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2014年2月

2014年2月26日 (水)

陸自は削減すべきなのか?_新防衛計画大綱等 その6

このブログは、BLOGOSに転載されることもあります。
このシリーズ最初の記事「初めてまともに規定された戦略とドクトリン_新防衛計画大綱等 その1」も、その一つでしたが、そこにむらきのん氏から、こんな意見を頂きました。(後半略)

エントリーの主張を前提とすると、戦略という作文と、数という実体があっていないように考えます。
具体的には、なぜ陸自の人数を増やすのでしょうか。
エントリーが評価するとする戦略と具体的数値目標との矛盾点と考えます。
戦略に沿って、削減すべきは削減する、だからこそ強化すべき分野に資源を十分投入できる、それが本来ですし、財政面にも必要でしょう。
そこについての記述を期待します。


一言で言うならば、敵戦力を、洋上において、主に海空戦力で撃破するというドクトリンを持つのであれば、陸自戦力は削減すべきではないかという考えだろうと思います。
至極当然の感想だと思います。

ですが、私は以前から主張しているとおり、戦車や特科戦力は削減し、代わりに普通科戦力を増強すべきだと主張してきました。

そして、実際に新大綱で数値的に示された陸自戦力の増減も、戦車と火砲の削減と編制定数(人員数)の据え置きです。
戦車・火砲の削減分がどこに振り向けられるのかは記述がありませんが、施設(工兵)の増強を予想させる記述もないため、恐らく普通科だと思われます。また、中期防で99両の調達が盛り込まれた機動戦闘車も普通科配備の可能性が高いため、新大綱等の方向性は、非常に望ましいものだと考えています。

では、なぜ普通科の増強が図られ、陸自全体としては据え置きなのか、新大綱等の記述を見ながら考えて見ます。

大きなバックグラウンドとして考えるべき事項は、前掲記事でも書いたグレーゾーン事態です。
北朝鮮に関連したグレーゾーン事態の記述として、次の通り書かれています。

大規模な特殊部隊を保持するなど、非対称的な軍事能力を引き続き維持・強化している。


中国に対しても、同種の記述をしています。

当該地域での他国の軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力の強化に取り組んでいると見られる。


また、災害に関する記述の中でですが、我が国の状況について、次のように述べています。

都市部に産業・人口・情報基盤が集中するとともに、沿岸部に原子力発電所等の重要施設が多数存在しているという安全保障上の脆弱性を抱えている。


大綱中、防衛力整備の方向性について記述している防衛力の在り方の項目においては、弾道ミサイル攻撃への対応として書かれている次の内容は、陸自の仕事です。

万が一被害が発生した場合には、これを局限する。また、弾道ミサイル攻撃に併せ、同時並行的にゲリラ・特殊部隊による攻撃が発生した場合には、原子力発電所等の重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索及び撃破を行う。


若干作為的ですが、これらをまとめてみます。

グレーゾーン事態においては、特殊部隊等による非対称戦術が懸念される。
(非対称戦術とは、ある脅威に対して同種の兵器を繰り出すのではなく、多くの場合、ゲリラ的な妨害活動をすることを指します)
その上、日本の場合、都市への著しい集約や原発等が多数存在し、破壊行為による影響が大きい。
故に、これら多数の重要施設を防護し、非対称戦術を行う特殊部隊等の捜索・撃破を行なう事が必要。
また、弾道ミサイルによる化学兵器などの被害にあたっては、被害極限も必要。


正規軍による大規模着上陸に備え、多数の戦車等を配備していた以前の大綱等では、これらの脅威にも触れられることはあっても、実態的にはそれほど重視されてはおらず、戦車や火砲は備えても、普通科部隊の整備、具体的には自動車化等の施策は遅れていました。(近年の軽装甲機動車の大量配備によって、大分まともにはなりましたが)

ネットで大きな発言力を持つ、戦車を重視する方々は、こうした非対称戦術に対しても、イラクやアフガンでの戦訓があるため、むしろ戦車を多数配備し、備えるべきだと主張しています。
ですが、それらの事例は、住民のほとんどがゲリラ支持者である所での事例であり、ゲリラが簡単に潜伏可能で、かつ自由に動き回ることができる環境であるため、ゲリラを積極的に狩り出すことが困難だから生起している事象です。
それが故に、防御力の高い戦車を盾にして攻撃を誘い、ビル等からの攻撃に対して、戦車砲まで使用して反撃せざるを得ないため、そのような状況になっています。

しかし、日本では、例え中国人の多い池袋や横浜であっても、そうしたゲリラ・コマンドウは、潜伏することは、かなり大変です。
怪しげな人間がいれば、警察に通報されますから、警察と陸自が協力して、積極的に狩り出す事が可能です。
そうした状況では、戦車ではなく、どこにでも直ぐに駆けつけられる軽装甲機動車や、もしも火力が必要なら、それこそ機動戦闘車のような車両の方が役立ちます。部隊も当然普通科です。

防衛省がこう言った戦術を警戒するようになった理由には、恐らく中国の国防動員法も関係していると思われます。
法への言及は内政干渉にもなりかねないため新大綱等でも直接の言及はありませんが、この法を発動させれば、中国政府は、日本在住のほとんどの中国国籍保有者(男性18~60、女性18~55)に対して、即座に破壊活動を行なう事も命令できます。
いくら法があると言っても、在日二世、三世の方などは、ほとんど命令に従わないと思いますから、実際に中国政府の命令で破壊活動に参加する中国人は、決して高い比率ではないと思われます。

ですが、仮に100人に1人が破壊活動に参加しただけでも、国防動員法の発動だけで、日本国内に突如6000人ものゲリラが出現することになります。
昨年末の中国による防空識別圏設定の際にも、中国大使館が在日中国人に対して、連絡先を登録するようにアナウンスし、一部では、すわ動員法発動準備とも騒がれたことは記憶に新しいところです。
在日中国人登録は開戦ではなく、災害への対応=在日中国大使館」(中国網日本語版13年11月26日)

