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2013年4月13日 (土)

対艦弾道ミサイルは無意味ではない

世間は北朝鮮の弾道ミサイル一色で、軍事に暗い方が的外れな事まで書いている状況ですが、既に軍事よりも政治、あるいは心理ゲームと化している状況なので、私は弾道ミサイルは弾道ミサイルでも、少し違うミサイルについて書きます。
それは、もうとっくにホットではなくなっている、中国による対艦弾道ミサイル(ASBM)についてです。

このニュースが流れ始めたのは2007頃です。
その時は、「嫌な物を目指してるなあ。でも本当にできるのか?」という所見でしたし、多くの意見が中国脅威論の方向だったので、特に触れなくてもいいかなと思ってました。
しかし、中国がこのASBMと関連の深い衛星破壊兵器(ASAT)実験を行なう等、嫌な動きを続けている事には懸念を持ってました。
なので、気にはなっていたのです。

それを、今頃記事にするのは、3月末に書いた記事「レーダーのビーム幅とオシント」で「弾道ミサイル探知の為に絞る必要性があるのは、ビーム幅ではなく捜索範囲」と書き、その関連記事を書こうと思っていたところ、週刊オブイェクトさんが、もろに関連する内容で、異論を差し挟ませざるを得ない記事をUPしたからです。

「対艦弾道ミサイルは対処可能」米議会調査局(CRS)
JSF氏は、米議会調査局(CRS)の報告書を引用し、ASBMが「対抗手段を用意できるもので、海軍の戦略に変更を迫るようなゲームチェンジャーではない」と評価していますが、これは「原爆に匹敵するような革命的兵器ではない」と言っているようなもので、同報告書に書かれているような、「SM-6の早期取得や、レールガン・レーザー砲の開発と配備」を強要されるとしたら、それはむしろ「重大な脅威」と評価すべきものです。
しかし、それでもJSF氏は、ASBMに対する否定的評価を変えていないようです。

ASBMに関連する週刊オブイェクトさんの以前の記事はいくつかありますが、特に注目すべきは「バックファイアと対艦弾道ミサイル?」だと思っています。

ASBMに対しては、情報が出てきた当初から、イージスで迎撃できるから無意味だろ、みたいなコメントが、2chでも良く出ていましたが、この記事は、もう少し踏み込んだ意見に対しても無意味だとしています。

「バックファイアと対艦弾道ミサイル?」が批判している産経の記事は、既に消えてしまっているようで確認できないため、ここでは詳しく言及しません。
産経の記事には、確かにおかしな部分もありそうですが、JSF氏による産経の記事批判には、指摘した方が良いと思われる妥当性を欠く部分があります。
それは、ASBMと対艦ミサイルの複合戦術が持つ可能性です。

>イージス・システムも「対艦弾道ミサイルやAS-4を大量に同時発射されれば、すべてを迎撃できる可能性は大きく低下する」(日台軍事筋)からだ。

そもそも、そういった同時多数飽和攻撃を防御する為に生まれてきたのがイージス・システムの筈です。

>防衛省は新たな迎撃手段の開発・配備を含む戦術の再構築を迫られそうだ。

現状で何も問題はありません。対艦弾道ミサイルにはスタンダードSM-3で対処、Tu-22Mバックファイア爆撃機のAS-4対艦ミサイルに対してはスタンダードSM-2で対処します。


通常の対艦ミサイルによる同時飽和攻撃の際に飽和し易いボトルネックの部分は、ミサイルでもSPY-1でもなく3基しかないイルミネータAN/SPG-62です。
米軍のCVGは、この点を、多数のイージス艦を護衛に配備することでカバーしています。
その意味で、引用前段の「そもそも、そういった同時多数飽和攻撃を防御する為に生まれてきたのがイージス・システムの筈です。」というJSF氏の指摘は正しいと思います。

