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2013年12月

2013年12月28日 (土)

画期的な戦車削減_新防衛計画大綱等 その2

新大綱等に関して、事前情報の段階から、ネット界隈で最も注目された点が、戦車削減でした。

その理由は、戦車増強を夢見る方々が、民主党政権下で定められた前大綱の400両への削減が撤回され、戦車定数の増強がなされるのではないかと見ていたところ、増強どころか、前大綱よりも更に削減される方向となったためです。

新大綱等において戦車が削減された理由は、前回記事で触れた戦略とドクトリンの制定・修正のためです。
単に装備の戦闘力を考えるだけでなく、防衛力全体を俯瞰し、どの様に戦うため何を整備するのかと考えれば、現情勢下では新大綱等に示された方向になるのは当然のことです。
当ブログでは、かなり前から戦車を削減し、代替措置の一つとして機動戦闘車を配備するよう主張してきましたから、戦車削減については極めて評価できる内容だと考えています。

ですが、正直に言って、私も驚きました。
防衛省が、実際に削減に踏み切る可能性は低いと予想しており、前大綱の定数400両維持+機動戦闘車の配備を予想していたのですが、戦車定数を300まで削減する方向が打ち出されたからです。

私が削減はないだろうと予想した理由は、400両を下回るレベルへの削減は、実は非常に大きな意味があるからです。
ここからは、この点に注視してみます。

防衛計画の大綱は、制定後から10年間を対象として策定され、装備品の定数は、概ね10年後に、その定数に到達するよう調達・廃棄が行われます。
ですので、今回新大綱が「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」として定められたのですから、規定された戦車300両体制は、平成36年度末にこのレベルになることを目指すことになります。(現在、今年度末の戦車保有量は767両です)

過去の大綱で示された戦車定数の削減でも、ほぼここで述べたように10年後に概ねその数になるよう調整されてきました。

ここで、まず戦車定数の変遷を押えておきましょう。
・昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱 1200両
・平成08年度以降に係る防衛計画の大綱  900両
・平成17年度以降に係る防衛計画の大綱  600両
・平成23年度以降に係る防衛計画の大綱  400両
・平成26年度以降に係る防衛計画の大綱  300両

大綱の最初の改定時から、一貫して削減が継続しています。
今回を含め、都合4回の削減が行われたことになります。

冷戦環境下から、冷戦発想を抜けきらなかった前回の削減まで、継続して削減が行われてきた主な理由は、日本の地理的環境や予算の関係などです。

過去の経過を見ると、戦車定数削減は、ある意味トレンドとも言える訳ですが、今回の削減には、とりわけ大きな意味があり、単なるトレンドと片付ける訳にはいかない理由は、以前の3回の削減は、いずれも現状追認的な消極的な削減だったものの、今回の削減は戦略・ドクトリンの転換に裏打ちされた、積極的で、画期的な削減であることです。

過去の削減状況を、表で見てみましょう。
なお、ここで集計したデータは、ネットで入手可能なデータを、一部推測で補ったデータであり、実際の数値とは若干違いがあるはずですが、かけ離れた数値ではないはずです。
なお、10式の今後の調達数量は、あえて中期防の数字ではなく、現在レベルが継続した場合の数値を入れています。

第1次削減(1200両↑900両)
Photo
第1次削減が決定された時、61式は、既に制式化後30年以上が経過し、老朽化で削減が始まっていました。
この削減では、その61式の退役を進めつつ、90式の調達数量を抑える事で、10年後の2005年に、1209両から997両まで、ほぼ計画された削減を達成しました。

第2次削減(900両↑600両)
Photo_2
この時も、制式化後30年で老朽のため削減されつつあった74式の退役を進めつつ、90式、10式の調達量調整を抑え、2014年に1025両から、740両までの削減を実現しています。(赤字の部分は、調達がそれまでと同じレベルで推移した場合の予測です)

第3次削減(600両↑400両)
Photo_3
予測の期間が半分以上になって分かり難いですが、2020年の予測保有量が578両ですから、退役中の74式の退役を早め、10式の調達数量を絞れば、400両までの削減は、達成可能な数字になっています。