彼等は、例え武器などはなくとも、各地の鉄道に置き石をするだけで交通網は麻痺しますし、脱線事故など起きようものなら、地下鉄以外は長期に渡って低速運行しなければならなくなるでしょう。
工場に勤める者なら、毒物を奪って水源に投入することも容易いはずです。

こうした脅威に対処するためには、多大なマンパワーが必要です。
要対処者が6000人もいたら、陸自全兵力15万9千人(予備自を含む定数)の全兵力を投入しても、追いつかないかも知れません。多分足りないでしょう。

1996年に韓国で発生した江陵浸透事件では、26名(11人は早期に自決しているので、実質15名)の工作員を追い詰めるために49日も要しています。投入された兵力はのべ150万にも及び、1日あたり3万人もの人員でこの15名を追った事になります。

高度な訓練を受けた工作員ですし、単純な比較はあまり適当ではありませんが、単純計算では、1人を追うために2000人を要した訳ですから、要対処が6000人なら、1200万人(予備自を含む陸自編成定数の75倍)もの兵力が必要になってしまいます。

こうした、いわゆるゲリ・コマ対処と呼ばれる活動には、極めて多数の陸自普通科兵力が必要ですし、この他にも新大綱では陸自の能力が必要とされる項目が多く盛り込まれています。

安倍首相が国連総会等打ち出した積極的平和主義は、今や頻繁に耳にする言葉になっていますが、国家安全保障戦略の中で明確に規定されました。
そして、それを受け、大綱で具体策が示されていますが、これらは海空も関係するものの、主力は陸自になるだろうと思われるものが多いのです。
細部を説明すると長くなるので、該当すると思われる事項を列記するに止めます。
・PKO
・人道支援
・災害救援
・能力構築支援
・テロ対策
これらは、普通科の他、施設科や衛生科の出番が多くなる活動でしょう。

また、災害派遣は、陸自、それも普通科と重機を要する場合は施設科が最も対応力が高い事も言うまでもありません。

後半ははしょったので、予想される業務量と、記事の文章量が整合していませんが、結論は冒頭で述べたとおり、戦車・火砲の削減は適切でも、やはり新大綱等で示された活動を行って行くなら、陸自全体の削減は適切とは思えない、という所になります。

しかし、陸自の戦力規模については、コメントを頂いた方のように至極当然の思考をする方がいらっしゃる一方で、むしろ陸自、というより戦車の増強を唱えるネット論者もいます。

そしてまた、プロである元自衛官にしても、相反した意見が見られます。
詳細には触れませんが、元陸将の用田氏は、この新大綱等が陸自削減であるとして、危惧を抱き、防衛費を倍増して陸自も強化すべきだと主張されています。
陸上自衛隊を弱体化させて日本を守れるのか!」(JBPRESS14年2月4日)
方や、元海自幹部で専門紙にも記事を書かれている文谷氏は、陸自が現今の脅威に適合しておらず、無駄があると主張されています。
陸自を減らすといった解決策から逃げまわっている」(隅田金属日誌(墨田金属日誌)14年2月5日)

今回の新大綱等で、大きな変革が示された陸自ですが、今後も議論が続くでしょう。

なお、ゲリコマ攻撃対処については、如何にも元自衛官が書いた文章で、かなり堅い文ですが、次の資料が参考になります。
興味のある方はご覧下さい。
我が国が行なうゲリラ及び特殊部隊による攻撃への対処のあり方に関する提言

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2014年2月22日 (土)

書評「女子と愛国」

あちこちで日本の世情が”右傾化”していると言われています。

この動きは、以前から感じていましたが、その中でも、最近の傾向として、そう言った流れに女性が参加していることに驚きを感じるとともに、ナゼなのだろうと考えていました。
そんな中、ある方からこの本を紹介されたため、手に取ってみたという訳です。


内容は、何人かの”愛国活動”をされている愛国女子に焦点をあて、ルポルタージュ方式で追いかけて行くものでした。
この手の話題には、比較的アンテナを張っているつもりでしたが、この本で取り上げられている女性たちには、こんな人が居たのかと驚かされます。

その多くは、メディアやネットで積極的に情報発信している方ではなく、草の根で活動されている方なのですが、逆に、だからこそ、彼女たちの真剣さが感じられます。
ネットでは、誰とも顔を合わさずに済みますから、冷たい視線で見つめられることも、ましてや罵倒されることもありませんが、この本で取り上げられている女性たちは、デモに参加したり、靖国参拝を呼び掛けたりと、場合によっては危険さえある活動をされています。

こうしたアプローチは、非常に印象深く、ルポ形式なこともあって読みやすい本です。

ただし、私が期待した”ナゼ右傾化傾向が女性にも及んでいるのか”という、社会学的な追求はあまり深くありません。
それでも、今回の都知事選の出口調査でも、男性よりも明らかに少ないながらも、かなりの女性が田母神氏に投票していた事を考えると、このテーマは非常に興味深いです。

”愛国女性”には怒られてしまうかもしれませんが、私は、基本的に、男女の思考における性差を考えると、女性は基本的に愛国的にはなり難いと考えています。
それでありながら、右傾化傾向が女性にも及んでいる理由には、興味があるのです。

このテーマに対するこの本の回答は、ネットの影響、別の言い方をすれば、マスコミが封殺してきた情報の影響が大きいというものでした。
もちろん、その影響はあると思いますが、私はそれだけではなく、むしろ社会における女性のポジションが影響しているのではないかと思っています。

