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2012年4月

2012年4月29日 (日)

北朝鮮の「ハリボテ」ミサイルは脅威

先日15の北朝鮮における軍事パレードで登場した新型ミサイルが「ハリボテ」だと、報じられています。
ですが、これは単なる「ハリボテ」ではなく、脅威の存在を示す「ハリボテ」です。

北朝鮮の新型ミサイルは「はりぼて」…米専門家」(読売新聞12年4月21日)

 平壌に招待された報道陣が撮影したミサイル6基の鮮明な写真を比べたところ、胴体の表面に伸びる電線用ダクトの取り付け場所や、ミサイルを固定するベルトの位置が少しずつ異なるなど、不審な点が見つかった。

 本物のミサイルなら、規格は同じはずで、細部にばらつきがあることは考えにくい。


詳細が分からないからコメントしずらいな~と思っていたら、ブログ「海国防衛ジャーナル」様が「北朝鮮の新型長距離弾道ミサイルは模型:独専門家」として、Markus Schiller 氏とRobert H. Schmucker 氏による、同種の見解を翻訳までして載せてくれました。
ここでは、内容は転載しないので、細部を確認したい方は、前掲リンクを見て下さい。

問題は、読売が紹介した「憂慮する科学者同盟」による分析にせよ、前掲2氏による分析にせよ、パレードで行進したミサイルに関する個別の評価は正しいかも知れないものの、それらインフォメーションからインテリジェンスを導き出す、情報分析の最終段階で、間違いというよりも、半ば意図的な虚偽ではないかと思える結論を導いていることです。

ライト氏は「現実のミサイルを反映した模型ではないし、実物のミサイルでもない。これは新たな脅威ではない」と結論している。


「海国防衛ジャーナル」様に掲載された2氏による分析の結論も、ほぼ同様です。
北朝鮮の新型ICBMは、模型(mock-up)であり、パレードで見せるというショーのためのものだというのです。

これらの分析を検証するためには、大量の写真等を見なければならないので、直接の分析はしません。
ですが、あくまで彼等のインフォメーションの評価が正しいと仮定しても、私は別の答えを導くべきだと考えます。

私が注目したのは、6基のミサイルが細部において異なっていると判断された点です。
彼等は、実際のミサイルなら細部が異なっているはずはなく、これは単なるズサンな模型制作だ、と評価しています。

しかし、これが単なる政治ショーのための着ぐるみのごときハリボテではなく、兵器開発でよく行われるところのモックアップ(模型)だと考えれば、細部が異なっていることにも合理的な説明ができますし、結論は全く違ったモノになってきます。

航空機開発でも、モックアップ(模型)は頻繁に作られます。というか作ってあたりまえです。
F2mockup
F-2のモックアップ(エアーパークHPより)

それは、主には整備性の検証、例えば、部品交換の際に、整備員がどうやってその場所までアクセスして作業するのか、手は届くのか、照明は十分なのか等、実物大の模型がなければ確認が困難な事項が多いからです。

北朝鮮の移動式ICBMは、危険性の高い液体燃料を使用している可能性もあり、燃料注入作業等の作業性や安全確保ができるかどうかは、モックアップを使用して確認する必要性が十分にあると思えます。

そして、今回登場したモックアップが、そういうモックアップであるなら、検証と改良を繰り返したでしょうから、各基の細部が異なっていることは当然と言えます。

純粋に政治ショーのためのハリボテであるなら、6基の細部を変えるようなことはしないでしょう。同じに作った方が楽です。
6基が異なっているなら、この模型は、実戦配備を視野に入れたミサイル開発のためのモックアップだと評価すべきと考えます。

そして、そうであるならば、このICBMが「ハリボテ」であることの意味は、「これは新たな脅威ではない」ではなく、「これは新たな脅威を作ろうとしていることの証左だ」となるべきです。

2012年4月27日 (金)

沖縄の反応(最終・3報)_2012北朝鮮「衛星」発射

「衛星」騒ぎへの沖縄の反応を2回に渡って書きましたが、最後に、もう1回だけ書きます。

やはり、一般の方とすれば、危険なロケットが落ちてくる可能性は不安でしょうし、危険性を認識したが故の被害は困りものです。
観光への影響に困惑 沖縄知事、粛々と対応を」(産経新聞12年3月30日)

 石垣市のホテル従業員の西仲野典正さん(39)は観光客のキャンセルが相次ぐことを心配し「市民を守るにはやむを得ないが、こういう事態は避けてほしい」と当惑。石垣敦子さん(57)は「北朝鮮が相手で、しょうがない。安全を守ってほしい」。

コメントのとおり、北朝鮮に言って頂くしかないですね。みんなで朝鮮総連に抗議電話でもすれば良かったのかも知れません。

石垣港にPAC3 民間地、基地に一変」(琉球新報12年4月8日)

 「衛星」への不安感からか、住民は「常駐部隊配備の地ならし」と感じていても、目立った抗議行動はなく「PAC3配置で安心感が出た」との声も聞かれる。

琉新記者の悔しさが滲んでいます。

こうした一般の方のマインドの中、反自衛隊派は、素直にやりにくさを認めていました。
前掲琉球新報記事

 平和憲法を守る八重山連絡協議会の仲山忠亨(ちゅうきょう)会長は「市民に不安感があり、これまでと違って抗議行動はやりづらい」と吐露。

それでも、それが主義ならやってみろ、と言いたいところ……

と思っていたら、本当にやりました。
PAC3反対 国際通りで240人デモ」(沖縄タイムス12年4月12日)

 PAC3の配備運用に反対し平和的解決を求める県民集会(主催・基地の県内移設に反対する県民会議)が11日、那覇市の県民広場であった。約240人が参加、長距離弾道ミサイル発射実験とみられる「衛星」を打ち上げようとする北朝鮮に対し、軍事力で対応する政府の姿勢を批判した。

Photo
沖縄タイムス・同記事より
この手の写真は、参加者が多く見えるように撮るものですが、どう見ても240人も居たようには思えません。
本当にそんなに居たのか……
もっとも、例え240人居たとしても、少数と言える数だと思いますが。

