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2012年4月11日 (水)

PAC-3の射程とフットプリントの関係

先日の記事「先島のPAC-3展開予想地と防護範囲_2012北朝鮮「衛星」発射」に対して、PAC-3の射程に対して、フットプリント(防護範囲)が狭すぎるのではないかとのコメントが寄せられました。

射程に関しては、種々の情報があり、私が書いた高射隊展開地から突端まで20kmフットプリントは、必ずしも短いとは言えない範囲です。
しかし、射程30kmなどとの情報もあり、短いと感じる方も少なくないでしょう。

これは、私がフットプリントを描く際に、間違えた訳ではありません。
少し乱暴な言い方をすれば、射程が30kmならフットプリントは20kmになる可能性があります。
射程とフットプリント(防護範囲)は、概念の違う数値なのです。
今回は、このあたりことを書きます。

長くなるので、早速本題に入ります。

射程とフットプリントの関係を考えるとき、迎撃可能範囲を、2次元的(本来3次元的ですが、複雑になりすぎるので、若干簡略化)に考えてみる必要があります。
しかし、PAC-3に関する高度な情報は、当然ながらリリースされていません。
そこで、他の地対空ミサイルの情報から推測してゆきます。
S75guidelineenvelopealmaz1s
SA-2 Guideline engagement envelope(AIR POWER AUSTRALIAよりhttp://www.ausairpower.net/APA-S-75-Volkhov.html

なお、エンベローブって何?という方は、次のリンクを見て下さい。
Opinion : PAC-3 の存在意義を再確認

「SA-2なんて古いミサイルで、しかも対弾道ミサイルではなく航空機相手のエンベローブなんかで参考になるのか?」
と思うかも知れません。
ですが、模式図どころか概念図程度の情報しか出されていない最近のミサイルよりも、このSA-2の情報の方が、的確です。

ミサイルに係わる物理法則は不変ですし、SA-2とPAC-3は、射程や射高に関しては、結構近いスペックを持っているからです。
(誘導方式が全く違うので、命中精度は雲泥の差です)
スペックについては、wiki等を探してみて下さい。
ここでは、まずSA-2のエンベローブが、なぜあのような形なのか、ミサイルに係わる物理法則に基づいて書きます。

地対空ミサイルが、レーダーホライズンなどの影響により、低高度の目標を要撃できないことは、良く知られた事実です。
Ws000002
SA-2のエンベローブでも、このあたりは、その影響です。

問題はその先、距離的な限界付近です。
Ws000010
ミサイルが一定のエネルギー(ロケットモーターの燃焼力)しか持たないことを考えれば、エンベローブは、重力の関係で、次の図のように、上下方向に潰れた半球状になるはずです。
(実際、短射程のミサイルではそうです)
Ws000011

ですが、実際のSA-2のエンベローブでは、むしろ高度20km程度の高高度の方が、低高度より遠い距離まで達しています。
Ws000012
これは、空気密度の薄い高高度の方が、空気抵抗が少なく、エネルギーの損失が少ないからです。(航空機の巡航高度が、ある程度高空になることと同じ理由です)

また、エンベローブの上端付近は、ほぼ水平に近い形状です。
Ws000013
これは、高度が高くなりすぎると、空気密度が低くなりすぎ、ミサイルの操舵が不十分となるためです。

PAC-3は、サイドスラスタを備えているんだから、空気密度は関係ないと思うかも知れませんが、それは間違いです。
次の図を見て下さい。
Ws000000
FAS HPより
サイドスラスタは、ミサイルの前部、レーダーシーカーのすぐ後に付いています。誘導部やリーサリティエンハンサーなどの重量のある部分は、その後です。
ミサイルの重心は、ロケットモーターの燃焼により、徐々に前部に移りますが、それでもサイドスラスタよりは、確実に後な訳です。