が、その話は、書評から外れて行くので、このくらいに。
また気が向いた時に書くかも知れません。

この本を読んで、改めて思うことは、”愛国女性”のインパクトです。
以前から、自衛隊協力会の中にも婦人部があり、そう言う意味では”愛国女性”は決して今までも居なかった訳では無いのですが、この本に取り上げられている女性たちのように、デモに参加する等、表に出て行く女性は少ないという実情がありました。
また、絶対数が少ないと言うこともありますが、私と同様に、多くの人は、女性は愛国的にはなり難いと考えています。

そのため、この本で取り上げられているような女性の活動は、非常に目だちますし、一人の”愛国女性”による心象に対する影響は、100人の愛国男性によるそれを上回るでしょう。
たった一人でも、デモ隊がいるようなものです。

この本のおかげで、また更に”愛国女性”が増えて欲しいものだと思います。

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2014年2月19日 (水)

雪害、自治体・自衛隊が災害派遣を躊躇ったワケ

歴史的な大雪による災害に関連して、自衛隊の災害派遣について、自衛隊自身や派遣要請をする自治体の対応について、批判が起こっています。
大雪:埼玉県が自衛隊派遣断る 秩父市が要請」(毎日新聞14年2月18日)

この雪害に関して、世論の大勢は、積極的に自衛隊を投入すべきだという考えのようです。
冒頭リンクの記事などは、毎日新聞なのに、災害派遣を躊躇った埼玉県を悪者扱いしているくらいです。
また、適当なニュースが見つかりませんでしたが、山梨の被災でも、同様の批判が起こっています。

世論の怒りは、サッサと派遣を要請しない県は、天ぷらを食べている安倍総理と同じでケシカラン、とでも言いたい様子ですが、自治体の防災担当者が派遣要請を躊躇した事には、それなりの理由があります。

山梨などは、民主党の輿石元幹事長を国会に送り込んでいる土地であるため、日教組などからの吊し上げを恐れ、派遣要請を躊躇したという側面も、確かにあるでしょう。

しかし、そう言った考えが、過去の日本では主流であったため、自衛隊が災害派遣を行うに当たっては、災害派遣の3要件を満たしている必要があるとされています。
その3要件とは、「公共性」「非代替性」「緊急性」です。
関連過去記事:「ハエ駆除における、災害派遣3要件の適用」「自衛隊による防疫活動

佐藤議員は、今回の雪害が3要件を満たしていると言っています。
Ws000016
自治体、それに自衛隊も、実際に派遣で出ている訳ですから、最終的には、満たしていると判断したはずです。

ですが、私から見ても、3要件を満たすか否かは、かなり怪しい感じがします。
死者も出ている状況ですから、「緊急性」は、さほど問題ありません。除雪を行うのが公道であれば、「公共性」も問題ないでしょう。
しかし、「非代替性」は、大いに問題があります。

「非代替性」とは、過去の記事でも書いたとおり、他の組織等の能力では十分な効果が得られない、という条件です。
その根幹には、災害派遣によって”民業を圧迫”してはならないという、公務全般の原則が関わっています。

この「非代替性」が怪しいというのは、もっと大量の降雪がある雪国を見れば明らかです。
東北や北陸自動車道などは、大雪になると頻繁に通行止めになります。今回の大雪を遙かに上回る降雪が頻繁に発生している訳ですが、災害派遣が要請されることはありません。自治体が、土建業者に発注して除雪を行っているからです。
埼玉でも山梨でも、災害派遣を要請するのではなく、こうした業者に発注することが、本来のスジなわけです。また、そうしないと降雪地の住民は除雪のために税金を払うものの、埼玉や山梨では国民全体が税金を払っている自衛隊にやらせるという不公平が生じることにもなります。

今回、この「非代替性」要件を満たしていると判断された理由は、埼玉や山梨では、急遽業者に発注しようにも、受注できる業者が不足していたため、”代替困難”だったためでしょう。
ですが、要件を満たすか否か、怪しい状況だった事は間違いありません。

しかし、近年の災害派遣では、この3要件を満たすか否か怪しい状況でありながら、派遣が実施されるケースが増えています。
過去記事で書いたハエ駆除もそうですし、新潟地震の際の被害後家屋の除雪作業などは、公共の利益ではなく、個人の利益のために行った訳ですので、「非代替性」だけでなく、「公共性」さえも怪しい派遣でした。
また、離島ではあたりまえの公共サービスの一つにもなってしまっている急患空輸などは、かなり以前から疑問視されています。(何せドクターヘリを持っている自治体であれば、当然そちらが行うべき業務です)

これを、間違っているなどと言うつもりはありません。
自衛隊をどう使うかは、主権者である国民が決めれば良いことですから、世論が派遣を支持するなら問題ありません。
そもそも、この3要件を必要とすること自体も、以前は朝日や毎日と言った左派系マスコミが、自衛隊の災害派遣を国民の目を慣らさせるための手段だと言って糾弾していたからです。
その批判を逃れるために、言うなれば、仕方なく派遣したというイイワケとするために作られたのが3要件だとも言えます。

今回の災害で、世論は明確に派遣を支持していました。
今後は、この3要件が怪しいケースでも、更に災害派遣が行われるケースが増えるでしょう。

自衛隊とすれば、例え3要件が怪しくても、要請がさえあれば、要請があったから派遣したと言い訳ができます。
それだけに、自治体の防災担当者は、更に勉強をして、左派系マスコミや自治労にも的確に反論できる体制を整える必要があるでしょう。

また、そのためにも、自治体の防災担当部局への退職自衛官の採用をもっと積極的に進めるべきだと思います。
今回問題になった埼玉と山梨は、共に県庁に1名の退職自衛官を採用していますが、迅速な派遣を行うためには力不足でした。
退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況

しかし、その一方で、やはり「非代替性」については、留意されることが重要だと思います。
今回のケースでは土建業者、またハエ駆除であれば害虫駆除会社などは、「なんで発注してくれないんだ!」と思っていたかもしれません。
また、ゲスな勘ぐりをすれば、今回要請に積極的だった自治体は、あと1ヶ月ちょっと分しか残っていない今年度予算が惜しいため、自衛隊をタダで使おうと思った可能性もあります。

ここからは蛇足です。
ここで言及した災害派遣の3要件の出典、正直に言って記憶があいまいです。
自衛隊の内部文書であり、災害派遣の虎の巻と呼ばれる「災害派遣の参考」には、これでもかという程書かれていたことは覚えているのですが、大元を改めて調べて見ましたが見つかりません。
多分、国会答弁か何かだと思うのですが……
なお、「災害派遣の参考」は、確か表紙が青かったため青本と呼んでました。しかし、こちらのサイトに出ている公開された資料では、表紙が青くないです。(変わったのか?)

