メディア・リテラシーと日本がからむ領土問題のアメリカでの報道
アメリカメディアでの尖閣や竹島についての報道に、日本メディアがセンシティブになっています。
「米メディア 揺れる「尖閣論調」 NYT「日本の戦利品」に総領事館反論」
(zakzak12年10月4日)
日本の立場がしっかりと報道されるよう、アクションを取って行く必要はあると思いますが、アメリカでの報道に一喜一憂する日本人の姿は、メディア・リテラシーの点で、非常に情けないです。
メディア・リテラシーは、一般に情報を主体的に読み解く能力と理解されます。
欧米では、学校のカリキュラムになるくらいに一般的で、持っていて当たり前だと言えます。
ですが、日本では、報道は公正で無ければならならず、公正であるはずだとの認識が強いためか、メディア・リテラシーの必要性が説かれることは、欧米に比べて非常に稀な気がします。メディア・リテラシーを、情報を受け取る側ではなく、情報を発信する側に、強く求めているとも言えます。
だからこそ、前掲記事にあるニューヨークタイムズの記事が、中国寄りの間違った記事であるとして、憤るような報道がなされるのでしょう。
一方で間違った情報に基づいて日本を批判する報道や論説もある。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は先月19日、尖閣諸島について「中国の立場に同情を感じる」との記事を掲載した。
しかし、日本と違い、情報を受け取る側のメディア・リテラシーが教育されているアメリカの報道ですから、この記事自体を、それほど脅威と考える必要はないと思います。
記事は台湾の研究者の投稿として掲載され、日中の記録を引用しながら「日本が1895年に(日清戦争の)戦利品として事実上、中国から島々を奪った」などと主張。一緒に掲載された著名コラムニストのニコラス・クリストフ氏の論説は「日本の学者は反論を」と促した。
クリストフ氏はこれまでも日本を批判する記事を数多く書いている。妻は中国系3世の作家、シェリル・ウーダン氏。
台湾の人間が書いた物が、投稿として掲載されただけです。
このブログの記事も、たまにYahooのニュースにリンクが貼られたりすることがありますが、それと大差ない話です。
これを読むアメリカ人とすれば、中国・台湾寄りの内容であることを、当然と理解した上で読んだはずです。
ただし、こう言った動きに対抗措置を取って行くことは必要です。
ニューヨークの日本総領事館は2日、「尖閣諸島は日本固有の領土。歴史的にも国際法上も疑いがない事実だ」との反論を川村泰久首席領事名で投稿した。
ですが、こんな方法ではダメです。
メディア・リテラシーの浸透したアメリカで、日本政府の役人が何か言っても、役になど立ちません。
金を使ってもいいのです。
金を払い、アメリカ人の研究者か、悪くても日系人に投稿記事を書かせたら良いのです。
大使館で振る舞われるワイン1本分くらいで、その程度記事を書かせることは容易い話でしょう。
メディア・リテラシーを分かってないのは、一般人も外務省の役人も同じであるようです。
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自分の場合は
古代ギリシャの地図にエジプトが描いてあったら、エジプトはギリシャの領土って事になるのか?
海洋国家である日本と、大陸国家である中国は、少なくとも1700年前から海上交易してるんだから
数世紀前の中国の地図に、海上交易のルート上の日本の島が描いてあっても何の不思議も無いでしょ
それが中国の領土になるって論理を貴方は受け入れるのか?
