2波長赤外線センサ_作りたいモノを作るのか、必要なモノを作るのか
作りたいモノを作るのか、それとも必要な、あるいは売れるモノを作るのかと言う議論は、民間ではとうの昔に後者になっています。
言い換えれば、組織(会社)内において、開発が強いのか、あるいは営業(マーケティング)が強いのかという論議です。
民間においては、高度成長期の日本では、開発が大きな力を持ってました。ですが、現在では完全にマーケティングありきです。
なぜなら、開発が作りたいモノを好きに作らせるような余裕はないからです。
ですが、防衛省・自衛隊では、未だに開発ありきで進められることがあります。
2波長赤外線センサは、その良い例です。
2波長赤外線センサが、どんなモノでどんな効果を持つのかは、技本HPのニュースページが詳しく書いてます。
「2波長赤外線センサ性能確認試験」
これを見るとなかなか優れモノのようです。
ですが、疑問も湧くのです。
”カメラを2台置けばいいだけじゃないのか?”
無理に2波長で撮影できるカメラを作らなくても、別波長に対応した2台のカメラで撮影し、ソフトで処理すれば、同じ事が可能です。
わざわざ大金をかけて技術開発する必要性は乏しいはずです。
ですが、防衛省・自衛隊は開発してしまいました。
だから、逆にこれから需要を作るのです。
「平成25年度予算の概要」
赤外線センサーの衛星搭載に関する研究
2波長赤外線センサー技術の研究(14頁掲載)で先行研究中の高感度赤外線センサーを宇宙空間において実証する際に、必要なセンサーシステム及び地上設備の仕様等に関する研究を実施
2台の赤外線カメラを使用せず、2波長カメラがあった方がよい環境として、極限まで搭載余力を削りたい衛星に標的を定めたようです。
しかし、赤外線カメラだって日進月歩で小型化していますし、2台積めば、片方が壊れても、もう片方は作動できますし、例え衛星でも、2波長センサを搭載する必要性は極めて疑問です。
そもそも、私は日本独自のミサイル警戒衛星の配備には反対です。
「日本独自の早期警戒衛星は不要だ!」
アメリカのSTSSに何らかの形で乗っかることが適切だと思いますが、防衛省は技本に振り回されているようです。
この2波長センサが、次期STSS用としてアメリカが買いたくなるほどのモノであれば、話は変わってきますが、そこまで革新的なものを、早期警戒衛星を作った経験が全く無い日本が目指すのは無謀でしょう。
衛星搭載の赤外線機器としては、情報収集衛星のセンサがありますが、早期警戒とは用途が全く異なります。
技術者が作りたいモノを作り、需要を後から作るような事は、もう止めるべきです。
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「2波長赤外線センサ及び周辺機材」と「それぞれ別波長のセンサー2台及び周辺機材」では、
サイズや重量等にどれほどの違いがあるのでしょうか?
仮にですが、全く同じ重量やサイズなら予備を考えても前者の方が良いと思いますが。
投稿: RYO | 2013年5月12日 (日) 03時24分
……いやちょっと待て、何かおかしかった。
「前者の方が軽くて小さければ」、でした。すみません。
投稿: RYO | 2013年5月12日 (日) 03時28分
あなたが無駄と思ってるから無駄だと言いたいだけでしょ。
そして近視眼的な売れるもの論に固執して、基礎を疎かにした結果、どこも似たり寄ったりのものをただ低価格で投げ売りすることによって誰も得をせず(消費者は得をするというが、結局低価格を実現するための低賃金労働力を求めるので全体としてはダメ)
基礎に投資した破壊的イノベーションで壊滅する事例は多数ある。
教科書的なマーケット主義は現実では通用しません。
それこそ民間ではとっくに通った道。
評論家の言う「民間では」はもう実際の民間では1週も2週も遅れている。
世界で最もプロダクト至上主義といわれるシリコンバレーのような企業群が世界で一番「稼いでる」わけで
ある意味、「日本でアメリカのようなイノベーションが生まれない(とくに近年は)」原因はここにある。
結局アメリカの真似をするのが日本で確実な「マーケティング手法」であったわけで
それが通用しない場合にのみ、日本独自のシステムが良し悪しにつけ独自に発達しましたが
>防衛省は技本に振り回されているようです。
防衛省全体を左右するような、そんな権力のある部署でしたっけ?