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2014年2月16日 (日)

靖国参拝に対する”失望”の真意

今更な感がありますが、安倍首相の靖国参拝に対するアメリカの態度について、軍事的観点から書いてみたいと思います。

結論を最初に書きます。
今回のアメリカの態度は、安倍首相と外務省の感覚に軍事という観点が乏しいため、靖国参拝の時期を誤った事が原因かもしれません。

安倍首相の靖国参拝後、大使館の報道官が「米国政府は失望している」と声明を発しました。

報道では、必ずしも声明の全文が報じられた訳では無いため、アメリカが靖国参拝に対して”失望”したと理解した方も多いようですが、報道官は、「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」と言っています。また、声明発表後の記者会見において、この”失望が、靖国参拝に対してなのか、それとも中韓の反発に対してなのかという質問に対しても、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったこと」だと明確に回答しています。
その後、アメリカ国務省の報道官も、「参拝そのものに論評を加えたものではなく、中国や韓国との関係悪化を懸念したもの」だと述べています。

日本に気を使ったため、このような表現になったと見る向きもありますが、私はもっと単純に、緊張悪化が”アメリカの不利益”となるために”失望”したのだと考えています。

以前の記事「李大統領の竹島訪問阻止は可能だった」でも書きましたが、朝鮮半島有事において、日本が周辺事態法を適用して米軍の後方支援を行うか否かは、戦局に大きな影響を与えます。
先日も、参院予算委で安倍首相が集団的自衛権を行使することになれば、対象が同盟関係にある米国以外にも広がる可能性に言及しています。
「集団的自衛権:「密接な関係国には権利。国際的な常識」」(毎日新聞14年2月7日)

現在の韓国・北朝鮮間の軍事バランスからすれば、朝鮮半島危機が生起しても、北朝鮮が核を使用しない限り、韓国が敗北することはないと思われますが、日本が米韓を支援しなければ、韓国に駐留する米陸軍第8軍を中心として、米兵の死傷者が増大することは間違いありません。(もちろん韓国の軍・民間人も)

アメリカの世論は、モンロー主義の再興で世界の警察官であることに否定的になりつつあり、米兵の死傷者の発生には以前に比べかなりセンシティブです。
もし日本の支援が怪しい状況になれば、アメリカ政府として、北朝鮮に強い態度を取ることも難しくなってしまいます。

さらに、この政治的な構造は、実際に死傷者が発生しなくとも、つまり危機が高まっただけでも、政治的に問題になりかねない点が重要です。

朝鮮半島での危機が高まった際、米軍は在韓米軍の増強を図ろうとするでしょう。
その一方で、北朝鮮はそれを阻止したがります。
この状況で、例えばのケースですが、北朝鮮が弾道ミサイルを使用して日本を恫喝する、例えば、1996年の台湾総統選挙における台湾海峡ミサイル危機のように、相模湾等にノドン等を打ち込み、日本が米軍を支援すれば、弾頭の代わりに核廃棄物を詰め、ダーティ・ボムとしたミサイルを東京に打ち込む、などという恫喝をしてきた場合、日本国民が対米支援に反対する可能性はかなりあると思われます。
(弾道ミサイル防衛はありますが、ミサイルの打ち方によっては、迎撃確率を低いものにもできるため、100%の迎撃は不可能です)
正直に言って、現時点での日韓関係でも、このような恫喝が行われた場合、日本国民が米韓支援を支持するとは言い切れません。
韓国を助けるために、原発事故以上の被害を負う可能性を受け入れるのですから、最近の韓国の態度を見れば、感情的には、私でも嫌です。
現状でも怪しいと言える状況であるのに、靖国参拝で、韓国が無思慮に日本批判を繰り返せば、(アメリカは最近の韓国の姿勢から、そうなると読んだと思います)、反射的に日本の反韓感情も高まり、日本が米韓を支援しない可能性が高まります。

アメリカが、”失望”を表明した理由には、日中関係の悪化、具体的には尖閣危機が発生し、アメリカが巻き込まれる可能性を懸念したということも、もちろんあるでしょう。

しかし、ここまで述べたような懸念を踏まえて考えれば、安倍首相と外務省の感覚に、軍事という観点が乏しいため、靖国参拝の時期を誤ったという見方ができます。

前述の記者会見で、ある記者が、過去の首相による靖国参拝に対してはアメリカは声明を発しなかったが、今回に限って声明を発した理由を聞いています。
それに対する答えは、「ある特定の時期に地域の緊張を悪化」させた事だと答えています。

We were commenting on something at a certain period in time that we thought would hurt tension in the region


これは、日中及び日韓間の関係が悪化しているここ数ヶ月、あるいはここ数年を事を指しているとも取れますが、ニュアンス的には、もっと短いタームを指しているように思えます。

安倍首相の靖国参拝は12月26日でした。
そこから遡ること、わずか2週間あまり、12月9日には、北朝鮮で張成沢の粛正が公式発表され、13日には処刑が公表されました。
その背景には北朝鮮中枢での権力闘争の可能性もあり、粛正は半島情勢を一気に不安定化させる可能性もありました。

延坪島砲撃事件は金正恩が主導していたとの見方もあるくらいですから、この張成沢粛正の後、米韓軍事筋は当然に緊張します。

安倍首相の靖国参拝は、その中で行われた事になります。
在日米軍にとっては、非常に間の悪い参拝だったでしょう。

アメリカが表明した失望の真意は、「時期を考えろ!」だったかもしれません。

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2014年2月12日 (水)

「黎明の笛」予約開始!