と説明したら (史実や領有権をめぐる論点とはズレた部分のある説明ではあるんですが)
相手の西洋人は(概念的な意味で)物凄く納得してくれたんですが
英語圏の人が理解しやすい、西洋史に例えた、簡単な3段論法を色々と用意して活用するのも良い手だと思います
投稿: 日本酒命 | 2012年10月10日 (水) 02時23分
中国が意図的に誤った理解を広めようとゴリ押ししている現状を考えれば、日本政府が公式見解を広める機会は一つでも増やすべきです。大人気ないと思えても逐一『公式に』反論すれば、それは一次情報足りえます。一次情報を取り上げられる機会が増えれば、それは当然学者やジャーナリスト、知識人がそれに触れる機会が増えると言うことです。彼らは否応なく中国政府の公式見解とそれを比較せざるを得なくなるでしょう(彼らは仕事上一次情報を重視します)。そうなれば日本政府と中国政府のどちらが正しいかは明白ですので、良心的な人なら次は自らの判断を自分の意思で発信するようになります。どうせ金を出すなら、そうした人たちの行動を見て助成金や研究費を援助すればいいと思います。
投稿: だ | 2012年10月10日 (水) 05時06分
アメリカ人はとかく(実際には自分は理論的ではないにしても)、理論的な展開を好みますから、日本酒命さんのおっしゃる三段論法やださんのおっしゃるように一時情報を提供するのも効果的だと思います。
オムニーVSオバマ討論会で、オバマが的確な反論が出来なかった。オムニーの方が論理的だったというだけで、一気に支持率5ポイントも変わって逆転ですから・・・・。
ところが、オムニー支持に転向した人たちの多くは、つい10日ほど前にオムニーは国民の下位48%は切り捨て(俺の知ったこっちゃ無い)」と言った事はもう忘れてる。
「下位48%(失業者・低所得者層)は俺の知ったこっちゃ無い」と言った人が「失業率を低下させる効果的な政策」を唱える矛盾には気が付いていないが、二者討論会でロムニーの方が論理的で効果的な政策案を持っていると感じると、いきなり支持率が変わる。(つまり『論理的』なのではなくて、『論理的だと感じる事』が好き)
日中の尖閣問題で言えば、中国側はなにかと理由を述べて説明しているけれど(その理由が理に叶っているかどうかは別として)、日本側は一貫して「領土問題は存在しない」(でも実際にクレームが付いているのだから事実上存在している)、「説明する用意がある」(だったら説明しろよ!)
人が話してる最中にそれをさえぎってでも自分の論理を主張する討論を見ても、『沈黙は金』『沈思黙考』は全く伝わらないと思います。
沈黙は金、主張はダイヤモンドなんですよね。
幾田さんの書かれているように、アメリカの視聴者・読者は論説と報道をきちんと分けている感があります。
テレビなどでも『知識人』『専門家』(どこまで知識人かは別として)が出て日本で言うニュース解説みたいな番組と報道(ニュース)は、カラーも番組構成もはっきり違いが出ているので、報道番組は見るけれどニュース解説は見ないという人も多いと思います。(新聞も)
ただ、片や「こういう理由を持って我々は尖閣が中国の領土だと主張している」とあちこちで持論を披露し、片やいつまで経っても「領土問題は存在しない」「日本の領土であるという事を説明する準備がある」では、どう見ても分が悪いです。
投稿: 純@LA | 2012年10月10日 (水) 06時58分
PS
> どう見ても分が悪いです。
個人的な感覚では、上記の理由(片や論理展開、片や『大人の対応』)では、2:8論理展開(内容はともかく)有利となると思いますが、幸いな事に中国は尖閣とは無関係な米国民調査で「信用出来ない国、信用出来ない国民」の上位入賞で、日本は「信用できる国、信用できる国民」の上位入賞。
これが幸いして、現状では何とか4:6中国というところでしょうか・・・
多分、激しい論理展開になって「どっちもどっち・・・」になった時点で、「日本人は信用出来るからきっと日本の論理の方が正しいんだろう」という4:6日本に落ち着くような気がします。
投稿: 純@LA | 2012年10月10日 (水) 07時14分
PS2 お願い
欧と米をひとつにまとめないで頂きたいんです。
(強い書き方になってしまってますが、語感ほど強い意味はありません)