第4次削減(400両↑300両)
Photo_4
今回の削減です。
10年後の2023年の予測数量は、524両となっています。
内訳は、74式ゼロ、90式が現在数量の341両、10式183両です。
ここで、簡単な計算をしてみましょう。10式の調達を、仮に来年以降全くの0とした場合でも、この数値は90式の341両+現有10式の53両で合計394両です。
Photo_5

つまり、たとえ10式の調達を完全にストップしても、制式化後20年そこそこしか経っておらず、まだ使える90式を退役させなければ、300両という定数は実現できないという訳です。

実際には、10式の調達も進めるのですから、90式の早期退役数量を相当な数にしないと、この定数へは到達しません。

記憶をひっくり返してみても、戦車に限らず、防衛省が過去にこのような、まだ使える装備を退役させた事例はF-104等少数です。
他にもないとはいえませんが、極めてレアなケースであることは間違いないでしょう。
これが、今回の削減を現状追認の消極的削減ではなく、積極的削減だと言う理由です。

重ねて言いますが、このような判断をした理由は、戦略・ドクトリンの制定・修正にあります。
冷戦終結後も、大量に90式、10式の調達を進めてきたことが間違いで、防衛省は、もっと早く統合の観点に立った能力評価を行い、戦略・ドクトリンを打ち立てるべきでした。

しかし、私は、そのことを糾弾するよりも、情勢変化を認めて、方針の転換を図った事は、勇気ある決断として、誉めるべきことだと思っています。
以前の記事でも、防衛省の自己変革能力の乏しさを批判する記事を書きましたが、今回の戦車定数の削減は、現状追認的ではない積極削減を打ち出したことは、防衛省という組織として、非常に画期的で、評価できます。

今回の記事は以上です。
余程の大事件が無い限り、年内のブログ更新は、これが最後の予定です。
本年も、おつきあい頂き、誠にありがとうございました。

実は、秋頃から更新頻度が低下しておりますが、これは小説執筆に注力するためでして、来年はその成果をご覧に入れられるように、一層頑張ります。
宜しくお願い致します。

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2013年12月22日 (日)

初めてまともに規定された戦略とドクトリン_新防衛計画大綱等 その1

国家安全保障戦略、新防衛計画の大綱、及び新中期防衛力整備計画が閣議決定されました。

単なる調達数量だけでなく、戦力造成の考え方を抜本的に変えるなど、事前の予想に違わぬ大きな変革を打ち出してきた3文書です。

文書の影響力(重大性)や分量を考えると、とても1回の記事でレビューできるものではありませんので、何回かに渡って書くことにします。
なお、文書名が長いので、今回のシリーズ記事では、この3文書を、「新大綱等」として記述します。

第1回目は、総評として戦略とドクトリンについて書いてみます。

今回の新大綱等は、いろいろな意味で画期的で、極めて高く評価できる内容だと思います。

画期的な点は次の通りです。
①戦略・ドクトリンを(初めてまともに)明確化したこと。
②冷戦思想から(やっと)脱却したこと。

陸自の海兵隊機能については、一部マスコミは注目していますが、これらの画期的な点に比べれば些末な部分だと思います。(ただし、注目の部分なので、これは別の機会に書きます)

では、早速本題に入ります。
今まで、日本の防衛政策には、戦略と呼ばれるものも、戦略と呼べるものもありませんでした。
しかし、今回、国家安全保障戦略として、始めて戦略と呼べるものが策定されました。

その中でも、重要な点は、どの国との衝突に備えるか明確化し、しかも従来の考え方から大きく変革したことです。

今までも、防衛白書や以前の大綱等で、ロシアの軍事力への懸念、北朝鮮の不安定さへの懸念、中国の軍備増強への懸念などが記述されています。
しかし、これらは、我が国周辺の不安定要素として、懸念を示したに過ぎず、「戦略」として、これらの国との衝突に備える事にした訳ではありません。
言わば、全方位防衛とでも呼ぶべき考え方で書かれており、とても戦略と呼べるものではなかった訳です。