書籍版「黎明の笛」の予約が開始されました。
なぜか、書影が帯付きのものですが。



アマゾンの他、hontoでも予約の開始を確認しています。

その他、まだ予約が開始されていない本の通販サイトでも、順次予約できるようになるはずです。

また、当然ですが、全国各地のリアル書店でも予約が可能です。
祥伝社の「黎明の笛」、著者は数多久遠。あるいはISBN:9784396634346で予約できるはずです。

KDP版より大幅改稿してパワーアップしています。
軍事的な展開はそれほど変わっていませんが、新たな視点からのシーンが増えたためストーリーは厚みを増していますし、ラストは完全に変わりました。
細かい修正も、随所に入ってます。

発売予定は3月12日です。
電子版も同日発売予定です。

楽しんで頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します。

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2014年2月10日 (月)

田母神氏健闘の影響_都知事選

都知事選は、予想通り桝添氏が当選しましたが、「田母神氏の得票は抑止力になる」を書いたように、当ブログが注目していたのは田母神氏でしたので、田母神氏への支持状況に注目して、都知事選を振り返ってみたいと思います。

まず、得票状況ですが、次の通りでした。
20140209
得票率にして、12.5%。
投票率が低く、その中でも若年層の投票率が低いことが予想されるため、ネットでの支持が強かった田母神氏の場合、あの雪がなければもっと得票率が伸びたかもしれないという分析もされていますが、支持者は熱心な方が多いため、私は、投票率が高ければ、むしろ得票率は下がった(浮動票が他に流入した)可能性もあると思っています。

しかし、例えそうだとしても、12.5%もの票を集めたことは、正直驚きでした。
10%に届くことは難しいだろうと予想していたためです。

これによって、今後3つの影響がでると思われます。

一つは、前掲記事にも書いたとおり、中国に対して抑止力として機能するという点。
しかも、詳細は後で書きますが、将来においては、田母神氏言うところの”日本派”あるいはマスコミが言うところの極右傾向がさらに強まるだろうと思われるため、中国としては、この選挙結果に大いに警戒感を抱いただろうと思われます。

もう一つ、非常に大きな影響は、マスコミが”報道しない自由”を行使し、田母神氏の行動を封殺することができなくなるだろうと言う点です。
尖閣騒動の後の渋谷デモやお台場デモは、海外メディアは報じても、国内の新聞テレビはほぼ封殺していました。
今回の選挙でも、泡沫扱いすることで、極力触れない方針だったようですが、予想外の支持を集めたため、途中から4強の一角として報じざるを得なくなりました。
今後、会見で言っていた通り、田母神氏が政党を立ち上げるのかどうか分かりませんが、マスコミとしても、彼の動きを報じざるを得ないでしょう。

最後は、自民を含む既存保守政党も、田母神氏やその支持者を無視できないという点です。
今回の都知事選では、自民も、田母神氏の動きを歯牙にもかけていませんでしたが、今後は取り込むのか、あるいは切り崩すのか、対策を立てる必要が出てきました。

さて次に、実際の得票では、総数しか分かりませんので、出口調査の結果を見てみたいと思います。各所で出口調査が行われていましたが、朝日のデータが一番簡潔です。

舛添氏、高齢層から圧倒的な支持 都知事選出口調査分析」(朝日新聞14年2月9日)より
Ws000008
朝日は、このデータをもって「戦争を知らない世代に浸透したのは、ネットを上手に活用したことが要因だろう。」と評しています。(若年層を、戦争を知らない世代と言い換えるところは、さすがに朝日です)

田母神氏が若年層に強く、高齢層に弱かった事は、このグラフを見れば一目瞭然です。
しかし、私は朝日の分析には異論があります。

田母神氏がネットで強い支持を集めていたことは、かなり冗談めかした記事ながら、次の記事があったことからも明かです。
田母神氏、断トツ本命!? 都知事選アンケートで異変 8割以上の票集め…」(zakzak14年1月18日)

しかし、朝日の分析は、(恐らく意図的に)原因と結果を逆転させています。
田母神氏が若年層の支持を集めたのは、田母神陣営がネットを巧く使ったからではなく、ネットを使う世代が、ネットの情報によって田母神氏を支持したからです。

田母神氏のネット活用度は、決して高くありませんでした。
Ws000009
都知事選のネット選挙は? ~分析データから考察~」(勝つ政治家!.com)より、各候補のツイッター利用度

ツイッターアカウントでの意見表明数は3位で、4位の細川氏とほぼ同数ですが、リツイートやメンションの数を含めたツイッター活用度では4位で、ネットを使わずに組織で戦ったと言われる桝添氏と大差ありません。

この記事の本題とは外れますが、これは既に世論はマスコミだけが作るものではなく、ネットに触れる世代では、ネットが世論を作り始めている証左とも言えます。
朝日としては、新聞の影響力が低下していることを認めたくないのでしょう。

冒頭に上げた関連記事にも追記しましたが、石原氏が「あえて可能性の少ない戦いに挑む。ある意味で特攻隊ですよ」と発言しているとおり、やはり陣営としては、目標を当選に置いていた訳では無く、田母神氏という一個人の(ネットでの)知名度を生かし、東京都知事選という注目を浴びる選挙において一定の支持を集めることで、世論に一石を投じようとしていたのでしょう。

