ブログランキング&ツイッター

  • 軍事・防衛 ブログランキング
  • ツイッター

« 2013年10月 | トップページ | 2013年12月 »

2013年11月

2013年11月26日 (火)

中国による尖閣上空への防空識別圏設定の意味と対策

中国が尖閣上空に防空識別圏(ADIZ:アディーズ)を設けたことで、ニュースが賑わっています。
これに関しては、日中双方に思い違いがあることで賑わっている側面があると思いますので、今回は、その思い違いと中国の真意に注目して書いてみます。

 

このニュースが(日本で)賑わっている一番の原因は、防空識別圏(ADIZ)とは何なのかという点に関する、マスコミを含めた大多数の日本人の誤解にあります。
この誤解については、以前にも記事を書いてますので、興味のある方は過去記事「防空識別圏(ADIZ)に関する誤解」をご覧ください。

 

ADIZは、実際に対応を行う自衛隊にとっては、名前の通りの空域です。
防空(Air Defence)識別(Identification)圏(Zone)であり、防空を行うために識別を行う範囲です。
つまり、識別を行うだけの空域だという事です。
一方、広大な空域を指定しているADIZに対して、強制力を行使できるのは、領海基線からわずか12マイル(21km)しかない領空の範囲だけです。

 

ですが、マスコミを含め、ADIZは、無許可で侵入した他国の航空機に対し、スクランブル機が撃墜を含む強制力を行使できると誤解している人が非常に多数いらっしゃいます。
(中国側でも6割の人が撃墜すべきと答える等、完全に誤解されているみたいですが)

 

確かに、ADIZに侵入する無許可の航空機に対しては、自衛隊は警告を与えます。
ですが、それはあくまで「領空に侵入するな!」との警告であって、ADIZに入ったこと自体には、警告も抗議もしません。(領空外は、どの国の航空機も自由に飛行する権利があるため)
実際に強制力を行使できるのは、領空侵犯した航空機に対してのみだけなのです。

 

また、上記の私の文章も、誤解を招きやすいのですが、ADIZに入ることに関しての「承認」や「許可」が行われている訳ではありません。
では、何に対して「承認」、「許可」が行われているかと言いますと、FIR(Flight Information Region:飛行情報区)に対してです。(この記述も正確ではないですが)
これは、国際民間航空条約に基づき、ICAO(国際民間航空機関)により設定された航空機の航行に必要な各種の情報の提供又は捜索救難活動が行われる空域で、日本では国交省が管制業務行っている航空管制のための空域です。
このため、航空自衛隊は、国交省が与えた許可情報を貰い、これと照合することで識別を行っています。

 

当然、他国でも同じことで、中国がADIZを設定したところで、これに対して「許可」を貰う必要はありません。
ただし、中国は国際民間航空条約を根拠とする上海FIRを超えてADIZを設定しているため、早めに許可を求めるよう「勝手」に要求しています。
防空圏設定 、民間にも影日航・全日空、中国に飛行計画」(朝日新聞13年11月26日)
もっとも、あくまで「勝手」な要求であるため、日本政府のようにヘタレではない韓国は、これを即座に突っぱねています。
韓国「通報せず、航空機通過へ」 中韓の防空圏一部重複」(朝日新聞13年11月25日)
日本も、及び腰ながら、航空会社に要求に応じないよう求めたようです。
飛行計画:航空各社、中国に通知 外務次官は提出拒否」(毎日新聞13年11月25日)

 

なお上で言及したとおり、FIRとADIZは、多くの場合、合致しません。
FIRは、国交省のサイトでも「領空及び公海上 空を含んだ空域で領空主権よりも航空交通の円滑で安全な流れを考慮して設定されており」と書かれているとおり、ADIZとは設定の意義が異なるためです。
結果として、日本でも、ADIZ内ではあるものの、FIRには入っていないため、日本側に許可が求められておらず、情報がないため、自衛隊でもアンノウンのままである航空機は多数存在します。
これらに対しては、当然スクランブルなんかかけません。

