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2013年2月10日 (日)

レーダー照射事件とESMの重要性

前回記事「レーダー照射問題における高度な政治判断」に対する補足記事です。

電子戦の最も一般的な分類、ESM、ECM、ECCMの内、その意義や効果が最も理解されないのがESMです。

前回記事へのコメントとして、日本にESMの能力があることを中国も承知しているのだから、日本が中国のレーダー特性を知っていることを知っているのでは、
あるいは、ロックオンされて警報を発するレーダー警戒装置なんて装備として当たり前との意見を頂きました。

しかし、レーダー警戒装置があれば、それだけで警報を発すると思うのは間違いです。

ESMにも2種類あるからです。
一つは、レーダー警戒装置等が警報を発すること、そして、もう一つはレーダー警戒装置が照射を受けたレーダー波と比較対象とするためのレーダーデータを、それ以前に収集してデータベース化しておくことです。
ESMとして、特に大切なのは、後者の方です。

普通は、火器管制レーダーのデータを収集させないため、射撃訓練等は、敵国によってデータ収集されない空間・時間において行ないます。
それを敢えて収集するため、日本の場合は、YS-11EBやEP-3を上空に飛ばして、標的である火器管制レーダーの捜索範囲の遥か遠方から収集(レーダーの捜索範囲は一定でも、レーダー波自体は、それより遠距離に飛んで行きます)するか、あるいは潜水艦を訓練海域に侵入させ、ESMマストを使用して潜行したまま収集させます。

更に、これらのデータは、空自であれば、電子戦訓練隊等が解析しなければ、火器管制レーダーのものなのか、火器管制レーダーであっても、ロックオンした状態なのか等までは分かりません。

ちなみに、火器管制レーダーを目標に向けて照射すること=ロックオンであるとか、火器管制レーダーで対象を補足する前段階における捜索レーダー的運用でもロックオン時と同じレーダー波が出ているとの認識は誤りです。

レーダーの型式によって異なりますが、火器管制レーダーであっても、大抵少なくとも3つの段階の作動モード(捜索-粗追随-精追随(ロックオン)等)があり、PRF(繰り返し周波数)、送信出力(ピーク、平均)、パルス幅等が変わります。(もちろん捜索レーダーでも同じです)
これに加えて、天候によるクラッタ状況や妨害電波の存在の有無などに応じて、周波数ホッピングやスペクトラム拡散の技術が、選択的に使用されたり、されなかったりします。

つまり、レーダー警戒装置が警報を発し、今回のように現場で火器管制レーダーを照射されていることが即座に認識できるためには、これら無数の場合分けに応じた膨大なレーダーデータの集積(これこそがESM)が必要な訳です。

これらは、プロとすれば常識的な事実ですが、軍事評論家であっても理解されていない
があります。

前回記事では、
「今回の公表は、自衛隊が照射を受けたレーダー波を、火器管制のための諸元で発信されていることを、自衛隊がデータとして把握していることを暴露してしまいました。」
と書いただけだったので、はなはだ分かりにくかったようでしたので、今回の補足記事を書きました。

今回の公表によって、ハード的に変えられないものはともかくとして、中国軍は変更可能なレーダー運用要領は変更するでしょう。
潜水艦が危険を冒して収集したデータベースがパーになりかねない訳です。

また、更なる公開により、レーダー電波の解析結果を公表すれば、更なる危険も考えられます。
レーダー照射:日本政府、証拠公開へ」(毎日新聞13年2月9日)

護衛艦が受信したレーダー電波の解析結果を公表すれば、「自衛隊の分析能力を知られてしまう」(防衛省幹部)との危惧は強い。小野寺氏も「出せるデータと出せないデータがある」と語る。


ビデオは問題ありませんが、レーダー波の解析結果は、絶対に公表してはなりません。
なぜなら、自衛隊の解析が完璧なら問題はありませんが、少しでも誤謬があれば、中国側として、日本の解析能力の”限界”が確定的に分かってしまうためです。