 沖縄平和市民連絡会の城間勝事務局長は「危機感をあおって沖縄への自衛隊配備を正当化しようとしている」と指摘。

確かに、南西諸島防衛の能力向上を図ろうとしている防衛省・自衛隊にとっては、プラスに働く事態ですが、それは沖縄県民が不安になっているからでしょう。

 県商工団体連合会の仲本興真会長は「きなくさい話があると観光産業が打撃を受け、沖縄にとってよくない。平和裏に解決するべきだ」と訴えた。

出来るものならそうしたいところです。
自分達で北朝鮮に言って下さい。

 参加者は「県内の軍事化反対」「平和を守るぞ」などと連呼しながら、国際通りをデモ行進した。

彼等のシュプレヒコールには、弾道ミサイル迎撃能力があるんでしょうか。

 平和憲法を守る八重山連絡協議会(仲山忠亨会長)は11日、石垣市内で「防衛省・自衛隊の真の狙いを考える」集会を開いた。参加者約30人は大規模な配備が「不安を駆り立て、つけ込む手法。将来の先島配備を見据えた行動ではないか」と疑問視。「現状を冷静に見極めよう」と外交努力による解決を訴えた。

30人ですか……
石垣島住民の0.06%ですね。

なお、国際通りのデモも、石垣の集会も、琉球新報は報じていません。
琉新の報道姿勢を考えれば、すごく報道したいネタだと思うのですが……
主催者見込みより、スゴク少なかったとか、何か報道したくない理由があったのではないか、と勘繰れてしまいます。

で、こう言う反応はあったにせよ、やはりごくごく一部だったんでしょう。
普天間問題でも強硬姿勢を貫く知事でさえ、PAC-3が我々の希望だとまで言っていたのですから。
「PAC3で危険排除、我々の希望だ」沖縄知事」(読売新聞12年3月31日)

仲井真氏は「迅速な準備は助かる。PAC3を使い、危険を排除することは我々の希望だ」と語り、配置を了承した。


知事を筆頭に、普天間だって、(沖縄の)危険を排除していることに気が付いて欲しいものです。

2012年4月24日 (火)

嘉手納以南返還によってムダに支出される年間220億の思いやり予算

いわゆる嘉手納以南と呼ばれている在沖米軍施設用地が返還される動きが具体化して来ました。
嘉手納以南を段階返還 日米大筋合意、13地区に分割」(朝日新聞12年4月20日)

Photo
朝日新聞より

約500ヘクタールほどの面積なので、在沖米軍施設用地約2万3千ヘクタールの2.2%ほどに過ぎませんが、普天間周辺の市街地に位置する施設なので、価値の高い土地であり、返還される意義は小さくありません。

一般的に認識されている沖縄世論としては、当然歓迎でしょう。
普天間問題での強硬な沖縄世論も、若干改善するかもしれません。

ただし、一部の方には懸念があります。
そして、それを払拭するため、国民の血税が、ムダに使われようとしています。
それも、毎年220億円もです。

他基地で継続雇用 「嘉手納より南」従業員」(琉球新報12年3月12日)

 防衛省の神風英男政務官は16日の衆院沖縄北方特別委員会で、日米で返還が合意されている嘉手納基地より南の6米軍基地の従業員数が3882人と明らかにした。その上で、返還された際の基地従業員の雇用問題について、「他の施設への配置転換による雇用維持や、職種変更の場合は管理機構を通じて技能訓練する」と述べた。配置転換や職種変更に対する技能訓練で雇用不安に対処する考えを明確に示した。


この嘉手納以南の返還に伴い、同施設で雇用されていた日本人従業員は、やるべき事がなくなります。

民間であれば、事業縮小ですから、整理解雇となるところでしょう。
ある事業をあきらめて、リソースを他に回すとうことでしたら、訓練の上、配置転換もありうるでしょう。

ですが、今回の嘉手納南の返還は、500ヘクタールの内、270ヘクタールは、海兵隊の国外移転に伴って返還されるものです。
つまり、この分は、雇用を継続する必要性が全く無くなる訳です。
残りの230ヘクタールは、沖縄県内の施設に整理・統合されますので、全くとは言いませんが、雇用継続すべき人数はかなり減るでしょう。

3882人の全員ではないにせよ、必然性のない雇用継続が、国民の血税(思いやり予算)で続けられようとしている訳です。
年間給与額については、職務内容によって差があるでしょうが、平均すると年収にして575万円ほどになります。
(直近、平成16年のデータでみると、8813人の雇用に対して、所得は507億円となっています。ソースは、沖縄県HP「沖縄の米軍及び自衛隊基地」より)

3882人の全員分がムダだと仮定すれば、総額では、223億円になります。
これが、毎年支出されるのです。

F-35の購入費用は、大方の予想通り高くなりそうですが、ここまでは行かないでしょう。
このムダ支出がなければ、毎年1機のF-35が、余分に買えるはずなのです。

私は、思いやり予算の支出そのものには反対していません。
日本の防衛上、必要性のある支出だと思います。

しかし、このムダな雇用継続に伴って、これほどムダな支出が継続されることは、日本の防衛にとってマイナスです。

2012年4月22日 (日)

実弾装填で実戦的警護_2012北朝鮮「衛星」発射

先日の「衛星」騒ぎは、自衛隊としては、数少ない実戦的態勢を取る機会でした。
注目されたPAC-3やイージスは言うに及ばず、メチルヒドラジン汚染を警戒した化学防護小隊もそうでしょう。

しかし、自衛隊の歴史上、もしかすると「エポックメイキングになった」と言われるかもしれない実例は、これだけではありませんでした。

PAC3警備に銃携行 石垣島の陸自部隊 実弾装填、国内初」(産経新聞12年4月6日)
(共同通信、及び配信を受けた地方紙も同様の内容を報道してます)

自衛隊が銃を携行していることはあたりまえです。
ですが、基地等外において、実弾を”装填”して警備を行うことは、過去になかったことです。私が実例を知らないだけかもしれませんが……
(ただし”装填”は、薬室装填ではなく、マガジンの装填だけだと思われます)

なぜかと言えば「国民に銃を向けるつもりなのか!」という批判を恐れたがためです。

ただし、”装填”が初なのであって、95条を適用し、武器等防護のための武器の使用によって警備を行う事は、従来から頻繁に行われてきました。
何せ、何ら出動任務が発せられていない平時において、武器を使用する根拠法令は、9.11以後に、95条の2(自衛隊の施設の警護のための武器の使用)が出来るまでは、他に何もなかったからです。
(対領侵を除く)

一応整理しておくと、平時における武器使用の根拠は次の通りになります。
9.11後の自衛隊法改正以前
 ・通常の基地等の警備も含めて武器等防護
自衛隊法改正以後
 ・基地等内においては施設警護
 ・基地等外においては武器等防護

