中国による尖閣上空への防空識別圏設定の意味と対策
中国が尖閣上空に防空識別圏(ADIZ:アディーズ)を設けたことで、ニュースが賑わっています。
これに関しては、日中双方に思い違いがあることで賑わっている側面があると思いますので、今回は、その思い違いと中国の真意に注目して書いてみます。
このニュースが(日本で)賑わっている一番の原因は、防空識別圏(ADIZ)とは何なのかという点に関する、マスコミを含めた大多数の日本人の誤解にあります。
この誤解については、以前にも記事を書いてますので、興味のある方は過去記事「防空識別圏(ADIZ)に関する誤解」をご覧ください。
ADIZは、実際に対応を行う自衛隊にとっては、名前の通りの空域です。
防空(Air
Defence)識別(Identification)圏(Zone)であり、防空を行うために識別を行う範囲です。
つまり、識別を行うだけの空域だという事です。
一方、広大な空域を指定しているADIZに対して、強制力を行使できるのは、領海基線からわずか12マイル(21km)しかない領空の範囲だけです。
ですが、マスコミを含め、ADIZは、無許可で侵入した他国の航空機に対し、スクランブル機が撃墜を含む強制力を行使できると誤解している人が非常に多数いらっしゃいます。
(中国側でも6割の人が撃墜すべきと答える等、完全に誤解されているみたいですが)
確かに、ADIZに侵入する無許可の航空機に対しては、自衛隊は警告を与えます。
ですが、それはあくまで「領空に侵入するな!」との警告であって、ADIZに入ったこと自体には、警告も抗議もしません。(領空外は、どの国の航空機も自由に飛行する権利があるため)
実際に強制力を行使できるのは、領空侵犯した航空機に対してのみだけなのです。
また、上記の私の文章も、誤解を招きやすいのですが、ADIZに入ることに関しての「承認」や「許可」が行われている訳ではありません。
では、何に対して「承認」、「許可」が行われているかと言いますと、FIR(Flight Information
Region:飛行情報区)に対してです。(この記述も正確ではないですが)
これは、国際民間航空条約に基づき、ICAO(国際民間航空機関)により設定された航空機の航行に必要な各種の情報の提供又は捜索救難活動が行われる空域で、日本では国交省が管制業務行っている航空管制のための空域です。
このため、航空自衛隊は、国交省が与えた許可情報を貰い、これと照合することで識別を行っています。
当然、他国でも同じことで、中国がADIZを設定したところで、これに対して「許可」を貰う必要はありません。
ただし、中国は国際民間航空条約を根拠とする上海FIRを超えてADIZを設定しているため、早めに許可を求めるよう「勝手」に要求しています。
「防空圏設定
、民間にも影日航・全日空、中国に飛行計画」(朝日新聞13年11月26日)
もっとも、あくまで「勝手」な要求であるため、日本政府のようにヘタレではない韓国は、これを即座に突っぱねています。
「韓国「通報せず、航空機通過へ」 中韓の防空圏一部重複」(朝日新聞13年11月25日)
日本も、及び腰ながら、航空会社に要求に応じないよう求めたようです。
「飛行計画:航空各社、中国に通知 外務次官は提出拒否」(毎日新聞13年11月25日)
なお上で言及したとおり、FIRとADIZは、多くの場合、合致しません。
FIRは、国交省のサイトでも「領空及び公海上
空を含んだ空域で領空主権よりも航空交通の円滑で安全な流れを考慮して設定されており」と書かれているとおり、ADIZとは設定の意義が異なるためです。
結果として、日本でも、ADIZ内ではあるものの、FIRには入っていないため、日本側に許可が求められておらず、情報がないため、自衛隊でもアンノウンのままである航空機は多数存在します。
これらに対しては、当然スクランブルなんかかけません。
ですので、純粋に軍事上の、つまり自衛隊が対処を行う上では、中国が尖閣上空にADIZを設けても、さほど気にする必要はないのです。
例えば、敵対する2か国が陸上で国境を接していれば、ADIZは当然他国の領土上空にまでかぶせざるを得ません。
ADIZは、本来勝手に設定するものですから、軍事的
には、「また中国が勝手しやが
って」くらいに思っておけばOKです。
しかし、今回のADIZ設定と、それ以上にその”発表”は、軍事的だけでない意味があります。(ADIZは、公開する必要さえありません)
それは、中国が尖閣を侵略するための1ステップであり、階段をほんの少し上る既成事実化の一つだということです。
海上においては領海内であっても無害通航権があり、中国公船による尖閣周辺の領海侵犯は既に当たり前のものになっています。
日本政府としても、明確に無害通航とは認められない行為を中国公船が行わない限り、打つ手がないのが現状です。
これをもう一歩進めるための措置が、今回のADIZの設定とその発表という訳です。
中国は、尖閣を自国領土だと主張する以上、彼らの論理で行けば、
尖閣周辺を飛ぶ日本の航空機の撃墜は、ADIZの有無に関わらず、国際法的には可能です。
ですが、自衛隊機を含め、日本の航空機は尖閣周辺をしょっちゅう飛んでいます。
私も、現役自衛官時代に数回尖閣上空を飛んでいます。
この事実自体が、尖閣を実効支配しているのが日本である証左なのですが、今回のADIZ設定は、中国にとって、即座に尖閣上空で実力行使をするとの意思表示ではないでしょう。
恐らく、これを契機として、無線による警告を始めるつもりだったのではないかと推測します。
中国の真意は、上記の通りですが、中国とすれば、日本がマスコミがADIZに対して、これほど誤解しており、強い反応が返ってくるとは思っていなかったのでしょう。
中国側の驚きを伝える報道がさ
れています。
「南シナ海や黄海へ拡大念頭対立、先鋭化も 日本には「騒ぎ立てている」と抗議」(産経新聞13年11月25日)
「中国国防省、防空識別圏設定で日本の抗議を拒絶 「あれこれ言う権利はない」」
(産経新聞13年11月25日)
「日米は「不必要なヒステリー」 中国紙が社説」(産経新聞13年11月26日)
また、中国が在日中国人の掌握を行っていることも、日中衝突に備えた在日中国人の動員蜂起のためかもしれませんが、もしかすると、予想以上の日本の反発に警戒をした結果なのかもしれません。
「「日本に手を出すのか」「開戦か」書き込み相次ぐ 在日中国人に登録呼びかけ 防空識別圏設定と関連か」(産経新聞13年11月25日)
日本政府としては、この日本人の誤解と、それに基づく反発に対する中国の思い違いは、はある意味ラッキーなので、静観を求めるのではなく、むしろ中国の横暴を大いにアピールすべきです。
外部を見ても、安倍政権の対米外交が巧いこともあって、今回は、アメリカも明確な日本支持を打ち出しています。
「中国防空識別圏:「不必要に挑発的」 米は強硬姿勢」(毎日新聞13年11月26日)
また、中国は、南紗諸島を念頭に南シナ海にもADIZ設定を目論んでいると自ら発表したことで、フィリピン等東南アジア諸国も味方に付けることができます。
「南シナ海や黄海へ拡大念
頭 対立、先鋭化も 日本には「騒ぎ立てている」と抗議」(産経新聞13年11月25日)
中国のADIZ設定は、軍事ではなく、国際政治上の圧力です。
日本は、アメリカと緊密に連携して、政治圧力で押し返すべきです。
これはチャンスです。
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