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2012年6月 2日 (土)

領域警備の法制化と防衛関係法のネガティブリスト化

産経が、防衛にからむ法体系について、興味深いが、問題もある記事を載せています。

中国海軍が砲撃してきたら… 日本滅ぼす「101本目の法律」」(産経新聞12年5月21日)

この記事で、九州総局長の野口裕之氏は、超党派の保守系議員によって検討されている領域警備法の制定に反対すると言っています。

領域警備については、以前の記事「自衛隊法の不備「領域警備」について法改正の動き!」でも書きましたが、2年ほど前の尖閣における中国漁船衝突事故の反省から、検討されだしたモノで、是非とも必要なものです。

「それに反対するなんて、産経はどうしたんだ?」と思いましたが、良く読んでみるとなるほど納得できる反対理由です。

 わが国は、安全保障上の100個の事態に100本の法律で対処している。これでは101個目の事態が生起した場合、101本目の法律を必要としてしまう。自衛隊法はじめ安全保障関係の法律は増殖を続け、既存法との整合性を図らなければならないこともあって肥大・複雑化する一途(いっと)だ。あたかも本館-別館-新館が、迷路のような廊下で継ぎ足される巨大温泉ホテルのようだ。建築・消防・観光関係の法律をクリアしていても、いざ火災となれば死傷者を輩出する危険は、シンプルな建家に比べ格段に高いはず。


要は、領域警備そのものに反対しているのではありません。それを実現する法的根拠として、自衛隊法に自衛隊の恒常的権限として盛り込むのではなく、イラク派遣を特別措置法実施したり、PKOをPKO協力法で実施したり、テロ対策特措法を作ったりしたように、「領域警備法」なるものを作ろうとしている動きに反対しているとのことです。

これは、なるほどもっともな主張です。
確かに、防衛関係法は、それらを網羅した防衛実務小六法が2534ページにもなるほどに、複雑怪奇に肥大化しています。

これでは、現場の自衛官や大臣を補佐する内局のプロでさえ、頭を抱える程です。

プロは、
・どの法令を根拠とすることが可能な事態なのか?
・その際の発令権限者は誰で、手続きはどうなのか?
・発令された場合の、権限(制限)は?
ということを熟知していなければなりませんが、日本の場合、これが余りにも複雑過ぎるのです。

その上、法令の実際の適用では、常にグレーの範囲で判断に迷うことになりますが、マスコミが過剰に防衛省・自衛隊を叩くことが通例になっているので、法令適用の現場では、白と判断することが可能なグレーまでも、黒と判断する事なかれ主義が蔓延しています。

演習の中でのことになりますが「部隊にそんなことをさせて、お前は司令官に責任を取らせるつもりなのか!」と何度怒られたか知れません。(私は、グレーを白と言いたがるイケイケ派でした)

さて、前掲記事に戻ります。

野口氏は、弾道ミサイルの破壊措置について、次のように述べています。

 だが「日本の安全保障関係の法体系は進歩した」などと、感心してはいけない。まともな国に、この種の法律は存在しない。軍事組織の根源的任務は国家主権と国民の生命・財産を守護することに尽きるからだ。これまた自然権の発露で、法を課す必要など全くない。逆に問いたい。「創隊以来、自衛隊の任務は何であったのか」と。小学生中高学年でも回答できる問い掛けだ。

 軍の権限は「原則無制限」で、予(あらかじ)め禁止されている行為・行動以外は実施できる「ネガティブ・リスト」に基づくことが定石。軍は外敵に対しての備えであり、国民の自由・権利侵害を前提としていないためだ。


これは、さすがに暴論だと感じます。
軍事行動に政治的なモノを含め、制限がかかることは当然で、それが憲法だろうが、法律だろうが、施行規則だろうが、訓令だろうが、達だろうが、事前に定まったものであることは変りません。
私は、あくまで現場感覚で書きますが、それがどのレベルで決まっていたにせよ、現場はその範囲内でしか動けないのです。
(イザとなれば、その規則の制定権者に、規則を覆す決定を促すことも可能ですが)
だから、法を課す必要などなく、軍の権限は「原則無制限」であるべきという主張には賛成できません。むしろ、主権者たる国民が、その結果責任を受けるためにも、”適切”に制限されるべきだろうと思います。
(「それ見たことか」という結果になるかもしれませんが、国民主権である以上、マイナスの結果も国民が受けるべきだと思います)

ただし、野口氏が言うように、ネガティブリスト化することは必要です。
軍事におけるポジティブリストとネガティブリストについては、以前の記事「ネガティブリスト」で、結構詳しく書いたので、そちらをご覧下さい。

ただし、ネガティブリスト化は、非常に大変な作業です。
以前の記事を読んで頂いているという前提で説明ははしょりますが、憲法、法律、施行規則……という法体系にあって、どの段階であれ、全てポジティブリストで書かれている中、どこかの段階でネガティブリストとするためには、「○○してはならない」と書くだけで、上位法令に違反しないよう、解釈上の齟齬が発生しないよう、あらゆる場面を想定してネガティブリストを作らなければならないからです。

野口氏も書いているとおり、このネガティブリスト化は、防衛関係法体系の大手術です。
ですが、確かに必要なことです。

これがなされなければ、テロや尖閣への偽装漁民の漂着など、意図的に法的グレーを突いてくる非常事態の際、部隊行動が致命的に遅延する可能性があります。

阪神淡路大震災の後、中方総監が涙の会見を行いましたが、領域警備の自衛隊法としての法制化と防衛関係法体系のネガティブリスト化を行わなければ、いずれもっと上の立場の方が、悔し涙を流すことになるでしょう。

