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2012年4月16日 (月)

「衛星」発射に関する政府対応不良の原因と課題_2012北朝鮮「衛星」発射

テストさえしていたJ-アラートは鳴らず、エムネットは事実上の誤報を流し、沖縄の自治体は外国政府発表の報道を聞いて混乱しました。

北朝鮮による「衛星」発射に対する日本政府の対応、国民への広報態勢については、明らかに失敗でした。
この原因と課題について、考えてみます。

広報の元となる情報の収集条件としては、厳しかったことは確かです。
早期警戒情報(SEW)が不正確な情報であることは、前回記事で紹介したとおりですし、イージス艦及びFPS-5等の地上レーダーでの探知ができたか否かは、打ち上げロケットが非常に早い段階で異常が発生し、高度が上がらなかったことから微妙な線でした。
レーダー探知の可能性については、次のブログが詳しく書いています。
海国防衛ジャーナル「日本のレーダーは北朝鮮のロケットを捉えたか?

早期警戒情報(SEW)については、弾道ミサイル対処を行う航空総隊司令部(横田)に、米軍横田基地及び三沢基地に設置されているJTAGS(弾道ミサイル情報処理システム)を通じて自動的に入ってきます。
7時39分の発射を探知したSEWは、1分後の40分には防衛省に入っていたと報じられています。

官房長官が「ダブルチェックして確認すると決めていた」と発表したとおり、防衛省・自衛隊は、ここから別ソースの情報と照合を図ったものと思われます。
ただし、現場の部隊には戦闘態勢への態勢移行が命じられ、迎撃準備が整えられたようです。
PAC3配備自治体、情報収集に追われる」(琉球新報12年4月13日)

 PAC3が設置されている宮古島市の航空自衛隊宮古島分屯基地では7時43分ごろ、発射機そばにいた隊員が猛然と丘を駆け降り、同44分に信号弾のようなものが打ち上げられた。


レーダー探知に関して、条件的には微妙だったことは前述のとおりですが、官房長官が会見で明言しており、探知してことは確かです。
官房長官会見の要旨=北朝鮮ミサイル」(時事通信12年4月13日)

 防衛省の出向者が受けた。そしてレーダーを見ていたら(飛翔体が)1分何秒かで消え、「わが国の安全を脅かすような事態はないと判断している」と聞いた。


補足していたレーダーが、イージスなのかFPS-5なのか分かりませんが、官房長官の言葉を言い換えれば、捕捉していた航跡をロスト(失探)し、その時の航跡諸元が示す着弾予想地域が、わが国の領域にかかってはいなかったということになります。

この時、防衛省内部では、この捕捉した航跡が、打ち上げ失敗によるロケット全体なのか、切り離された第1段ロケットのみを捕捉しているのか、迷ったのではないかと思われます。
また、別の短射程ミサイルである可能性も考慮したようです。
ひょっとして短距離ミサイル?発射直後の防衛省」(読売新聞12年4月14日)

前者あるいは短射程ミサイルなら、政府・自衛隊としては、別に慌てることもないですが、後者であれば第2段以上のロケットを探さなければなりません。
これは想像ですが、”必死で”探していたのではないでしょうか。

捕捉していない幻の第2段ロケットを探してダブルチェックを行おうとしていた結果、確定報告が遅れたのだろうと想像されます。
「どうなっているんだ! 確認しろ!」なんて怒鳴っていた人が居たのかも知れません。

自衛隊では、「状況が不明である報告」も重要な報告であるとされます。
現役自衛官時代にも、分からないなら分からないと報告せよ、という指導を、それこそ耳タコで指導されました。
「第2段以上のロケットが飛翔しているのかは不明です」という情報が伝わらなかった可能性です。
基本中の基本なんですが、何らかの理由で、これができていなかった可能性があります。

また、その報告を受け、広報に関する判断をすべき首相官邸内の危機管理センターに、問題があった可能性も濃厚です。

これも自衛隊で頻繁に言われる「腹案を持て」が出来ていなかった可能性です。
国民への周知を考えた場合、ミサイル発射に関連して、危機管理センターが緊急に発すべき情報は、たったの3パターンしかありません。
①「発射を示す情報はない」
②「発射された可能性があるが、わが国に影響はない」
③「発射され、わが国に影響を及ぼす可能性がある」

