北朝鮮ロケット迎撃の垂直面評価
いよいよ、北朝鮮によるロケット打ち上げが近づきました。
春の打ち上げの際には、琉球新報が当ブログの記事をパクって頂いたりと、なかなか盛り上がりました。
「琉球新報にパクられた~!_2012北朝鮮「衛星」発射」
で、水平面での防護可能性については、一連の記事で書いてしまったので、今回は垂直面での検討をしてみたいと思います。
(水平面での防護可能性については、記事を探すのがめんどいので、前掲のリンク先よりしばらく前の記事をいくつかご覧下さい)
まず、迎撃対象が何かですが、ほぼ予定通りに飛行し、途中で燃焼が止った結果、先島方面に落下するとした場合、落ちてくるのは次の画像の赤丸で囲まれた部分、第2段ロケット以上の部分です。(第1段は分離して黄海に落下。第1段での不具合や分離不能な場合は、日本まで届きません)
Copyright Fabe27 2009/5/30 wikipediaより転載の上加工
この部分が落下してくると予測された場合、まずイージスSM-3が迎撃します。
その際に、どの程度目標を破壊できるかですが、目標は第2段ロケットが高さ8m、第3段が6m(by wiki)もあります。重量は不明ですが、テポドンの全重量から推定すると、10t程度と推定されます。
対するSM-3のキネティック弾頭は、重量わずか23kgしかありません。速度エネルギーが大きいため、エネルギーとしては大きい(約125メガジュール。目標の速度も大きいため、実際には更に高い数値となる)ですが、その多くは瞬時に熱エネルギー化してしまい、全高14mを越えるロケット全体の破壊は不可能と思われます。特に当たり所と衝突角度によっては、目標を2つに分断するだけになってしまう可能性もあります。
ですが、ロケットに回転モーメントを与えることは間違いなく、ロケットが大気圏内に再突入した際、空気抵抗による飛翔速度低下による飛翔距離の低下と摩擦熱による弾体の破壊で内部の危険な非対象ジメチルヒドラジンが燃焼・拡散してしまうことは確実です。
そのため、先島に落下する予測がされていたのでしたら、その北方海域に落下しますし、ヒドラジンが地表まで届く可能性は低いと思われます。
次にSM-3による迎撃が失敗し、宮古島あるいは石垣島に落下してきた場合のPAC-3による迎撃を考えてみます。
この時、目標であるロケットの速度は、飛翔距離からしてマッハ9程度だと思われます。
対するPAC-3の速度もマッハ5を越えますが、重量は320kg以下(ロケットモータの燃焼分は重量低下)です。推定重量10tのロケットからすれば、3%でしかありません。こちらもSM-3と同様に、ロケット全体を破壊するには小さすぎます。
そのため、このデータを元に、以下ものっっっすごく大雑把な推定をして、PAC-3弾が目標の飛翔経路をどの程度変更可能か推定してみます。
PAC-3弾はロケットに対し速度が55%程度、重量が3%程度だとすると、PAC-3弾がヘッドオンで迎撃した際にロケットに与える速度エネルギーは、ロケットの速度エネルギーの約7.2%です。
実際には、かなりのエネルギーが熱に変化してしまうとはずですが、仮に全てがロケットの速度を減ずる方向で作用したとすると、ロケットの速度は3.7%減少し、マッハ8.67程度になる計算です。
さらにPAC-3が通常2発発射されることを考慮すると、ロケットはマッハ8.34程度に減速させられることになります。
PAC-3が2発とも命中する可能性や、前述の熱エネルギーへの変換のため、実際にはこれよりかなり悪い結果になることは明かですが、一応この数字を画面上に落とし込んで見ます。
石垣市役所に落下するロケットを想定した場合、ちょうどその背後にPAC-3が展開するような配置になります。
そして、石垣市役所に落下するロケットを、仮に20km付近で迎撃した場合のロケットの落下経路を前記速度低下を前提に計算(鉛直方向の加速度は無視)すると、市街地外側の畑付近にロケットを落下させられる計算になります。
吉原小に落下するロケットの場合、迎撃ポイントが近くなるため、小学校をなんとか躱し、海岸付近に落下させられるようになる見込みです。
相手の剣先を、首の皮一枚で躱すようなものでしょうか。
このため、PAC-3部隊は、どの場所に落下する場合は迎撃し、どの場所なら無視するのかという細かいマップを作成し、システムに入力していると思われます。
たとえば、バンナ岳西付近に落下する見込みの場合は、迎撃したことで逆に名蔵中付近に落下することになるため、迎撃しない方が適切だということになります。
これは、先日のハマスのロケットを、イスラエルのアイアンドームが迎撃した時と同じです。
ただし、微妙な場合は迎撃した方が適切です。
なぜならSM-3の場合と同様に、迎撃することで毒性を持つヒドラジンを上空で拡散・燃焼させてしまえるためです。
上記は、かなり粗い計算ですが、自衛隊はもっと綿密に、同様のシミュレーション(自衛隊では見積もりという事が多い)を行ない、計画を立案しています。
今日の報道によると、発射が若干遅れるようですが、万が一どころか、億に一で落下して来た場合は、確実に対処してくれることを期待しましょう。
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何事も無く、ホッとしてます。
PAC3部隊等自衛隊の皆様、九州から派遣されてきた警察の皆様、警戒態勢に入っていた石垣市消防の皆様、ありがとうどざいます。お疲れ様でした。
投稿: 野底マーペー | 2012年12月12日 (水) 16時11分
野底マーペー 様
お久しぶりです。
何事も無くて何よりでした。
しかし、尖閣問題だけでなく、このロケット打ち上げでも、先島と沖縄本島の方では、感覚の差異ができてしまったかも知れませんね。
投稿: 数多久遠 | 2012年12月13日 (木) 00時30分