 

ですので、純粋に軍事上の、つまり自衛隊が対処を行う上では、中国が尖閣上空にADIZを設けても、さほど気にする必要はないのです。
例えば、敵対する2か国が陸上で国境を接していれば、ADIZは当然他国の領土上空にまでかぶせざるを得ません。
ADIZは、本来勝手に設定するものですから、軍事的 には、「また中国が勝手しやが って」くらいに思っておけばOKです。

 

しかし、今回のADIZ設定と、それ以上にその”発表”は、軍事的だけでない意味があります。(ADIZは、公開する必要さえありません)

 

それは、中国が尖閣を侵略するための1ステップであり、階段をほんの少し上る既成事実化の一つだということです。

 

海上においては領海内であっても無害通航権があり、中国公船による尖閣周辺の領海侵犯は既に当たり前のものになっています。
日本政府としても、明確に無害通航とは認められない行為を中国公船が行わない限り、打つ手がないのが現状です。

 

これをもう一歩進めるための措置が、今回のADIZの設定とその発表という訳です。

 

中国は、尖閣を自国領土だと主張する以上、彼らの論理で行けば、 尖閣周辺を飛ぶ日本の航空機の撃墜は、ADIZの有無に関わらず、国際法的には可能です。
ですが、自衛隊機を含め、日本の航空機は尖閣周辺をしょっちゅう飛んでいます。
私も、現役自衛官時代に数回尖閣上空を飛んでいます。

 

この事実自体が、尖閣を実効支配しているのが日本である証左なのですが、今回のADIZ設定は、中国にとって、即座に尖閣上空で実力行使をするとの意思表示ではないでしょう。
恐らく、これを契機として、無線による警告を始めるつもりだったのではないかと推測します。

 

中国の真意は、上記の通りですが、中国とすれば、日本がマスコミがADIZに対して、これほど誤解しており、強い反応が返ってくるとは思っていなかったのでしょう。
中国側の驚きを伝える報道がさ れています。
南シナ海や黄海へ拡大念頭対立、先鋭化も 日本には「騒ぎ立てている」と抗議」(産経新聞13年11月25日)
中国国防省、防空識別圏設定で日本の抗議を拒絶 「あれこれ言う権利はない」」 (産経新聞13年11月25日)
日米は「不必要なヒステリー」 中国紙が社説」(産経新聞13年11月26日)

 

また、中国が在日中国人の掌握を行っていることも、日中衝突に備えた在日中国人の動員蜂起のためかもしれませんが、もしかすると、予想以上の日本の反発に警戒をした結果なのかもしれません。
「日本に手を出すのか」「開戦か」書き込み相次ぐ 在日中国人に登録呼びかけ 防空識別圏設定と関連か」(産経新聞13年11月25日)

 

日本政府としては、この日本人の誤解と、それに基づく反発に対する中国の思い違いは、はある意味ラッキーなので、静観を求めるのではなく、むしろ中国の横暴を大いにアピールすべきです。

 

外部を見ても、安倍政権の対米外交が巧いこともあって、今回は、アメリカも明確な日本支持を打ち出しています。
中国防空識別圏:「不必要に挑発的」 米は強硬姿勢」(毎日新聞13年11月26日)

 

また、中国は、南紗諸島を念頭に南シナ海にもADIZ設定を目論んでいると自ら発表したことで、フィリピン等東南アジア諸国も味方に付けることができます。
南シナ海や黄海へ拡大念 頭 対立、先鋭化も 日本には「騒ぎ立てている」と抗議」(産経新聞13年11月25日)

 

中国のADIZ設定は、軍事ではなく、国際政治上の圧力です。
日本は、アメリカと緊密に連携して、政治圧力で押し返すべきです。

 

これはチャンスです。

 

参考FIR

にほんブログ村 政治ブログ 軍事・防衛へ
にほんブログ村

2013年11月23日 (土)

やっぱり陸自は反抗的?

