陸自は削減すべきなのか?_新防衛計画大綱等 その6
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このシリーズ最初の記事「初めてまともに規定された戦略とドクトリン_新防衛計画大綱等 その1」も、その一つでしたが、そこにむらきのん氏から、こんな意見を頂きました。(後半略)
エントリーの主張を前提とすると、戦略という作文と、数という実体があっていないように考えます。
具体的には、なぜ陸自の人数を増やすのでしょうか。
エントリーが評価するとする戦略と具体的数値目標との矛盾点と考えます。
戦略に沿って、削減すべきは削減する、だからこそ強化すべき分野に資源を十分投入できる、それが本来ですし、財政面にも必要でしょう。
そこについての記述を期待します。
一言で言うならば、敵戦力を、洋上において、主に海空戦力で撃破するというドクトリンを持つのであれば、陸自戦力は削減すべきではないかという考えだろうと思います。
至極当然の感想だと思います。
ですが、私は以前から主張しているとおり、戦車や特科戦力は削減し、代わりに普通科戦力を増強すべきだと主張してきました。
そして、実際に新大綱で数値的に示された陸自戦力の増減も、戦車と火砲の削減と編制定数(人員数)の据え置きです。
戦車・火砲の削減分がどこに振り向けられるのかは記述がありませんが、施設(工兵)の増強を予想させる記述もないため、恐らく普通科だと思われます。また、中期防で99両の調達が盛り込まれた機動戦闘車も普通科配備の可能性が高いため、新大綱等の方向性は、非常に望ましいものだと考えています。
では、なぜ普通科の増強が図られ、陸自全体としては据え置きなのか、新大綱等の記述を見ながら考えて見ます。
大きなバックグラウンドとして考えるべき事項は、前掲記事でも書いたグレーゾーン事態です。
北朝鮮に関連したグレーゾーン事態の記述として、次の通り書かれています。
大規模な特殊部隊を保持するなど、非対称的な軍事能力を引き続き維持・強化している。
中国に対しても、同種の記述をしています。
当該地域での他国の軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力の強化に取り組んでいると見られる。
また、災害に関する記述の中でですが、我が国の状況について、次のように述べています。
都市部に産業・人口・情報基盤が集中するとともに、沿岸部に原子力発電所等の重要施設が多数存在しているという安全保障上の脆弱性を抱えている。
大綱中、防衛力整備の方向性について記述している防衛力の在り方の項目においては、弾道ミサイル攻撃への対応として書かれている次の内容は、陸自の仕事です。
万が一被害が発生した場合には、これを局限する。また、弾道ミサイル攻撃に併せ、同時並行的にゲリラ・特殊部隊による攻撃が発生した場合には、原子力発電所等の重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索及び撃破を行う。
若干作為的ですが、これらをまとめてみます。
グレーゾーン事態においては、特殊部隊等による非対称戦術が懸念される。
(非対称戦術とは、ある脅威に対して同種の兵器を繰り出すのではなく、多くの場合、ゲリラ的な妨害活動をすることを指します)
その上、日本の場合、都市への著しい集約や原発等が多数存在し、破壊行為による影響が大きい。
故に、これら多数の重要施設を防護し、非対称戦術を行う特殊部隊等の捜索・撃破を行なう事が必要。
また、弾道ミサイルによる化学兵器などの被害にあたっては、被害極限も必要。
正規軍による大規模着上陸に備え、多数の戦車等を配備していた以前の大綱等では、これらの脅威にも触れられることはあっても、実態的にはそれほど重視されてはおらず、戦車や火砲は備えても、普通科部隊の整備、具体的には自動車化等の施策は遅れていました。(近年の軽装甲機動車の大量配備によって、大分まともにはなりましたが)
ネットで大きな発言力を持つ、戦車を重視する方々は、こうした非対称戦術に対しても、イラクやアフガンでの戦訓があるため、むしろ戦車を多数配備し、備えるべきだと主張しています。
ですが、それらの事例は、住民のほとんどがゲリラ支持者である所での事例であり、ゲリラが簡単に潜伏可能で、かつ自由に動き回ることができる環境であるため、ゲリラを積極的に狩り出すことが困難だから生起している事象です。
それが故に、防御力の高い戦車を盾にして攻撃を誘い、ビル等からの攻撃に対して、戦車砲まで使用して反撃せざるを得ないため、そのような状況になっています。
しかし、日本では、例え中国人の多い池袋や横浜であっても、そうしたゲリラ・コマンドウは、潜伏することは、かなり大変です。
怪しげな人間がいれば、警察に通報されますから、警察と陸自が協力して、積極的に狩り出す事が可能です。
