ブログランキング&ツイッター

  • 軍事・防衛 ブログランキング
  • ツイッター

« 「黎明の笛」予約開始! | トップページ | 雪害、自治体・自衛隊が災害派遣を躊躇ったワケ »

2014年2月16日 (日)

靖国参拝に対する”失望”の真意

今更な感がありますが、安倍首相の靖国参拝に対するアメリカの態度について、軍事的観点から書いてみたいと思います。

結論を最初に書きます。
今回のアメリカの態度は、安倍首相と外務省の感覚に軍事という観点が乏しいため、靖国参拝の時期を誤った事が原因かもしれません。

安倍首相の靖国参拝後、大使館の報道官が「米国政府は失望している」と声明を発しました。

報道では、必ずしも声明の全文が報じられた訳では無いため、アメリカが靖国参拝に対して”失望”したと理解した方も多いようですが、報道官は、「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」と言っています。また、声明発表後の記者会見において、この”失望が、靖国参拝に対してなのか、それとも中韓の反発に対してなのかという質問に対しても、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったこと」だと明確に回答しています。
その後、アメリカ国務省の報道官も、「参拝そのものに論評を加えたものではなく、中国や韓国との関係悪化を懸念したもの」だと述べています。

日本に気を使ったため、このような表現になったと見る向きもありますが、私はもっと単純に、緊張悪化が”アメリカの不利益”となるために”失望”したのだと考えています。

以前の記事「李大統領の竹島訪問阻止は可能だった」でも書きましたが、朝鮮半島有事において、日本が周辺事態法を適用して米軍の後方支援を行うか否かは、戦局に大きな影響を与えます。
先日も、参院予算委で安倍首相が集団的自衛権を行使することになれば、対象が同盟関係にある米国以外にも広がる可能性に言及しています。
「集団的自衛権:「密接な関係国には権利。国際的な常識」」(毎日新聞14年2月7日)

現在の韓国・北朝鮮間の軍事バランスからすれば、朝鮮半島危機が生起しても、北朝鮮が核を使用しない限り、韓国が敗北することはないと思われますが、日本が米韓を支援しなければ、韓国に駐留する米陸軍第8軍を中心として、米兵の死傷者が増大することは間違いありません。(もちろん韓国の軍・民間人も)

アメリカの世論は、モンロー主義の再興で世界の警察官であることに否定的になりつつあり、米兵の死傷者の発生には以前に比べかなりセンシティブです。
もし日本の支援が怪しい状況になれば、アメリカ政府として、北朝鮮に強い態度を取ることも難しくなってしまいます。

さらに、この政治的な構造は、実際に死傷者が発生しなくとも、つまり危機が高まっただけでも、政治的に問題になりかねない点が重要です。

朝鮮半島での危機が高まった際、米軍は在韓米軍の増強を図ろうとするでしょう。
その一方で、北朝鮮はそれを阻止したがります。
この状況で、例えばのケースですが、北朝鮮が弾道ミサイルを使用して日本を恫喝する、例えば、1996年の台湾総統選挙における台湾海峡ミサイル危機のように、相模湾等にノドン等を打ち込み、日本が米軍を支援すれば、弾頭の代わりに核廃棄物を詰め、ダーティ・ボムとしたミサイルを東京に打ち込む、などという恫喝をしてきた場合、日本国民が対米支援に反対する可能性はかなりあると思われます。
(弾道ミサイル防衛はありますが、ミサイルの打ち方によっては、迎撃確率を低いものにもできるため、100%の迎撃は不可能です)
正直に言って、現時点での日韓関係でも、このような恫喝が行われた場合、日本国民が米韓支援を支持するとは言い切れません。
韓国を助けるために、原発事故以上の被害を負う可能性を受け入れるのですから、最近の韓国の態度を見れば、感情的には、私でも嫌です。
現状でも怪しいと言える状況であるのに、靖国参拝で、韓国が無思慮に日本批判を繰り返せば、(アメリカは最近の韓国の姿勢から、そうなると読んだと思います)、反射的に日本の反韓感情も高まり、日本が米韓を支援しない可能性が高まります。

アメリカが、”失望”を表明した理由には、日中関係の悪化、具体的には尖閣危機が発生し、アメリカが巻き込まれる可能性を懸念したということも、もちろんあるでしょう。

しかし、ここまで述べたような懸念を踏まえて考えれば、安倍首相と外務省の感覚に、軍事という観点が乏しいため、靖国参拝の時期を誤ったという見方ができます。

前述の記者会見で、ある記者が、過去の首相による靖国参拝に対してはアメリカは声明を発しなかったが、今回に限って声明を発した理由を聞いています。
それに対する答えは、「ある特定の時期に地域の緊張を悪化」させた事だと答えています。

We were commenting on something at a certain period in time that we thought would hurt tension in the region


これは、日中及び日韓間の関係が悪化しているここ数ヶ月、あるいはここ数年を事を指しているとも取れますが、ニュアンス的には、もっと短いタームを指しているように思えます。

安倍首相の靖国参拝は12月26日でした。
そこから遡ること、わずか2週間あまり、12月9日には、北朝鮮で張成沢の粛正が公式発表され、13日には処刑が公表されました。
その背景には北朝鮮中枢での権力闘争の可能性もあり、粛正は半島情勢を一気に不安定化させる可能性もありました。

延坪島砲撃事件は金正恩が主導していたとの見方もあるくらいですから、この張成沢粛正の後、米韓軍事筋は当然に緊張します。

安倍首相の靖国参拝は、その中で行われた事になります。
在日米軍にとっては、非常に間の悪い参拝だったでしょう。

アメリカが表明した失望の真意は、「時期を考えろ!」だったかもしれません。

にほんブログ村 政治ブログ 軍事・防衛へ
にほんブログ村

« 「黎明の笛」予約開始! | トップページ | 雪害、自治体・自衛隊が災害派遣を躊躇ったワケ »

周辺国動向」カテゴリの記事

コメント

この記事を読むと、そういう面があったかもしれないとも考えられますね。

石水 様
もちろん、推測に過ぎない訳ですが、可能性としてはあり得たことだろうと思っています。

遅ればせながらのコメントですが、興味深い見方です。それに関連して私からも一言。

ここ数年の韓国政府主導の反日世論の盛り上がりは尋常ではなく、あの民族の文化・民族性だけが原因なのか?と思う所があります。
日米韓が対立して得をするのは誰か?あの国には世論戦という平時の戦術があります。勿論、中国自身が前面に出て自国に有利な国際世論を誘導しようとすることもありますが、今の状況は韓国を使った間接世論戦に見えなくもありません。つまり、韓国人が直接日本を非難する、あるいはアメリカまで出かけて歴史問題で日本を攻撃し、同調したアメリカ人が日本を叩く。それに怒った日本人が韓国人やアメリカ人に怒りをぶつける。意図してこの状況を作り出したのか、結果的にそうなったのか分かりかねます。一つだけ言えるのは、日本人・アメリカ人・韓国人の誰もが自分の意思でやっているつもりになっているから、自分たちの行動が誰にどんなメリットがあるのか考えようとしない。そこにこの問題の重大さがあると思います。

MAT 様
裏に中国がいるということでしょうか。
もちろん、その可能性はあるでしょうし、どの程度組織的かはともかくとして、多少なりともそう言った動きはあると思います。
ですが、むしろ同様の関与を、中国以上に、北朝鮮が行っているだろうと思います。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 靖国参拝に対する”失望”の真意:

« 「黎明の笛」予約開始! | トップページ | 雪害、自治体・自衛隊が災害派遣を躊躇ったワケ »

最近のトラックバック

ブックマーク、RSS