一方で、SM-3での弾道ミサイル対処ではイルミネーターは必要ありません。よってASBM対艦ミサイル複合戦術でも、イルミネーターの限界は、露呈しません。

しかし、ASBM対艦ミサイル複合戦術において飽和しかねないのは、SPY-1の方です。

そして、この事実は防衛省も認識し、それが故に、弾道ミサイル破壊措置の際に、F-15でイージスを護衛する事態になってます。
北ミサイル対応、F15がイージス艦を警護へ」(読売新聞12年3月20日)

イージス艦はミサイルを探知、追尾する際、レーダーをミサイルに集中させるため、周辺状況を把握できず、一種の「無防備状態」に置かれる。


ただし、これに対する異論もあります。

こんごう型等のイージスレーダーの弾道ミサイル対処能力と航空機・対艦ミサイル対処能力は当初から並立できるものとされており、またその検証のために2006年6月22日にタイコンデロガ級イージス巡洋艦「シャイロー」がRIM-161スタンダード・ミサイル3 (SM-3)ブロックIAとSM-2によって、模擬弾道ミサイル1つと模擬対空目標2つの同時撃墜に成功しており、同様の試験は「レイク・エリー」でも成功している。

アメリカ海軍太平洋域のタイコンデロガ級イージス巡洋艦・アーレイ・バーク級イージス駆逐艦と海自のイージス護衛艦は共に「ABMD3.6」という実験艦と同じか、又はより高いレベルでのイージスシステムへ更新される予定となっており、イージスが弾道弾に対処する時には従来型対空防御に有意な能力低下があるという説には疑問が提起されている。

wikipediaのあきづき型護衛艦 (2代)ページ
(元の出典は、軍事研究 2008年4月号の多田智彦氏による『進化する海自汎用護衛艦』とのことですが未確認)

ですが、同じwikipediaのページには、次のようにも乗っています。

ただし、この点についてはイージス艦のフェーズドアレイレーダーがSPY-1Dに到って天頂方向への捜索能力が強化されたのを含めて、天空の内、水平視野100度の覆域を弾道弾捜索に必要な区域だけに出力を集中させる方法によってであり、BMD3.6では衛星のリンクなどイージスシステム以外の向上化と、操作方法を操作員の技量によって対応していたものを自動化した形態であるために旧来のイージス艦でミサイル防衛に改良される以前の海自イージス艦がBMD演習に参加出来た由来を考えると、同一レーダー面同一象限の異種目標に対する対処能力は限定的にならざるを得ないと推察されるのが、対抗する意見である。(MD目標方向アンテナ面80度以外なら他の3面のレーダーで複数目標追尾能力が使える)

(元出典不明)

なお、ここで記述されている「水平視野100度の覆域を弾道弾捜索に必要な区域だけに出力を集中させる方法」が、前回記事において「弾道ミサイル探知の為に絞る必要性があるのは、ビーム幅ではなく捜索範囲です」と書いた部分です。

この説明で、ほぼ言い尽くされてしまった感がありますが、分かり易くするため、イージスの歴史に触れながら、図も用いて説明しましょう。

開発当初のイージスは、航空機及び対艦ミサイル対処が目的でしたから、捜索範囲は500km程だと言われていました。
これは、ミサイルの射程にも係わりますが、それ以上に、地球の曲率と航空機が飛行可能な大気層の厚さからして、捜索範囲をこれ以上伸ばすことに意味がないからです。
図1(通常の航空目標(含む対艦巡航ミサイル)探知の際に必要となる要捜索範囲)
Ws000005
少々見難い図ですが、SPY-1レーダーにかかる負荷を見て頂くため、模式図とはしていません。(上下方向の)スケールは、実際の比率に合せています。
これを見て頂くと、大気層というのが実に薄っぺらで、通常の航空目標探知では、ほぼ水平線上だけを見ておけば良いという事実が分かるはずです。

また、レーダーが目標を初度探知する時は、一定高度を飛行して接近してきた目標が、マスクエリア内から要捜索範囲に入った瞬間である可能性が高いことも容易に理解してもらえると思います。
そのため、通常の目標探知については、水平線のすぐ上を重点監視しておけば、基本的に、それだけで捕捉可能です。