「じゃあ、装填してなかったら、どうしてたんだ?」という話になると思いますが、実弾入り弾倉は、別に携行したり、別保管だったりしてました。
銃は弾倉自体が未装着か、空弾倉を装着(ゴミ等の侵入防止にはこの方がいいが、イザ銃を使いたいときに空弾倉を抜く手間がかかるので、良し悪し)でした。

何にせよ、実戦的ではなかった訳です。

それが、今回はPAC-3部隊に陸自の警護が付いた上、実弾を装填する等、随分と手厚い状態になりました。

2009年の「衛星」騒ぎでは、どちらもやらなかった訳ですから、随分と進歩です。

2009年の際の反省事項として、事前に調整準備されて来ただけなのかもしれません。
もしくは、2009年以上に北朝鮮が自衛隊の対応を強い調子で批判しており、何らかの活動が行われる可能性があるとの情報分析があったのかもしれません。
もしかすると、配備が沖縄であることや基地等外に展開したことも、多少は影響した可能性もあります。

何にせよ、本来、これが当然です。
テロ分子等が展開地内に侵入し、PAC-3を奪取でもすれば、民間機を落とすことも簡単だったのですから、国民の安全を考えれば、自衛隊が自衛隊の装備を、武器を持って防護することは、やって当たり前です。

参考:自衛隊法

(武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条  自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

(自衛隊の施設の警護のための武器の使用)
第九十五条の二  自衛官は、本邦内にある自衛隊の施設であつて、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を保管し、収容し若しくは整備するための施設設備、営舎又は港湾若しくは飛行場に係る施設設備が所在するものを職務上警護するに当たり、当該職務を遂行するため又は自己若しくは他人を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、当該施設内において、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

2012年4月20日 (金)

「衛星」情報開示不手際から透けて見える日米の不平等_2012北朝鮮「衛星」発射

防衛に絡む情報に関連して、「衛星」発射に伴う情報開示態勢の不手際から読み取れる重要な問題があります。

それは、日米間における情報提供の不平等です。

今回、米側からはDSP衛星を情報ソースとしが早期警戒警報(SEW)は入手できていました。
ですが、その後の事実確認に自衛隊が混乱したことを踏まえれば、それ以外の米軍情報がほとんど入手できていなかったことが分かります。

今回、「衛星」を捕捉していただろう米軍の情報収集手段(レーダー等の航跡として確認できる手段のみ)を列記してみます。
・智異山等にある韓国国内のレーダーサイト
・米イージス艦及び弾道ミサイル観測支援艦(黄海に展開していたかは不明)
・嘉手納から運用されたコブラボール(3機)
嘉手納から運用された国防総省ミサイル防衛局のガルフストリーム・エアロスペースG1159B型機(1機)

これら、全てが捕捉していた訳ではないと思います。
ですが、これら全てが捕捉していなかったとは考えられません。
実際、アメリカは北朝鮮による発射失敗を迅速に公表しているのですから、これらのどれかが捕捉していたことは間違いありません。

そして、それが日本側に提供されていれば、政府が情報の公表に関して失態を演じることもなかったハズです。

国家間の情報交換は、全てバーターで、有用な情報を得るためには、それなりの情報を与えなければなりません。

日本側は、FPS-5等の固定レーダーやイージス艦の情報も、JADGEを通じて米軍に提供しているものと思われます。
しかし、その対価として、SEWしか得られていない可能性が高いでしょう。

日本の情報は、アメリカが持つ、広範で詳細な情報には、到底匹敵しえないでしょう。
ですが、対価がSEWだけだとしたら、あまりにも格差がありすぎます。
もはや、不平等と言っていいレベルでしょう。

日本が独自の情報収集能力を高めることも必要ですが、アメリカに対する交渉能力も高める必要があるのではないでしょうか。

少なくとも、北朝鮮からアメリカに向かうICBMを常時監視できる大湊のFPS-5のデータ等は、SEW以上の価値はあると思います。

2012年4月19日 (木)

尖閣諸島への都庁職員常駐は予見された事態?

尖閣諸島の買い取りを石原都知事が宣言し、政府も国有化に言及せざるを得ない状況になりました。

普通に考えれば、東京都が所有するより、政府が所有した方がいいに決まってます。
特に、国防上はそうです。

ですが、中国に阿り、尖閣諸島中国漁船衝突事件に見られるように、イザとなれば日和るのは、民主政権に限らず、日本政府(外務省)の伝統とさえ言えます。

それを考えれば、政府が所有するよりも、都が所有した方がいいでしょう。
重すぎる腰を上げざるを得なくなっただけの政府と異なり、都知事は、ちゃんと所有後の活用についても考えています。

石原知事「政府、なぜ中国に反発しないのか」」(12年4月19日)

 石原知事は、同諸島の利用法について「魚礁を作り、漁業開発をしたらいい」と主張。沖ノ鳥島(小笠原村)で漁業資源開発を行っているこれまでの都の取り組みが参考になるとした。


漁業資源開発の他にも、地下資源開発についても、地権者との交渉を進める中で、リサーチは出来ているでしょう。

それに、前掲のニュースに限らず、石原都知事のリーダーとしての資質、言うべき事は言う、やるべきことはやる、という日和らない姿勢が大切です。

石原氏が都知事になった以降、知事の沖ノ鳥島に対する意志に感銘を受けたのか、大石英司氏が沖ノ鳥島爆破指令という小説を書いています。


領有権を明確にするため、政府ではなく、都が都庁職員を駐在させるという、ある意味現在の状況を示唆する小説となっています。
あくまで、東京都に属する沖ノ鳥島の話であり、東京都が沖縄県に属する尖閣諸島を買い上げるというところは完全に「真実は小説より奇なり」ですが、これは石原都知事が凄すぎると言うべきなんでしょう。

都が尖閣諸島を買い上げれば、本当に都庁職員が常駐することも、ありえるかもしれません。

もっとも、かつては、金日成を勝算し、社会主義者であることを公言さえする美濃部都知事を選出した前歴もあるので、石原都知事個人は当てに出来ても、東京都民を当てにできる訳ではないのですが……

2012年4月16日 (月)

「衛星」発射に関する政府対応不良の原因と課題_2012北朝鮮「衛星」発射

テストさえしていたJ-アラートは鳴らず、エムネットは事実上の誤報を流し、沖縄の自治体は外国政府発表の報道を聞いて混乱しました。

北朝鮮による「衛星」発射に対する日本政府の対応、国民への広報態勢については、明らかに失敗でした。
この原因と課題について、考えてみます。

広報の元となる情報の収集条件としては、厳しかったことは確かです。
早期警戒情報(SEW)が不正確な情報であることは、前回記事で紹介したとおりですし、イージス艦及びFPS-5等の地上レーダーでの探知ができたか否かは、打ち上げロケットが非常に早い段階で異常が発生し、高度が上がらなかったことから微妙な線でした。
レーダー探知の可能性については、次のブログが詳しく書いています。
海国防衛ジャーナル「日本のレーダーは北朝鮮のロケットを捉えたか?