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防衛関係法規・規則」カテゴリの記事

コメント

法制化は大変な作業だと思いますが、努力して戴きたいと考えます。

グレーゾーンや解釈論だけで進めば、大日本帝国陸軍の
「大日本帝国憲法に内閣の規定は無い。 従って、内閣の指示に
従う必要は無い」という民主主義に反する論理が跋扈する結末に
なります。  日本国憲法に、きっちりと軍を規定してもらいたいと
考えます。 現状では、法的に非常に危険な状態だと思います。
「函館強制着陸事件」のように、現場が腹を切る覚悟で対処しな
ければならない状況を回避しないと、まともな国家の防衛はできません。

・・所謂「特別措置法」という、あれですか?日本政府、なにか「事」が起きるたびに「特措法」だったような

いっそのこと大統領恩赦みたいな法制度を作り、
まず自衛隊には超法規で戦ってもらって、
憲法や法律には違反していたけど、
国防上は必要だった行為を、
後から合法化にすれば良いのではないでしょうかね?

こんにちは。

我が国が「法治」国家である以上法律は必要だと思います。
あからさまに超法規的措置を認めるような「人治」国家になれば、国際世界からの信頼を得られなくなってしまい国益に反することになります。

結局のところ、自衛隊のあり方や活動に関し憲法解釈に拘泥してきた経緯が複雑な法体系を作り出したように見えます。

記事にありますとおり法律の硬直性によって部隊行動に障害がもたらされる危惧はもちろんですし、現行法のもとでの活動で殉職したり刑事責任を問われる隊員が出ないことを祈るばかりです。


質問です(素人なのでどなたか教えて下さい)

中国海軍の艦艇から艦載機を発進した場合は領空侵犯になるのでしょうか?

現在はヘリだと思うけど(魚政やらその他は?)
将来は空母からの固定翼もあると思いますが
国際法や国内法ではどうなっているのでしょうか

海保や海自はどう対処するのか心配です

やん 様
仰るとおり、解釈に頼ると、解釈で法が曲げられる可能性が高まるんですよね。
いいかげんに、整理し直して欲しいものです。

j.i 様
アレですね……
防衛以外も含めて、特措法って、いったいいくつあるんでしょうね。
特別措置法ではなく、もう一般措置法って呼んだ方がいいくらいありそうです。

いぬざめ 様
う~ん。
そういう訳には……
ただ、こんな流れが続けば、自衛隊を持つことの経済性がどんどん悪化しますね。

まりゅー 様
「人治」国家というか、「党治」国家なら、直ぐ近くにありますね。
信用は得られてませんが、今や隆盛を誇ってます。
日本がマネする訳にはいきませんが。

仰るとおり、憲法を絶対不変のモノにしてしまったが故に、それ以下の全ての法規類が歪んでしまったんですよね。

殉職や刑事責任に問われる自衛官が出ることは、私も危惧しています。
少なくとも部隊行動基準だけでもネガティブリスト化しないと、いずれそういう事態が生起するでしょうね。

04エンド 様
発艦させる艦艇が領海内に入っているいないに関わらず、発進した航空機が領空内に入れば領空侵犯です。
(領空は、領海の上です)
ヘリでも同じです。

国際法上、艦艇は、領海内に入っていても、かなり強い権限がありますが、航空機の権限はずっと少ないです。
そのため、例えば領海内に入った中国軍艦艇には、強制措置はとれませんが、そこから発進した航空機には、撃墜することも含めて、国際法上は可能です。

ただし、国内法上、海保には領空侵犯措置を行う権限は全くありません。
自衛隊法では、海自には権限付与することは可能ですが、命令は出ていないので、防衛大臣が命令を出さないと、海自も何も出来ません。
現状で領空侵犯措置が可能なのは、空自だけです。

04エンド様

ご質問についてですが、まず、艦艇からの航空機発進がどの海域から行われるかが問題です。
ご質問における国際法としては、国連海洋法条約があり、我が国も批准国ですので、条約を受けて、国内法としての領海法があります。我が国周辺海域における法執行は直接には、この領海法を法源として、取り締まることになります。
さて、一般論としてですが、国連海洋法条約では公海自由の原則として、公海自由通航が認められております。ここで言う公海には、大陸棚や排他的経済水域、接続水域を含みます。すなわち、なにがしかの経済的活動を行わない限りは、領海に入るまでは自由に通航できますし、航空機を発進させることもできます。(そうは言ってもADIZ圏内では対領侵の対象ですし、接続水域で行えば、急迫不正の侵害であると見做し得ますが)領海においては、無害通航権が認められており、無害にして、継続的かつ、迅速な通航については認められています。(ただし、無害性や、通航については一定の要件があり、遭難や救助など停船が可能な場合がある。)また、国際通峡においては通過通航権があり、航空機の上空通過(ただし艦艇からの航空機発進は認められない)、潜水艦の潜没航行が認められています。ただし、我が国の国際通峡は領海法によって特定海域とされ、領海三海里の適用を受け、海峡中央部はすべて公海となっていますので、公海自由通航が可能となっています。
まとめると、領海以外にあっては航空機の発進は自由で領海内は不可。なのですが、色々例外とされる事例もあり得ると言うところでしょうか。ちなみに、領海外で発進した航空機が領空に侵入すれば当然に、領空侵犯です。
ただ、無害通航や通過通航に違反した行為があったとして、国際法上軍艦及び政府公船の場合は外交ルートを通じての交渉(この場合は抗議ですね)しかできません。(もちろん急迫不正の侵害がある場合は別ですが。)

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