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2012年8月 5日 (日)

低酸素症と航空生理訓練

低酸素症の発生で、運用制限の課されていたF-22ですが、制限の緩和を受け、嘉手納にローテーション配備されるそうです。
F22嘉手納暫定配備へ 不具合対策未完了」(沖縄タイムス12年7月26日)

さて、ちょうどいい機会なので、以前に書くと言っていた低酸素症(Hypoxia)と航空生理訓練について書きます。

低酸素症は、高空を飛ぶ飛行機に搭乗したり、高山に登ったりした場合、あるいは火災や重い気体が滞留した空間に入った場合に発生します。(いわゆる高山病も低酸素症の一種です)
その名の通り、低酸素状態になったが故に生じる症状です。
Ws000000
パイロットのための航空医学 低酸素症より

低酸素症が怖いのは、自覚症状が乏しい事と、知能活動の低下が起こるため、自分が低酸素症になっていることを自覚することが困難なことです。
後で書く低圧訓練の際、私自身が体験した低酸素状態では、ちょっと顔がほてった感じがしたのみでした。
ですが、この時、999から1づつ引いた数を紙に書かされていたのですが、途中から、めちゃくちゃな数字を書き、文字は乱れ、最後は意味不明の線となってました。
もちろん、本人は、ちゃんと書いていたつもりでした。
そのまま、あと1分も低酸素状態が続いていたなら、危険を感じることもないまま、意識を失い、最終的には死んでいたでしょう。

また、航空機操縦に関しては、自覚症状が乏しいだけでなく、意識を保てる時間が、かなり短いことも問題です。
Ws000002
パイロットのための航空医学 低酸素症より

高高度で巡航するとなれば、高度は40000ftくらいになりますが、この高度での有効意識時間は僅か30秒です。

低酸素症は、自覚が極めて難しく、それでいて死に直結するモノなので、非常に危険性の高いトラブルです。

そのため、航空自衛隊では、戦闘機やジェット練習機に搭乗する場合、この低酸素症に対応するための訓練が義務づけられています。
後席に搭乗するだけでも必要なため、部外者がこれらの機体に乗る際にも必要です。(ブルインに乗ったキムタクもやったんでしょう)
この訓練は、航空生理訓練と呼ばれており、その中でも低酸素症に関わる訓練項目は、低圧訓練と呼ばれています。
参考:航空生理訓練及び飛行適応検査の実施に関する達

ちなみに修了者は、こう言うものを貰えます。これがないと、戦闘機等には乗せて貰えません。
Sf017_1_02_2
入間基地HPより

自衛隊には、降下塔・パラシュートでの降下訓練やディッチングトレーナーでの脱出訓練等、危険でかつ強い恐怖感を抱かせられる訓練は、多々あります。

それに比べると、低圧訓練は、ちょっとドキドキする程度のもので、さして怖くはありません。
ですが、実際に死の直前まで行く体験をさせられるという点では、自衛隊の訓練の中でも最も怖い訓練とも言えます。(ちゃんと管理されているので、危険ではありません。事故が起きた話も聞いたことがないです。耳が痛くなる程度は、当然ありますが)

問題の低圧訓練の訓練内容は、100%酸素を呼吸しながら高度36000ftと同程度まで減圧した後、マスクを外し、低酸素の状態を体験させる訓練や、高高度で与圧が壊れた場合を想定した急減圧訓練を行ないます。
Sf017_1_03
入間基地HPより

これを体験すると、低酸素が如何に恐ろしいかが分かります。
私自身も、急減圧が起きて、大きな音がしたり、周囲の空気が霧で真っ白になったのでもなければ、恐らく気付かずに死ぬだろうなと思いました。

また、これを体験すると、戦闘機に乗るということが、如何に恐ろしいものかも分かります。
戦闘機でも与圧はありますが、完全な与圧にすると、機体を作りあげる上でも大変ですし、被害を負った時に、急減圧でパイロットが戦闘を継続できなくなるため、圧力は十分ではありません。そのため、100%酸素の呼吸可能な酸素マスクを着けて搭乗します。
この酸素マスクですが、装着要領が悪く、酸素が漏れるような状態ですと、ただただ移動するだけのフライトであっても、低酸素になって、目的地に着いたときには死んでいたということにもなりかねないのです。

低酸素症というのは、こう言った怖いものですから、F-22がこれだけで飛行停止になったり、運用制限が課されることも、当然なのです。

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コメント

 息苦しいという自覚さえもなく意識低下・失神に至るのですから、即効性の全身麻酔並みですね。パルスオキシメーター(測定器自体はかなり小型)で血液の酸素飽和度をリアルタイムに測定し、低下した時にはパイロットの意識があるうちに警報を出す等の対策は検討されているのでしょうか。

matsuzay 様
パルスオキシメーターは、低圧訓練の際、装着して血中酸素をモニターしながら、訓練を行います。
低圧状態で、酸素マスクを外したとたん、血中酸素が見る間に低下して行く様子は、事前にレクチャーを受けていてもビックリするくらいです。
パイロットに装着させている話は知りませんが、F-22は、こう言う状態ですと、装着させているかもしれませんね。

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