某法務大臣は2つでOKだそうですが、今回は、この3つだけ覚えておけば問題なかったはずなのです。
で、今回の場合は、SEWとわが国には到達しないレーダー航跡情報があったのですから、②の「発射された可能性があるが、わが国に影響はない」としてJ-アラート等も流せば良かったのです。
もし、その後、日本に落ちてくる可能性のある航跡が捕捉されたのなら、その後で③に訂正発表すればいいだけです。
③の可能性があるからと言って、②の発表を躊躇う必要は無かったのですが、このあたりの腹案が、危機管理センターの人間に出来ていなかったものと思われます。

これについては、以前の記事「危機管理監ポストと危機管理監の位置付け」で問題提起した、危機管理監が警察官僚であることも、今回の不手際の一因となっているように思われます。
弾道ミサイルの探知や警報態勢等について、基本的な知識が欠乏しているのでしょう。

今回の不手際を見て、民主党の中央集権的な強権体制が背景にあるのではないか、という危惧も抱きました。

前回2009年の誤報さわぎの際、ある政府高官が「あつものに懲りてなますを吹くような事態があってはならない」と発言したそうですが、今回は思いっきりなますを吹いてしまいました。(前回の本番ではうまくいきました)

今回の不手際の兆候は、実は発射が行われる前にも出ていました。
防衛省幹部、表情険しく=北ミサイル警戒、「仕切り直し」」(時事通信12年4月12日)

 ミサイルが発射された際の情報伝達について、2009年の前回発射時に「誤報」した教訓から、制服組トップの岩崎茂統幕長が確認した上で、首相官邸に連絡することにしている。


「誤報は許さない。間違いない情報を上げろ!」
なんて言われていたのでしょう。
報告の基本に反した指導をした結果、起るべきして起った不手際です。
基本に立ち返り、不明なら不明と報告し、それに基づいて、国民のために安全第一で、必要な情報を流すべきです。

-------------------
4月17日追記
防衛省から官邸には、ちゃんと正確な情報が、それほど間を開けずに、上がっていたようです。
ミサイル発射報告の時刻、官邸が修正 15分早かった」(朝日新聞12年4月17日)
やはり、問題は官邸・危機管理センターにあったもよう。

特に、危機管理監は、発射3分後の42分にはSEWを聞いていたそうです。
ミサイル情報食い違い、官邸は発射直後に把握」(日経新聞12年4月16日)
やはり、危機管理監ポストに警察官僚を置いておくのは、無理があるみたいですね。

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コメント

興味深く読ませてもらいました。

田中防衛相は確認してから公表したと言って騒がれているが、アメリカからの情報をチェックをする日本発の信頼できる情報はあったのか? 勿論日本領地内の地上レーダーでは地平線以遠になりまたミサイルが小さすぎ確認が難しいのは前から分かっていただろうに。

それでは日本のスパイ衛星は?と調べたら、
“2011年12月時点では光学衛星4機とレーダ衛星1機の変則的な運用になっている。”とWikiに出ていた。
光学衛星の分解能は60cm、レーダ衛星は1m、うまくポイントを合わせ、動いたのかな? 停止的な映像だけ?それとも動画を解析する機能を持っているのだろうか? 多分機密情報なので未開に封せられるだろう。

でもこのWikiによる日本の情報収集衛星の成功率成績は良くない。莫大な金をかけ40点(4/10機)では落第?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%8F%8E%E9%9B%86%E8%A1%9B%E6%98%9F

でも「設計寿命は2年程度を想定」は余りにも短すぎる。なぜだろうか? 多分電子部品が宇宙放射線に耐えられないのだろうからか? 日本にはRadiation Hardenedされた電子部品が使われているのだろうか? 福島原発の後始末用のロボットにもこの問題は共通する。Rad. Hardenされた部品は特殊製作過程を使うので動きが大変遅く、地上の近代製品とは雲泥の差がある。Rad. Hardenされた部品を使わないと太陽の黒点爆発、Solar Flareに伴う宇宙線放射でイチコロになる。

