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2014年1月20日 (月)

水陸両用戦機能の先祖返り_新防衛計画大綱等 その4

新大綱等に関して、メディアで盛んに話題になっていたのは、戦車の削減と並び、水陸両用戦能力についてです。
新大綱等における両用戦戦力として、中期防において、水陸両用車として52両の調達が盛り込まれています。明示はされていませんが、26年度の概算要求と合せ、事実上米海兵隊が使用するAAV7であると見られています。

両用戦能力は、何年も前から、噂されていた海兵隊化施策であり、尖閣を始めとした離島防衛を念頭に置いた施策であるため、注目されてしかるべきですが、報道では”対中国を鮮明にした”という程度にしか触れられていません。

と言う訳で、ここではもう少し突っ込んで、何故AAV7なのか、という点を考えて見たいと思います。

と、その前に、そもそもこのAAV7の導入が、陸自の海兵隊化と呼べるのか考えて見ましょう。(オスプレイの導入もありますが、ここでは置いておきます)
米海兵隊が使用する装備であるAAV7の導入によって、着上陸作戦を行うが故、海兵隊化と呼ばれている訳ですが、今まで、自衛隊が米海兵隊同様の着上陸機能を備えていなかったかと言えば、そんな事はありません。
過去にも、あつみ型、みうら型と言ったビーチング方式の輸送艦がありましたし、おおすみ型輸送艦が就役して以後は、LCACによる揚陸が可能でした。
この点から言えば、確かに両用戦機能の増強であることは確かですが、海兵隊化が今回初めて成される訳ではないのです。
しかも、近年続いているDDH増強による空からの兵力投入能力は増しているものの、着上陸を行う艦艇については、おおすみ型の増強が盛り込まれている訳でもありません。
(ただし、中期防に「水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、結論を得る」とあるため、次期中期防中には手当される可能性があります。)

それを踏まえた上で、気になる点は、AAV7の導入が、揚陸方式の先祖返りである点です。
普通、先祖返りするなら、それは陳腐化を意味し、戦力の低下になりかねないからです。

米海兵隊の揚陸方式は、大雑把に言うと、ビーチング方式の揚陸艦による方法から、AAV7のような水陸両用車両による方法に、そしてその後はLCACを用いる方法に変遷してきています。(この先では、更にヘリやオスプレイを使用する方法に変わりつつあります)

一方、日本では、アメリカほど両用戦機能が重視されてこなかった事から、長らくビーチング方式でしたが、1998年のおおすみ型輸送艦の就役により、水陸両用車両による方法をすっとばして、LCACによる方式に進化しました。
これは、おおすみ型輸送艦が就役する時点よりも早い1996年に、アメリカが後のEFV開発に発展するAAAV計画を開始したように、当時ですら、地対艦ミサイル等の発展により、AAV7のような低速で、浮航可能距離も短い水陸両用車両では、(母艦の危険性もあって)着上陸作戦が困難になっているという認識があったためです。

このようなトレンドがあるにも拘わらず、新大綱等で示された水陸両用戦機能を担う2本柱のうちの1本は、先祖返りと言えるAAV7の本格調達なのです。(もう1本の柱はオスプレイ)

新中期防では、AAV7が52両調達されることになっており、26年度から30年度の5年間にかけて、年間平均10両ペースで調達されることになりそうです。
防衛省が、最終的にどの程度のAAV7を調達しようとしているのかは分かりませんが、31年以降の次期中期防でも継続調達される可能性は高いように思われます。

なお、軍事評論家の清谷氏は、26年度の概算要求でAAV7(2両)の参考品取得を行いながら、その成果を待たずにAAV7の大量調達を決めることは間違っていると非難されていますが、参考品は購入の際の仕様決定の参考にされると考えれば、非難するほどの話ではないように思います。
航空機などは、参考品取得なしに機種決定される訳ですし。

本題に戻りましょう。
では、防衛省・陸幕は、なぜ先祖返りさせるとの結論に至ったのか、それが問題です。
答えは、はっきりとは分かりません。ですが、推測することは可能です。

可能性としては、おおすみ型及びLCACの増強では、海自の装備にしかならないという、幕間の縄張り争いという可能性、あるいは政治家の圧力という可能性もありますが、ここでは、先祖返りが合理性で選択されたとの前提で考えて見ます。

①対艦ミサイルの更なる発展により、LCACによる方法でも、母艦の安全が確保できなくなっている。
LCACは、積載時の行動距離が300マイル/35ノット(550km/65km/h)です。
片道という訳には行きませんから、母艦は着上陸地点から150マイル(270km)の位置でLCACを発進させられます。
しかし、中国が保有する対艦ミサイルは、陸上型に限定しても、クラブM(3M54E1)などは射程300kmに達します。大型のミサイルであるため、離島に持ち込まれるかという問題もありますが、艦載型の対艦ミサイルも長射程化しており、安全な水平線の彼方から発艦させることは困難になってきているという現状があります。

