尖閣上空への無人機による領空侵犯対処
中国が、無人機による尖閣上空の領空侵犯を画策していると報じられています。
「中国、無人機で尖閣領空侵入を計画 米調査機関、領有権主張狙う」(産経新聞12年10月20日)
中国海軍は東シナ海での尖閣諸島を中心とする将来の作戦活動でも、無人機をフリゲート艦あるいは新配備の空母「遼寧」から出動させ、尖閣諸島の日本側が自国領空とする空域にも侵入させて、日本側の活動を偵察させると同時に、尖閣地域での中国側の「領空権」や「主権」の主張を強める効果を意図しているという。
報告はまた、日本側がこの無人機への対応に苦慮し、「日本の現在の憲法の制約下では、たとえ自国の領空侵犯でも外国の無人機を撃墜はできないだろう」との見方を示し、中国側も日本のその制約を知っているため、無人機の尖閣空域への飛行をあまり恐れない、としている。
公船を領海進入させるのですから、航空機だって領空侵犯させるでしょう。
その点では、大して興味をそそられる報道ではないのですが、問題は、法制上無人機の撃墜はできないだろうとしている点です。
果たして、本当にそうなのか、考えてみたいと思います。
まずは、問題の報告書が、本当に”憲法”の制約下と書いているのか非常に疑問です。
それなりの専門家が書いたのですから、憲法は読んだと思いますが、当然ならが憲法には無人機は攻撃してはいけないなどと解釈されるような法文はありません。
自衛隊法には、84条において、対領空侵犯措置について規定しています。
(領空侵犯に対する措置)
第八十四条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 (昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。
問題は、「わが国の領域の上空から退去させるため必要な措置」に無人機の撃墜が含まれるのかです。
対領侵における具体的な措置内容、方法については、次の文書で規定されています。
・「領空侵犯に対する措置に関する訓令」(昭和39年防衛庁訓令第3号)
・「領空侵犯に対する措置に関する達」(自衛隊統合達第5号)
ですが、これらについては、どうでもいい部分しか公開されていません。
(私はどちらも(達は空自達時代の内容)知ってますが、当然ここで書く訳にはいきません)
これらの内容について、良く言われる話としては、正当防衛及び緊急避難に該当する場合は、撃墜できるというものです。
しかし、無人機が、対領空侵犯措置を行っている航空機や、無人の尖閣諸島に対して正当防衛及び緊急避難に該当すると判断されるような飛行態様をすることは、まずありえないと見るべきでしょう。
リーパーのように武装した無人機もありますが、大抵の無人機は偵察目的の非武装ですし、下が無人島では、例え武装していたとしても、緊急避難と判断することには無理があります。
しかしながら、これらは過去のほぼ有人機しかなかった時代の情報ですので、最新の訓令及び達では、無人機を撃墜してもよい事になっている可能性もあります。
国際法上は、民間機でないことを確認していれば、撃墜しても問題ありませんし、無人機を「退去させるため必要な措置」としては、堕とす以外に方法があるとも思えませんから、国内法上も、決して無理のある解釈ではないと思われます。(憲法9条に自衛隊が抵触していないと解釈するより、余程自然な解釈です)
もし、訓令・達が無人機を堕とせることになっていないのであれば、それこそ防衛省と内閣法制局の協議だけで処置できることなのですから、早急に行うべきです。
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>それなりの専門家が書いたのですから、憲法は読んだと思いますが、当然ならが憲法には無人機は攻撃してはいけないなどと解釈されるような法文はありません。
如何に読み返そうでも日本政府の解釈と合わない所が、論理パターンすら解読出来ないから、思考停止して、日本政府の現解釈を鵜呑みにしているではないでしょうが…
現解釈なら、3要件、特に必要性が問題に成るですね。プライドや領土の概念的な物は兎も角、実害が無いし、実害を与えるのは必要性に満たすがどうか…
=
>もし、訓令・達が無人機を堕とせることになっていないのであれば、それこそ防衛省と内閣法制局の協議だけで処置できることなのですから、早急に行うべきです。
真に気の毒と思うんですが、あの「正当防衛・緊急避難」の解釈は既に国会答弁で出しており、最早政府の意志だけで変えられる物出はないと思う。
それに、「着陸」と「退去」だけで撃墜と必ずしも繋がる物出はない。
最後に、仮に解釈を変更出来るとして、有人機も撃墜しなければ整合性が足りないと思うんだけど。
寧ろ、比較的若く(つまり、答弁で下らない解釈を受けた回数が少ない)、既に拡張解釈されているの第82の3条に頼る方が現実だと想います。
現在「弾道ミサイル等」の「等」は「落下するの衛星」の様な、「弾道」を乗ってくるの物と示しているらしいが、これをいじって、「等」=「無人」と強調する事ができないでしょうが?