対して、今回の国家安全保障戦略では、北朝鮮と中国に対して備えるべきことは書かれています。
ですが、なんと、ロシアは備えるべき相手(仮想敵)としては記述されていません。

全33ページに及ぶ国家安全保障戦略の中で、ロシアに関する記述は、次に挙げる部分だけです。

東アジア地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、安全保障及びエネルギー分野を始めあらゆる分野でロシアとの協力を進め、日露関係を全体として高めていくことは、我が国の安全保障を確保する上で極めて重要である

このような認識の下、アジア太平洋地域の平和と安定に向けて連携していくとともに、最大の懸案である北方領土問題については、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの一貫した方針の下、精力的に交渉を行っていく。


つまり、ロシアについては、仮想敵から外した上で、むしろ協力すべき相手として規定し、日本の防衛は、中国と北朝鮮に対して備えると大戦略を規定しました。

今回の新大綱等において、この対ロシア姿勢の変化は非常に重要な事項なはずなのに、マスメディアもブロガーも、ほとんど注目しないのは実に不思議です。
(みんな頭の中では、ロシアとの戦争なんてあり得ないと思っていたためかもしれませんが)

ちなみに、大綱の中でも、ロシアについては、軍の体制・態勢と活動状況について、現状を評論する記述がある他、信頼関係を深めるべきパートナーとして記述されています。

ロシアは、軍改革を進展させ、即応態勢の強化とともに新型装備の導入等を中心とした軍事力の近代化に向けた取組が見られる。また、
ロシア軍の活動は、引き続き活発化の傾向にある。

ロシアに関しては、その軍の活動の意図に関する理解を深め、信頼関係の増進を図るため、
外務・防衛閣僚協議(「2+2」)を始めとする安全保障対話、ハイレベル交流及び幅広い部隊間交流を推進するとともに、地域の安定に資するべく、共同訓練・演習を深化させ
る。


また、これに関連する事項として、今まで対ロシア用の戦力として規定されていた北海道の機甲戦力について触れておく必要があるでしょう。

戦車については、3年前に削減が決められた現大綱を更に削り、300両まで削減することが規定されているものの、引き続き、北海道には多数の戦車が残されることになっています。
しかし、これは、ロシアから北海道を防衛するための戦力として置かれるのではなく、訓練を行う上で好都合なため北海道に置き、有事は輸送により機動し、別の場所で戦うべき戦力とされています。

この際、良好な訓練環境を踏まえ、2(2)ウに示す統合輸送能力により迅速に展開・移動させることを前提として、高い練度を維持した機動運用を基本とする作戦基本部隊の半数を北海道に保持する。


この記述を見ても、ロシアに対して、北海道の戦力は、対ロシア用ではないという気を使っていると言えます。

今回、戦車が削減されることに憤激して、ロシアの脅威をアピールしている方もいますが、日本政府の方針とは真っ向異なる主張という事になりますから、今後は、その主張をするのであれば、戦車云々以前に、ロシアが対話の出来る国ではないという事を述べる必要があるでしょう。

過去記事「北方領土問題の解決のためには、国後・択捉を売却すべき」をアップした時にも、反論が多かったですが、やはり安倍政権は、対ロシアでは大きな戦略的転換を図ってきました。

これはまた、冒頭で書いた冷戦思想からの脱却でもあります。

ただし、ロシアに関する新大綱等の記述は、ロシアに対する政治的メッセージ、あるいは安倍政権としての決意という側面もあります。
もし、北方領土問題が解決に向かわず、ロシアとの関係が急激に悪化するような事態になれば、大綱等は再度改正する必要性が出てくるかも知れません。

続いて、ドクトリンについて書きましょう。
ドクトリンの明確化として最も画期的な点は、戦域(前線)を何処に設けるかという戦術的な規定をしたことです。

従来でも、水際撃破など、前線の構築場所について発想が皆無だった訳ではありません。
ですが、陸海空という軍種を越えた、統合された戦域の発想は乏しかったと言えます。
例えば、海のシーレーン防衛はそれらしい言葉ではありますが、空陸には関係のない話でしたし、シーレーンは目的であって、そこを戦場にするという戦域の発想とは、若干異なる概念でした。