その目論見は、見事に達成されたと思います。
長期的に見れば、今後の政治に大きな影響を与える選挙だったと思います。

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2014年2月 8日 (土)

書評「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」

先日も、「黎明の笛」同じ、個人出版からの書籍化事例としてご紹介した「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」を読みましたので、書評を書かせて頂きます。


レビューを見ると、ミステリ風の青春小説とする評が多いですが、私はミステリ要素のある純文学だと思いました。
純文学だなんて書くと、堅苦しくて面白く無さそうだと思ってしまうかもしれませんが、決してそんな事はなく、最近は珍しくなくなっているライト調ミステリ風純文学という感じです。
でも、もしかするとファンタジーとも言えるかもしれない。何とも評しにくい作品であることは確かです。

純文学と言ってもピンとこない人のために、他の方法でイメージを伝えるとしたら、読んでいる最中に感じた印象が、宮部みゆき氏の作品を読んでいる時のそれに近いと言うところでしょうか。
宮部みゆき氏は、純文学ではなく、歴としたミステリ作家ですが、複雑な謎解きやどんでん返しが評判という訳ではなく、深い人物描写が特徴で、純文学を書いたら良さそうと思える方です。
しかし、かと言って、作風が似ているワケではないので、こちらも何とも言いがたいのですが、読後感が似ていると言えばいいかもしれません。
ちょっとだけ温かい、救いようのない世の中でも消えない小さな救いを示したような、独特の読後感が似ている感じです。

比喩の使い方なんかも、何となく似ている印象が何カ所かありました。単に事物の形象を伝える比喩だけではなく、全く違う事象を表現しながら、感情の動きを的確に表現する比喩が使われています。

ミステリとして見てみると、ミステリの中でよく使われるトリックの変形が使われていることが、最後まで読むと分かります。
私は、そのトリックは好きではないのですが、この作品ではいい感じでした。

ネタばれになってしまうので詳しく書けませんが、最近の話題とリンクする部分があるので、この作品もつられて話題になるかもしれません。
プロモーションを考える方としては、扱い方が難しいでしょうけど。

この本を書評で取り上げた理由も、実はこの点にあったりします。
ミリタリーとは縁遠い話題ですが、個人的に興味もあり、小説のネタにしようと思った事もあるくらいです。

いよいよ、書籍版も販売開始されました。
手に取ってみては如何でしょうか。

 

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2014年2月 5日 (水)

「黎明の笛」書影公開!

3月12日発売予定になっている書籍「黎明の笛」の書影をゲットしましたので、公開します。

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この書影画像は、帯付きの状態だそうなの、下3分の1程は、帯部分のグラフィックになります。

やはり、自分で作っていたものとはラベルが違いますね。当たり前ですが。
KDP版の萌絵は、一部から作品のイメージに合ってないとして不評だったんですが、これならバッチリでしょう。

ついでにお話しますと、そのKDP版の萌絵は、私自身イメージに合ってないと思っていましたが、意図的にやったものです。
あの絵を描いて頂く時に、何人か絵師の方を紹介頂いたのですが、わざと萌絵を書く方にお願いしました。

なぜかと言いますと、先日の個人出版からの商業出版を検証した記事に書いたリストを見て頂ければ分かるとおり、個人出版もラノベ系作品が多くなっています。恐らく、読者も同様の傾向があります。
そのため、その読者傾向を鑑み、あのような萌絵を採用したワケです。つまり、マーケティングに沿った絵師の選択をしたんですね。

ですが、書籍版は書店売りなので、読者も一般書籍を読む方が多くなるでしょう。
この書影はいい感じだと思います。

発売は3月12日、予約開始は2月12日予定です。
見かけましたら、宜しくお願いします。

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2014年2月 3日 (月)

課題の多い策源地攻撃_新防衛計画大綱等 その5

新大綱等においては、弾道ミサイル攻撃への対応として、弾道ミサイル防衛の継続的な整備と共に、いわゆる策源地攻撃についても言及がなされています。

ですが、あまり具体的ではありません。
珍しいケースですが、大綱・中期防に、全く同じ表現で次の通り記載されています。

日米間の適切な役割分担に基づき、日米同盟全体の抑止力の強化のため、我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる。


その理由は、まだまだ課題が多く、具体的な防衛力整備の方向性を示す事が困難だからでしょう。

この程度の内容ですから、この文だけから、今後の方向性を占う事は困難です。ですが、新大綱等の発表から半月程して、課題解決に向けた組織作りの報道が出ています。
空自に今夏「航空戦術団」 敵基地攻撃能力を研究 北ミサイル念頭に」(産経新聞14年1月3日)
空自に今夏「戦術団」 装備体系の構築も急務」(産経新聞14年1月3日)

この報道にはソース情報がなく、信憑性には疑問符も付きますが、航空戦術教導団の新編については、防衛省が公表した「26年度予算の概要」資料に、新編の事実のみとは言え、記載されている他、報道の内容を見ると納得できるものが多いため、恐らく予算資料の発表と共に、記者クラブには何らかの説明があったのでしょう。
なので、恐らく間違いないと思われます。
なお、この航空戦術教導団の新編については、概算要求では盛り込まれていなかったものなので、大綱等の改編に併せ、火急の取組が必要なものと認識されているのではないかと思われます。

そのため、以下では、前掲報道にあった航空戦術教導団の編制と役割を見ながら、策源地攻撃の検討に何が必要なのかを考えてみます。

まず、この航空戦術教導団ですが、隷下に次の部隊を擁する見込みです。ただし、報道があったのは前の4部隊だけで、基地警備教導隊は、私の予想で付け加えたモノです。(理由は後述)
なお、括弧内は、現在の編制です。
 ・飛行教導隊(航空総隊直轄)
 ・高射教導隊(航空総隊直轄)
 ・電子戦支援隊※電子作戦群に改編(航空総隊司令部飛行隊)
 ・航空支援隊(第3航空団飛行群)
 ・基地警備教導隊(航空総隊直轄)