早期警戒情報(SEW)については、弾道ミサイル対処を行う航空総隊司令部(横田)に、米軍横田基地及び三沢基地に設置されているJTAGS(弾道ミサイル情報処理システム)を通じて自動的に入ってきます。
7時39分の発射を探知したSEWは、1分後の40分には防衛省に入っていたと報じられています。

官房長官が「ダブルチェックして確認すると決めていた」と発表したとおり、防衛省・自衛隊は、ここから別ソースの情報と照合を図ったものと思われます。
ただし、現場の部隊には戦闘態勢への態勢移行が命じられ、迎撃準備が整えられたようです。
PAC3配備自治体、情報収集に追われる」(琉球新報12年4月13日)

 PAC3が設置されている宮古島市の航空自衛隊宮古島分屯基地では7時43分ごろ、発射機そばにいた隊員が猛然と丘を駆け降り、同44分に信号弾のようなものが打ち上げられた。


レーダー探知に関して、条件的には微妙だったことは前述のとおりですが、官房長官が会見で明言しており、探知してことは確かです。
官房長官会見の要旨=北朝鮮ミサイル」(時事通信12年4月13日)

 防衛省の出向者が受けた。そしてレーダーを見ていたら(飛翔体が)1分何秒かで消え、「わが国の安全を脅かすような事態はないと判断している」と聞いた。


補足していたレーダーが、イージスなのかFPS-5なのか分かりませんが、官房長官の言葉を言い換えれば、捕捉していた航跡をロスト(失探)し、その時の航跡諸元が示す着弾予想地域が、わが国の領域にかかってはいなかったということになります。

この時、防衛省内部では、この捕捉した航跡が、打ち上げ失敗によるロケット全体なのか、切り離された第1段ロケットのみを捕捉しているのか、迷ったのではないかと思われます。
また、別の短射程ミサイルである可能性も考慮したようです。
ひょっとして短距離ミサイル?発射直後の防衛省」(読売新聞12年4月14日)

前者あるいは短射程ミサイルなら、政府・自衛隊としては、別に慌てることもないですが、後者であれば第2段以上のロケットを探さなければなりません。
これは想像ですが、”必死で”探していたのではないでしょうか。

捕捉していない幻の第2段ロケットを探してダブルチェックを行おうとしていた結果、確定報告が遅れたのだろうと想像されます。
「どうなっているんだ! 確認しろ!」なんて怒鳴っていた人が居たのかも知れません。

自衛隊では、「状況が不明である報告」も重要な報告であるとされます。
現役自衛官時代にも、分からないなら分からないと報告せよ、という指導を、それこそ耳タコで指導されました。
「第2段以上のロケットが飛翔しているのかは不明です」という情報が伝わらなかった可能性です。
基本中の基本なんですが、何らかの理由で、これができていなかった可能性があります。

また、その報告を受け、広報に関する判断をすべき首相官邸内の危機管理センターに、問題があった可能性も濃厚です。

これも自衛隊で頻繁に言われる「腹案を持て」が出来ていなかった可能性です。
国民への周知を考えた場合、ミサイル発射に関連して、危機管理センターが緊急に発すべき情報は、たったの3パターンしかありません。
①「発射を示す情報はない」
②「発射された可能性があるが、わが国に影響はない」
③「発射され、わが国に影響を及ぼす可能性がある」

某法務大臣は2つでOKだそうですが、今回は、この3つだけ覚えておけば問題なかったはずなのです。
で、今回の場合は、SEWとわが国には到達しないレーダー航跡情報があったのですから、②の「発射された可能性があるが、わが国に影響はない」としてJ-アラート等も流せば良かったのです。
もし、その後、日本に落ちてくる可能性のある航跡が捕捉されたのなら、その後で③に訂正発表すればいいだけです。
③の可能性があるからと言って、②の発表を躊躇う必要は無かったのですが、このあたりの腹案が、危機管理センターの人間に出来ていなかったものと思われます。

これについては、以前の記事「危機管理監ポストと危機管理監の位置付け」で問題提起した、危機管理監が警察官僚であることも、今回の不手際の一因となっているように思われます。
弾道ミサイルの探知や警報態勢等について、基本的な知識が欠乏しているのでしょう。

今回の不手際を見て、民主党の中央集権的な強権体制が背景にあるのではないか、という危惧も抱きました。

前回2009年の誤報さわぎの際、ある政府高官が「あつものに懲りてなますを吹くような事態があってはならない」と発言したそうですが、今回は思いっきりなますを吹いてしまいました。(前回の本番ではうまくいきました)

今回の不手際の兆候は、実は発射が行われる前にも出ていました。
防衛省幹部、表情険しく=北ミサイル警戒、「仕切り直し」」(時事通信12年4月12日)

 ミサイルが発射された際の情報伝達について、2009年の前回発射時に「誤報」した教訓から、制服組トップの岩崎茂統幕長が確認した上で、首相官邸に連絡することにしている。


「誤報は許さない。間違いない情報を上げろ!」
なんて言われていたのでしょう。
報告の基本に反した指導をした結果、起るべきして起った不手際です。
基本に立ち返り、不明なら不明と報告し、それに基づいて、国民のために安全第一で、必要な情報を流すべきです。

-------------------
4月17日追記
防衛省から官邸には、ちゃんと正確な情報が、それほど間を開けずに、上がっていたようです。
ミサイル発射報告の時刻、官邸が修正 15分早かった」(朝日新聞12年4月17日)
やはり、問題は官邸・危機管理センターにあったもよう。

特に、危機管理監は、発射3分後の42分にはSEWを聞いていたそうです。
ミサイル情報食い違い、官邸は発射直後に把握」(日経新聞12年4月16日)
やはり、危機管理監ポストに警察官僚を置いておくのは、無理があるみたいですね。

2012年4月14日 (土)