つまり、サイドスラスタを作動させると、ミサイルには飛翔方位に対して、ミサイルの角度(姿勢)を変化させるトルクとして働き、飛翔方位に対する姿勢変化によって、空力操舵として機能することで、飛翔方向を変化させます。
高高度では、後端部についている操舵翼だけでは、空気密度が低く姿勢変化が不十分なためにスラスタが付いている訳です。
(速度がなく、操舵翼が機能しない発射直後も、スラスタで姿勢変化させます)
このことは、このサイドスラスタが、ACM(Attitude Control Motors:姿勢制御モーター)と名称がつけられていることでも分かると思います。

ただし、SA-2のエンベローブとPAC-3のエンベローブで、大きく異なる点は、SA-2はブースターを装備していることもあり、最短有効距離が結構遠いことです。

このため、SA-2のエンベローブを参考としてPAC-3のエンベローブを導き出すと、概ねこんな形(数値は異なります)だろうと推測されます。
Ws000014

PAC-3に関して言われている性能諸元を元に、形状を操作しても良いのですが、ここでは敢えて行いません。(それらの性能諸元が、SA-2に関してのものも含めて、正確な保証はないので)
で、いわゆる(最大)射程と呼ばれる所が、どこかと言うと、図中では高度20km程度のエンベローブの最遠点になる訳です。
Ws000015

次に、フットプリントになる訳ですが、それを考えるためには、目標(ターゲット)である弾道ミサイルのプロファイルを考える必要があります。

弾道ミサイルなんだから放物線……という訳にはいきません。
最後の数kmは、若干下方に曲がりますが、それ以遠は、ほぼ直線です。
私も技術者ではないので、説明ははしょります。詳しく勉強したい方は、次のHPを見て下さい。
ミサイル入門教室
関連のページは、「弾道ミサイル迎撃 3章の2(1) ターミナルフェーズにおける弾道の特性」です。

突入角度は、弾道の種別(ロフト、最小エネルギー、ディプレスト)によって差異が生じ、30°から60°と言ったところですが、ここでは最小エネルギー弾道での45°で考えてみます。
これを、先ほどのPAC-3のエンベローブに重ねると、こうなります。
Ws000016
図中では、エンベローブの先端でインパクト(迎撃)が行われるように描いていますが、エンベローブ内では、システムのリアクションが可能なら2撃、3撃が可能です。

単純に表現すれば、高射隊展開位置から、(最大)射程の2/3程度前方から、展開位置の若干後方までが防護可能範囲となるということです。
私の作図能力が低いので、分かりにくい図になってしまいますが、フットプリントとの関係は、次の図のとおりです。
(エンベローブは垂直断面図、フットプリントは水平図です)
Ws000018

(最大)射程を書き加えると、次の図のようになります。
これで、冒頭に述べた、射程が30kmならフットプリントは20kmになる可能性がある、という話が分かって頂けた……でしょうか?
Ws000019
若干蛇足気味になりますが、ついでにフットプリントが、次の図のようなギターピックのような形になる理由にも触れておきたいと思います。
Ws000017
なお、私が描いているフットプリントの元ネタは、以前にも画像を貼り付けた、AW&ST誌2003年2月3日号の図です。
Ws000020

さて、射程とフットプリントの関係について、PAC-3のエンベローブから、主に空力面で説明しました。
これを見て、「だったらフットプリントの形はもっと細く、次の図のような形になるんじゃないのか?」と疑問を持つ方もいるかと思います。
Ws000021

残念ながら、この疑問には、逆説的な推論しかできません。
つまり、ギターピックのような横に広がる理由が何かあるはずだということです。

考えられる理由は、完全な正面よりも、若干横方向の方が、レーダーによる目標位置評定が正確であり、それ故に正確なPAC-3の誘導ができているのではないか、ということです。

その可能性を説明できそうな理由としては、レーダーの性能が、”角度分解能>距離分解能”なのだろう、と考えることができます。
パトリオットのレーダーは、高い周波数を用い、高分解能だと言われます。
ですが、周波数の高低は、角度分解能には貢献しても、距離分解能には貢献しません。
Ws000022
もし、PAC-3のレーダーが”角度分解能>距離分解能”なら、高い角度分解能を利して、正確に位置評定が可能な、横方向にオフセットした目標の方が、PAC-3にとってはミサイルを正確に誘導し易く、結果的に、フットプリントが、AW&ST誌の情報の通り、ギターピックのような形となってもおかしくないのです。