レーダーの解析結果なんて、どうせ一般の方には意味不明ですし、前掲報道にもあるとおり、どんな証拠を突きつけたところで、「中国は絶対に自分の非を認めないだろう」(官邸スタッフ)と言う見込みがある以上、レーダー波の解析結果は、非公開とするか、さもなければ、中国からしたら明らかにデタラメであると分かる本当のデタラメを公開したらいいのです。
中国は、本物であってもデタラメだと言い張るに決まっているのですから、最初からデタラメを公表しても結果は同じです。(国家としての誠実性の問題は、第3国の専門家からすれば明らかになってしまいますが)

今回同様の野放図な電波照射が、過去にも行なわれていたのかについては、確かな情報がありません。
継続して野放図であったのなら、確かにデータは取り放題だったでしょうから、そのデータには、それほど重要性があるとは言えませんし、この記事は妥当でないという事になります。

しかし、普通は、おいそれと火器管制レーダーを照射することなどありませんし、もし行なうとしても、レーダー諸元を簡易なモノにごまかすことを行ないます。
今回の事象が、今回1回だけだったとしても、3分も照射を続けるなど、中国軍のレベルが低いと断ずるには十分ですが、これを過去から継続していたのであれば、中国海軍のレベルは、夕刊ゴシップ紙が書くように近代海軍のレベルにはないと言えます。
私には、そこまで中国軍がマヌケだとは思えません。

同じ事を自衛隊が行なったら、間違いなく処罰モノです。注意では済まされず、なんらかの懲戒処分でしょう。
中国艦艦長の人事(軽処分で済むか、文字通り首が飛ぶか)が分かれば、中国海軍のこの問題に対する認識が分かって面白いと思われます。

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火器管制レーダー照射事件」カテゴリの記事

コメント

 ESM(ES)に関して、分かり易くまとめて下さって感謝です。大変勉強になります。
 その上で補足のような憶測のようなお話になるのですが、まず電波は物理学的制約から、使用目的で電波の周波数も特性も非常に限られます。「火器管制レーダーであっても、大抵少なくとも3つの段階の作動モード(捜索-粗追随-精追随(ロックオン)等)があり」と仰られてますが、電波にそうした制約があるからこそ作動モードが明示的に分かれている訳でもあります。前後の状況も重要で、常時発信してる電波であればそれだけで除外できますし、ある時突然電波を発すればそれだけで特異な監視対象です。その場で照射されて「何がしたいか全く分からない」ということはまずないでしょう。おおよその推測は成り立つ筈です。それだけに勿論偽装も簡単ですけどね。後方で分析が必要になるのは詳細を分析して確定するためだと考えます。
 一方で数多さんの仰るとおり「レーダー警戒装置が照射を受けたレーダー波と比較対象とするためのレーダーデータを、それ以前に収集してデータベース化しておくこと」も大変重要です。それがあれば電波を照射されただけで相手を特定できるようになりますし、それに加えて有効なECMを構築する上でも大いに役立つでしょう。ですがロックオンされたかどうかの判定では、データベースは解析の手間を簡略化する一助にはなるでしょうが、それが無いとロックオン判定が全く出来ないというものでも無いと理解しています。
 今回のロックオン公表を問題視するのは「NOLQ-3が主要周波数帯を傍受する能力があることを暴露してしまった」レベルのお話だと思います。理由もなく積極的に公表すべき能力ではないのかも知れませんが、必死で隠さなければならない能力でもないと考えます。例えば大韓航空機撃墜事件での陸自の傍受事実などとは、機密性において格段の差があるかと思います。

だ 様
事前のESMによるデータがない場合、何がしたいかは、ほぼ分かりません。せいぜい周波数と受信強度が分かる程度です。
艦船の場合、それなりの分析能力もありますが、照合するデータが無ければそれも不可能です。熟練のオペなら、推測程度は可能だと思いますが。
分かりやすいのは、戦闘機の警報機ですが、インターフェイスは簡単な音と方位表示くらいです。これは、器材がデータと照合した結果発生させます。データがなく、周波数だけで判断するような状態だと、誤報が鳴りっぱなしになります。
データなしでは、ロックオンの判定もできません。(イルミネータが別のレーダーで行なわれるシステムの場合、イルミネータは周波数が異なるため、イルミネータによる照射を受けた程度は判定可能です)