感覚的には勿論理解できますし、文化・風習などを語る時に洋の東西を英語でも一般的に使います。
(ただし、Western World=西洋諸国 には一般的な感覚としてスラム圏や共産圏・後発独立国などが含まれず逆に豪州が含まれる事もありますから、『欧米』とはちょっと語感が変わってきます)
実際に欧と米を比べると、文化も政治形態も風習も経済も(教育も)、特に軍事面などでは大きな違いがあると思います。
例えば、ルーマニアとアメリカはやはりひとつのカテゴリーとして一緒に出来る国ではないと思いますし、デンマークと米、ポルトガルと米も同じカテゴリーの国にはならないと思うのです。
ロシアやグルジア、トルコが欧米に含まれるかどうか?という事も出てくると思います。
欧米という呼び名は一般的ですし、明治以来長い間使われ続けた言葉で、どんな分野でも広く使われている用法だとも思っています。
ただ、幾田さんやこちらで拝見する諸氏のような知識人が、欧と米をひとつにまとめた『欧米』という単語を使われるのを拝見すると、ちょっと違和感を感じます。
決して、「米を欧と一緒にするな!」とか「欧は嫌いだ!」という感情は全くありません。
(米国民の信用できる国、一番身近な国の堂々第一位は英国です)
ただ、全く違う欧と米を一緒にすると、見えるものが見えなくなって来る危険性を懸念する所存から、こちらの方々ならご理解頂けるかと、たまたま今回本文に一度だけ登場したのを機会に余計な一言を書かせて頂きました。投稿趣旨をご理解頂けると幸いです。
投稿: 純@LA | 2012年10月10日 (水) 08時01分
ああ、あの記事拝見しましたよ。http://kristof.blogs.nytimes.com/2012/10/04/the-diaoyusenkaku-islands-a-japanese-scholar-responds/
どうやら、誰か知らんが、貴方と似たようは意見が有り反論しましたけど、感じ的中途半端と想いますね。台湾学者からの論点を回避し、新たの点を出した。選んだの点もかなりTechnicalだし、受けは必ずしも良いと限りませんね。
台湾学者(http://kristof.blogs.nytimes.com/2012/09/19/the-inconvenient-truth-behind-the-diaoyusenkaku-islands/)も見事ですね。実は殆どの論点は指摘(或いは読者は慎重に考え)さえされれば崩れる程弱いだけど、中心に日本がキチンとSurveyしてませんの点を入れた。これだけを反論するのに、あの小さいな写真で的もに読めないから本文の見つけ解釈の弱点を探すが、弱点が無いなら他の文章からSurveyをきちんとした証拠を探さなければ成りません、速答の範疇から離れている。
結局答弁したいなら長い遅延の後返答するが、不完全な返答をするしかありません。これで他の弱い論点にも分似合わない程の説得力を与えた。
投稿: 香港からの客人 | 2012年10月10日 (水) 11時00分
ダブルレスに成って済みません。
@純@LA
本当が?貴方は米国人ので、米国に関して疑問するとはどうかと想いますが、香港から米国を見てる限りの感想を書かせて頂きます。
米国人が大抵な物について中国より日本を信じるのは確かであろう。特にチベットとか南シナ海に巡るの紛争について、中国の主張を信じる米国人は少数でしょう。
だが、1895-1945年の歴史解釈については歴史教育の所為が日本への信頼性が低いと感じてます。米国人は中国人と同調し、日本は戦後反省が足りないと思ってる人間は多い。だから、領土問題について強烈な態度を出ると、「反省不足」や「軍国主義」への疑念は米国からも発信する事に成ります。
だから、Kristof氏の「中国に同情する」の意見は特に反日ではなく、普通の米国人の普通の態度と想います。1895年の戦争を日本の侵略性戦争と認識している以上、これと同時に進んでるの尖閣諸島編入も同じ扱いとは仕方ありません。
@久遠氏
以上の事から、Media Literacyが有るからこそ替えてあの文章に説得力が有ると想います。未知な物に対しの信頼性評価は飽くまで自分の偏見から定量的に行うしかありません。