つーか今度のターゲットは技本ですか
まあ要するに、直接目に見えて役に立たない部署だから「削っちまえ」という乱暴な理屈にすぎないと思いますね。
投稿: ハンドル用 | 2013年5月12日 (日) 05時45分
@ハンドル用氏
確かに開発を疎かにすると、こんな疲弊も有るな。だが、余裕の無い場合、少なくとも売れそうな物を開発すべきと言う理論も一理有りがと…
原則論はこれで終りとして、今回の特定議題で久遠氏と同意し難いですね。衛星に限らず、大抵の使い方に置いても重量及びサイズの制限が有る。
赤外線カメラは実用化既に現代陸軍の主力センサと言うべきでしょう。飛行機や戦車勿論、歩兵すら赤外線カメラを使用し始めている。
若し一つのカメラで済まないなら、小さいなスペースに2セットの複雑な光学機器を用意せねば成らん。各カメラのレンズサイズも限られ、結果的に集光能力が劣る事に成ります。これは勿論潜在性能に悪い影響を与えます。
よって仮に2波長赤外線センサは各波長に置いての感度は通常型と大した劣らないなら、やはり2波長赤外線にすべきではないでしょうが…応用性も高い為、十分に(自衛隊に)売れる筈です。
>この2波長センサが、次期STSS用としてアメリカが買いたくなるほどのモノであれば、話は変わってきますが、そこまで革新的なものを、早期警戒衛星を作った経験が全く無い日本が目指すのは無謀でしょう。
確かに、米国の全体Know-howを敵う訳が無いでしょうけど、もしこの2波長センサは本当に初めて実現した場合、米国はこのセンサ*だけ*を買って自分の衛星に積み込む事も不可能ではないでしょう…
投稿: 香港からの客人 | 2013年5月12日 (日) 10時26分
2カ所に積めば4つ取り付けられるので十分有用だと思います。
投稿: | 2013年5月12日 (日) 13時16分
>ハンドル用
こういうロマンチストさんが戦前、
大和民族の優越性を信じて米国に戦争を仕掛けたんだろうな・・・(遠い目)
投稿: 名有り | 2013年5月12日 (日) 13時46分
まあ正直、軍事オタクに限らず「俺はただの○○オタクとは違って現実が見れるんだ!」ってのはよくあるオタクの症状の一つ
結局のところ、戦車とか目立つものを否定したり、聞きかじりのマーケティング論を吹聴したりってのがよくあることですし
>RYOさん
そもそも本当に異なる赤外線波長カメラを2つ用意したほうがコスト的にすら安いのかすらわかりませんけどね。
単純にハードウェアシステムを2つ用意しなきゃいけないわけですし
「ソフトで処理」する研究開発費も入れるとどうなんでしょうね?
まあ赤外線センサ自体は応用の範囲は広いが、それが「特殊な用途にしか使えない」のか(だとしたらその用途が重要なのかどうか)広範な用途に使えて、コストに見合うのかどうかあれだけでそこまで否定する要素もない。
というかそれも含めて研究してみないとわからない場合が多い
>2台積めば、片方が壊れても、もう片方は作動できますし
これにしたって2波長カメラでも同じことが言えるわけだ。
しかも性能低下がないか、2つあるときはもっと高性能が期待できるとも言える
>名有り
論理的に話してくれ
投稿: ハンドル用 | 2013年5月12日 (日) 19時01分
まとめレスです。
可視光カメラがカラー化したように、開発も含めてコストが見合うなら、”結果として”は作ってもいいでしょう。
問題は、_作りたいモノを作るのか、あるいは、必要なモノを作るのかというプロセスです。
2波長赤外線センサに限らず、作りたいモノを作るようなマネは止めて欲しいということです。
投稿: 数多久遠 | 2013年5月14日 (火) 00時47分
えっと……え?
