中国による北極海航路開発の軍事的意図
中国の砕氷船が北極海航路を横断しました。
読売、ロイターは、物流ルートとしての価値と資源開発の狙いを指摘していますが、軍事的価値も極めて大きなものがあります。
「極地開発に狙い…中国砕氷船が北極海航路を横断」(読売新聞12年8月20日)
新華社通信によると、雪竜号は7月2日に山東省青島を出航。同22日までにベーリング海峡を越え、ユーラシア大陸北岸沿いを進み、ノルウェー北部沖のバレンツ海を経てアイスランドに達する航路を航行した。
「中国の砕氷船が初めて北極海を横断」(ロイター12年8月20日)
ロイター記事より
中国が、北極海を軍事的に重視している理由は、次の地図を見て頂ければ、理解できるはずです。
ワシントンD.C.を中心とした正距方位図法(Fland-Aleで作成)
赤い線は、ワシントンD.C.から8000kmの円です。
つまり、今回砕氷船が通過した北極海航路のどこからでも、JL-2(巨浪2号)SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)によって米首都を攻撃できるということです。
(JL-2の射程は、8000km以上と見られています)
北極海は、経済的には未開発の海ですが、1958年に米原潜ノーチラス(SSN-571)が北極点に到達してから現在に至るまで、米ソ(ロシア)が互いに潜水艦発射弾道ミサイルの発射ポイントとすべく、原潜の活動地域としてきました。
海氷に覆われた北極海は、氷との衝突の危険性や、他の海とは異なるソナー特性があり、潜水艦にとって、必ずしも行動しやすい海ではありません。(逆に良い条件もありますが)
ですが、ここで行動できるノウハウを習得しさえすれば、水上艦や対潜哨戒機による対潜水艦戦がほぼ不可能な上、敵潜水艦にとっても、海氷が障害や音の反射源になったり、音波が塩分濃度のばらつきで複雑な屈折をしたり、殊に氷縁部においては海氷同士による接触で音を出すため、対潜水艦船は困難が多く、弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)にとって、格好の隠れ場所になります。
性能が米潜水艦に劣るであろう中国のSSBNが、アメリカを攻撃するため、太平洋のど真ん中にのこのこ出て行くことは、危険性が高い作戦になります。
一方、北極海に入るためには、チョークポイントであるベーリング海峡を通過しなければなりませんが、ここさえ通過してしまえば、少なくとも太平洋よりは安全です。
また、アメリカが弾道ミサイル防衛を行う上でも、中国本土や太平洋方面だけでなく、北極海からも攻撃される可能性がある場合は、警戒の困難性は、飛躍的に高まります。
関連過去記事「脅威の旧式ミサイルJL-1(巨浪1号)」
このように、北極は中国SSBNにとって、新天地である訳ですが、前述の通り、活動には困難が多いため、砕氷調査船による海図作成や海氷観測データの整備が不可欠です。
今回の北極海横断は、通商航路開発や資源開発だけでなく、これらの観測データ取得も目標としていると見るべきです。
なお中国は、難航が伝えられるJL-2(巨浪2号)SLBMの開発も進めています。
「中国が相次いで核ミサイル実験??? 」(海国防衛ジャーナル)
中国は、通常戦力による作戦能力だけでなく、弾道ミサイル開発を始めとした核戦略も着々と推し進めています。
日本のマスコミは、ニュースの経済的側面ばかり見ますが、軍事的観点で見ると、同じニュースでも全く違う価値になります。
ニュースを軍事面で見る目も必要です。
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うろ覚えですが…
最近の世界の艦船で、北極海の氷が少なくなってきており、北極海航路の利用価値が高まっているという記事を読んだ記憶があります。
このニュースもその文脈で考えると、北極海の戦略的な価値も変化してくることが予想され、その意味では、ニュースにおける経済的な側面と軍事的な側面は不可分であると言えるかも知れませんね。
投稿: アルフォンス | 2012年8月23日 (木) 20時37分
たとえAIP・LIB化が成されても海自潜水艦が北極海で行動することは難しいでしょうね・・・
投稿: 名無し | 2012年8月23日 (木) 20時53分
そんなことせんでも潜水艦発射弾道ミサイルのがさらに延伸される可能性のほうがずっと高い気がしますね。
中国近海からぶっ放せるような技術開発を行えばわざわざ北極までいかなくていいですし。
それにアメリカの衛星で潜水艦の数や位置もある程度把握されてしまうのではないでしょうか。
SM3block2Bの開発もはじまってますし、迎撃される可能性も出てきます。
投稿: ナオ | 2012年8月23日 (木) 21時16分
軍事的価値では、ロシアに対するものも大きいですね。
ソ連時代から領土問題で紛争まで起している国ですから、ロシアに対する牽制もあるのではないでしょうか。
ただ、このまま温暖化が続いて、北極航路が実用化された時の物流の変化は極めて大きなものとなるでしょう。
まあ、このまま温暖化が続くかというと疑問ですけどね。
投稿: みやとん | 2012年8月24日 (金) 20時41分
アルフォンス 様
おそらく、中国は経済・軍事両面で考えていると思われます。
戦略的思考ができていることに関しては、うらやましいですね。
名無し 様
氷の下で活動するには、どうしても原潜が必要でしょう。
ナオ 様
もちろん、射程延伸の努力はするでしょうが、ミサイルの弾体が大きくなって、装弾数が減りますし、異方向から攻撃できるというメリットのためには、北極海の価値はなくならないと思います。
みやとん 様
確かに、対ロシアもありえますね。
今のところは仲が良いみたいですが、中国はそのあたりも考えているだろうとは思います。
投稿: 数多久遠 | 2012年8月26日 (日) 18時29分
pdf版(http://para-site.net/up/data/40174.zip)
中華人民共和国の皆様
大韓民国の皆様
朝鮮民主主義人民共和国の皆様
日本政府による北方領土返還に御助力いただけませんでしょうか?
過去の経緯から、皆様方が日本のことを快く思っておられないことは百も承知しております。
しかし、
日本人の一人であるこの私、春九千がこのようなことを申し上げることはおこがましいことは、重々承知の上で申し上げますが、
蒋介石総統はかつて、次のようにおっしゃられたではありませんか。
以徳報怨
もしも、皆様の御助力により北方領土返還を達成することが出来ましたら、
日本人は未来永劫その御恩を忘れることは無いでしょう。
助けてください。日本を。
投稿: 春九千(chunjiuqien@infoseek.jp) | 2013年2月11日 (月) 23時58分