先日の記事「陸自は組織防衛ではなく、日本の防衛を」で、陸自がトランスフォームに抵抗しているとは思わないと書いたのですが、こう言う事があると、やはり陸自は反抗的なのか?と思えてしまいます。

先日行われた観閲式において、安倍首相は次のように発言しました。
防衛力はその存在だけで抑止力になるという従来の発想は完全に捨て去ってもらわねばならない

この発言に対して、武力は行使しなければ意味がないという意味であり、戦争を肯定するトンデモ発言だ、などと言う的外れのコメントをする人もいますが、決してそんな意味ではありません。

これは、防衛力は、たとえ実効的でなくとも、存在するだけで抑止力として機能するため、有効であるという従来の発想をする人が、防衛省関係者、とりわけ、陸上自衛隊の観閲式で発言された言葉だと言うことを踏まえると、陸自関係者にいると言うことだろうと思います。
つまり、実効性のある防衛力に転換しようというトランスフォームの最中、従来型の抑止戦略から抜け出せず、トランスフォームに抵抗している勢力が陸自内にあり、首相発言はこれに釘を刺したものでは無いかと思われるのです。

そう考えると、防衛大臣の機動戦闘車視察も意味のある事のように思えてきます。
大臣の陸上装備研究所(機動戦闘車)視察」(技本HP内ニュース)
まだ試作車が完成しただけの新型車両に防衛大臣自ら視察するのは異例の事でしょう。
それも火力演習の折に、ついでに視察するならまだしも、わざわざそのために技本をを訪れて視察したのですから、相当注目していると言うことです。

また、戦車を300両に削減するという報道は、機動戦闘車に対する大臣の注目以上に、この首相発言が、陸自に対する当てつけだったことの証左であるように思えます。

戦車教団の方々は、戦車の存在意義として抑止力を持ち出すことが多々あります。
この2chのスレタイなんかは象徴的です。
[第四世代]10式戦車スレ配備162号車[抑止力]
しかし、度々言及しているように、「防衛力の在り方検討に関する中間報告」でも、抑止力ではなく実効性を求める方向が打ち出されており、大綱の改正で、この方向が明確化される見込みです。
陸自関係者の中には、この抑止力よりも実効性という方針に意を唱え、戦車教団同様に戦車や火砲の削減に反対している勢力が居るのではないかと思われます。

しかし、首相がこれだけ明確な当てつけを言うのですから、12月の大綱改正は、戦車の削減等、思いの他、大胆なモノが打ち出されてくる可能性があります。
注目です。

にほんブログ村 政治ブログ 軍事・防衛へ
にほんブログ村

2013年11月16日 (土)

中国、必死のアピールも日本マスコミはスルー

先日、「H-6の沖縄通過飛行は集団的自衛権行使問題に対する恫喝」、「Y-8による第1列島線突破飛行の軍事・政治的意味」の記事で、中国が接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を推し進め、沖縄を越えて、太平洋上において米空母機動部隊の接近阻止を図る事を意図しており、この行動は安倍政権が推し進める集団的自衛権行使に関する解釈変更に対して、那覇を叩くと言う恫喝(ブラフ)だと書きましたが、日本のマスコミは、中国の恫喝意図については、(恐らく理解できないからだと思いますが)完璧にスルーでした。

そのため、中国は業を煮やしたのか、H-6とY-8をセットにして、3日連続で飛行させ、もはや必死とも見えるアピールをしています。
中国機の東シナ海における飛行について」(25日分)
中国機の東シナ海における飛行について」(26日分)
中国機の東シナ海における飛行について」(27日分)

ですが、今回マスコミは、当初のY-8以上に、完璧なスルーでした。

軍事音痴も極まれれりな気がします。
ここまで必死にアピールしてるんだから、取り上げてあげればいいのに……
まあ、他国の恫喝が、一般の人に対して効かないという意味ではありがたいのですが……

にほんブログ村 政治ブログ 軍事・防衛へ
にほんブログ村

2013年11月 9日 (土)