投稿: 香港からの客人 | 2012年10月25日 (木) 13時07分
>「日本の現在の憲法の制約下では、たとえ自国の領空侵犯でも外国の無人機を撃墜はできないだろう」との見方
これは見当違い以外の何物でもないでしょう。
撃墜しても人命に係わらないので、有人機撃墜よりも遥かに敷居は低いです。
無人島上空なら、撃墜してもその事実すら明らかにする必要がないのでは。
事実が知られることはない可能性が高いし、仮に指摘されてもいくらでシラを切れます。
投稿: | 2012年10月25日 (木) 13時21分
無人機は爆弾搭載による自爆や有害物質の散布などの可能性も否定できないので、定義的には巡航ミサイルとの区別が難しいと思います。極端な話、無人機と確認された時点で撃墜もありえると考えます。訓令、もしくは閣議決定レベルで容易に対処できる話ですので、こういう話(無人機による侵犯)が出てる以上、日本政府には事前に必要な準備(決定)を行ってほしいものです。
投稿: だ | 2012年10月25日 (木) 16時25分
「弾道ミサイル等に対する破壊措置」は使えないでしょうか?
弾道ミサイル等は隊法82条の3に
弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。
とあります
無人機は航空機ではないという判断が必要になりますが・・・
航空法第2条に「この法律において「航空機」とは、人が乗つて航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機及び飛行船その他政令で定める航空の用に供することができる機器をいう。 」
とありますので、無人機は航空機にあたらないという解釈も可能なのでは?
投稿: SUS | 2012年10月25日 (木) 17時44分
香港からの客人 様
国会答弁は、その時、聞かれたから答えたのであって、その後になって「実はある時点で考え方を変えていた」などという答弁がなされるケースはありますから、既に変えられている可能性さえあります。
ただし、私も強引な解釈論は嫌いです。
立法(国会)の不作為の尻ぬぐい(解釈変更)を、行政(政府)にさせることは間違ってます。
おっしゃるとおり、有人機も撃墜するようにすべきです。
弾道ミサイル等については、括弧書きで「航空機以外のものをいう」と明記されてしまっているので、さすがにこれの解釈で無人機対処することは難しいと思います。
まあ、それでも自衛隊を戦力としないよりは、まだましだと思いますが……
名無し 様
もちろん、政治的には敷居が低いですが、それが同時に法的に敷居が低いことには、残念ながらならないでしょう。
また、しらを切るほどの度量が政府にあれば、私も大分安心できますが、解釈変更以上に敷居が高い方法だと思います。
だ 様
洞爺湖サミットの時に、自衛隊がかなり動いてましたから、あの時等に変更されていた、という可能性はあると思います。
SUS 様
弾道ミサイル等については、上で香港からの客人様にレスしたとおり、明確に除外されていますので、無理でしょう。
航空法における航空機の定義ですが、2条には、確かに「人が乗つて」とあるものの、87条に「無操縦者航空機」として記載があるため、無人機はこの規定による航空機ということになります。
もっとも、航空法における定義が、そのまま自衛隊法でも通用する訳ではありません。普通は齟齬しないように法令を作るモノですが、実際には法令間で齟齬があることはあります。
投稿: 数多久遠 | 2012年10月26日 (金) 02時39分