しかし、新大綱等では、統合の観点から能力評価を行い、文書をまとめたため、陸海空の垣根を越えた戦域の考え方が明確化されました。
大綱には次の通り記述されています。

島嶼部に対する侵攻を可能な限り洋上において阻止するための統合的な能力を強化するとともに、島嶼への侵攻があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力を新たに整備する。

島嶼部等に対する侵攻を可能な限り洋上において阻止し得るよう、地対艦誘導弾部隊を保持する。


もちろん戦域規定の言葉は、これだけに留まらず、海上優勢、航空優勢確保への努力などもこれに当たります。

戦域の規定については、酷い言い方をすれば、従来の大綱等では、統合を前提とした能力評価等を行っていなかったため、陸自は陸上で頑張る、海自は海上で頑張る、空自は空の上で頑張る程度の書き方でした。

それが大きく変り、戦域を洋上に設け、敵を上陸させないというドクトリンを明確化したことは、今回の新大綱等の最大のポイントではないでしょうか。

また、結果として、これによって陸自の役割は、大きく変わっています。
従来の陸自が主たる任務としていた、大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態対処は、大綱が想定する期間内には生起する可能性が乏しいとして、前大綱に引き続き、対処すべき事態として規定していません。
そして、そのための戦力は、将来に向けて技術継承するだけとされています。

冷戦期に懸念されていたような主要国間の大規模武力紛争の蓋然性は、引き続き低いものと考えられる

主に冷戦期に想定されていた大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては、不確実な将来情勢の変化に対応するための最小限の専門的知見や技能の維持・継承に必要な範囲に限り保持することとし、より一層の効率化・合理化を徹底する。


続いて、その他の冷戦思想からの脱却について書いてみましょう。

冷戦思想からの脱却については、先日行われた観閲式において、安倍首相が「防衛力はその存在だけで抑止力になるという従来の発想は完全に捨て去ってもらわねばならない」と述べたことからも、予想された方向性でした。

そのキモは、新大綱等で度々言及されている”グレーゾーンの事態”です。
この言葉は、国家安全保障戦略中で1回、大綱中では7回出てきます。

これは、従来の冷戦思想では、抑止によって、平和か戦争かという0or100の状態を作為できるという考え方でした。
しかし、新大綱等では、0or100ではなく、その間の灰色が存在せざるを得ず、強力な兵器を保持することで抑止力となり、紛争を防止できる訳ではない、従来型抑止戦略が機能しない事態が生起しうると認めたということです。

もっと分かりやすく言えば、平和か全面戦争(核を保持している場合は全面核戦争)という構図ではないという事です。

そのため、大綱や中期防に記述される兵器体系も、敵の強力な戦力を破壊するための強力な兵器を持つのではなく、グレーゾーンで使用される限定的な戦力や兵器に対して備えるためのモノにされようとしています。

また、最近の防衛省の文書等で頻繁に言われる抑止力と対抗するキーワードは実効性ですが、新大綱等では、この方向が更に明確になっています。
新大綱等では、前大綱で規定された動的防衛力を更にモディファイし、統合機動防衛力という概念を打ち出しました。

これは、冷戦思想で軽視されていた輸送や継戦能力を高め、戦場において戦力として強力なだけで、戦場に到達することが困難な装備ではなく、必要な戦場に到達できる戦力を造成しようというモノです。

このコンテクストの中で、戦車は削減され、その代替として機動戦闘車が整備されようとしていますし、今までも再三言われていた弾薬備蓄等の問題も、やっと実効性のある調達に変わる方向です。

必要な弾薬を確保・備蓄するとともに、装備品の維持整備に万全を期すことにより、装備品の可動率の向上等、装備品の運用基盤の充実・強化を図る。


冷戦からの脱却に関しては、ヨーロッパでは、平和の配当として大規模な軍備削減が行われました。
それに対して、日本では北朝鮮や中国という脅威があったため、大幅な戦力削減は行われてきませんでした。
ですが、冷戦が終結したことで、その後の戦争・紛争の形態が変わったにも拘わらず、この脅威があるからという理由で、日本の防衛政策は、冷戦思想から抜け出ることができませんでした。
今回、やっとのことで、この旧態依然とした思想から抜け出した事は、新大綱等において、非常に大きな成果です。