つまり、日本人は何が言おうと、Media Literacyから補正を加えるべくの思想プラス米国人の偏見なら、何が言おうと無駄かも知れません。
米国人を探したいが、以上の理由から日本の立場に立つの米国人を探すには困難です。実際、米国学者の文章を読む限り、彼奴等は日本の主張をやや否定的で、日本のクーレムの主力を実効支配と判定する事が多く、つまり、日本の正当性はOccupationからよりPrescription(時効)からをしている。こんな学者からの論文は日本にとって良いではありません。
逆に言えば、中国人は中国寄りの発言をしても、米国人はこの話題に限って中国人を信じてるから、減点補正は低いと想います。
投稿: 香港からの客人 | 2012年10月10日 (水) 11時59分
香港からの客人さん
米国内の世論は中国側に傾いている事は同感です。
特に「日清戦争で大日本帝国が奪った」という部分を強調する手法はとても上手いと思います。
だからこそ日本は、通常一般のアメリカ人は興味も無く見た事もないサンフランシスコ講和条約と日米安保、琉球政府返還のデータ(意見は述べず事実と記録のみ)を示すのが、世論コントロールとしては効果的ではないかと思っています。
アメリカ世論としては、1985年日清戦争に対しての中国側の主張よりも、1945年、1972年の米国政府がとった行動の「記録」を支持すると思えるからです。
ただ、それ以前に日本政府がじっと黙り込んでいたのでは何も始まりません。
投稿: 純@LA | 2012年10月10日 (水) 15時16分
PS
日本は戦後反省が足りないと思ってる人間は多い。だから、領土問題について強烈な態度を出ると、「反省不足」や「軍国主義」への疑念は米国からも発信する事に成ります。
一般的な世論として日本政府の戦後の反省不足は同感です。
ただ、軍国主義主義への懸念は無いと思います。
逆に「日本がもっと軍備増強して米国の軍備負担を軽減しろ」と感じている市民が圧倒的と思われます(思いやり予算の事など一般の米国人が知る余地もありません)
国税から70億もする新型機を12機も配置『してやってる』のに、「ヤンキー・ゴーホーム、欠陥機帰れ!」とは何事だ!? 恩知らず!じゃ自国の防衛予算で買え!
というのが『一般的な』米国世論かと感じてます
投稿: 純@LA | 2012年10月10日 (水) 15時34分
日本酒命 様
アメリカ人にとっても、歴史ある国という点で、ほいっと騙されてしまっているところはあるかもしれませんね。
西洋の地理や歴史になぞらえるのは、いい手かも知れません。
だ 様
もちろん、政府が情報発信することを否定するつもりはありません。
ただ、外務省はもう少し知恵の回しようがあるようにも思うのです。
純@LA 様
アメリカ人は、論理的であることも必要ですが、結構、自信ありげな人を信じるという、かなり非論理的な指向もあるように思います。
香港からの客人 様
反論している方もいらっしゃったんですね。
私自身は、尖閣に限らず、領土問題に関して歴史的正当性を述べることにはあまり興味がないので、元の記事も見ておりませんでした。
これは宣伝戦なので、わざわざ敵の論に乗っかって論議するなんてエネルギーの無駄なだけな気がします。
尖閣に関しては、アメリカが日米安保の中で、どのように振る舞うかが重要なため、アメリカ世論は重要だと思ってます。
もっと、金をかけてロビー活動すべきなんですが、外務省の動きは良くないです。
投稿: 数多久遠 | 2012年10月11日 (木) 01時30分
幾多さん
はい、アメリカ人は、内容はともかく論理的に見える人(自信ありげな人)を好むという、とても非論理的な人たちが多いと思います。
日本の国会答弁のように下向いてぼそぼそと原稿を読んでる人たち、内容がどうであれアメリカでは全員落選ですね。
お天気お姉さんさえ自信満々で天気予報してますから、「明日は雨!」と言われるとなぜか雨が降ると信じてしまいます。
投稿: 純@LA | 2012年10月11日 (木) 05時05分
純@LA 様
大統領候補でさえ、時として非論理的な矛盾した発言は少なくないくらいですからね。自信満々ですが。
投稿: 数多久遠 | 2012年10月13日 (土) 13時24分