機動戦闘車の評価

戦車に引導を渡す機動戦闘車」に対しては、非常な反響がありましたし、誤解されている部分もあるので、補足の意味も含めて、機動戦闘車の評価について、書きたいと思います。

防衛装備の評価において、何より大切なのは、その装備を投入する戦場における脅威対象です。

近々発表される防衛計画の大綱では、「統合運用を踏まえた能力評価」が行われると「防衛力の在り方検討に関する中間報告」で示されていますが、当然に統合運用を踏まえた脅威の評価がその前提にあります。

防衛省の脅威評価の詳細が公開されることはないでしょうが、”各種事態への実効的な対応”の項目には、本格的な侵攻事態は入っておらず、陸戦に関する対応措置としては、②島嶼部に対する攻撃への対応と③弾道ミサイル攻撃及びゲリラ・特殊部隊への対応があるだけです。

各種事態への実効的な対応
 ①警戒監視能力の強化
 ②島嶼部に対する攻撃への対応
 ③弾道ミサイル攻撃及びゲリラ・特殊部隊への対応
 ④サイバー攻撃への対応
 ⑤大規模災害等への対応


そのため、防衛省としては、対処すべき脅威として、MBTは、あっても極少数だと認識していると思われます。
私も、それが正しい選択だと思っています。

であれば、自衛隊が装備すべき戦車も、少数か、コストパフォーマンスによっては将来的には、ゼロとする選択もあり得るでしょう。
(ゼロにするなら、何らかの対戦車火器が必要ですが)

そして、機動戦闘車が対処すべき脅威は、ゲリコマを含む歩兵と戦車以外の装甲戦闘車両という事になります。
それに、戦車以外の装甲戦闘車両でも、戦場である先島の有人島に上陸される可能性は、相当低いと思われます。つまり、機動戦闘車のメインターゲットは歩兵です。

戦車以外の敵装甲戦闘車両としては、中国の97式歩兵戦闘車や05式水陸両用歩兵戦闘車があります。
機動戦闘車では、路外機動性が乏しく、行動が限られますし、装甲もこれら戦闘車両の100mm級の砲にはとても耐えられないでしょうから、これらと正面から戦う事は困難だと思いますが、攻撃力としては十分なモノを持っています。
これらとの戦闘では、戦車を投入するか、機動戦闘車が当たるのであれば、空からの攻撃も含めて立体的に作戦を行なう事になるでしょう。

機動戦闘車の装甲がどの程度の防御力があるのか不明ですが、車重を考慮すれば、歩兵に対しては、対戦車火器以外では、乗員が死傷することはない程度の防御力は確保されているとでしょう。
砲は十分過ぎる攻撃力がありますが、携行できる弾数が限られることを考えれば、戦闘だけを考えるなら、むしろ中口径砲の方が良かったと思われます。(中口径砲にしてしまうと、近接戦闘車になってしまいますが)
ですが、74式の砲弾を利活用するとのことなので、コスト面で採用したという側面もあるのでしょう。

戦略機動性の点は、やはり素晴らしいと思います。

公開されている動画では、高速走行の際には操縦手用のカバー?を取付けており、単純に速度が出せるというだけではなく、安全性の考慮や操縦手の負担も考慮した仕様になっているようです。

これなら、先導車を付ければ、高速道路を利用してゲリコマの襲撃予想地点に急行できますし、島嶼に展開する際も、数が限られる艦船での輸送距離を縮減できます。

陸自自身が、これから機動戦闘車をどう評価し、配備数がどうなるのか興味深い所です。
ただし、その評価が決まる前に、機動戦闘車は戦車に引導を渡すための存在という使命を負わされる可能性が出てきました。
新防衛大綱 陸自戦車数を削減へ」(日テレニュース13年11月9日)

にほんブログ村 政治ブログ 軍事・防衛へ
にほんブログ村

« 2013年10月 | トップページ | 2013年12月 »

最近のトラックバック

ブックマーク、RSS