早期警戒警報(SEW)の不正確性と官房長官の失言_2012北朝鮮「衛星」発射

「衛星」発射に関する政府対応のまずさとその原因については、別の機会に書きたいと思いますが、今回はコレに関連した(衛星による)早期警戒警報(SEW)の不正確性と官房長官の失言について書きます。

政府対応の言い訳として、誤情報を防ぐためにダブルチェックしていたなどと言われています。
「衛星」打ち上げが、あまりにも早い段階で失敗したことが、そもそもの原因ではありますが、米軍からの早期警戒警報(SEW)がありながら、政府が及び腰になった技術的背景には、早期警戒警報(SEW)の不正確性があります。

藤村官房長官は、13日午後に行われた会見で、「SEW情報だけでは、発射の燃焼実験などさまざま(なことが)考えられ、ミサイルと確定できない」と発言しました。

SEWの不正確性が原因となった過去の事例としては、2つあります。

一つは、2009年の「衛星」発射時における誤報です。
この時はSEWがなかったものの、SEWが不正確だったり遅延したりする可能性を踏まえて、SEWなしに、FPS-5による誤探知だけで発表したことが誤報の原因でした。
詳しくは、過去の記事「誤報の原因と課題」をご覧下さい。

もう一つは、2001年11月22日に、韓国が済州島の西にミサイルの発射実験をした際、SEWを受けた防衛省・自衛隊が一時騒然となった事態です。

韓国がミサイル発射、済州島周辺に落下 試射と説明

 日本政府に22日夕、入った情報によると、同日午後4時過ぎ、韓国から弾道ミサイル一発が発射され、約10分後に済州島の西で、九州からは約300キロ西方の海域に落下した模様だ。

韓国側は研究開発の目的で、東シナ海に向けてミサイルを試射したと説明しているという。

日韓両国の複数の政府筋によると、韓国国防省の国防科学研究所がミサイルの発射実験をした際に、何らかの原因で誤った地域に落下した可能性もあるという。

 日本の政府筋は「誤射説が濃厚だ」と指摘し、別の政府筋は「誤射ではないが、ちょっと間違ったようだ」と語った。

 一時は、「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)がテポドンを発射した可能性がある」との未確認情報が流れ、防衛庁、外務省、内閣官房には、緊迫した空気が流れた。(20:50)

http://www.asahi.com/international/update/1122/013.html


この時、SEWによって問題が発生したと言うことは、SEWの情報において、発射地点が北朝鮮なのか韓国なのか、着弾地点が東シナ海なのか日本まで届くのかが不明確だったということです。

SEWが不正確なことを証明する明らかな事例として、この2つがある訳ですから、ハインリッヒの法則によれば、実際には、一般には公表されていない誤警報が多数存在し、普段はレーダー情報等と照らし合わせたダブルチェックにより誤警報を防いでいるということです。

政府(防衛省)・自衛隊としては、だからこそ今回のような事態になったのだろうとは思われます。
だからといって、今回の明らかな失態は許容できませんが……

ちなみに、DSP衛星によるSEWは、どうあっても不正確です。
そのため、私は日本による早期警戒衛星の独自保有には反対しています。
興味のある方は、過去記事「日本独自の早期警戒衛星は不要だ!」をご覧下さい。

最後に、藤村官房長官による「SEW情報だけでは、発射の燃焼実験などさまざま(なことが)考えられ、ミサイルと確定できない」発言が失言だろう、ということについて書いておきます。

私は、今までにもSEWが必ずしも正確ではないとは書いてましたが、明確に書くことはDSP衛星による米軍偵察能力の暴露になるため避けてきました。
ですが、藤村官房長官は、地上での燃焼試験に対してさえ誤警報を発する可能性があると暴露してしまいました。

前記2001年の事態でも、発射地点や落下地点が相当不正確だったことは類推可能ですが、あくまで類推です。
官房長官という政府の重要情報を明らかに知ることができる人間が、これほど不正確だと明言することは問題ではないでしょうか。

もしかすると、アメリカ政府から抗議を受けているかも知れません。

2012年4月11日 (水)

PAC-3の射程とフットプリントの関係

先日の記事「先島のPAC-3展開予想地と防護範囲_2012北朝鮮「衛星」発射」に対して、PAC-3の射程に対して、フットプリント(防護範囲)が狭すぎるのではないかとのコメントが寄せられました。

射程に関しては、種々の情報があり、私が書いた高射隊展開地から突端まで20kmフットプリントは、必ずしも短いとは言えない範囲です。
しかし、射程30kmなどとの情報もあり、短いと感じる方も少なくないでしょう。

これは、私がフットプリントを描く際に、間違えた訳ではありません。
少し乱暴な言い方をすれば、射程が30kmならフットプリントは20kmになる可能性があります。
射程とフットプリント(防護範囲)は、概念の違う数値なのです。
今回は、このあたりことを書きます。

長くなるので、早速本題に入ります。

射程とフットプリントの関係を考えるとき、迎撃可能範囲を、2次元的(本来3次元的ですが、複雑になりすぎるので、若干簡略化)に考えてみる必要があります。
しかし、PAC-3に関する高度な情報は、当然ながらリリースされていません。
そこで、他の地対空ミサイルの情報から推測してゆきます。
S75guidelineenvelopealmaz1s
SA-2 Guideline engagement envelope(AIR POWER AUSTRALIAよりhttp://www.ausairpower.net/APA-S-75-Volkhov.html

なお、エンベローブって何?という方は、次のリンクを見て下さい。
Opinion : PAC-3 の存在意義を再確認

「SA-2なんて古いミサイルで、しかも対弾道ミサイルではなく航空機相手のエンベローブなんかで参考になるのか?」
と思うかも知れません。
ですが、模式図どころか概念図程度の情報しか出されていない最近のミサイルよりも、このSA-2の情報の方が、的確です。

ミサイルに係わる物理法則は不変ですし、SA-2とPAC-3は、射程や射高に関しては、結構近いスペックを持っているからです。
(誘導方式が全く違うので、命中精度は雲泥の差です)
スペックについては、wiki等を探してみて下さい。
ここでは、まずSA-2のエンベローブが、なぜあのような形なのか、ミサイルに係わる物理法則に基づいて書きます。

地対空ミサイルが、レーダーホライズンなどの影響により、低高度の目標を要撃できないことは、良く知られた事実です。
Ws000002
SA-2のエンベローブでも、このあたりは、その影響です。

問題はその先、距離的な限界付近です。
Ws000010
ミサイルが一定のエネルギー(ロケットモーターの燃焼力)しか持たないことを考えれば、エンベローブは、重力の関係で、次の図のように、上下方向に潰れた半球状になるはずです。
(実際、短射程のミサイルではそうです)
Ws000011