さて、長々と書きましたが、今回の記事はこれにて終わります。

なお、一応断っておきますが、今回の記事については、かなり技術的な事を書きましたが、全て公刊資料(ネット)とミサイルに関しての技術的常識から推測して書いたもので、いわゆるOSI(オシント)の手法を使用しています。
つまりは、北朝鮮や中国でも、このくらいは承知しているはずの情報です。(もし承知していなかったとしたら、相当なマヌケです)

最後に、この記事を書くにあたって、資料検索に協力して下さった各氏(kalinin様、hiro様、pavlovdog様、及びJSF様)に感謝致します。
ありがとうございました。

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コメント

いつも貴ブログを読んで勉強させていただいております。

今回の射高エンベロープの考察も非常に興味深く拝見させていただきました。
私も射程のフットプリントに関してすこし引っかかっていたのですが、レーダーの「角度分解能>距離分解能」という推論に納得です。

今後も示唆的な内容のエントリを期待しています。

Nonreal 様
この手の記事は、守秘義務の関係もあって、知ってても書けない、あるいは知ってても知らない前提で書かなければならない、みたいなものも多いのですが、今後も書ける範囲で書いて行きたいとおもいます。

オープンソースの情報も結構多いので、今回のようにネタは人に頼りつつ、ぼちぼち行きます。

教えて下さいとお願いしておきながら、恐縮なのですが、
下名には難し過ぎます(泣)

ようするにどの高度で迎撃するか、というのがひとつ。

レーダーの性能面での問題がもううひとつ、ということなのですね。

しかし、レーダーは連動して使えば、細くなるのではないですか(モチロン性能表示では単体で表示するでしょうけど)

多数のレーダーの連携での迎撃はどうなのでしょうか。

やん 様
私の説明能力が足りず申し訳ありません。
誰か、もっと分かりやすい3次元的な絵を描いてくれるといいのですが……

みやとん 様
そうですね。
空力面と電子面で、どこにボトルネックが来るかというとらえ方でいいと思います。

「細くなる」ということについてですが、バイスタティックレーダーだったらということでしたら、残念ながら、パトリオットはバイスタティックではないです。
キューイングがなされればという点では、むしろキューイングの際には、同一性を判断するためのゲートを広くとらないといけないくらいなので、残念ながら、キューイングでは分解能を上げられません。

多数のレーダーが、内部的には一つのように作動できるほど処理能力が高ければ、確かに測定精度を上げられると思いますが、おそらくスパコン並の処理能力と、めちゃくちゃ早い情報伝送能力がないと難しいのではないでしょうか。
バイスタティックレーダーが目指しているのは、そういう方向だと思いますが、これからの技術ですね。

いつも拝読しております。疑問点を一つお教えください。
PAC3の射程は、概ね半径20キロで配備地点を要にした扇形と言うことのようです。ひどく狭いものに思います。皇居、議事堂と言ったピンポイント攻撃なら対応可能かも知れませんが、東京、しかも核攻撃となれば全く迎撃不能のように思うのですが、この点はどう考えたら良いのでしょうか。東京を20キロメッシュに一基ずつの配備が必要に思えてしまいます。

はるばる 様
2009年の「衛星」発射時に、東京での防護範囲を描いた図は、次の記事に載せていますので、ご覧下さい。
http://kuon-amata.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/pac-3-1da0.html

ご指摘のとおり、20キロメッシュで配備するに越したことはありませんが、当然無理でしょう。
ただ、防衛省としても座視している訳ではなく、ランチャーと通信中継装置だけを、レーダーを含めた高射隊本隊とは話した位置に展開させることで、複数のフットプリントを確保できるリモートランチという機能を整備中です。
リモートランチについては、次の記事で多少書いています。
http://kuon-amata.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/pac-3-0103.html

参考まで

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