②LCACでは、小戦力の逐次投入にしかならない可能性がある。
前述の上陸地点から150マイルの位置から発艦する場合、LCACは母艦との往復に約9時間を要します。
LCACは、陸戦では最強の戦車も積めますが、LCAC1隻で、軽量の10式と言えども1両しか積めません。日本が保有するおおすみ型3隻、LCAC6隻を集中させたとしても、戦車6両強でしかない戦力を9時間にわたって孤立させなければならない訳です。

これに対して、AAV7を使用する場合は、母艦を海岸から数kmまで接近させなければならないため、母艦の安全を考慮し、海上優勢を確保しなければならないという条件が付きますが、おおすみ型1隻でも相当数のAAV7を搭載し、短時間で発艦させられると思われます。
おおすみ型のAAV7搭載能力については情報がありませんが、恐らく2隻もあれば、中期防調達の52両程度は、随伴歩兵を含めて積載・揚陸させられるのではないかと思われます。

この先祖返り決定に際して、陸自は近年の米海兵隊との共同訓練を通じて、AAV7のメリットデメリットを十分に認識して選択したでしょうし、新大綱等で示されたドクトリンの一つと言える航空優勢・海上優勢の確保を前提として、着上陸は、敵の対艦ミサイルの脅威を排除した上で、母艦を上陸地点に接近させて行うという方向を打ち出したものと思われます。

もちろん、LCACが無くなる訳ではなく、新大綱等で言われるシームレスな対応を行うため、敵の脅威に応じて、LCACによる方法でも、水陸両用車による方法でも、柔軟な対応を取れる方向、米海兵隊と同じ方向を目指したと言えるでしょう。

この方向が打ち出された理由の一つには、やはり統合があります。
航空優勢・海上優勢の確保が前提となる作戦ですから、統合なしには成り立ちません。
統合により、今まで目指すことの困難だった方向を目指すことが出来るようになったとも言えるのではないでしょうか。

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コメント

先祖返りとは言い得て妙だと思います。
水陸機動団が島嶼奪還戦の先鋒or主軸と位置づけられていることから考えると、運用イメージは現在の米海兵隊というよりは第二次世界大戦後半にほかならぬ日本軍とタラワ・ペリリュー・グアム・サイパン・硫黄島等で血みどろの戦をやった頃の米海兵隊に近いのではないでしょうか?

作戦の柔軟性を考えればAAV-7の調達は、有りでしょうが海自の輸送艦がおおすみ型3隻では、足りませんからおおすみ型輸送艦の改良型の建造、若しくは、強襲揚陸艦の運用研究も兼ねて退役したタラワ級を1隻購入するのも有りかと思います。

>海自の装備にしかならないという、幕間の縄張り争い

これが正解でしょう。(プラス政治的理由=利権)

軍事的合理性を見出すのは極めて困難な気がします。
AAV7を発進させる距離からLCACを発進させる条件で比較しないのは何故ですか?

>myu5さん
抗堪性に差があるのでその比較は難しいのでは?

調達価格によってはAAV7を揃えるのが効率的ということはありうると思います。

名無し 様
空中を利用した戦力投射能力が2次大戦とは段違いなので、実態がそこまで先祖返りすることはないと思います。
おそらく、昔の艦砲射撃に代わり、航空機やヘリによる対地攻撃で火力の大きな車両は潰した上でAAV7を使用するつもりなのだろうと想像してます。

通りすがりの者 様
艦船については、中期防の「水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、結論を得る」というものを受けて処置されると思いますから、次期中期防になるでしょうね。

myu5 様
幕間の縄張り争いの可能性はありますが、それを裏付ける材料は、今のところないため、これ以上の言及をしていないだけです。
それらしき言動をしている方が陸幕にいたとの事前報道はありましたが、噂レベルでした。

AAV7が運用可能な距離からLCACを運用する場合ですが、AAV7の場合、LCACへの積載という手間はありませんから、至短時間に後続を発進させられるという点でのメリットはあると思われます。
それが、LCACを用いて水陸両用でない戦闘車両を投入する場合と比べどれだけ有用かは、評価が難しいですが、米海兵隊でもAAV7を未だに使用していることを鑑みれば、十分に有用だとの評価を得ているのだと思います。

〉航空機などは、参考品取得なしに機種決定される訳ですし。

それ、威張れることですかねえ?
カタログやメーカーのいうこと鵜呑みでしょう。

ハイジ 様
決して鵜呑みではありません。
F-35にしても、先行ユーザーの米軍から情報を取ってますし、AAV7の場合は、アメリカとの共同訓練で、何度も現物に触れています。

今回の場合は、複雑な選定を回避したかったのだろうと思いますが。

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