ですが、実際のSA-2のエンベローブでは、むしろ高度20km程度の高高度の方が、低高度より遠い距離まで達しています。
Ws000012
これは、空気密度の薄い高高度の方が、空気抵抗が少なく、エネルギーの損失が少ないからです。(航空機の巡航高度が、ある程度高空になることと同じ理由です)

また、エンベローブの上端付近は、ほぼ水平に近い形状です。
Ws000013
これは、高度が高くなりすぎると、空気密度が低くなりすぎ、ミサイルの操舵が不十分となるためです。

PAC-3は、サイドスラスタを備えているんだから、空気密度は関係ないと思うかも知れませんが、それは間違いです。
次の図を見て下さい。
Ws000000
FAS HPより
サイドスラスタは、ミサイルの前部、レーダーシーカーのすぐ後に付いています。誘導部やリーサリティエンハンサーなどの重量のある部分は、その後です。
ミサイルの重心は、ロケットモーターの燃焼により、徐々に前部に移りますが、それでもサイドスラスタよりは、確実に後な訳です。

つまり、サイドスラスタを作動させると、ミサイルには飛翔方位に対して、ミサイルの角度(姿勢)を変化させるトルクとして働き、飛翔方位に対する姿勢変化によって、空力操舵として機能することで、飛翔方向を変化させます。
高高度では、後端部についている操舵翼だけでは、空気密度が低く姿勢変化が不十分なためにスラスタが付いている訳です。
(速度がなく、操舵翼が機能しない発射直後も、スラスタで姿勢変化させます)
このことは、このサイドスラスタが、ACM(Attitude Control Motors:姿勢制御モーター)と名称がつけられていることでも分かると思います。

ただし、SA-2のエンベローブとPAC-3のエンベローブで、大きく異なる点は、SA-2はブースターを装備していることもあり、最短有効距離が結構遠いことです。

このため、SA-2のエンベローブを参考としてPAC-3のエンベローブを導き出すと、概ねこんな形(数値は異なります)だろうと推測されます。
Ws000014

PAC-3に関して言われている性能諸元を元に、形状を操作しても良いのですが、ここでは敢えて行いません。(それらの性能諸元が、SA-2に関してのものも含めて、正確な保証はないので)
で、いわゆる(最大)射程と呼ばれる所が、どこかと言うと、図中では高度20km程度のエンベローブの最遠点になる訳です。
Ws000015

次に、フットプリントになる訳ですが、それを考えるためには、目標(ターゲット)である弾道ミサイルのプロファイルを考える必要があります。

弾道ミサイルなんだから放物線……という訳にはいきません。
最後の数kmは、若干下方に曲がりますが、それ以遠は、ほぼ直線です。
私も技術者ではないので、説明ははしょります。詳しく勉強したい方は、次のHPを見て下さい。
ミサイル入門教室
関連のページは、「弾道ミサイル迎撃 3章の2(1) ターミナルフェーズにおける弾道の特性」です。

突入角度は、弾道の種別(ロフト、最小エネルギー、ディプレスト)によって差異が生じ、30°から60°と言ったところですが、ここでは最小エネルギー弾道での45°で考えてみます。
これを、先ほどのPAC-3のエンベローブに重ねると、こうなります。
Ws000016
図中では、エンベローブの先端でインパクト(迎撃)が行われるように描いていますが、エンベローブ内では、システムのリアクションが可能なら2撃、3撃が可能です。

単純に表現すれば、高射隊展開位置から、(最大)射程の2/3程度前方から、展開位置の若干後方までが防護可能範囲となるということです。
私の作図能力が低いので、分かりにくい図になってしまいますが、フットプリントとの関係は、次の図のとおりです。
(エンベローブは垂直断面図、フットプリントは水平図です)
Ws000018

(最大)射程を書き加えると、次の図のようになります。
これで、冒頭に述べた、射程が30kmならフットプリントは20kmになる可能性がある、という話が分かって頂けた……でしょうか?
Ws000019
若干蛇足気味になりますが、ついでにフットプリントが、次の図のようなギターピックのような形になる理由にも触れておきたいと思います。
Ws000017
なお、私が描いているフットプリントの元ネタは、以前にも画像を貼り付けた、AW&ST誌2003年2月3日号の図です。
Ws000020

さて、射程とフットプリントの関係について、PAC-3のエンベローブから、主に空力面で説明しました。
これを見て、「だったらフットプリントの形はもっと細く、次の図のような形になるんじゃないのか?」と疑問を持つ方もいるかと思います。
Ws000021

残念ながら、この疑問には、逆説的な推論しかできません。
つまり、ギターピックのような横に広がる理由が何かあるはずだということです。

考えられる理由は、完全な正面よりも、若干横方向の方が、レーダーによる目標位置評定が正確であり、それ故に正確なPAC-3の誘導ができているのではないか、ということです。

その可能性を説明できそうな理由としては、レーダーの性能が、”角度分解能>距離分解能”なのだろう、と考えることができます。
パトリオットのレーダーは、高い周波数を用い、高分解能だと言われます。
ですが、周波数の高低は、角度分解能には貢献しても、距離分解能には貢献しません。
Ws000022
もし、PAC-3のレーダーが”角度分解能>距離分解能”なら、高い角度分解能を利して、正確に位置評定が可能な、横方向にオフセットした目標の方が、PAC-3にとってはミサイルを正確に誘導し易く、結果的に、フットプリントが、AW&ST誌の情報の通り、ギターピックのような形となってもおかしくないのです。

さて、長々と書きましたが、今回の記事はこれにて終わります。

なお、一応断っておきますが、今回の記事については、かなり技術的な事を書きましたが、全て公刊資料(ネット)とミサイルに関しての技術的常識から推測して書いたもので、いわゆるOSI(オシント)の手法を使用しています。
つまりは、北朝鮮や中国でも、このくらいは承知しているはずの情報です。(もし承知していなかったとしたら、相当なマヌケです)

最後に、この記事を書くにあたって、資料検索に協力して下さった各氏(kalinin様、hiro様、pavlovdog様、及びJSF様)に感謝致します。
ありがとうございました。

2012年4月 9日 (月)