2次大戦当時のレーダーは別ですが、現在使用されているレーダーは、ECCM能力を持たせるため、かなり広い周波数帯域を使用できることが普通です。
ですので、データなしでは、警報装置の類は、ほぼ無力です。

電波探知妨害装置は、各種レーダーに対応できるよう広帯域対応になっていて当然なので、周波数対応が可能なことがバレたことは、ほぼ問題にはならないと思います。
今は、レーダーの帯域くらいは公表されているケースも多いくらいですし。

対韓航空機撃墜事件の傍受は、自衛隊がマメであることを示した以外は、生(暗号化されていない)ボイスの傍受などは、各基地周辺でマニアの方が航空無線を聞いている程度の話なので、それほど重要な機密ではなかったと思います。

これらのデータは、空自であれば、電子戦訓練隊等が解析しなければ、火器管制レーダーのものなのか、火器管制レーダーであっても、ロックオンした状態なのか等までは分かりません

とあるが・・これは無いです。
読み方の相違なのかもしれませんが、筆者が述べるロックオンした状態がわからないのであればこの機器の存在・防衛上意味を成しません。
ロックオンした状態で警報を出さなければ対処できないのです。
空自を含め空軍の事は詳しくわかりませんが作戦機にもついておりロックオンされた時点で警報がなりますよね。
水上艦に対しても同様な訳です。
ただ火器管制レーダーにも照射パターンがその機器によりあり、こちらのデータは専門機関において分析対象になるということです。

と 様
単純な誤読でしょう。
これらのデータは……の部分は、その前で述べた2種類あるESMの内の後者「レーダー警戒装置が照射を受けたレーダー波と比較対象とするためのレーダーデータを、それ以前に収集してデータベース化しておく」ためのデータ収集の部分です。

この生データから、特徴を抽出してレーダー警戒装置等に照合用データとする部分は、電子戦訓練隊(空)、電子情報支援隊(海)が行います。
それがなければ、警報装置は警報を発することはできません。

大学教授の中に「冷戦時代、米ソ間では相当際どい照射合戦が行われていたようである」と言っている人が居ますけど
マユツバですよね。

メリッサ 様
私も、その時代の実態は知りませんが、おそらく冷戦初期では、電子戦が極めて重視されるようになった現代と比べ、野放図に電波照射はしていたと思われます。
冷戦初期では、航空機にせよ艦艇にせよ、ESM器材はそれほど積まれていませんでしたから。
その時代の話ではないでしょうか。

>数多久遠様

なるほど、冷戦時代は長期間ですから
初期と後期では、様子が違うのが当然ですね。

韓国海軍駆逐艦広開土大王が自衛隊機にレーダー照射をしましたが、それに対する日本政府の対応についての評価が聞きたいです

以前いずもの改修について意見を聞いた者です 様

韓国艦によるレーダー照射への日本政府の対応は、適切なものだったと思っています。

射撃管制レーダーを向けることは、明らかな敵対行為です。
それに対して抗議を行う事は、国家間どうしの関係がどうあれ、当然のことです。

この抗議に対して、韓国が開き直ったことは、日本政府としても予想外だったかもしれません。
韓国が、むしろ日本の哨戒機が危険行為を行ったと主張した以上、それに反論を加えるのは当然です。
だれもが理解できる動画を公開したことは、非常に適切だったと思います。英語字幕くらいは付けた方が良かったと思いますが。

ただ、これ以上は、もう必要ないと思います。
韓国政府が、交渉に値しない存在だと明らかになりましたし、日本は言うべき事はいいました。

それにしても、韓国は、よほど見られたくない活動をしていたのでしょうね。

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