TV番組評「空飛ぶ広報室」
久々、どころか、過去記事を確認すると、なんと1年ぶりの書評・DVD評です。
お正月に、昨年TBSで放映された「空飛ぶ広報室」を見ました。
それと言うのも、アマゾンでインスタント・ビデオのサービスが始まり、わざわざ買ったり借りたりする手間なく、それどころか、ぬくぬくと布団から出ることさえなく、視聴できるようになったためでした。(何と言う自堕落)
という訳で、冒頭のリンクはインスタント・ビデオのリンクです。DVD、ブルーレイで見たいという方は、次のリンクでどうぞ。
で、問題の中身ですが、ドラマ放映時の評判通り、かなり良い出来です。
普通の視聴者の評価は、上のリンク先で、DVDのカスタマーレビュー(50件、平均4.9という非常な高評価)でも見て頂ければ分かると思いますので、ここでは元自衛官、創作者の端くれ目線で書いてみたいと思います。
自衛隊が、全面的に撮影協力したというだけあって、これだけ自衛隊施設内部、それも他の映像素材ではあまり注目されなかった部分まで、バッチリ写っている映像は、まずないでしょう。
飛行機関係なんかは当然ですが、1話でヘルメットを探すシーンなんかは、実際の災害派遣資材倉庫で撮ったのではないかと思われます。
空幕広報室自体は、多分撮影用のセットだと思いますが、廊下の作りなんかも実際の防衛省庁舎A棟内部に似せて作ってありますし、A棟及び市ヶ谷内で撮ったと思われるシーンも多数あります。
自衛官の肉声に迫っているという点では、原作の段階からして他とは一線を画していると思います(後述)し、空幕広報室が、自分達を描いたドラマとして、綿密にチェックしたでしょうから、違和感のある部分はほとんどありません。
ただし、1話の冒頭には物議を醸したシーンがありました。
新垣結衣が演じる主人公の稲葉リカの「戦闘機って人殺しのための機械」という発言に対して、綾野剛が演じる空井大祐二尉が「人を殺したいと思ったことなんて1度もありません!」と言って切れてしまったシーンです。
ドラマ放映後のネットでもちょっと話題になってました。
自衛隊を暴力装置と呼ぶ国会議員がいますし、こういう考えの人は、実際に居ます。マスコミには一般以上に多いでしょう。
右派が強いネット上では、このセリフでこのドラマ自体に反感を持った人も居たようです。
ですが、私が「ちょっとなぁ」と思ったのは、むしろ空井の発言の方です。
人を殺したくて自衛隊に入ってくるサイコパスは、ゼロとは言えませんが、ほぼ皆無です。
なぜなら、実際に人を殺した事などない訳ですし、これからもそうめったにはないでしょう。(なので、そんな人は自衛隊を辞めてフランスあたりの外人部隊に行ったりします。外人部隊に行く人全員がサイコパスではありませんが)
なので、ありえない話ではないのですが……
問題なのは、このセリフからは、空井が人を殺す覚悟も持っているようにも見えない点です。
自衛隊が、国防の任務を全うするためには、人を殺さなければならない状況が出る可能性が極めて高いにもかかわらず……
ただし、それもリアリティがないかと言えばそんな事はなく……実際、飛行機に乗りたいという動機だけで自衛隊に入ってくる人間も居るのが事実です。
しかし、自衛隊が平和のために存在してるのは事実ですが、人を殺す可能性がある事も事実で在りながら、それを忌避しているこのセリフには「ちょっとなぁ」と思えてしまう訳です。
ソフト路線で売りたい広報室としては、合っているのかもしれませんが、生身で戦闘せざるを得ない陸自普通科などの人からすれば、迷惑なセリフかもしれません。
ちょっと脱線気味になりましたが、このドラマが自衛官の肉声に迫っている理由は、原作の成立経緯にあるようです。
原作は、作者である有川浩氏が、思い立って書いたのではなく、なんと当時の空幕広報室長だった荒木正嗣1佐(当時、現浜松基地司令、空将補)が、自衛隊をモデルに小説を書かないかと持ちかけた事が発端だったそうです。
当然、空幕広報室を通じて綿密な取材を行ったようです。
そして、結果的に有川氏が作品の舞台として選んだ部隊は、実働部隊ではなく、有川氏が最も深く接触した空幕広報室だったというオチが付いた訳です。
有川氏としては、取材の調整をする中で、広報室の頑張りに感銘を受けた点があったみたいです。
それだけに、原作の段階で、リアルな自衛官の肉声に迫っていると言えます。
柚木3佐のエピソードなんかも、実際にあった話なんかがベースなのかもしれません。(女性自衛官に限らず、新米幹部がベテラン空曹とうまくやれないケースは、めずらしくもないので)
ドラマを実際に見た方は、”鷺坂室長のようなハジケた自衛官が居るのか?”と思うかもしれません。
ドラマは最近のドラマにありがちなちょっとコミカルな演出がされていますが、あの位のハジケて無茶をする自衛官は、(特に空自では)それほど珍しくありません。
私の感覚とすれば、”居るよ、こういう人”という感じです。
登場人物で、良い味出してるなと思ったのは、柴田恭兵演じるその鷺坂室長と、空井のサポートというか指導をするベテラン広報官比嘉1曹(ムロツヨシ)です。
この二人が挙げられると、作者である有川氏とすれば、あまり嬉しくないかもしれません。
と言うのも、この二人には、実際に空幕広報室にいたモデルが居たそうだからです。
鷺坂室長は、前述の荒木将補で、比嘉1曹は、空自広報の生き字引と言われるベテラン広報マンとのことです。
超売れっ子作家有坂氏と言えど、キャラを作るのは難しいということでしょうね。
(私などはもっと精進せねば)
物語全体は、ネタばれになるのであまり書きませんが、さすが有川氏の直木賞候補になった原作だけありますし、脚本も素晴らしいので、自衛隊に全く興味のない人でも、楽しめる内容です。
テレビで見逃した人は、必見です。
で、ここからはオマケです。
アマゾンのインスタント・ビデオですが、便利ですね。
huluとかもありますが、定額制のためか、空飛ぶ広報室のように新しい作品はないようです。
レンタルのDVDと比べると期間の割に、若干高いですが、わざわざ借りに行ったり返しに行ったりしなくても良い利便性の高さは魅力的です。
テレビアニメなんかは1話無料になってますから、動画を見る機会のある人は、検討してみたら良さそうです。
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〉暴力装置
防衛研究所のテキストでも防衛装置という言葉を使っていますが。
自衛隊はボーイスカウトではないでしょう。
国会では実力組織とかいう言葉を発明して使っていますが、売春を援助交際と
いうようなものですよ。
投稿: ハイジ | 2014年1月22日 (水) 17時37分
ハイジ 様
暴力装置ですが、実を言うと、あの発言の時に、大したインパクトはなかったんですよね。
左翼用語なので、一斉に反発がおきましたが、何せ自衛隊の中でも暴力装置という言葉は使われていたくらいですから。
「我々は、暴力装置であるからこそ、身を正さなければならない」みたいな言い回しで。
投稿: 数多久遠 | 2014年1月23日 (木) 02時03分