なお、500kmに満たない近距離では、多少上方も見ていますが、常時レーダー発振をして、水平面上で探知できるなら、極端に言えば捜索を行なう必要の無い範囲ではありますが、極小目標が接近してきた場合も含め、レーダービームを振る頻度を落として、一応捜索すべき範囲なので、捜索範囲に含めています。なお、この際は、捜索距離が短く、PRFを高くできるため、最大探知距離付近を捜索するよりも、レーダーの処理負荷は非常に少なくなります。(これは結構重要なことです)
レーダーの処理負荷は、この図中の捜索範囲面積だと思って頂ければ、概ね正しい理解になります。

これに対して、ASBM対処を行なう場合の捜索範囲がどうなるか書いてみます。
図2 (弾道ミサイル対処のため1200kmまで監視する場合の要捜索範囲)
Ws000006
これを見ただけでも、レーダーの処理負荷が爆発的に増大していることは理解して頂けるでしょう。
FTM-10(Stellar Predator)において、SM-3による弾道ミサイル迎撃とSM-2による通常目標迎撃の同時対処が試験されたのも、このレーダー負荷が、システムに影響を与えることが間違いなく、懸念事項であるからです。

つまりは、ASBMと対艦ミサイルの複合戦術は、対艦ミサイルのみによる飽和攻撃と比べて、遥かに(イルミネータではなくSPY-1が)飽和する確率が高くなるのです。

ただし、米軍が進めているSTSSからのキューイングが、効果的に機能すれば(配備が進めば当然に機能するでしょう)、要捜索範囲は、非常に少なくなり、レーダー負荷は大したレベルではなくなります。
図3 (STSSリンク)
Ws000007

しかし、STSSによるキューイングによって、ASBMが事実上無力化される可能性は、中国も承知しています。
そのため、中国はASATの開発も行なっております。この事が、冒頭でASATとASBMがリンクしていると書いた理由です。

中国が描く戦術は、ASATでSTSSを撃墜し、イージスがASBMと巡航ミサイルの双方に警戒をせざるをえない状態を強要することで、ASBM、巡航ミサイル併用飽和攻撃を行なう事だと思われます。
これが、日台関係筋が警戒していると言われる「イージス・システムも「対艦弾道ミサイルやAS-4を大量に同時発射されれば、すべてを迎撃できる可能性は大きく低下する」」という言葉が意味するモノです。

ASBMが実用化され、中国がAS-4を含む対艦巡航ミサイルの飽和攻撃能力を高めれば、実際に米空母が撃沈される可能性は非常に高くなると思われます。
アメリカが各種報告で警戒し、産経が防衛省に注意が必要だと書いた事は、単なる予算確保のための煽りではなく、実際に警戒すべき脅威です。

問題は、ASBMが本当に実用可能なレベルになるのかですが、それについては、まだ不明です。
ASBMについてのその後の情報は、「海国防衛ジャーナル」さんが詳しく書いています。
中国の「対艦弾道ミサイル」が米空母艦隊の脅威?
中国が対艦弾道ミサイル「DF-21D」を地上固定目標に試射?

なお、週刊オブイェクトさんのASBM関連記事としては、前述リンクの他に、次の三つがあるようです。
一貫して、ASBMは、大きな脅威ではないとされています。
対艦弾道ミサイルという使えない兵器よりも超音速巡航ミサイルを!
中国の対艦弾道ミサイルは空母破壊兵器ではない?
対艦弾道ミサイル「ハリジ・ファルス」

また蛇足ではありますが、「バックファイアと対艦弾道ミサイル?」には、次のような内容もあります。

>自衛隊に外洋におけるTu-22Mの迎撃手段はない。

Tu-22Mから発射されるAS-4を迎撃すれば自衛隊の任務は達成される筈です。Tu-22Mそのものを撃破する必要はありません。

産経の元記事の流れが分からないので、ハッキリ言えませんが、元記事の趣旨は、Tu-22Mの行動範囲が広いため、自衛隊艦船に防護されていない商船に対する攻撃を迎撃する手段はないと言っているように思えます。
その意味では読み違えであるように思えます。