なお、新大綱等について、一部報道で海空重視であると書かれていますが、私は必ずしもそうは思いません。

戦略・ドクトリンの修正・規定により、敵の主力を撃退する役目は海空自が主力とされ、陸自は新たな位置づけに対応するため、トランスフォームが命じられただけです。
何より、陸の人員数は変わっていないのですから。

第1回目は、以上です。
今回の新大綱等により、日本の防衛政策は大きく変革することになります。
そして、その方向性は、非常に評価できる方向です。(一部、眉をしかめざるを得ない内容もありますが)

次回からは、細部のトピック的な部分に注目して行きます。

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2013年12月14日 (土)

助力と感謝の連鎖

憎しみの連鎖という言葉がありますが、助力と感謝にも連鎖があります。

ケネディ駐日米国大使が東北総監部を訪問したそうです。
ケネディ駐日米国大使の東北方面総監部訪問」(陸自HP)

震災があったからではありますが、それにしても駐日大使が自衛隊部隊を訪問するのは珍しい事です。
しかも、ケネディ大使は、着任してから日も浅く、相当多忙なスケジュールの中でのことでしょう。

震災時、米軍はトモダチ作戦として、最大限の助力をしてくれました。
それに対して、日本側は官民(一部マスコミは別として)問わず、誠意を込めて感謝の意を表しました。
72_photo05
72_photo04
いずれも、外務省HPより

尖閣問題などにおける最近のアメリカの親日的態度の理由は、第1には民主党政権から自民党政権に移行した事でしょうが、震災に伴う助力と感謝が、良い形で連鎖したからであるとも言えると思います。

これからも、この連鎖を切らさないように、感謝を表すと共に、アメリカが困難に陥った時には、助力の手を差し伸べることが必要です。

そのためにも、集団的自衛権行使の問題は、早めに解決すべきでしょう。

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2013年12月 7日 (土)

最早ジャーナリズムではない沖縄メディア

可決したばかりの特定秘密保護法ネタです。

一部マスコミが特定秘密保護法に反対してキャンペーンを張っていますが、中には最早ジャーナリズムとは呼べない低レベル、いや悪意に満ちたものがあります。
「自分の行為も違法に」 南風原の男性、秘密法案で規制懸念」(琉球新報13年11月19日)

沖縄防衛局に基地従業員の情報などを公開請求し、その資料がほとんど黒塗りだった事実を報道機関に公表した経験のある、南風原町の男性(36)が、特定秘密保護法案の国会審議を強い不安を抱きながら見詰めている。「(法律が制定されれば)自分の行為も違法になるかもしれない」と話し、政府の不都合な情報が表に出ない社会になってしまうことを危惧する。


情報公開請求の結果出された文書は、そこに書かれている情報は、秘密情報ではないと判断されたが故に公開されたものです。
当然、それが黒塗りばかりだったとしても、それ自体に秘密情報が含まれていないのですから、それを公表したところで、罪になりようがありません。

これが罪になるのであれあば、行政文書開示請求を行って秘文書の開示を要求し、その顛末をブログに書いている私は、元自衛官として守秘義務を追っている以上、現行の法律の下であっても、自衛隊法違反で訴追されるているはずです。
ですが、実際にはそんなことはありませんし、訴追に至らなくとも防衛省から抗議が来たという事もありません。

こんな簡単な事実は、特定秘密保護法案をちょっとでも調べたジャーナリストなら簡単に分かる話であり、この記事を書いた琉球新報の外間愛也記者も当然分かっているはずです。