策源地攻撃では、最大の問題はターゲティング、攻撃目標の選定と攻撃部隊がその目標を確実に攻撃できるようにすることです。

弾道ミサイル攻撃を防ぐために策源地攻撃を行う場合、その目標はノドン等弾道ミサイルの移動式ランチャーTEL(Transporter-Erector-Launcher vehicle)です。
通常、TELは厳重に隠されているため、衛星等での偵察では、確証の低い位置情報があるに過ぎません。そのため、正確に攻撃するためには、隠蔽されていたTELが発射のために外に出てきた段階で、何らかのセンサーで捕捉し、ミサイル発射までのわずかな時間に攻撃しなければなりません。

センサーとしては、米空軍が運用しているE-8ジョイントスターズからの情報を貰うか、中期防でも調達が盛り込まれたグローバルホークを使用することになります。
しかし、E-8を投入した湾岸戦争でのスカッドハント(弾道ミサイル狩り)でも、万全には程遠い状態でしたし、イラクと比べれば遥かに山がちの北朝鮮では、側方監視レーダーによる監視能力は、かなり制限されます。

そのため、目標が潜伏していると思われる地域の周辺に目標の監視と捜索、航空機誘導とレーザー照準装置等を使った精密誘導兵器の誘導要員となるコンバット・コントローラーと呼ばれる特殊部隊を潜入させることが必要になります。
航空戦術教導団に編入される航空支援隊は、F-2による対地攻撃を行う第3航空団隷下に編成されている部隊で、このコンバット・コントローラーの基礎的技術を保有しています。
ただし、詳細は明らかになっていませんが、航空機誘導等は可能でしょうが、まだ潜入や自衛戦闘能力の獲得には至っていないでしょう。
そのため、彼等とは逆に、潜入や戦闘能力を保有している陸自部隊に、26年度予算でLJDAM誘導装置を購入することになっていますし、未確認情報ながら、特殊作戦群は既に保有しているという情報もあります。

このため、航空支援隊は、当面はコンバット・コントローラー育成に関する研究を行って行くでしょうが、将来的には空自の特殊作戦部隊になってゆくかもしれません。
私が、この航空戦術教導団に基地警備教導隊も含まれるだろうと予想したのも、空自で最も地上戦闘のノウハウを蓄積しているのが、彼等だからです。現在、航空機誘導等の能力は持ちながら、地上戦闘の能力には欠けると思われる航空支援隊要員をコンバット・コントローラーにして行くためには、地上戦闘に関しても高い技量が必要です。

また、これは、少し穿ちすぎな見方かもしれませんが、最近の空自の改編は、空自内にも特殊部隊を編成しようとの思惑がある可能性が見て取れます。
空軍の特殊部隊にはこのコンバット・コントローラーの他に、主に戦闘捜索救難(CSAR:Combat Search and Rescue)を行うパラレスキュージャンパーなどがあります。
空軍の特殊部隊については次のサイト参照
http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams00/af_stu.html
このパラレスキュージャンパーは、現在航空救難を行っているメディックと呼ばれる救難員に戦闘能力を付与したものですが、空自の救難部隊は、昨年3月に航空支援集団から、航空戦術教導団を隷下に収めることになる航空総隊に編成替えされています。
航空戦術教導団の研究に、メディックを関わらせる必要があれば、航空総隊として簡単に処置ができるようになっています。

空自が実際に特殊部隊を編成することになれば、恐らく航空支援隊と航空救難団のメディックを合流させる形で編成して行くことになるでしょう。

航空支援隊母体の空自特殊部隊にせよ、特殊作戦群などの陸自部隊にせよ、あるいは米軍のように、陸や海兵の特殊部隊に少数のコンバット・コントローラーを派遣する運用にせよ、北朝鮮や中国潜入してこれらの作戦を実際に行いうるのかという点について、ネット界隈では自衛隊特殊部隊の能力に否定的な見方をする方もいます。

防衛省・自衛隊では、これから検討される事項ですが、誘導に徹して積極的に戦闘を行わない運用であれば、有意な数のTELを破壊することに繋がり、イージス等による弾道ミサイル防衛と併せ、私は、十分に実効性のある作戦を展開することは可能だろうと思います。
湾岸戦争では、コンバット・コントローラーではない特殊部隊は、TELを直接攻撃するため、敵に接近せざるを得なくなった上、攻撃により存在を暴露してしまうため反撃も受けましたが、コンバット・コントローラーとして誘導に徹するなら、長期の潜伏も可能でしょう。
忍耐力という点では、日本人の方が欧米人よりも優れているように思えますし、対抗訓練等で見せる陸自の忍耐力に裏打ちされた潜伏能力は、異常な程です。

彼等の潜入手段については、完全な秘匿を図るため、潜水艦が主用される可能性が高いと思いますが、海自、陸自の間で、現在どの程度検討、訓練されているのかは、情報がありません。
緊急に潜入する場合は空路になりますが、アメリカの特殊作戦機MC-130に相当する機体は陸海空自衛隊ともに保有していませんし、今後の整備についても不明です。
ですが、MC-130のように、フレア等の自衛装備はないものの、赤外線暗視装置や高度な航法装置を備え、海上や山岳の谷間を飛ぶ訓練にも長けた救難部隊のU-125Aが多数あります。航続距離も、北朝鮮への潜入ならば十分過ぎるほどです。
このU-125Aについても、前述のように航空救難団が航空総隊隷下に編制換えされているため、潜入手段の検討に使用される可能性は十分にあるでしょう。
また、航続距離については問題がありますが、同様に救難部隊のヘリUH-60Jも特殊部隊の潜入には適切な装備を有しています。