そうした状況では、戦車ではなく、どこにでも直ぐに駆けつけられる軽装甲機動車や、もしも火力が必要なら、それこそ機動戦闘車のような車両の方が役立ちます。部隊も当然普通科です。
防衛省がこう言った戦術を警戒するようになった理由には、恐らく中国の国防動員法も関係していると思われます。
法への言及は内政干渉にもなりかねないため新大綱等でも直接の言及はありませんが、この法を発動させれば、中国政府は、日本在住のほとんどの中国国籍保有者(男性18~60、女性18~55)に対して、即座に破壊活動を行なう事も命令できます。
いくら法があると言っても、在日二世、三世の方などは、ほとんど命令に従わないと思いますから、実際に中国政府の命令で破壊活動に参加する中国人は、決して高い比率ではないと思われます。
ですが、仮に100人に1人が破壊活動に参加しただけでも、国防動員法の発動だけで、日本国内に突如6000人ものゲリラが出現することになります。
昨年末の中国による防空識別圏設定の際にも、中国大使館が在日中国人に対して、連絡先を登録するようにアナウンスし、一部では、すわ動員法発動準備とも騒がれたことは記憶に新しいところです。
「在日中国人登録は開戦ではなく、災害への対応=在日中国大使館」(中国網日本語版13年11月26日)
彼等は、例え武器などはなくとも、各地の鉄道に置き石をするだけで交通網は麻痺しますし、脱線事故など起きようものなら、地下鉄以外は長期に渡って低速運行しなければならなくなるでしょう。
工場に勤める者なら、毒物を奪って水源に投入することも容易いはずです。
こうした脅威に対処するためには、多大なマンパワーが必要です。
要対処者が6000人もいたら、陸自全兵力15万9千人(予備自を含む定数)の全兵力を投入しても、追いつかないかも知れません。多分足りないでしょう。
1996年に韓国で発生した江陵浸透事件では、26名(11人は早期に自決しているので、実質15名)の工作員を追い詰めるために49日も要しています。投入された兵力はのべ150万にも及び、1日あたり3万人もの人員でこの15名を追った事になります。
高度な訓練を受けた工作員ですし、単純な比較はあまり適当ではありませんが、単純計算では、1人を追うために2000人を要した訳ですから、要対処が6000人なら、1200万人(予備自を含む陸自編成定数の75倍)もの兵力が必要になってしまいます。
こうした、いわゆるゲリ・コマ対処と呼ばれる活動には、極めて多数の陸自普通科兵力が必要ですし、この他にも新大綱では陸自の能力が必要とされる項目が多く盛り込まれています。
安倍首相が国連総会等打ち出した積極的平和主義は、今や頻繁に耳にする言葉になっていますが、国家安全保障戦略の中で明確に規定されました。
そして、それを受け、大綱で具体策が示されていますが、これらは海空も関係するものの、主力は陸自になるだろうと思われるものが多いのです。
細部を説明すると長くなるので、該当すると思われる事項を列記するに止めます。
・PKO
・人道支援
・災害救援
・能力構築支援
・テロ対策
これらは、普通科の他、施設科や衛生科の出番が多くなる活動でしょう。
また、災害派遣は、陸自、それも普通科と重機を要する場合は施設科が最も対応力が高い事も言うまでもありません。
後半ははしょったので、予想される業務量と、記事の文章量が整合していませんが、結論は冒頭で述べたとおり、戦車・火砲の削減は適切でも、やはり新大綱等で示された活動を行って行くなら、陸自全体の削減は適切とは思えない、という所になります。
しかし、陸自の戦力規模については、コメントを頂いた方のように至極当然の思考をする方がいらっしゃる一方で、むしろ陸自、というより戦車の増強を唱えるネット論者もいます。
そしてまた、プロである元自衛官にしても、相反した意見が見られます。
詳細には触れませんが、元陸将の用田氏は、この新大綱等が陸自削減であるとして、危惧を抱き、防衛費を倍増して陸自も強化すべきだと主張されています。
「陸上自衛隊を弱体化させて日本を守れるのか!」(JBPRESS14年2月4日)
方や、元海自幹部で専門紙にも記事を書かれている文谷氏は、陸自が現今の脅威に適合しておらず、無駄があると主張されています。
「陸自を減らすといった解決策から逃げまわっている」(隅田金属日誌(墨田金属日誌)14年2月5日)
今回の新大綱等で、大きな変革が示された陸自ですが、今後も議論が続くでしょう。
なお、ゲリコマ攻撃対処については、如何にも元自衛官が書いた文章で、かなり堅い文ですが、次の資料が参考になります。
興味のある方はご覧下さい。
我が国が行なうゲリラ及び特殊部隊による攻撃への対処のあり方に関する提言
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