そして、分かっているからこそ、この記事は琉球新報として懸念を持っているという体裁をとらず、、南風原町の男性(36)の”感想”を報じるという体裁になっています。

つまり、誤った懸念であるからこそ、これは聞いた話ですとして報じているのです。
これは最早プロパガンダであり、報道・ジャーナリズムとは呼べません。

それにしても、こんな恥ずかしい記事を署名記事で書いてしまう琉球新報って……

ちなみに、マスコミがネガティブキャンペーンを張っているおかげで、なかなか正しい情報が報道されない特定秘密保護法ですが、次の記事が解説として的を射ていると思います。
秘密保護法の超簡単な条文解説
」(池田信夫 blog)

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2013年12月 1日 (日)

小笠原諸島方面への防空識別圏拡大

日本の防空識別圏(ADIZ)には穴があります。
与那国の西側半分がADIZ外だった問題は、2010年に改善されていますが、竹島と北方領土は、領土問題と現状に照らし合わせて、ADIZから外されています。
が、問題はこの2カ所だけではありません。
小笠原諸島もADIZ外なのです。

日本の防空識別圏、小笠原まで拡大検討…防衛省」(読売新聞13年11月27日)

 小笠原の上空は、他国の航空機による領空侵犯の恐れが低いため防空識別圏を設定していなかった。中国が東シナ海に防空識別圏を設定したことをきっかけに、政府・自民党内で小笠原への範囲拡大を求める声が強まった。


主旨は分かります。
主権をしっかり主張して行くのは良いことです。

ですが、現場(自衛隊)を考えると、今頃航空自衛隊内では「どうせいっちゅうねん」と言われているように思います。

 防衛省は、周辺の自衛隊基地に緊急発進(スクランブル)のための戦闘機部隊の配置も検討。範囲拡大の時期は、中国を刺激しないよう慎重に検討する。防空識別圏は防衛省訓令で設定しており、法改正は必要ない。


周辺の自衛隊基地と言えば、硫黄島しかないでしょう。
恐らく常駐させるのではなく、太平洋方面に中国艦艇が進出した場合のみの措置でしょうが、だとしてもかなり大変なことです。

そして、さらに大変なのはスクランブルを行う戦闘機ではなく、監視の方です。

小笠原方面を見る事の出来る警戒監視レーダーは、千葉にある峯岡山と静岡の御前崎にあります。
これらのレーダーの捜索範囲は秘密ですが、基本的に地上のレーダーサイトの最大捜索範囲は400km程度です。と言うのも、地球の曲率のため、これ以上の捜索範囲があっても、通常の航空機の飛べない超高空しか見えないためです。
また、警戒管制レーダーではなく、航空管制用のレーダーが硫黄島にありますが、航空管制用レーダーは、主に出力の限界によりそれほど広い範囲は見えません。(航空管制用にはそれほど広い範囲が見える必要性がないため、出力の低いレーダーを置いている)
この航空管制用レーダーの捜索範囲も秘密ですので、これを仮に100kmとして、小笠原方面のレーダー覆域を図にしてみます。
(レーダー設置高度がそれぞれ違いますが、面倒なので統一して100mで計算)
Photo
警戒管制用レーダーについては、中央の円が高度1000m以上を、中間の円が高度6000m以上を監視できる範囲、外側の円が監視の限界である400kmの線とし、航空管制用レーダーは監視限界100kmとして描いています。

一目で分かるとおり、穴だらけというか、監視できる範囲など一部に過ぎないと分かるでしょう。
(この他にも国交省の航空管制用レーダーが空港のある島にはありますが、やはり狭い範囲です)
特に、中国艦の艦載機によって領空侵犯される恐れの高い沖ノ鳥島などは、次の図のような位置関係ですから、地上レーダーでの監視など、できるはずもありません。
Ryokai_setsuzoku2
海保のHPより

実効性のある監視を行うためには、ここでもAWACSが必要ということになりますが、保有機が少なく、ロードは過大になります。

警戒すべきは、前述の通り、中国艦の艦載機ですから、中国艦隊が太平洋側に進出する際には、海自護衛艦に貼り付いてもらい、レーダーピケット艦として運用してもらわないと、実態的な監視は不可能でしょう。
以前の記事でも書きましたが、レーダーピケットだけでなく、対領侵措置まで海自艦に行ってもらう方が適切かも知れません。

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