この数年内にアメリカは赤外線の発信を感知する新型早期警戒衛星、Space-Based Infrared System (SBIRS)が展開されつつある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/SBIRS_%28%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F%29
英文のほうがずっと詳しく書かれている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Space-Based_Infrared_System

色々の理由での長期開発遅れのあと去年5月に静止軌道衛星 GEO-1が打ち上げられた。YouTube で説明と発射がみられる。
http://www.youtube.com/watch?v=Di0YhotJJpI&NR=1&feature=endscreen
http://www.youtube.com/watch?v=BLBt7NcktDE&feature=related

このGEO-1の機能の精度は相当良いらしい。
http://www.defenseindustrydaily.com/Despite-Problems-SBIRS-High-Moves-Ahead-With-3rd-Satellite-Award-05467/#sbirs-high
GEO-2の打ち上げも準備中である。

実績精度、性能は米国空軍が言っているから、確かだと思う。絶対数値は出されていないが、設計規格より数倍の実績を出しているようだ。でもRaw data, 収集情報処理とAir Defenseシステム全体への情報伝達などのソフト開発にまだ相当時間が掛かるようだ。

これは超機密情報だから、アメリカもこの度のミサイル爆発分解の情報源は知らさないだろうが、多分GEO-1は北朝鮮の上空に停滞させ、相当良い情報を得ていたと思う。防衛庁のエライさん知っていたのかな? 「日本も作らないと」とNHK日耀討論で耳にしたが、これは一朝一夕でできるような代物ではない。

lonetiger

う~ん。
結局自衛隊の装備で追跡でてきていたのか、そうではないのかハッキリわかりませんね。
ぶっちゃけ、発射された/されないと国民が知るよりもまず自衛官がきちっと把握できて
いれたのかどうかが問題だと思ってます。そして迎撃するのか、それともその必要がないのかは
現場の判断といったところでしょうか

国民が知ったところで命を守れる有効な手段など結局のところないわけですからね。

lonetiger135 様
情報収集衛星は、普通動画なんて使えませんから、航跡監視には使えません。
もちろん、定期的に撮像はしていたでしょうけど。

偵察衛星の設計寿命は、日本に限らず、撮影対象を追っかけるための軌道・姿勢変更にともなう燃料の消費です。
月に何回かの軌道・姿勢変更を前提とすると、軌道変更に要するスラスタの燃料が24カ月で尽きる、という計算なんでしょう。
電源は、太陽光発電で無限といってもいいですし、部品は壊れない限り継続使用できます。
ですから、想定よりも軌道変更が少なければ、長期使用できます。壊れてしまう事もありますけど。

SBIRS等による偵察に関しては、過去に関連記事を書いてます。ちょっと古いですが、そんなに状況は変ってませんので、見て頂ければと思います。
日本独自の早期警戒衛星は不要だ!
http://kuon-amata.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-4d9f.html

ナオ 様
レーダー(FPS-5なのかイージスなのかは不明)が捕捉していたことは間違いないみたいですね。

それに、米軍情報としても、統幕長が、航跡をロストしたことを、明確に報告していたそうですから、判断できなかったのは官邸ですね。
http://www.asahi.com/special/08001/TKY201204160501.html

テレメトリーをキャッチしていたそうです。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120419/plc12041901300002-n1.htm

詩吟人 様
情報ありがとうございます。
キャッチしていたのは、美保の象の檻、宮古・背振の新型収集施設、海自のEP-3みたいですね。

ただ、テレメデータは、後から解析で「テレメだったと分かった」とかが普通だと思いますので、この時も確証はなかったのだろうと推測します。
即座に中央指揮所に伝達されたと報じられていますから、おそらく前回2009年の発射時と周波数やデータ形式が同じだったんでしょうね。

産経はダブルチェックが可能だったと書いていますが、恐らく現場では「極めて怪しい電波をキャッチしている」程度だったのではないでしょうか。

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