回、2発のノドンが発射されたため、もし2発が至近に着弾していれば、離れた場所に打ち込んだミサイルが、偶然至近に落ちる可能性は極めて低いため、北朝鮮は、狙って至近に落としたことになるため、韓国にとっては脅威となります。
もし、着弾点が離れていたとしても、安心はできません。性能を秘匿するため、そもそも話して着弾させるつもりだった可能性が否定できないためです。

数値的には、ソウルなど人口密集地に対して、心理的効果を狙って使用するためには、10数km以上の命中誤差があっても、十分に役立ちます。
ですが、航空基地など重要施設を狙う場合、弾頭が通常弾頭であれば、CEP(半数必中径)が1kmもあったら効果はかなり怪しいと言えます。化学弾頭を使う場合は、CEPが1km程度なら、米韓空軍にとっては深刻な脅威です。

しかし、2発の着弾誤差は公表されないでしょうから、この点は不明だとしか言えません。

結果として、ノドンをディプレスト弾道で射撃することで、SM-3の迎撃を回避することが可能かどうかは、可能性としては否定できないものの、今回の発射では断言できないという結論になってしまいました。
ですが、日米韓軍事筋は、着弾点を観測しているハズです。

もしかすると、近傍に着弾しており、深刻な脅威と認識しているかもしれません。
そうであれば、今後、朝鮮半島危機の際には、米軍はTHAADとPAC-3の大量配備することになるでしょう。

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コメント

これは日本を標的というより、北京も狙えるぞ!という意味の方が大きいのではないでしょうか。

援助をよこさなければ、または、もし軍を送り込むならば、北京に核をぶち込んでやる!

中国からの援助がなければ北の経済は崩壊します。ですから核実験とセットで揺さぶりをかけているのではないでしょうか。

みやとん 様
それは、違うと思います。
従来でも、最小エネルギー弾道で、北京を狙うことはできましたし、中国は有効な弾道ミサイル防衛の能力を持っていません。

なので、中国にメッセージを送るつもりなら、渤海か黄海に打ち込む必要があると思います。

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