画期的な戦車削減_新防衛計画大綱等 その2
新大綱等に関して、事前情報の段階から、ネット界隈で最も注目された点が、戦車削減でした。
その理由は、戦車増強を夢見る方々が、民主党政権下で定められた前大綱の400両への削減が撤回され、戦車定数の増強がなされるのではないかと見ていたところ、増強どころか、前大綱よりも更に削減される方向となったためです。
新大綱等において戦車が削減された理由は、前回記事で触れた戦略とドクトリンの制定・修正のためです。
単に装備の戦闘力を考えるだけでなく、防衛力全体を俯瞰し、どの様に戦うため何を整備するのかと考えれば、現情勢下では新大綱等に示された方向になるのは当然のことです。
当ブログでは、かなり前から戦車を削減し、代替措置の一つとして機動戦闘車を配備するよう主張してきましたから、戦車削減については極めて評価できる内容だと考えています。
ですが、正直に言って、私も驚きました。
防衛省が、実際に削減に踏み切る可能性は低いと予想しており、前大綱の定数400両維持+機動戦闘車の配備を予想していたのですが、戦車定数を300まで削減する方向が打ち出されたからです。
私が削減はないだろうと予想した理由は、400両を下回るレベルへの削減は、実は非常に大きな意味があるからです。
ここからは、この点に注視してみます。
防衛計画の大綱は、制定後から10年間を対象として策定され、装備品の定数は、概ね10年後に、その定数に到達するよう調達・廃棄が行われます。
ですので、今回新大綱が「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」として定められたのですから、規定された戦車300両体制は、平成36年度末にこのレベルになることを目指すことになります。(現在、今年度末の戦車保有量は767両です)
過去の大綱で示された戦車定数の削減でも、ほぼここで述べたように10年後に概ねその数になるよう調整されてきました。
ここで、まず戦車定数の変遷を押えておきましょう。
・昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱 1200両
・平成08年度以降に係る防衛計画の大綱 900両
・平成17年度以降に係る防衛計画の大綱 600両
・平成23年度以降に係る防衛計画の大綱 400両
・平成26年度以降に係る防衛計画の大綱 300両
大綱の最初の改定時から、一貫して削減が継続しています。
今回を含め、都合4回の削減が行われたことになります。
冷戦環境下から、冷戦発想を抜けきらなかった前回の削減まで、継続して削減が行われてきた主な理由は、日本の地理的環境や予算の関係などです。
過去の経過を見ると、戦車定数削減は、ある意味トレンドとも言える訳ですが、今回の削減には、とりわけ大きな意味があり、単なるトレンドと片付ける訳にはいかない理由は、以前の3回の削減は、いずれも現状追認的な消極的な削減だったものの、今回の削減は戦略・ドクトリンの転換に裏打ちされた、積極的で、画期的な削減であることです。
過去の削減状況を、表で見てみましょう。
なお、ここで集計したデータは、ネットで入手可能なデータを、一部推測で補ったデータであり、実際の数値とは若干違いがあるはずですが、かけ離れた数値ではないはずです。
なお、10式の今後の調達数量は、あえて中期防の数字ではなく、現在レベルが継続した場合の数値を入れています。
第1次削減(1200両↑900両)
第1次削減が決定された時、61式は、既に制式化後30年以上が経過し、老朽化で削減が始まっていました。
この削減では、その61式の退役を進めつつ、90式の調達数量を抑える事で、10年後の2005年に、1209両から997両まで、ほぼ計画された削減を達成しました。
第2次削減(900両↑600両)
この時も、制式化後30年で老朽のため削減されつつあった74式の退役を進めつつ、90式、10式の調達量調整を抑え、2014年に1025両から、740両までの削減を実現しています。(赤字の部分は、調達がそれまでと同じレベルで推移した場合の予測です)
第3次削減(600両↑400両)
予測の期間が半分以上になって分かり難いですが、2020年の予測保有量が578両ですから、退役中の74式の退役を早め、10式の調達数量を絞れば、400両までの削減は、達成可能な数字になっています。
第4次削減(400両↑300両)
今回の削減です。
10年後の2023年の予測数量は、524両となっています。
内訳は、74式ゼロ、90式が現在数量の341両、10式183両です。
ここで、簡単な計算をしてみましょう。10式の調達を、仮に来年以降全くの0とした場合でも、この数値は90式の341両+現有10式の53両で合計394両です。
つまり、たとえ10式の調達を完全にストップしても、制式化後20年そこそこしか経っておらず、まだ使える90式を退役させなければ、300両という定数は実現できないという訳です。
実際には、10式の調達も進めるのですから、90式の早期退役数量を相当な数にしないと、この定数へは到達しません。
記憶をひっくり返してみても、戦車に限らず、防衛省が過去にこのような、まだ使える装備を退役させた事例はF-104等少数です。
他にもないとはいえませんが、極めてレアなケースであることは間違いないでしょう。
これが、今回の削減を現状追認の消極的削減ではなく、積極的削減だと言う理由です。
重ねて言いますが、このような判断をした理由は、戦略・ドクトリンの制定・修正にあります。
冷戦終結後も、大量に90式、10式の調達を進めてきたことが間違いで、防衛省は、もっと早く統合の観点に立った能力評価を行い、戦略・ドクトリンを打ち立てるべきでした。
しかし、私は、そのことを糾弾するよりも、情勢変化を認めて、方針の転換を図った事は、勇気ある決断として、誉めるべきことだと思っています。
以前の記事でも、防衛省の自己変革能力の乏しさを批判する記事を書きましたが、今回の戦車定数の削減は、現状追認的ではない積極削減を打ち出したことは、防衛省という組織として、非常に画期的で、評価できます。
今回の記事は以上です。
余程の大事件が無い限り、年内のブログ更新は、これが最後の予定です。
本年も、おつきあい頂き、誠にありがとうございました。
実は、秋頃から更新頻度が低下しておりますが、これは小説執筆に注力するためでして、来年はその成果をご覧に入れられるように、一層頑張ります。
宜しくお願い致します。
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