「2台のカメラにした方が便利なはず。なのにそうしないのはプロセスに問題がある」とこの記事からは読み取れましたが、
「2台のカメラを用意するより軽くor小さくなったら」というコメントに答えず「プロセスに問題がある」と言い張っているだけ。
実際のところ「そういうプロセスになっている」「2台の方が便利」の根拠がない。
これでは「自分の嫌いな装備?に使おうとしているから無駄」としか読み取れない。
そもそも「軽くor小さく」なるなら、それこそ『小型化』と同じ『技術の進歩』でしょうに。
投稿: RYO | 2013年5月14日 (火) 00時59分
RYO 様
私はコストも必要な考慮要素だと思ってますよ。
投稿: 数多久遠 | 2013年5月17日 (金) 00時36分
実際のコストがどうなるか、という疑問なら納得です。
……って実際どうなんでしょうね、「2台置いて処理」と「1台に纏める」のと。
投稿: RYO | 2013年5月17日 (金) 01時03分
RYO 様
生産技術が上がれば、1台にまとめた方が安くなるでしょう。
7色の色に合わせた7台のモノクロカメラと1台のカラーカメラを比較するようなものでしょうから。
しかし、カラーテレビが出始めた当時、非常に高かったことと同様に、当分はカメラ2台の方が安いだろうと思っています。
投稿: 数多久遠 | 2013年5月19日 (日) 23時51分
……それだとやっぱり開発した方がよくありません? 需要自体はあるとお考えなんですよね?
(ついでに、最終的には1台にした方が安上がりともお考えのようで)
「いま開発をして生産技術を上げる(その過程で安くする)より、後から開発をした方が安上がり」というなら別ですが。
その例でいくと、「白黒テレビの技術を上げに上げてからカラーテレビを開発した方が、安上がり」と言ってるようなものですよね。
投稿: RYO | 2013年5月20日 (月) 14時12分
RYO 様
技術の趨勢として出てくるモノだろうと思っているだけで、日本で独自に先行開発するべき、重要度の高い技術だとは思ってません。
予想されているとおり、後発者利益(後から開発した方が安上がりという考え方)を取るべきものでしょう。
投稿: 数多久遠 | 2013年5月22日 (水) 23時56分
2年ほど経ちましたがTRDIは間違った選択をしていないと思います。
そもそもアメリカも2002年に軍用の2波長赤外線センサーを研究しています
http://spie.org/x25352.xml
その後も研究を続けている様です
http://www.raytheon.com/news/technology_today/2014_i1/nextgen.html
http://www.mccormick.northwestern.edu/news/articles/2013/01/researchers-develop-integrated-dual-mode-infrared-camera.html
またこれが2波長赤外線を指すのか、AAM-3の様な赤外・紫外両対応を指すのか、無学な私は調べきれなかったのですがSM-3 Block 1BのKWは2 color IIR seekerです。
あと後発者利益を取るべきとおっしゃいましたがイギリスと日本がミサイルを共同開発をすることになったのは日本が先行してシーカーをAESAにしたのと無関係ではないでしょう。今後増えるであろう共同開発で後発者利益は得にくいと思います。
今もう一度考えてみてはいかがですか?
投稿: Syu | 2015年4月22日 (水) 12時37分
Syu 様
私がこの研究に最も懸念を抱くのは、センサの微細化(高密度化)、好感度化により、同一面内に2波長の素子を配置できるようになったがための研究であり、やりたがっているのは、金を欲しがっているメーカーであろうという点です。
それは、研究のターゲット(何のために使うのか)が明確になっていない事から顕著に分かります。
マーケットインではなく、プロダクトアウトなものづくりである点が問題なんです。需要ありきではなく、作れるモノを作るというような、金の無駄遣いをする余裕は、今の日本にはありません。
投稿: 数多久遠 | 2015年4月25日 (土) 15時29分