PSI航空阻止訓練の実施と法的枠組み不備
PSI航空阻止訓練が実施されました。
「航空自衛隊千歳基地でPSI訓練」(苫小牧民放12年7月5日)
同記事より
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防護服に身を包んだ道警と函館税関の約20人が貨物検査のため機内に乗り込むと、容器に入れられた放射性物質を探し出して搬出した。
放射能漏れを想定した訓練では、陸上自衛隊の化学防護隊約80人が出動。マスクで顔を覆った隊員たちが、機体やその周辺の放射線を測り、汚染された場所を除去していった。
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海上でのPSI阻止訓練と並び、いざという時のために、実施しておくべき訓練です……が、正直言って、この4日の訓練には、あまり興味がありません。
やるべき事、できる事がはっきりしており、細部の経験を積み上げれば良い内容だけが、実働阻止訓練として行なわれたからです。
では、何が問題かと言えば、この実働阻止訓練でスルーされた事項です。
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訓練では、放射性物質を積んだ民間貨物機が日本上空を通過するとの情報を得て、空自のF15戦闘機が発進したと想定。領空侵入後、基地まで誘導し、駐機場で停止させた。
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フライトプランを提出して飛行する民間航空機を、如何なる権限で、強制的に着陸させるのか、それを空自機が行なって良いのか、良いとしても、実際にどのような方法で行なうことが可能なのか等々、グレーどころか、真っ白(何も無い)です。
海上でのPSIの場合、海保は当然ながら権限を持ってますから、海保が行なえば問題ありませんし、海自が行なう場合も、いわゆる船舶検査活動法(正式名称:周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律)(周辺事態時限定)がありますし、海上警備行動命令は、かなり迅速に発動できる行動命令ですから、実施の根拠は、政府・防衛省としては、迅速に用意できます。
ですが、空自が空においてこれを行なう特別の根拠法令はありませんし、海警行動のような行動(行動命令を受けて行なう行動)もありません。
治安出動が発令されればOKですが、ミサイル関連物資等を積んいるというだけで、治安出動を発令すべき「間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合」に該当するのかと言えば、多分ムリでしょう。
警察庁からの”官庁間協力”を受けて、誘導することは可能です。
ですが、対象機が誘導を無視したとしても、「誘導に従いなさい」と言う以外は何もできません。
フライトプランを受けても、領空通過を拒否したのなら、対領空侵犯措置として行なうことは可能ですが、その場合に、領空に突っ込んでくるPSI対象機はいないでしょう。
つまるところ、海上におけるPSIと異なり、空におけるPSIは、空自が行うことが可能なのかもアヤシイですし、行う場合も、対象機が誘導に従って着陸してくれれば、今回訓練したような行為も実施できるものの、誘導に従わない場合に、どのような措置を採るべきなのかについて、不備だらけなのが実情なのです。
これには、空の場合、限定的な力の行使が非常に難しい(機関砲1発でも、墜落するかもしれない)という側面も、どうしてもあります。
また、領海外に出た船舶に対して、領海外で強制力を働かせることが可能な「追跡権」がある海上と異なり、空においては、同種の権利がないという国際法上の制限もあります。
が、それにしても、問題がありすぎます。
当然、防衛省・自衛隊も、問題は認識しています。
そのため、報道されることのない訓練の3日目、札幌市内において、ひっそりと机上訓練が内局と統幕の間だけで行なわれています。
我が国主催PSI航空阻止訓練「Pacific Shield 12」への防衛省・自衛隊の参加について
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7月5日(木) 机上訓練(札幌市内) 内部部局、統合幕僚監部
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私が知りたいのは、この3日目の机上訓練の成果です。
恐らく、対象機が取り得る行動をケーススタディとして検討し、必要な立法措置や実際の対応等が検討されたのだと思われます。
が、残念ながら公開されることはないでしょう。
ただし、ググってみたところ内容を占うことが出来る公刊資料はあります。
「空における警備行動概念の再考--PSI航空阻止及び航空テロ対処を軸として」(法学新報116巻)
国会図書館まで行けば読めるようです。行く機会があれば、チェックしてみます。
論文の著者、坂本まゆみ氏は、空幕法務課勤務経験もある専門家です。
ちなみに本も出されています。
(個人的に、非常に興味深い内容ですが、高くて手が出ません。何でこんなに高いんだ?)
と、ツッコミ切れていない記事になってしまいましたが、不備だらけなのは分かって頂けたでしょうか。
今回の机上訓練の成果を受けて、改善策が講じられることを期待します。
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久々に、故内田幹樹さんの「拒絶空港」思い出してしまいました。
法令よりも前に、放射性物質を搭載した航空機を受け入れる
空港があるのかと疑問に思います。
実際に発生し得る事態ですから、事前に協議するべきだと思い
ますが、不勉強の為か、そのような協議があったということは
聞いたことがありません(汗)
原子力村の圧力でしょうか?(苦笑)
投稿: やん | 2012年7月12日 (木) 23時27分
やん 様
空港が受け入れるかどうか、というところまでは考えませんでした。
ですが、確かに着陸許可を出さない可能性はありますね。
だからこそ、千歳でやったのかもしれません。
この問題も、机上訓練で検討したのでしょうね。
次のステップでは、国交省も入れるかもしれません。
投稿: 数多久遠 | 2012年7月14日 (土) 14時16分
数多様
故内田幹樹氏は、ご存命当時現役ANAのパイロットでした。
以前レインボーブリッジの下をくぐろうと、ハイジャックした
バカ者がいましたが、その時刺された機長が着陸した時には
生きていたにもかかわらず、法律の制限でなかなか救急車が
空港に入れず、結果として亡くなられてしまいました。
信じられない話なのですが。。。
普通に考えれば、有り得ない話なのですが、実際にあったこと
です。
この時の経験が、拒絶空港のアイデアになったのかもしれません。
パイロット以外では、想像もできないことです。
投稿: やん | 2012年7月15日 (日) 01時23分
やん 様
お役所の場合、一旦規則が出来てしまうと、それに反することをするのは大変です。
ハイジャックの際の緊急車両も同じだったんでしょうね。
自衛隊の場合、急患空輸で、よく救急車がエプロン内に入ってますから、民間空港で入れないというのが良く分かりませんが。
投稿: 数多久遠 | 2012年7月16日 (月) 21時28分
数多様
自衛隊の基地だと、救急車が入れるんですか?(驚)
内田さんも、何か緊急事態が発生したら、日本の空港ではなく
米軍の基地に降りようというのが、パイロットの合言葉だと
おっしゃってました。
投稿: やん | 2012年7月17日 (火) 00時43分
やん 様
参考までに、ユーチューブの動画を貼っておきます。
http://www.youtube.com/watch?v=jZxayLPzNbw
実施は陸自ですが、場所は那覇基地です。
3分過ぎくらいに、那覇市の救急車がハンガー前に止まっている様子が写ってます。
昔は分かりませんが、民間空港でも全く入れないってことはないと思いますが……実情はちょっと分かりません。
投稿: 数多久遠 | 2012年7月17日 (火) 22時05分
数多様
動画拝見致しました。
本当ですね。 那覇基地ですから、民間空港に入れない
ことはなさそうです。 うーむ。。。 不思議です(汗)
投稿: やん | 2012年7月18日 (水) 01時00分