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SAM戦術・対SAM戦術」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
最後の「自衛隊に外洋におけるTu-22Mの迎撃手段はない」ですが、(うろ覚えではありますが)元記事の主旨は商船隊の防空ではなく、単に長射程のASMを搭載するTu-22MにアウトレンジされてしまうSM2搭載イージス艦の能力の限界を指摘したものだったように記憶しています(母機を撃墜できなきゃダメだろ的なニュアンス)。記憶違いであれば申し訳ありません。

作家の吉川潮氏は、北朝鮮に関して次のように語っている。
「パチンコ屋の年間売り上げは約20兆円、器機メーカーなどの関連企業を含めると30兆円産業と言われる。
泡銭が儲かるので昔から脱税する不心得な経営者が後を絶たない。
さらに、経営者には在日朝鮮人が多く、連中は利益の一部を北朝鮮に送金している。
その金が軍事政権を支え、核ミサイルの開発や製造に使われている可能性がある。
パチンコ屋で金を落とすと、その一部が日本国民、つまり自分たちを脅かす核兵器に使われるのを愛好家は承知しているのだろうか」
韓国のようにパチンコを国が禁止すれば、北朝鮮への資金の流出を断ち切ることができる。

 お邪魔します。

 この対艦弾道ミサイルなんですが、開戦第一撃で在泊艦艇を狙ってくるような使い方は考えられないでしょうか?

はじめまして。
レーダーの処理負荷が高いのは分かりましたが、それが問題になるレベルだとは証明されてませんよね。
おぶいぇくとは間違っていないと思います。

なんでMD対応艦1隻が水平迎撃まで全部やらされる想定なんでしょうか?
単独行動しなければいいだけの話ですし実際単独行動はありえないでしょう。
米空母機動部隊であれば当然艦載機による防空網も構築されるわけで相手が一方的に飽和攻撃を仕掛けられる機会などそうそう無いでしょう。

そもそもの時点で対艦弾道弾は相手が戦闘速度を出している艦隊と想定すると発見から発射、着弾までの時間で目標が軽く数10kmは移動してしまい命中どころか至近に落とすことさえ困難な代物。
となれば迎撃の必要すらない。
まさか弾道飛行の途上で目標情報のアップデート受けて軌道変更を行い落下速度を維持したまま断熱圧縮による加熱に耐えるセンサーを使って目標を識別し正確に敵艦に突入する、なんて超絶技術を中国が保有しているとかお考えで?

さらに言えば宇宙を横切る弾道弾を途上で発見・迎撃する任務と違い防空艦艇自身が目標となっているならレーダーなど使わなくても赤外線センサー使えば容易に敵弾を発見できますよね?
なにせ大気層を突破してくる段階で敵弾道弾は赤熱化して盛大に赤外線を撒き散らしながら落ちてくるんですから。
仮にレーダーに頼るとしても『敵弾は直上から落下してくる』のが分かってる訳ですから闇雲に広域走査する必要も無い。

結論として対艦弾道弾は無意味です。

こうして見るとASBMの終末誘導って巷で言われてるほどクリティカルな問題ではないかもしれませんね
要はASBMの発射を米軍に悟られさえしなければ、空母が急な旋回や加減速をすることはないわけでして
理想的には単純な予測射撃だけで命中弾を出すことができます
結論としてASBMは無意味ではないです

みづせ@黒書刊行会 様
そうでしたか。
だとすれば、その部分は妥当ですね。

因幡 様
在泊艦艇を狙う場合、ノイズが多くなるので、シーカーにとっては条件はむしろ悪くなります。
ですが、在泊艦艇を狙うのであれば、精度を高めた通常の弾道ミサイルで攻撃できる可能性があります。

その他の方
補足記事を書くことに致しました。
もうしばらくお待ち下さい。

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