「協同」・「共同」の違いと海自による撃沈訓練の違憲性
最初にクイズです。
「協同」と「共同」は同じでしょうか?
読みはどちらも「きょうどう」でしょうか。
さて正解を発表する前に、このクイズと密接に関連する話題に触れておきます。
リムパックで海自が憲法違反となる訓練を行ったと報じられています。
「海自、米豪と演習で強襲艦撃沈=多国間武力行使で憲法抵触の恐れ-10年7月」(時事通信12年5月27日)
参加国が共通の敵対目標に対して武力行使するもので、憲法の専門家からは訓練内容は自国を守るための個別的自衛権の範囲を超え、憲法解釈で禁じられている集団的自衛権行使に抵触するのではないかとの指摘も出ている。
共通の目標に、協力して攻撃すれば、それは個別的自衛権の行使ではなく、集団的自衛権になるため、憲法違反だというのです。
恐らく「そんなバカな話があるか!」と思う方が大多数でしょう。
集団的自衛権は、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」とされています。
参考:防衛省HP
日米同盟が、片務条約であるのも、憲法上その行使が禁じられているからとする解釈のためです。
この解釈と照らし合わせても、共通の目標を協力して攻撃しただけで、日本がアメリカを守ろうとしたことになる訳でもなく、憲法上の問題になどなるはずがない、というあたりが一般の理解だろうと思います。
ネットを見ても、同様のコメントが多いようです。
どうせ、時事の報道にある「憲法の専門家」なる人物も、凝り固まった”憲法(擁護)学者”に違いなく、時事が騒いでいるだけだと考えると思います。
しかし、事の是非は別として、「マスゴミが騒いでいるだけ」とばかりは言えません。
同報道で訓練の詳細が報じられています。
米海軍と豪軍によると、演習は「撃沈訓練(Sinking Exercise)」と名付けられ、10年7月10日にハワイ沖で約9時間にわたり実施された。演習は5部構成で、まず米豪カナダの艦艇が連携して、対艦ミサイルを標的の強襲揚陸艦「ニューオーリンズ」に発射。第2波で米豪の航空機がミサイルを上空から撃ち込んだ。
さらにB52戦略爆撃機がレーザー誘導爆弾を投下。最後に海自護衛艦「あけぼの」とイージス艦「あたご」の2隻と米豪の計6隻が縦列で航行。米イージス艦の砲撃開始後に「あけぼの」が76ミリ速射砲を、次いで「あたご」が127ミリ速射砲を発射した。
米海軍によると、演習のシナリオは「あけぼの」と「あたご」、米・豪艦艇が「約2000ヤード(約1800メートル)の間隔の縦列を組み、撃沈まで東から西に向けて射撃」となっていた。米の記録では日米の砲撃の時間帯が重なった場面もあった。
問題視されているのは、海自艦が、他国艦艇と縦列を組み、砲撃したからということのようです。
これに対して、海幕は集団的自衛権の行使には当たらないとして、コメントを出しています。
「集団的自衛権行使前提ではない=防衛省」(時事通信12年5月27日)
参加国ごとに時間を区切り、射撃順序を決めて訓練を実施しており、参加国が連携・共同して実施したものではない。武力行使の一体化や集団的自衛権の行使を前提として、特定の国または地域を防衛することを目的とした訓練ではない。
海幕も、連携した攻撃行動は、武力行使の一体化として、集団的自衛権の行使に該当してしまう可能性を認めているのです。
ここで、冒頭のクイズの解答です。
防衛省・自衛隊(政府、特に外務省もですが)においては「協同」と「共同」は、明確に区別されています。
読みは、国語的には「きょうどう」ですが、音声で区別が必要な時は、「共同」の方を「ともどう」と呼びます。
文書作成で間違うと、コッテリと怒られます。(私も怒られました)
両者の違いは、端的に言えば、自衛隊内の「きょうどう」は「協同」であり、日米間の「きょうどう」は「共同」です。
このことは、「日米協同」で検索してもらえば、簡単に分かります。
政府関係の文書では、ごくごく少数の誤字で記載されたものを除き、「日米共同」と書かれた文書しかヒットしません。
では、「協同」と「共同」が、どう違うかと言えば、一体化したもの、つまり連携して協力することは「協同」であり、連携せず、単に共に行うことは「共同」と区別されています。
つまり、海・空自衛隊は「共同」するだけでは不十分で、「協同」すべきなんですが、米軍と「協同」すると、集団的自衛権の行使になってしまうため、「共同」に止めよう、ということなんです。
バカげてます。
文書起案で「日米協同」と書いて怒られながら、私もそう思いました。
軍事的に効果的なはずの高度な連携を取ったら、それは憲法違反だというのです。
税金の無駄遣いもいいところです。
という訳で、今回の事案は、海幕が言うように、単に順番に射撃しただけでは集団的自衛権の行使には当たりませんから、憲法違反ではありません。
ですが、例えばアメリカの艦艇が囮になりながら、その隙に自衛艦が射撃するといった想定で訓練を行ったのだとしたら、現行解釈では憲法違反になってしまう可能性があるのです。
改憲して、集団的自衛権の行使を認めることが最も望ましいですが、連携して攻撃したら憲法違反だなどという現行解釈だけでも、早急に改める必要があります。
なお、このニュースで救われる思いだったのは、この件を問題視する他のマスコミが非常に少なかった事です。
私が知る限り、時事の他は、共同通信が報じただけで、後は朝日がこの報道に対する官房長官のコメントを報じていただけでした。
「海自の10年の撃沈訓練「問題ない」 藤村官房長官」(朝日新聞12年5月28日)
さらに、ネットの論調は言わずもがな。
現行解釈に問題がある理由は、過去に日米同盟を阻害しようとする左派政党等が強かったためですが、時代は変り、国民一般の世論は変りましたし、マスコミも変ってきました。
解釈だけでも変えて良いはずです。
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