H25概算要求-その1_宇宙関連
もう大分前の話になりますが、25年度の防衛省概算要求資料が発表されています。
我が国の防衛と予算-平成25年度概算要求の概要
その中から興味深いモノを、何回かに分けてピックアップして書きたいと思います。
第1回目としては、宇宙関連を取り上げます。
25概算要求では、初めて「宇宙状況監視に関する取組」という施策が盛り込まれました。
BMD対処能力の向上、自衛隊が利用する衛星の防護及び日米協力等の観点から宇宙状況監視※の実施を視野に入れた検討を推進
※宇宙状況監視:衛星、スペースデブリ等を発見及び識別し、軌道情報を確定してデータベースに登録し管理するとともに、その情報に基づき監視を行う活動
多くの方にとって、何のために何を行うのか、良く分からない施策でしょう。
この施策には、2つの事件が契機となっていると思われます。
一つは、2009年4月の北朝鮮によるミサイル発射の際、FPS-5が衛星軌道上の物体を探知し、それを弾道ミサイルと誤認して誤警報を流してしまった事件
もう一つは、今年2012年の北朝鮮によるミサイル発射の際、2009年とは逆に、誤警報を恐れるあまり、必要な警報を早期に出すことができなかった事件
これらの事件を契機として、ミサイル警報を出すための情報収拾を、より正確にする必要性に迫られた(政治家に怒られた)ものと思われます。
具体的な施策としては、2009年の誤報時に記事「誤報の原因と課題」で指摘したとおり、スペースデブリ等をデータベース管理し、FPS-5等で捕捉した航跡データと照合することで、誤警報を減らすことがあります。
また、このデータベース化とその照合には、副次的にFPS-5等の探知性能を向上させる効果もあります。
フェイズドアレーレーダーは、新たな反射波を捕捉すると、その目標の移動を確認して航跡として確立するため、最初の反射波周辺に多数のレーダービームを打って、2回目、3回目の捕捉を行おうとします。
ところが、レーダーがデブリまで捕捉できるほど高性能だと、デブリの捕捉と確立でレーダーが手一杯になってしまい、本来捕捉すべき弾道ミサイルの捕捉が遅延してしまいます。
データベースがあれば、最初からデブリの位置をマスク処理することで、レーダーの処理負荷が軽減し、本来の目標である弾道ミサイルの捕捉性能が向上するのです。
また、このデータベース化により、中国の衛星攻撃衛星が機動を始めたことを察知できるため、目標となっていると思われるわが国の衛星に、回避機動を採らせることが可能になります。
このために「自衛隊が利用する衛星の防護」の文言が入っているのだと思われます。
しかしながら、日本単独でこれを行う事は、はっきり言って非現実的です。
日本が保有するレーダー等の探知範囲が、日本周辺に限定されるからです。
そのため、概算要求資料でも「日米協力等の観点から検討」とされているのでしょう。
この事は、概算要求に「赤外線センサーの衛星搭載に関する研究」が盛り込まれていることも関係します。
これについては過去記事「日本独自の早期警戒衛星は不要だ!」で詳しく書いたので、そちらをご覧下さい。
私は、この事業の必要性を、2009年の誤報時に前掲記事で指摘したくらいなので、正直防衛省の動きは遅すぎるようにも思っています。
ただし、これらの動きを防衛省単体で行う事は予算執行上非常に不効率です。
そのため、JAXA法の改正によって、JAXAを防衛のために動かせるようになることを待っていたのだろうと思います。
概算要求資料では、あっさりと書かれている事業ですが、非常に広範で効果の高い施策だと思います。
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