嘉手納PAC-3による弾道ミサイル迎撃根拠_2012北朝鮮「衛星」発射

昨日の「パクられた~」記事で載せた琉球新報の「PAC3の配備態勢と射程」ですが、一つ気になっている点があります。

それは、嘉手納のPAC-3によるフットプリントも描かれていたことです。

沖縄本島の自衛隊PAC-3部隊は、今回知念分屯基地と那覇基地に展開しており、嘉手納はおろか、普段からパトリオット(PAC-2)が配備されている恩納分屯基地にも展開していません。
琉球新報の記事には、ハッキリと米空軍嘉手納基地と書かれていますし、これは米陸軍が2006年に嘉手納に配備したPAC-3のハズです。

米軍PAC-3の活用を期待しているのか、はたまた懸念しているのか、琉球新報の意図は分かりません。

しかし、米軍PAC-3の活用に関しては、法的な問題もあり、一部ではそれを懸念する報道もなされています。
PAC3 米軍の活用「非公表」」(東京新聞12年4月7日)

 北朝鮮が「人工衛星」と主張する長距離弾道ミサイルに対し、米軍が沖縄本島の嘉手納基地に配備している地上発射型迎撃ミサイル「PAC3」を活用するか否かの事実を、政府が「非公表」としていることが分かった。

中略

 嘉手納基地のPAC3が活用されるか否かは、外務省、防衛省とも「米軍の運用にかかわることなので公表できない」としている。

中略

 防衛省幹部は「米軍にPAC3の活用は要請していない」というが、そもそも嘉手納基地のPAC3がどのような場面で活用されるのか日米間の取り決めが存在しない。このため、PAC3を展開したり、発射したりする判断は米側に委ねられているのが実情だ。

中略

 基地からのミサイル発射は軍事行動にあたり、日本の主権侵害となるおそれがある。 (編集委員・半田滋)


今回の「衛星」に対する自衛隊の行動根拠は自衛隊法第八十二条の三、弾道ミサイル等に対する破壊措置です。
自衛隊法ですから、当然のことに、これは米軍PAC-3に活動根拠となるものではありません。

東京新聞の報道が正しければ、今回は、米軍PAC-3の活用は要請していないとのことですが、もし要請するとしたら、それは当然ながら日米安保条約を根拠とした要請ということになります。

しかし、その場合の法的枠組みについては、東京新聞が報じるとおり、日米間になんら取り決めがありません。
もし、米軍PAC-3がが勝手に迎撃するような事態が発生すれば、防護される近隣住民にとっては必要なこととは言え、政治問題になることは間違いありません。
おそらく、問題は承知しつつも、放置されてきた、と言っていいでしょう。

「政府が無策だ!」と単に政府批判しても詮無いことなので、では安保を根拠とした要請を行う場合、どんな法的枠組みがあり得、それにはどんな問題があるかについて、考えてみます。

考えられる方法は、3つあります。

①「衛星」の脅威を武力攻撃であるとみなし、日米安保の発動を要請する方法
もっとも、強力な日米安保の使い方です。
ですが、これはまず不可能でしょう。
何せ、守られる側の日本が、「衛星」対処を自衛権の発露ではない弾道ミサイル等に対する破壊措置で行おうとしているのですから、不整合にも程があります。

②対領空侵犯措置として要請する方法
対領侵の米軍への要請は、実は実績があります。
昭和33年に、航空自衛隊が対領侵任務を開始するまでは、(旧)日米安保条約を根拠として、米軍が日本政府の要請を受けて実施していました。
条約が改定され、以前に根拠とされていた条文が1条から6条に変っていますが、同様の内容が継承されているので、対領侵を根拠とした要請には、法制局等の関係機関もそれほど抵抗せずに連携してくれそうです。
ですが、自衛隊が行う弾道ミサイル等に対する破壊措置も、対領侵を根拠としたのでは、領空内でしか実施できないといった問題が発生してしまうために、自衛隊法が改正された経緯がありますから、これも法理的に苦しいものがあります。
嘉手納のPAC-3に限定するなら、適用できないこともない、といったところでしょうか。
なお、対領侵は航空機が行うものとの認識があると思いますが、自衛隊でも、隊法上は、陸海の部隊さえ対領侵を行えることになっており、高射部隊を対領侵任務に就けさせることができます。

自衛隊法84条
防衛大臣は、(中略)自衛隊の部隊に対し、(中略)必要な措置を講じさせることができる。


③自衛隊が行う弾道ミサイル等に対する破壊措置に準じた措置として、要請する方法
法理などの面では、これがもっとも適切でしょう。
根拠としては、対領侵と同様に、日米安保条約の6条を使う事になると思われます。

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 第6条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。


ですが、実績もない方法についての要請を一から調整するのですから、内閣法制局などの国内の調整も、アメリカとの調整も、そう簡単にできるとは思えません。

どれにも、相応の問題があり、PAC-3の場合は、沖縄であることも踏まえて非常に難しい問題となります。

もし、今回嘉手納のPAC-3を要請するとすれば、とりあえず対領侵として要請して、事後に弾道ミサイル等に対する破壊措置に準じた措置として要請する、と言ったところが妥当ではないでしょうか。
(米軍イージスにも迎撃を要請するなら、破壊措置に準じた枠組みを作るしかあないでしょう)

2012年4月 8日 (日)

琉球新報にパクられた~!_2012北朝鮮「衛星」発射

JSF氏のツイッターに、当ブログを参考にしたんだろうとして、こんな写真が載っておりました。
553427802

石垣島にPAC-3が到着したことを報じる記事なんですが、さりげなく「PAC3の配備態勢と射程」としてPAC-3の展開地に応じたフットプリントの図が載っております。
ただし、ネットの記事には載ってません!

今回の一連の記事で載せたフットプリントの図が、ほとんどそのまま(嘉手納だけは追加したようです)載っています。

このフットプリントの距離に関する図
Ws000023
とか、フットプリント外苑を赤枠で囲い、ピンクの透過と高射隊位置に▲マーク
Ws000014
というデザインも、ほぼそのまんまです。

この程度のモノに著作権を主張するつもりはないですが、紙の新聞に載せるだけでなく、堂々とネットにも載せて欲しいものです。
普段から琉球新報の記事に対しては批判的なことを書いているためか、ネットに載せると叩かれると思ったのかもしれませんが……

個人的には、むしろパクるならこちらの記事でもパクって欲しいと思います。
在沖海兵隊の意義_沖縄県民は無知なのか?

