琉球新報の報道に対して、防衛省が抗議しました。
「「琉球新報は公正さに欠ける」 防衛省、新聞協会に異例の申し入れ」(産経新聞14年2月28日)
3月2日投開票の石垣市長選で陸上自衛隊配備への賛否に注目が集まる中、「琉球新報」が報じた配備に関する記事について、防衛省が「事実に反し、公正さにも欠ける」として日本新聞協会に申し入れを行っていたことが27日、分かった。中央省庁が報道機関の記事に関し、新聞協会に申し入れを行うのは極めて異例だ。
琉球新報は市長選告示日にあたる23日の朝刊1面トップで「陸自、石垣に2候補地」「防衛省が来月決定」との見出しの記事を掲載。防衛省が陸自部隊の配備地として新港地区とサッカーパークの2カ所を挙げ最終調整に入り、3月までに候補地を決定すると報じた。
防衛省は24日、黒江哲郎官房長名で「候補地を特定し最終調整に入った事実はない」として訂正を求める内容証明付きの申し入れ文書を琉球新報社に送付。新聞協会に西正典事務次官名で「正確・公正さに欠け、適正な報道を求める」との申し入れ文書も送った。
防衛省が抗議した理由は、基本的には報道が誤報だからでしょうが、”公正さにも欠ける”と非難した理由は、掲載が石垣市長選の告示日であり、市民の憩いの場を自衛隊配備地に変えると報道することで、自衛隊配備に反対する候補を有利にするための作為的な報道だと判断したからでしょう。
この事に対して、”悪意ある誤報”と非難する方がいる一方で、悪意があるかは分からないとする方もいらっしゃいます。
そんな訳で、悪意の有無の検証は難しいですが、琉新の報道内容がそれなりに妥当性のあるものだったのか否かは検証可能ですので、やってみたいと思います。
防衛省が抗議した琉新の記事は、こちらです。
「陸自警備部隊、石垣に2候補地 防衛省が来月決定」(琉球新報14年2月23日)
【東京】防衛省は、南西諸島の防衛強化の一環として計画している陸上自衛隊の警備部隊の配備地として、石垣市の八島町新港地区と同市宮良のサッカーパーク「あかんま」の2カ所を候補に挙げ、最終調整に入っていることが22日までに分かった。複数の政府関係者が明らかにした。その他の配備先である宮古島市や鹿児島県の奄美大島も含め、3月までに配備候補地を決定し、地元自治体に理解を求めていく方針。
中略
新設する警備部隊は有事の際に初動を担当するほか、増派部隊の受け皿として位置付ける。対馬警備隊(長崎県)をモデルに350~400人規模の部隊を想定している。
石垣市の配備候補地に挙がる新港地区は、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射を予告した際、2度にわたって航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が一時展開された。サッカーパークは、隣接する農業用の底原ダムがあり、海面で発着できる海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の使用可能性などから候補に挙がっている。
ただ米軍基地負担に加え、自衛隊強化の動きには県内から懸念の声もある。平和団体などは、中国との緊張をさらに高めかねないとして配備の動きに反発している。
この記事は、防衛省の抗議の前に目にしていました。
そして、その時にも配備予定地は適切とは思えず、疑問を持っていました。
問題の候補地は、次の2カ所です。
1 八島町新港地区
2 サッカーパーク「あかんま」
上記リンク記事より
この2カ所を順に検証してみます。
1 八島町新港地区
記事では、「北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射を予告した際、2度にわたって航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が一時展開された。」とされており、パトリオットの配備地として適切なため、候補地とされていると読めます。
上記事案の際に、私もパトリオットによる防護範囲として、次の図を書きました。
この図を見ると、新港地区は、防護範囲に石垣島の主要地域ほとんどが被われ、適切な展開地であるように見えます。
ところがところが、石垣島を始めとした八重山諸島にとって、真に脅威である中国との戦争を考慮すると、状況は一変します。
石垣島や宮古島は、中国が主に台湾攻撃用として大量(1000発以上)に配備している短距離弾道ミサイル(DF-11A及びDF-15)の射程内に入ります。
自衛隊が常時駐屯しているか否かに関わらず、尖閣等で中国と紛争になれば、自衛隊や米軍による反撃を停滞させるため、港湾や空港を中心として、弾道ミサイル攻撃してくる可能性は十分に考えられますが、その際にパトリオットの配備地として、新港地区を利用した場合の防護範囲(フットプリント)は、上記の図とは異なるのです。