次に、仮に、ターゲティングができたとしても、それなら策源地攻撃か可能かというと、そんな簡単にはいきません。
空自機は、CAS(近接航空支援)を実施するため、F-2部隊を中心に、対地攻撃のための装備を持ち、訓練も実施しています。
ですが、CASは、基本的に、日本国内に侵入してきた敵を叩くことを想定しており、敵が厳重に構成した防空網を突破して攻撃することは、また別物です。
CASとは異なり、敵防空網を破壊することは、SEAD(Suppression of Enemy Air Defense:敵防空網制圧)あるいはDEAD(Destruction of Enemy Air Defence:敵防空網破壊)と呼ばれる作戦ですし、目標本体を攻撃する作戦は、AI(Air Interdiction:航空阻止)あるいは、OCA(Offensive Counterair:攻勢対航空(飛行場等を攻撃する場合))と呼ばれる作戦になります。

航空自衛隊の場合、SEADに不可欠なARM(対レーダーミサイル)は保有していませんし、搭載可能な航空機もありません。
ステルス機であるF-35が運用できるようになれば、必ずしもSEADを行わずに、本来の攻撃目標を攻撃することも可能ではありますが、ステルスが万能とは言えないことは、F-117がコソボ空爆においてSA-3によって撃墜された事例でも証明されています。
そのため、航空戦術教導団での研究でも、SEADを如何にして行うかは検討されるでしょう。
ARMによる攻撃は、三沢のワイルド・ウィーゼルと呼ばれるSEAD専門部隊に依頼するか、自衛隊でも能力を獲得することになると思われます。

また、ARMの他に、SEADの主要手段になるのが、ECM(電子妨害)による電子戦です。航空戦術教導団に、電子戦を行う電子戦支援隊が組み込まれているのも、このためです。
ですが、報道でも指摘されている通り、自衛隊ではスタンドオフジャミングの可能な電子戦機は、電子戦訓練機として配備されているEC-1のみで、しかも1機しか保有していません。(YS-11EAも、電子戦訓練機ですが、こちらはレーダー妨害はできない)
おまけに、能力も十分とはお世辞にも言いがたく、実戦投入は難しいことから電子戦”訓練機”とされている実情があります。
F-4は、AN/ALQ-131というECMポッドが使用できますが、F-4自体がF-35に更新されてゆく予定で、その代わりになる予定のF-15の電子戦機転用は、まだ具体化が見えてきていません。おまけにこれらはエスコートジャマーであり、スタンドオフジャマーではありません。

SEADやECMに頼らず、F-35のステルス頼みで策源地攻撃を行うことに関しては、前述のようにF-117の撃墜事例があるため、危険です。
この事例では、SA-3という旧式ミサイルが使用されたと見られていますが、実は、波長の長い電波を使用する旧式レーダーの方が、共振と呼ばれる現象が発生し、ステルスの発見には有効なのです。
ちなみに、この共振を利用した対ステルスレーダーは、今年度(25年度)から防衛省でも研究が行われています。
ちょっと脱線しましたが、北朝鮮の警戒管制及び地対空ミサイル用レーダーは旧式が多く、波長が長いレーダーが多いため、対ステルスレーダーには改造しやすいのです。
ただし、その反面、旧式で長波長のレーダーはECMには弱いため、ECMは有効に作用するでしょう。
ですので、策源地攻撃におけるECMについては、十分研究を行い、防衛力整備を行う必要があります。

この他にも問題なのは、以外に思うかもしれませんが、空自では敵の防空火網を突破するための空中機動など、基本的なノウハウが乏しい事です。
航空戦術教導団には、飛行教導隊と高射教導隊が組み入れられる予定です。共に、戦闘機部隊と高射部隊のエリート部隊であり、高い能力を持っていますが、実はどちらも敵の防空火網突破のためのノウハウは持っていません。
飛行教導隊は、アグレッサーと呼ばれ、仮想敵飛行部隊の戦術を研究し、彼等の戦技を真似ることで、各地の飛行隊が対抗訓練を行う際の適役を務めます。当然、ノウハウを持っているのは、航空機対航空機のもので、航空機対防空火網戦力(地対空ミサイル・対空機関砲)のものではないのです。
一方、高射教導隊は、アグレッサーではありません。各地の高射部隊等と同じ立場に立ち、パトリオット及び基地防空火器での戦技を研究・指導しています。知見として、空自が装備するパトリオット等による防空火網の構成とその弱点は熟知していますが、SA-3等、北朝鮮が保有する防空火器での防空火網については、十分なノウハウの積み上げがありません。
しかし、そう言ったノウハウが皆無な訳ではありません。F-2装備部隊は、FSだったF-1の時代から、対艦・対地攻撃を主任務にしており、SAM回避機動など、防空火網を突破するためのノウハウを持ってはいます。ですが、飽くまで実働部隊であり、十分な研究とそれを積み上げる余力がないのが実情です。
そのため、航空戦術教導団では、100人と報じられている団司令部の要員の中に、数多くのF-2パイロットが入るのではないかと思われます。

なお、トマホークで攻撃できると考えている方が多くいると思いますが、事前に目標位置が分かる固定目標であれば、トマホークは有用ですが、TELのように移動する目標をトマホークで攻撃しても効果は疑わしいです。

以上のように、策源地攻撃には、課題が山積みです。
ここで述べた他にも、海自艦との協同など、検討すべき課題が多数あり、策源地攻撃を実行するまでには、航空戦術教導団での研究が欠かせません。
しかし、攻撃は最大の防御と言われるように、弾道ミサイル防衛のみでは、敵の行動に制約を与えることができないため、政治的には別問題として、軍事的に策源地攻撃の能力を持つことは極めて重要です。

早期に研究を推進し、必要な能力を獲得する防衛力整備を進めて欲しいと思います。

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