2012年4月 7日 (土)

田中防衛大臣へ_あなたは正しい

田中防衛大臣の失言が止まらないとして批判されています。

確かにPAC-3(パック・スリー)とP-3C(ぴー・スリー・シーorピー・スリー・チャーリー等)という、形も機能も呼び方も全く違う2つの装備を混同するなど、防衛相としてありえない失言は、もはや批判にも値しないレベルです。

ですが、批判の全てが妥当とは思えません。
軍事的に合理的と思える発言までが批判されているからです。

田中防衛相 この日の訂正・謝罪は計5回 「国土守れない…」「人少ないから配備しない…」」(産経新聞12年4月3日)

 田中直紀防衛相は3日の参院予算委員会で、北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」への防衛態勢について「今の態勢では全国土を守りきれない」と明言した。質問した佐藤正久氏(自民)は「防衛相が国民の命を守りきれないと言うなんて…」と絶句。

中略

沖縄県の多良間島(人口約1250人)に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配備しない理由について「人口規模がある」と述べた。「住民が少ないから配備しない」と受け取られたことから、田中氏はその後に「不適切な発言だった」と謝罪した。


「今の態勢では全国土を守りきれない」事については、PAC-3で日本全域をカバーできないことは自明ですし、イージスだけでは完璧とは言えないからPAC-3を配備していること、また、だからこそTHAADが検討されたことなどを踏まえれば、ちっとも間違ってません。

多良間島の住民が少ないことをもって、PAC-3を配備しないことについても、ポイントディフェンスのPAC-3は、住民の多い場所に配備すべきなことは考えるまでもなく、田中防衛大臣は、至極真っ当なことをしゃべっただけです。
石垣にPAC-3を配備したと言っても、石垣島北部までフットプリントは届かないでしょうし。

もっとも、石垣と宮古にPAC-3を配備しておきながら、その中間で危険度は最も高いかもしれない多良間島に配備しないことは、疑問でもあります。
港湾の問題など、人口だけではない問題もあるのでしょう。

話がズレました。
田中防衛大臣は、問責に値するとは思います。
ですが、何でもカンでも失言扱いすることも、間違いでしょう。

2012年4月 4日 (水)

弾道ミサイル等破壊措置の統合任務部隊指揮所は横田

北朝鮮による「衛星」に対して編成された弾道ミサイル等破壊措置のための統合任務部隊ですが、指揮所は、航空総隊司令部の移転に伴い、ギリギリで横田になりました。

総隊司令部 横田移転を完了 「同盟のシンボル」 日米共催で"同居"祝う」(朝雲新聞12年3月29日)

航空総隊司令部の府中から横田への移動は、今回の「衛星」発射とは関係無く予定されていたものですが、ちょうどギリギリになって間に合った形です。
これで、米軍との共同もスムーズに進むでしょう。
ちなみに、以前の記事「BJOCC」で、今回のニュースで共同調整所と報じられているBJOCC(ビージョック、Bilateral and Jpint Operations Cordination Center、(日米)共同統合運用調整所)での共同のイメージが分かる記事(今回は、航空作戦ではなく、弾道ミサイル対処なので、少し違いますが)を書いているので、ご覧下さい。

今回の破壊措置では、日本としては、米軍が持つ、コブラボールやU-2、オブザベーションアイランド等のミサイル観測支援艦や多数のイージス艦から得られる、広範で詳細な情報が得やすくなるでしょうし、アメリカとすれば、北朝鮮に不意を衝かれ、これらの偵察手段の展開等が間に合わないケースにおいても、FPS-5等の固定レーダーからJADGEを通じてデータが得られます。(米軍の持つ固定的な観測手段は、青森県車力におかれている半固定のFBX-Tくらいしかありません)
日米双方にとって、どれだけの情報が貰えるのか、検証する機会にもなるでしょう。

もっとも、まるで航空総隊の横田移駐に合せたかのようなタイミングなので、沖縄タイムス等が陰謀論を展開するネタになりそうな気もしますが、災いをうまく転じさせて欲しいものです。

オマケとして、以前の記事にも載せた航空総隊司令部の写真を載せておきます。
昨年の横田フレンドシップデーの際、エプロンから撮ったものです。
Img_1240
Shousha_mark
今回の件で報道された建物全景写真と照合しても、この建物の上部がエプロンから見えていたことが分かります。
10592
防衛ホームより

これで総隊司令部の位置が分かりますが、何のことはない、朝雲新聞の記事では、バッチリ「米空軍374輸送航空団司令部の隣」と書かれていました。

しかし、並んでいるはずの二つの司令部ですが、ナゼ374輸送航空団司令部庁舎が西向き(のはず)なのに、航空総隊司令部が東向きなのかは、謎です。
まあ、総隊とすれば、374輸送航空団とは基地業務以外では縁がなく、5空軍と地下の共同調整所で繋がっていさえすればOKなんでしょうけど……やっぱりカッコ悪い気がします。

2012年4月 1日 (日)

破壊措置命令は3項適用_2012北朝鮮「衛星」発射

弾道ミサイル等の破壊措置命令は、結果として、3項適用となりました。

北朝鮮:ミサイル発射予告 ミサイル破壊措置命令(要旨)」(毎日新聞12年3月30日)

当初、防衛大臣が1項適用を明言していたものの、最終的に3項になりました。
私がチェックした範囲では、その理由は、明確にされていません。
が、2009年の前例も踏まえ、弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれがある……とまでは言えず、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要がある……とまでは認められない、と判断したのではないかと推測しています。
何にせよ、2回も例ができると、「日本に打ち込むぞ」という恫喝でもされない限り、1項ではなく、3項適用という流れができたのかな、という印象です。

さて、これだけでは何ナノで、前回紹介したNHKの?な記事について、ちょっと触れておきたいと思います。
発射場にミサイル本体搬入か」(NHKニュース12年3月25日)

「破壊措置命令」は、自衛隊法82条の3の第1項と第3項に定められています。第1項は弾道ミサイルなどが日本に飛来するおそれがある場合、第3項は人工衛星の打ち上げ用のロケットなどが事故などで日本に落下するおそれがある場合を想定していて、今回、政府や防衛省は第3項に基づいて命令を出すことを検討しています。


この報道、3項の説明が、ウソではないものの、恣意的です。
確かに、人工衛星打ち上げ用ロケットの落下に対しても、3項適用により迎撃は可能です。

ですが、この説明のように並べられると、読者としては、1項は弾道ミサイル用、3項は人工衛星のための打ち上げロケット用のように感じられます。
NHKは、北朝鮮のために、今回は人工衛星の打ち上げだとプロパガンダを行いたいのでしょうか?

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