防護範囲(フットプリント)は、弾道ミサイルが飛来する方向に形成されます。
そして、中国がDF-11A及びDF-15を使用して石垣を攻撃する場合、弾道ミサイルは、概ね北西方向から飛来します。(射程の関係で、他の方位からの攻撃は不可能です。なお、中距離以上の弾道ミサイルは、数が多くありません)
そのため、新港地区にパトリオットを展開して、中国の短距離弾道ミサイルに備えた場合の防護範囲(フットプリント)は、次のような図になります。
港、中心市街地は防護範囲内に入りますが、東部にある石垣空港は防護範囲外になります。(地図中の石垣空港は、既に使用されていない旧石垣空港)
空港は、自衛隊の投入拠点としても、また島民の避難拠点としても極めて重要です。ここを防護範囲に含めないことはありえないでしょう。
なお蛇足ですが、北朝鮮の弾道ミサイル事案の際、琉新は、私のブログ記事に掲載した図をパクっています。
参考過去記事
沖縄の反応(1報)とPAC-3展開地情報_2012北朝鮮「衛星」発射
琉球新報にパクられた~!_2012北朝鮮「衛星」発射
また、新港地区は、自衛隊を配備する場合に、今や大きな意義となる防災を考えた場合も、適切とは言えません。
南西諸島で怖い災害は、頻繁に訪れる台風もありますが、なんと言っても津波です。
沖縄列島に沿って琉球海溝、沖縄トラフがあることから分かるとおり、南西諸島は、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界にあり、地震の発生し易い地域です。
1771年に発生した八重山地震では、石垣島南東部での遡上高は30メートル程度にもなったと見られており、こんな津波の発生を想定すると、折角自衛隊を配備してあっても、新港地区では、部隊が壊滅してしまい、防災の役に立ちません。
参考wiki:南西諸島近海地震
2 サッカーパーク「あかんま」
次に、サッカーパーク「あかんま」を見てみましょう。
記事では、「サッカーパークは、隣接する農業用の底原ダムがあり、海面で発着できる海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の使用可能性などから候補に挙がっている。」と書かれています。
US-2は、短距離離着水能力に優れており、底原ダムでも十分に離離着は可能です。
ですが、US-2及びUS-1はランディング・ギアを装備しており、通常の空港に離着陸が可能です。
羽田空港に着陸するUS-2
US-1の前身で、既に全機が退役しているPS-1では、離着陸が出来なかったため、この記事を書いた記者は、PS-1と誤認し、恐らく想像で記事を書いたのではないかと思われます。
US-1、US-2は、サッカーパークから4kmほどしか離れていない石垣空港に着陸できるため、底原ダムに着水する理由は、全くありません。
また、輸送機ではないため、後部ランプドアを備えておらず、物資の積み卸しは容易ではなく、US-2を石垣に行かせる必然性自体が乏しいです。
しかも、底原ダムへの着水を考慮した場合、道路と地形の関係から、US-2を陸揚げするために必要なスロープをサッカーパークとの間に作ることは困難です。
もし、スロープを作れば、道路は寸断されますし、相当の経費がかかるでしょう。
逆にスロープを作らなければ、着水させた後、物資や人員はゴムボート等で、ほぼ手渡しで移送することになり、極めて非効率です。
という訳で、サッカーパーク「あかんま」・底原ダムでのUS-2の運用は、非現実的どころか狂気の沙汰です。
検証は以上です。
結論としては、琉新の報道内容(2つの候補地とその理由)は、全く妥当性のあるものとは言えません。
また、冒頭のリンク記事では、防衛省関係者も、新港地区、サッカーパークを否定しています。
複数の防衛省幹部によると、新港地区は市の利用計画があり、検討対象から除外。サッカーパークも市民が利用しており、別の場所に移して配備すれば市民の反発を招きかねず、代替サッカー場の建設費もかかるため適していないという。
全く妥当性のない、報道ですから、もしこれを意図的に、確たるソースがなく報じたのであれば、”悪意ある誤報”と言われても致し方ない所だと思いますし、それを選挙の告示日に報じることは、少なくとも、防衛省が言うように”正確・公正さに欠け”る報道だと言わざるを得ないと思います。
ちなみに、沖縄の2大紙のもう一方である沖縄タイムスは、琉新が報道した翌日に、追随して、次のように報じておりますが、琉新とは若干異なった報道となっています。
「陸自配備、石垣に候補地 大崎牧場周辺など」(沖縄タイムス14年2月24日)
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